ブシン祭の4回戦が始まった。
3回戦とは違い、観客席はほぼ満員と言える規模で席が埋まっていた。
その観客の中に青髪少女こと、アンネローゼ・フシアナスも居た。
そんなアンネローゼの傍へと近付く、褐色肌の大男。
「嬢ちゃんも、あの爺さんの試合が目当てか?」
「……タロウ」
「ク イ ン ト ン だ !」
ゴリラと一緒にすんじゃねと、悪態を吐きながらアンネローゼの隣へと腰かけるクイントン。
「お前さんは次の試合どうみる?俺はよく知らねぇが、爺さんの相手は確か不敗とか、なんとかで有名な魔剣士らしいんだが」
「不敗神話のゴルドー・キンメッキね。過去3回ほど同じ大会に出場した事があるわ」
「ほう、不敗神話って事は、嬢ちゃんが負けたのか?」
「そんな訳ないじゃない」
心外だとばかりに軽く睨むアンネローゼに、クイントンは怯む事なく「どういう事だ?」と尋ねた。
「彼、強い相手だと逃げるのよ。用事が出来たとか、今日は万全な状態じゃないから見逃してやるとか、適当な理由を付けて」
「なんじゃそりゃ、不敗神話ってのは、張りぼてって事か?」
「そうね。彼の事をよく知る人間なら、不敗神話(笑)とか言ってネタにしてるわ。それを理解しているからこそ、本人は常勝金龍と名乗っているらしいけど」
なるほどな。と、クイントンが納得したタイミングでアナウンスが流れた。
『皆さまにお知らせします。次のオイボレーノ・クソジージ対ゴルドー・キンメッキの試合は、ゴルドー・キンメッキ氏が「ご老体相手に振る剣は無い」との理由で棄権致しましたので、オイボレーノ・クソジージ氏の不戦勝と致します』
「ふざけるな!」
「ゴルドーに一体いくら賭けてたと思ってんだ!!」
「あぁぁぁぁぁ、絶対勝てる試合だと思って全財産賭けていたのに!!」
「…………シドとジャガに軍資金を巻き上げなきゃな。そうだ。俺ばかり負けて、あいつらは何も失っていない。これじゃバランスが悪い。ああ、そうだ。軍資金を巻き上げてバランス取らなきゃなぁ!!」
闘技場が一気に阿鼻叫喚に包まれる中、アンネローゼとクイントンは静かに分析していた。
「どう見る?」
アンネローゼは少し考え込んで答えた。
「……曲がりなりも、ゴルドーは強者との戦いを避けて不敗神話を築いたのは事実よ」
「つまり、あの爺さんが只者じゃないと見抜いたって事か?」
「でしょうね。少なくともゴルドーの強者を見抜く目は私と同等か、それ以上だわ」
「ほう?ベガルタ七武剣のアンタと同等か、それ以上か」
アンネローゼの鋭い視線がクイントンを刺した。
「その名は捨てたわ」
「そりゃ悪かったな。元ベガルタ七武剣のアンネローゼさん」
鋭さが増したアンネローゼを気にする様子もなく、クイントンは席を立った。
「順当に行けば、俺は次の次くらいにあの爺さんとぶつかる。──何か良いアドバイスは無いか?」
「ないわ。昨日のランサーとの試合ですら、太刀筋が全く見えなかったもの」
「そうかよい。……ま、期待はしてなかったがな。やれるだけやってみるさ」
クイントンはそう言い残し、客席から去った。
「オイボレーノ・クソジージ。一体何者なの?」
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「勝者、アンネローゼ・フシアナス!」
「「「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」
ブシン祭の第5回戦ともなれば、弱者は軒並みふるい落とされ、強者のみが残ると言われている。
その為、第5回戦の観客席は埋まり、立ち見客も現れて闘技場は熱気に包まれる。
「おめでとさん。これでアンタが次にぶつかるのは、俺か、あの爺さんのどっちかだな」
「ありがとう。あなたも精々頑張りなさい」
「おうとも」
試合を終え、次の試合への駒を進めたアンネローゼと、これから試合に挑むクイントンと短く言葉を交わし、すれ違った。
「第5回戦。オイボレーノ・クソジージ対クイントン!」
