ここだけシド君に人間性をブレンドした世界線   作:読者その1

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第10話 決意を餞に

 たった一撃でアイリス・ミドガルが敗れた。

 その衝撃は大きかった。

 

 その動揺は会場全体に波及した。

 それはVIPルームで観戦する者達も例外ではない。

 むしろ、アイリス・ミドガルの事を良く知る者達が多いVIPルームの者達こそ、動揺が大きかった。

 

「あ、アイリス様が負けた……?」

「それもたった一撃で……?」

「オイボレーノ・クソジージ……聞いた事が無い名だ」

「これ程の魔剣士が無名だったとは信じられん」

「はぁ……」

 

 その事にミドガル国王は失望交じりの溜息を吐き、VIPルームを後にした。

 

 アイリス・ミドガルは決して弱くない。

 表舞台に立つ魔剣士としては最強格と言える魔剣士と言えるだろう。

 そんなアイリス・ミドガルがたった一撃で負けた。

 

(オイボレーノ・クソジージ……!まさかここまでとはッ……!!)

 

 裏の世界の人間であり──ディアボロス教団の一員であるドエム・ケツハット及びその取り巻き達の動揺はより一層大きかった。

 なまじ実力者達が揃っている事もあって、この部屋──ブシン祭の会場で最も動揺しているのはドエム達と言っても過言ではないだろう。

 

(私が知る最強の魔剣士でも、アイリス・ミドガルを一撃で倒すなんて事は不可能だ……)

 

 それはつまり、この瞬間、オイボレーノ・クソジージこそがドエムが知る最強の魔剣士となった事を意味する。

 

(……幸いにも、あの老人は長くてもあと10年、早ければ今日死んでもおかしくないくらいに老いている。上手く行けば命の雫を餌にラウンズに迎え入れ、あの戦力を我らの物に出来るか?…………例え教団に入らずとも、長くても10年程度の脅威だ)

 

 ドエムはそう自分に言い聞かせ、精神の安定を図る。

 もし、オイボレーノがアイリスと同じくらいの歳であれば、今後半世紀に渡って教団の脅威となる存在であった。

 

 だが、そうはならない。

 その事に僅かに安堵していると、VIPルームの入り口付近がどよめいた。

 ドエムが視線を向けると、そこには金髪ロールを靡かせ、待ち侘びた少女の姿があった。

 

(……来たか!!)

 

 ドエムの頬が吊り上がる。

 その少女は最近婚約者を刺し逃亡したとされる王女──ローズ・オリアナだった。

 

「漸くお戻りになられたのですね。ローズ王女。陛下もお待ちしてましたよ」

 

 色々とイレギュラーはあったが、何はともあれローズの身柄は確保できる。

 ドエムは高笑いしたくなる衝動を抑え、ローズがこちらに来る様にオリアナ国王に指示を出す。

 

「ローズ……よく、……戻ったな……こっちへ、おいで……」

 

 掠れた声で紡がれる抜け殻の言葉。

 その指示に、ローズはその場で膝を突いた。

 

「お父様、私は謝罪に参りました。……今までのこと、……そしてこれからの事を、私はきっとオリアナ史上最悪の魔女として蔑まれるでしょう。ですが、私はオリアナ王国の王女として、そして貴方の娘として、きっとこの選択がオリアナ王国の未来の為になると信じて──私は私の信じる道を進みます」

 

 そう紡ぐローズの言葉に迷いはなく、決意を固めた物だった。

 その言葉を聞いてオリアナ国王は、……傀儡となり、己の意思を失った筈のオリアナ国王は笑みを浮かべ、こう紡いだ。

 

「ローズ、お前の罪を許そう……」

 

 指示に無い言葉を紡ぐオリアナ国王に、ドエム達は驚愕した。

 そして、その僅かな隙を突いてローズは剣を抜き、駆ける。

 ドエムは咄嗟にオリアナ国王を盾にする。

 こうすれば何もできまい。剣を止めた瞬間に周囲の衛兵がローズを捕らえる。

 ドエムは勝ちを確信した。

 

「ありがとうございます。お父様」

 

 しかし、ドエムの思惑とは裏腹に、ローズは迷う事なくその剣をオリアナ国王の心臓に突き立てた。

 

「なっ!?き、貴様……実の親を躊躇いも無く殺すなど……人の心とかないんか!?」

 

 ドエムの言葉を無視し、ローズは震える手で剣を引き抜いた。

 心臓を貫かれたオリアナ国王は力無く倒れ、血の海を広げる。

 

