ドエム・ケツハットは半開きになっているオリアナ国王の口に瓶を突っ込むと、そのまま中の液体を乱雑に飲ませた。
とても国王に対する態度ではないが、それを咎める者はこの場には居ない。
側に立つ近衛は寧ろその光景を楽しんでいる様な薄ら笑みを浮かべ、オリアナ国王は虚ろな目で中の液体を飲み干した。
「この薬、効果は申し分ないが、体臭が甘ったるくなるのはどうにかならんのか。臭くてかなわん」
瓶の中身が空になった事を確認すると、ドエムは近衛に瓶を放り投げ、顔を顰めながら距離を取る。
「メイド、適当に香水でも振り掛けておけ」
「承知致しました」
公爵家の人間とは言え、国王ではなく、ドエムの指示に従い動く近衛とメイド。
傍から見れば異常とされる光景だが、この部屋の人間は一切の疑問も違和感も抱く事なく、当然のようにドエムの指示に従う。
それは既にオリアナ王国が国王ではなく、ドエムの傀儡となっている事の何よりの証明となる光景だった。
もう直ぐブシン祭本戦の2日目が始まる。
重要度の低い予選は兎も角、本戦を2日連続で欠席するのは色々と問題がある。
ドエムはオリアナ国王が国賓として相応しい装いに着替えさせる様に指示を出し、準備を終えるとVIPルームへ向かう。
「ようこそ御出でなさった。オリアナ国王。ささ、こちらの席へ」
VIPルームの扉を潜ると、この部屋に相応しい装いをした王侯貴族達の視線を受けながら、VIPルームの中でも最も良い席──最上段のミドガル国王の隣の席へと向かう。
その最中、騎士でもないのに関わらず、権力者が集うVIPルームで剣を携え、色褪せたローブに身を纏うエルフとすれ違う。
(……この女強いな。何者だ?)
見た感じ騎士という装いではない──にも関わらず剣の携帯を許されている。
それに観客としてVIP席に座っているという事は護衛ではなく、招待された客と言う事になる。
恐らく名の知れた強者と、ドエムは予想し、内心で悪態を吐いた。
(これから事を起こそうという時に……)
オイボレーノ・クソジージといい、エルフの剣士といい、予想外の所から強者が現れる。
そしてエルフの剣士の前を通り過ぎた瞬間、エルフの剣士がポツリと呟いた。
「くさい……」
ドエム一行の足が止まる。
そしてエルフの剣士はオリアナ国王の方を向いてもう一度呟いた。
「くさい……」
(薬の体臭に気付かれた!?──いや、これは好機ッ……!)
ドエムは一瞬動揺を浮かべたが、直ぐにエルフの剣士に向かって叫んだ。
「陛下に向かって失礼だろ!衛兵、このエルフを摘まみだせ!」
国賓として訪れたオリアナ国王を侮辱したとして投獄できれば最高。
それが叶わずとも最低限VIPルームから追い出せれば良し。
そう考えての事だったが──
「ドエム殿、申し訳ございません……この方は、その……私が招待した武神ベアトリクス様です……」
「な、なんと……」
エルフの剣士の正体を知り、それが叶わぬ事を悟ると同時に、ドエムは奥歯を噛み締める。
(強いとは思ったが、まさかここまでの大物とは……)
「ごめん……」
「い、いえ、こちらも知らぬとはいえ失礼した」
武神の二つ名を冠するベアトリクスをこの会場から排除するのは不可能。
ベアトリクスが謝罪した事でドエムとしても謝罪を受け入れるしかない。
下手に騒ぎにして、オリアナ国王の体臭について不審がられるのも問題だ。
今ならベアトリクスがオリアナ国王に粗相をしたというだけで話が終わる。
ドエムは気持ちを切り替えて、VIPルームの最上段まで移動した。
程なくして、本日初の試合が始まる。
(ほう、あの黒髪の少女……確かクレア・カゲノーと言ったか?ローズに代わり学園代表として本戦に出場したと聞いたが……いやはや)
中々に良い腕をしていると、ドエムは関心を示した。
(高い魔力に、それに振り回されない確かな剣の腕……今でも十分に強いが、まだ強くなる素質があるな……)
注目している選手ではなかったが、想像よりも強い。
アイリスがいるので優勝は無理でも、トーナメントの組み合わせ次第では準優勝を狙える。
『勝者──クレア・カゲノー!!』
ドエムは危なげなく勝利したクレアを見て、そう分析した。
「それでは、試合がありますので失礼します」
クレアの勝利を見届けて、アイリスは席を立ち、
シドは人知れずVIPルームから姿を消していた。
十数分後、自分が用意した席が空席になっている事に静かに怒る般若が現れたそうな。
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道行く人々からの声援、期待の眼差しを受け、アイリス・ミドガルは闘技場に立った。
視線の先には足腰が曲がり、今にも老いて死にそうな杖を突いた老人の姿。
とてもブシン祭本戦の出場選手の姿には見えないが、その力が疑いようもない確かな強者である事を、アイリスは知っている。
「ほっほっほ。今日は良い天気じゃのぉ……」
オイボレーノに釣られ、空を見る。
空には今にも大粒の雨が降り注ぎそうな黒い雲が広がっている。良い天気とは程遠い空模様だった。
「老体には強い日差しは酷じゃからのぉ」
なるほど。確かに夏の日差しに照らされないという点では良い天気かも知れない。
太陽が遮られ、強い風が吹いている事もあって、気温も高くない。
「体調を気にされるのであれば、試合を棄権してはどうでしょう?──ブシン祭本戦は最悪死者も出る危険な大会です」
「ほっほっほ。病や老いではなく剣で死ぬなら本望」
老人の片目が開く。
「──ッ!!!」
たったそれだけの行為でアイリスの全身の毛が一瞬にして逆立ち、体は小刻みに震え、嫌な汗が体を湿らせ、本能が危険を訴える。
まだ試合が始まってもないのに、無意識に剣の柄を握り締めていた。
──勝てない。
一瞬にして分からせられた。
しかし、それでも……!!