「先週振りだな爺さん。ここまで勝ち上がったんだ。もうただの老いぼれと侮らないぞ」
「はて、お主は誰かのぉ?」
「ク イ ン ト ン だ !」
「おお、お主、タロウか!?」
「そのやり取りこないだやったよなぁ!?呆けて、……呆けてる、のか……?」
年齢的に呆けていてもおかしくなさそうなオイボレーノの姿に、クイントンは首を傾げた。
「えっと、試合を開始しても?」
「儂は構わんよ。ここは日差しが強くて、ちと老体には堪えるけんのぉ……」
「はっ!なら、暑さを感じない様にしてやるよ」
「えっと、クイントンさん。……殺しは駄目ですからね?」
おずおずと注意する審判に、クイントンは「分かっている!」と答えた。
「だが、結果的に殺しちまうかも知れないな。何せ、今にも死にそうな老いぼれだ。試合中に寿命で逝っちまうかもしれん」
「ほっほっほ。中々言うではないか、儂はこれでもまだまだ若いぞ。もしかしたらまだ十代かもしれんぞ」
「爺さんが十代なら、俺は赤ん坊か?おい、さっさと試合開始の合図をしろ」
「……分かりました」
審判はクイントンとオイボレーノから離れ、一定の距離を取ったタイミングで手を上げた。
「第5回戦。オイボレーノ・クソジージ対クイントン!試合開始!!」
審判が手を降ろし、試合開始の宣言をしたのと同時にクイントンは剣を抜き、剣をオイボレーノに向けて振り下ろした。
剣は地面に突き刺さり、大きな土埃を上げる。
「きゃぁぁぁ!」
「クイントンの奴、マジか!」
「見るからに老体相手に躊躇う事なく剣を振るったぞ!?」
「オイボレーノ死んだか!?」
「人でなしだな、クイントン!」
観客席からはオイボレーノが斬り殺されたと考え上がる悲鳴、躊躇いなく斬りかかったクイントンに対する非難で埋まった。
だが、土埃が晴れると、観客は言葉を失う。
「ほう、今のを避けたか」
そこには無傷のオイボレーノが立っていた。
「んじゃ、続きと行こうか!」
そう言って、クイントが剣を振り上げると同時に、オイボレーノの手が一瞬ブレ、キンと剣が鞘に収まる音がした。
「また、つまらぬものを斬ってしまった」
オイボレーノがそう呟くと、クイントンの剣が折れ、着ていた衣服は布切れとなって闘技場に舞った。
「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁ!!?」
闘技場からクイントンの叫び声が上がると共に、観客席からは笑い声が上がった。
「ぶはははは、なんだクイントン。その無様な姿は!!」
「今度は股間にぶら下がった剣で戦うか(笑)」
「体はでけぇのに、息子は小さいのな(嗤)」
「て、てめぇら、後で覚えていろよ!!」
「ああ、覚えておくよ」
「オメェの無様な姿をな!」
「クソが!!」
顔を真っ赤にしつつ、地面に転がった布切れを集めて闘技場を去っていくクイントン。
その姿を見て、審判は困惑しつつも勝者宣言を行った。
「勝者。オイボレーノ・クソジージ!」
「「「「「うおぉぉぉぉぉぉ」」」」」
会場は思わぬダークホースに湧いた。
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うーん。裸に剥くのは流石にやり過ぎたかなぁ……
何者なんだあの爺さんは!?って感じな演出したかったのに、タロウを裸に剥いたせいで「あの爺さんすげー!」じゃなくて「何やってんだよタロウ(嘲笑)」な雰囲気になってしまった。
失敗したなぁぁ……
来週から始まる本戦では失敗しないようにちゃんとシミュレーションしないとな。
そんな事を考えながら選手出入口の長い廊下を歩いていると、見覚えのあるの水色髪の少女と遭遇した。
「まさか、本戦に進出するとは思いませんでした」
「ほっほっほ。まだまだ若いもんには負けてられんからのぉ……言いたい事はそれだけかのぉ?」
「正直、貴方の実力の底が知れない……けれど、負けるつもりはありません!」
おお!良いね。その台詞実に良いよ!
