ここだけシド君に人間性をブレンドした世界線   作:読者その1

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第2話 僕は悪くない……多分

 さて、折角老人に変装した事だし、僕にはやりたい事がある。

 それが師匠ムーブだ。

 

 どこにでもいる老いぼれた老人。

 だけど、本当は凄い力を持っている。

 なんの力も持たない主人公はその老人の凄さに気付き弟子入り。メキメキと力を付けて成り上がっていく王道ストーリー。

 そんな感じの師匠ムーブをしたい。

 

 結構ヒーローサイドの立ち位置な気がするけど、最後にはシャドウとしての正体を明かし、主人公の壁として立ちはだかる事でバランスを取ろう。

 

 ……なんか、どこかから「バランス取らねぇとな!」とヒョロの叫び声が聞こえた気がしたけど、気のせいかな?気のせいだな。きっと。

 

 そんな感じで僕は良さげな弟子候補が居ないか、街を散策していた。

 

 ん、あそこで金髪の髪とたわわな胸を揺らしながら剣を振るのはローズ先輩だな。

 平凡な主人公って感じじゃないけど、まあ主人公的なポジションにいる訳だし、ちょっと接触してみるか。

 

「ほっほっほ、中々綺麗な素振りじゃな」

「……ッ!?いつの間に」

「だが、迷いが見える。何か悩み事があるのかのぉ?」

「ッ!!?…………素振りだけで、分かる物なのですか?」

「一流の魔剣士ならばのぉ。どれ、悩み事があるのなら、この老いぼれに話してみては如何かな?」

「……いえ、これはとても人に話せる様な話では」

「ほっほっほ、儂はちっと耳が遠くてのぉ。最近物忘れも激しいんじゃ。今じゃ人生を共に過ごした婆さんの顔すら思い出せん」

「………………」

 

 ローズ先輩は少し考え込んだ様子だったが、暫くすると「お気遣い感謝します」と言って、悩み事を話始めた。

 

「実は私、この後お父様とお会いするのですが、そこで婚約者が紹介されるのです」

「ほう、それはめでたい、──とは言えないのかのぉ?」

「……ええ、まあ、そうですね」

「心に決めた御仁でもおるのかのぉ?」

「いえ、ただ、一方的に気になっているだけです」

 

 え、マジ?

 ローズ先輩気になる人居るの!?

 誰誰!?気になるぅ!!

 

「その方には既に恋人がいらして、彼女の事をとても想っている実直な方です。彼は下級貴族で彼女はとても位の高い地位の人間です。身分差のある恋人。ですが、彼はそんな彼女に追い付こうと賢明に努力を重ねている方です」

「……ほう」

 

 僕はその少年に興味が湧いた。

 

「最初はただ、見守るつもりでしたが、気が付けば彼の事を目で追う様になり、気が付けば」

「恋をしていたと?」

「………………ええ」

「ほう、甘酸っぱいのぉ」

 

 恥ずかしそうに頬を掻くローズ先輩。

 青春だなぁ。

 

「是非とも、その若者と会ってみたいのぉ」

「ええ、きっと気に入るでしょうね。きっと彼も彼女に相応しい人間に成る為、このブシン祭に参加する事でしょう」

 

 おお、身分の格差のある恋愛。格差を埋めるための賢明な努力。

 そしてそんな少年に密かに想いを馳せる王女様(ローズ先輩)

 ……間違いない。ローズ先輩が好意を寄せているその少年こそが、この世界の主人公!!

 

 是非とも、その主人公君とお近づきになりたい。

 そして弟子にしたい。

 

「まあ、長く生きていれば、思い悩む事は多くあるじゃろう。やって後悔する事もあれば、やらずに後悔する事もある。大事なのはその時、自分が最善だと思える選択をする事じゃ」

「……最善と思える選択」

 

 偉そうな事言っておいてなんだけど、僕も前世と併せて30年程度しか生きてないんだけどね。

 その30年も大半の時間を陰の実力者になる為の鍛錬に費やした訳だし、人生の濃さで言えばローズ先輩に負けてるかも知れない。

 どうしよう。ローズ先輩に「こいつ、歳食ってる割に中身薄い事しか言わねぇな」的な事思われていたら。

 