「──私はッ!勝たねばならない……!!」
剣を抜き、己を奮い立たせる。
『アイリス・ミドガル対オイボレーノ・クソジージ──試合開始ッッ!!!』
審判のコールと共に、アイリスは剣を振るった。
一瞬でも臆すれば負ける。
最初の一撃、剣の技量なんて関係ない膨大な魔力によるゴリ押しにて速攻で決める。
そう決意して剣をありったけの魔力を込めた剣を振り下ろした。
「しまっ──」
アイリス・ミドガルは強い。
彼女が本気の魔力を込めて放った斬撃は城壁をも穿つであろう。
故に彼女が対人戦で本気の斬撃を放つ時は上に放つか、下に放つかして、周囲への被害を抑えている。
しかし今回、アイリスは観客席が射線に入る水平に向かって斬撃を放ってしまった。
下手すれば観客にも被害が及ぶかも知れないと……その事に気付いたのは剣を振り下ろした直後だった。
己の振るった剣から放たれる魔力の斬撃がスローに見える。
このままでは、オイボレーノ・クソジージ諸共観客席を吹き飛ばしてしまう。
そう思った直後、時が止まった様な静止した世界の中で、オイボレーノは剣を抜き、魔力を纏った。
(……美しい)
アイリスはその剣に見惚れた。
乱雑に纏ったアイリスの魔力とは違い、オイボレーノの纏う魔力は一切の無駄がなく、それでいてアイリスが纏った魔力と同等の魔力が濃縮され、青紫色に輝いている。
オイボレーノの剣が振るわれた。
その直後、アイリスが放った斬撃はオイボレーノの斬撃に押し負けて、アイリスは闘技場の壁まで吹き飛ばされた。
「かはっ……!」
体中に走る衝撃と痛み、そして口の中に広がる血の味。
静止した様に見えた世界が動き出す。
「え、何々!?何が起こったの!?」
「アイリス様が剣を振るったと思ったら吹き飛ばされた……?」
「おい、あの爺さんいつ剣を抜いた?」
観客席は何が起こったか分からず、困惑する。
「一瞬だけど、師匠が魔力を纏った?」
「わーわー!すごーい!きれー!ねーね、サラ見た!?」
「う、うん。お父さんの剣、すご、かった……!」
「……凄い技、挑んでみたい」
(まさか、アイリス・ミドガルが押し負けただと!?──バケモノめ!!)
「ば、バトルパワー測定不能……だと!?」
そして何が起こったかのか、理解できた強者達はその一瞬の出来事に興奮する者、戦慄する者、次元の違う戦いに絶望する者、様々だった。
「ほっほっほ。魔力量は人より多いようじゃが、使い方がなっておらんのぉ……」
コツコツと地に倒れるアイリスの元へ、オイボレーノが杖を突いて近付いた。
剣は既に仕舞われ、先程見せた戦意を喪失させる程の殺気は鳴りを潜めている。
完敗だった。
全力で放った本気の一撃はあっさりと斬り伏せられた。
最早勝ち目などない。
アイリスはその場から立ち上がる事が出来なかった。
『勝者──オイボレーノ・クソジージ!!』
その様子を見て、勝者がコールされる。
ゾンビランドサガ✕推しの子のクロスオーバー作品始めました!
興味がある方は是非、そちらも読んで頂ければ幸いです。
https://syosetu.org/novel/392015/
ブシン祭編は書き終えてから投稿してますので、新作の影響で投稿途絶える事はないのでご安心下さい!
※加筆修正等で少し投稿空く可能性はありますが、2週間以上空かない様にします!
ブシン祭編は全12話の予定です!
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