できれば主人公に言ってくれれば尚良い。
彼女とは是非とも決勝で当たりたいものだ。
「ブシン祭は世界各地から実力者が集結する武闘大会。儂にばかり気を取られておったら足元すくわれるぞ?」
「ッ……!忠告感謝します」
「まあ、せいぜい励むが良いぞ」
僕の陰の実力者ムーブの為にも、彼女には是非とも頑張って欲しい。
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予選会場を出た僕は、そのまま誰も居ない路地裏に移動すると、オイボレーノ・クソジージからシド・カゲノーの姿に戻った。
「うーん!やっぱり若いって良いねー」
曲げていた背筋や足を伸ばし、ポキポキと体を鳴らしながら体を解す。
演技とは言え、あまり年寄りの真似事をするもんじゃないね。心なしか精神が年老いた気がする。
適度にお腹も空いたし、何か食べに行くかと、路地裏を出ようとしたタイミングでローブに身を包んだ魔剣士とすれ違った。
「エルフの匂いがする……」
そしてすれ違い様にそんな事を言われた。
ハスキーな女性の声だ。
歩き方からして中々に強そうだ。
そのまま無視して路地裏を出ても良かったけれど、僕は立ち止まり、声がした方を向いた。すぐ目の前にローブ姿の魔剣士がいた。
「おっと」
思わず一歩下がると、ローブ姿の魔剣士は顔を近付けて、スンスンと僕の体臭を嗅いだ。
顔は見えないが、汗に混じってほんのりと香る甘い匂いから、その魔剣士が女性である事が分かった。
「ひとつ、ふたつ……いっぱい?」
おっと、なんか不穏な事を呟き出したぞ。
まるで浮気がバレた夫の気分だ。
「貴方、エルフに知り合いはいる……?」
「うん、まあ居るよ」
というか、僕の知り合いは9割以上がエルフと言っても過言では無い。
「私は妹の忘れ形見を探している」
「へー」
「私とよく似たエルフだ。知らないか?」
「ローブで顔が見えないんだけど?」
「そうだった」
天然さんなのかな?
ローブ姿の魔剣士はゆったりとした動作でローブを外し、その姿を現した。
「こんな顔のエルフに心当たりはないか?」
心当たりがあるか、ないか、正直に答えるならある。
その顔はアルファの顔によく似ていた。
「うーん。どうだろう」
けれど、それを馬鹿正直に答えるつもりもなく、更に言えばシド・カゲノーとしてアルファと繋がりがあるというのを明かす訳も行かなかったので、惚けることにした。
「……ごめん。分からないや」
エルフに知り合いがいると明かした手前、即答するのはそれはそれで変だ。
故に少し思い出す様に時間を置いた上で僕は心当たりはないと答えた。
「……そう」
彼女は残念そうに呟くと、流れる様に剣を抜いた。
予備動作も殺気もない、ただ斬るという行為の為だけに振るわれた正確無慈悲な太刀。
単純な剣技で言えば、僕が知る中でもトップクラスの魔剣士だ。
「わお、──私の顔を見た奴は生かしておけないとか、そういう展開?」
僕はエルフの魔剣士から放たれた剣を指2本で白刃取りして、尋ねた。
エルフの魔剣士は驚いた様子で目を見開き、剣を引こうとするが、剣はピクリともしない。
「驚いた」
「そっか」
「貴方の実力を試すつもりだった。危害を加えるつもりはない」
「まあ、寸止めのつもりで放った一撃だったしね」
「そこまで、見破っていたとは」
僕は剣を離し、エルフの魔剣士は納刀して頭を下げた。
「ごめんなさい」
「良いよ」
素直に謝れるのは良い事だ。
「何か詫びをする。貴方の望みを言って?──なんでもする」
「──今、なんでもって言った?」
「言った」
おいおい。もし僕がエロ同人誌の竿役だったら、グヘヘ〜じゃあそのエロい体で詫び入れてもらおうか〜的な展開になっている所だぞ。
やばっ、想像したらちょっと興奮した。この欲情は今夜アルファに収めて貰おう。
「じゃあ、名前教えてよ」
「そんな事で良いの?」
「うん。そんな事で良いよ。怪我した訳じゃないし」
「キミは変わってるね」
キミ程じゃないよ。
「私はベアトリクス」
「僕はシド・カゲノー」
「うん。宜しく、シド」
僕はエルフの魔剣士改めベアトリクスと握手を交わした。
ふむ。長年の研鑽を積み重ねた良い手だ。
「シド、強いね」
「そうかな?」
「うん、私が知る魔剣士の中でも、トップクラス」
へえ、ベアトリクスが何歳なのか知らないけど、ベアトリクス程の剣士にそう評価されるのは中々に光栄だ。
「シドは、ブシン祭、出ないの……?」
「出ないよ」
シド・カゲノーとしては。
「そう、残念……」
「ベアトリクスは出ないの?」
「うん、出ない」
「そっか、残念だな……」
ベアトリクスとなら多少楽しめると思ったのに。
「じゃあ、私は、もう、行く……」
「うん、またね……」
「うん、また、ね……」
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