「……ありがとうございます。お陰で決心ができました」

「ほっほっほ。それは良かった」

「そろそろ、お父様に会う準備を行う必要がありますので、失礼します」

「ああ、お嬢さんの健闘を祈るよ」

 

 一礼して立ち去るローズ先輩。

 ローズ先輩の背中を見送った僕は改めて街を散策した。

 

 身分差のある彼女に相応しい人間に成る為にブシン祭に参加する少年。

 主人公と呼ぶに相応しい。即ち今回のイベントで僕の弟子にするのに相応しい彼を探すべく、僕は街、そして王都を隈なく探した。

 

 ──だが、それらしき人物は見付からなかった。

 

 その少年の名前くらい聞いとくべきだったかなぁ。

 

 ーーーーーーーーーー

 

 次の日、王都中にあるニュースが流れた。

 

【オリアナ王国王女。ローズ・オリアナ。婚約者を刺して逃亡!】

 

 …………もしかして、これ僕の所為?

 

 僕が悩み聞いてローズ先輩を婚約者殺し(死んでない)を決心させた感じ?

 もしかして、昨日主人公君を見つけられなかったのも…………

 

 僕は考えるのを止めた。

 

 ローズ先輩を歪んだ愛情に目覚めさせてしまったかも知れない責任から目を逸らす様に、僕は二度寝した。

 

 ーーーーーーーーーー

 

 次の週からブシン祭が始まった。

 とは言った物の、まだ予選の様な物だけどね。

 ブシン祭は世界中から人が集まる大きな大会。

 出場資格も特に定められている訳じゃないから、参加希望者は天文学的数字だ。

 前世で言えば、誰もがオリンピックに参加出来る様な物だからね。

 世界的に有名な大会に出られるともなれば、実力者のみならず、記念で参加する者達も多いだろう。

 

 あまりにも人数が多いから、1回戦と2回戦は王都の外にある草原で行われ、3回戦からやっと闘技場での試合が行われる。

 まあ、それもリングを幾つかに区切り、同時並行で試合が行われる。

 

 リングを丸々使って試合を行うのは4回戦からで、ブシン祭が盛り上がりを見せるのも4回戦からだ。

 だから、3回戦を態々観戦する物好きはほぼ皆無で、今闘技場に集まっているのはブシン祭の本戦に出場すべく集まった魔剣士達と、極一部の物好き達だけ。

 

「さっきから何やってんの?」

 

 そしてそんな物好きの1人、妙に熱心な視線を向け、メモを取るヒョロに僕は声を掛けた。

 

「みりゃ分かんだろ。情報を集め出んだよ。本戦に出場した時に大儲け出来る様にな!」

「ふーん」

 

 ヒョロらしくない行動に軽く感心を抱きながら、チラッとヒョロのメモを覗き込む。

 強そう、弱そうとか、大した事は書かれてなかった。

 ヒョロはヒョロだったよ。

 

「良いかシド。素人ってのは、1試合で買った負けたのギャンブルをする」

 

 素人がなんか、語り出した。

 

「賭けに必要なのは情報と知識だ。ただ無意味に賭けても運頼みじゃあ、勝てる物も勝てない。最初は情報収集の為に負けが嵩むかも知れない。だが、賭けを続け、情報を集め、どうやったら勝てるかを見極める。そしてこれは勝てるというという時に大きな賭けを行い勝つ!これこそがプロのギャンブラーだ」

 

 プロのギャンブラー(笑)

 財布の中身もヒョロヒョロそうなキミがよく言うよ。

 

「ほう、興味深い話をしてるね」

 

 前触れもなく、僕とヒョロの間に割って入って来た金髪の髪に、金ピカの鎧に、金ピカの鞘を持った爽やかイケメン。

 ……あ、いやよく見たら金ピカの鞘は台車に乗せてるな。疲労軽減の為か、それとも単純に持ち運ぶだけの筋力や体力がないのか、どっちだろ?……どうでも良いか。

 

「だれ?」

「不敗神話のゴルドー・キンメッキさんですね!!」

「ふっ、その二つ名は止してくれ。常勝金龍のゴルドー・キンメッキとでも呼んでくれ」

 

 キンメッキね。何とも覚えやすい名前だ。

 

「バトルデータを集めるとは、キミ、見込みがあるね」

「本当ですか!?町長夫人さん!」

 

 誰やねん。

 

「オレも勝つためにバトルデータの収集は欠かせないからね……あと、常勝金龍ね」

「スゲえっス!キンキンビールさん!」

 

 なんか美味しそうな名前になった。

 2人が盛り上がっている間に僕はその場を後にした。

 ちょうど、試合が近付いていたしね。

 

「次、オイボレーノ・クソジージ対ランサー!」

 

 名前を呼ばれた僕は闘技場へと上がり、ランサーさんと対峙した。

 確か女神の試練で重症負ってなかったけ?回復速いな。

 

「ふっ、今にも死にそうな老いぼれた魔剣士と、王国騎士団に所属するランサー。バトルデータを見るまでもないね」

「ですよね!金の成樹さん!!よっしゃー!ランサーに一点賭けだ!!」

 

 流石ヒョロ。僕が理想とするモブムーブをしてくれる。

 

「………………なあ、おい爺さん。アンタ武器は?」

「ちゃんと持っておろう」

 

 僕は杖をトントンと小突いた。

 

「…………随分と舐められた物だな。悪い事は言わねぇから辞退しな。アンタじゃ俺が軽く小突いただけで死んじまうぞ」

「ほっほっほ。口だけは達者じゃな。何、心配は要らぬ」

「はっ、言うじゃねーか。あの世に逝っても恨むんじゃねーぞ」

 

 試合開始の合図と共に駆け抜けるランサー。

 速い。そして無駄が少ない。

 武術が未発達なこの世界でよく、これだけの技術を身に着けた物だと感心するよ。

 だけど──

 

「まだまだじゃな」

「なにっ!?」

 

 ──次の瞬間、ランサーの槍はバラバラに散らばった。もはや槍としては機能しないだろう。

 やった事は簡単。ランサーが槍を突いたのと同時に目にも留まらない速度でランサーの剣を斬り裂いただけ。

 

「は、おいおい。何がどうなったんだ!?」

「ランサーの槍がバラバラになったね。武器の手入れをちゃんと行っていなかったのか?」

「武器の手入れくらいちゃんとしろランサー!!」

「金返せ!!」

 

 外野から野次が飛ぶ中、ランサーは冷静な表情で散らばった槍を一つ一つに視線を向けた。

 

「………………チッ、とんだ化け物が居たもんだ。剣筋が全く見えなかった」

「ほっほっほ。はて、何の事やら?武器はもっと良い物を使うと良いぞ」

「アホ抜かせ。アンタならアーティファクトの槍だろうと、斬りそうな不気味さがあるよ」

 

 どうやら、何が起こったのか正確に理解したらしい。

 惜しいな。もし彼と試合で当たらなければ、彼を弟子として育てるのも……いや、ランサーじゃちょっと強過ぎるかな。

 

「おい審判。降参する」

「え?ランサーさんなら、素手でも勝てるんじゃ?」

「んなことしたら死んじまうだろうが。…………俺が

「は、はあ。…………勝者オイボレーノ・クソジージ!」

 

 会場は阿鼻叫喚の嵐に包まれた。

 

「……一瞬バトルパワーが上昇した?……あの老人、いったい……」

 

 ……へぇ、意外と見る目はあるんだね。

 僕は杖を突きながら、場外へと出るとすれ違い様にキンメッキ君にだけ聞こえる声量で呟いた。

 

「──50点、といったところかのぉ……」

「──ッ!!?」

「次の試合、少しは楽しめると良いがのぉ……」

 

 よし決まった!

 あの老人は何者なんだ!?からのすれ違い様に呟かれる宣戦布告とも取れる意味深な言葉。

 これぞ陰の実力者って感じだよね!!




ご愛読ありがとうございます。

1年以上振りの投稿にも関わらず、沢山の方から感想を頂き、とても嬉しかったです。

ただ、1点お願いが御座います。
感想はとても嬉しいのですが、原作に対するアンチコメントは控えて頂く様にお願い致します。

本作は逢沢大介先生の【陰の実力者になりたくて!】があってこその【二次創作】です。

原作より面白いと思ってくれるのは素直に嬉しいですし、それは個人の感想なので自由ですが、原作に対するアンチな感想については心の内に留めておいて下さると幸いです。

以上となります。

本作が面白いと思って頂けたのであれば、感想、高評価、お気に入り登録のほど宜しくお願いします!
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