「きゃぁぁぁぁ!」

「こ、殺しだ!ローズ・オリアナがオリアナ国王を刺殺したぞ!?」

 

 響き渡る悲鳴。

 衛兵達が王殺しという凶行に出たローズを捕らえようとして、その足を止めた。

 

「ごめんなさいお父様。……私も直ぐに逝きます」

 

 父を手に掛けたローズは、その刃で今度は自分の首を斬ろうとしていた。

 

「やめろぉぉぉぉ!!」

 

 ドエムが絶叫する。

 オリアナ国王が死に、ここでローズが死ねば全ての計画が無駄になる。

 咄嗟に教団員にローズの蛮行を止めるように指示を出すが、ローズの決意は強固な物だ。

 教団員がローズを止めるよりも早く、一切の躊躇いなくローズは己の命を断つ。

 

「──それがお主の選択か?」

 

 しかし、教団員がローズを取り押さえるよりも早く、ローズが己の命を断つよりも早く、VIPルームの窓が斬り裂かれ、1人の老人がローズの元へと降り立った。

 

「あ、貴方は……」

 

 老人が一瞬剣を抜く、その直後ローズに襲いかかろうとした教団員は骸に変わった。

 無駄の無い芸術とすら思える太刀筋、その剣筋にローズは見覚えがあった。

 

「──偽りの時は終いだ」

 

 老人が──オイボレーノ・クソジージがそう呟くと、老人の体は漆黒の液体に包まると、曲がった足腰はスラリと伸び、老いとは無縁そうな漆黒のローブに漆黒の剣を携えた青年へと姿を変えた。

 

「き、貴様は──ッ!!」

 

 その姿を見て、ドエムは目を見開き、驚愕する。

 そして同時にオイボレーノ・クソジージの正体を悟り、その強さの理由に納得が行った。

 何故ならば、目の前の男はディアボロス教団に仇なすシャドウガーデンの主にして、ディアボロス教団に於いて最も警戒されている男──

 

「我が名は──「スタイリッシュ盗賊スレイヤーさん!!」……え?」

 

 そう、スタイリッシュ盗賊スレイヤーッ!!

 ………スタイリッシュ盗賊スレイヤー??

 

 ローズが口にした聞き慣れない名前に会場の皆が首を傾げる。

 

 ーーーーーーーーー

 ーーーーーー

 ーーー

 

 それは幼き頃の記憶。

 

『ヒャッハー!』

『な、なんだ貴様は!?』

『金目のもんおいてけぇ!!』

『『ぎゃぁぁぁぁ!!!』』

 

 自分が剣に憧れる原典となった記憶。

 

『……チッ!しけてんなぁ、碌なもんが……ん?』

 

 美しい剣を振るった剣士は青年というにはあまりにも幼く、少年──それも自分と同じくらいの年頃の子供だった。

 

『攫われた子供かな?……悪魔憑きは発症している様子ではないね』

 

 少年はローズの体を観察する様に眺めると、腕が一瞬ブレた。

 その直後、ローズを縛っていた縄はいとも簡単に解け堕ちた。

 無駄の無い芸術とすら思える太刀筋に魅入られた。

 

『キミ、家はどこ?』

『オリアナ王国の……王城、です……』

『王城、つまり、お姫様って事?』

『ええ、一応……』

 

 ローズがそう答えると、少年は『あちゃー』と頭を抱えた。

 

『これ、もしかして主人公君がお姫様救出するイベントだったかな?だとすると、僕、余計な事しちゃった……?』

『よ、余計な事じゃ、ない……です』

『……だと良いけどね。今、こっちに向かって騎士っぽい人が来ている。僕はもう行くから、その人達に保護してもらいなよ』

 

 じゃあ、と誘拐犯達が溜め込んでいた僅かな金品を握り、去ろうとする少年をローズは『ま、待って下さい』と呼び止めた。

 

『あ、貴方のお名前をお伺いできませんでしょうか……?』

『ん?……そうだなぁ、まだ修業中の身だし……通りすがりのスタイリッシュ盗賊スレイヤーだ。覚えなくて良いよ』

『い、いえ、スタイリッシュ盗賊スレイヤーさん。貴方のその名、生涯忘れる事はありません……!』

『そ、そう……?まあ、もう会う事はないだろうし、好きにしなよ』

 

 そう言って、少年はローズの元を去り、その後現れた騎士団にローズは保護された。

 そして、その翌日からローズは剣を取り、スタイリッシュ盗賊スレイヤーと名乗った少年の剣を目指し、邁進する日々が始まった。

 

 ーーーーーーーーー

 ーーーーーー

 ーーー

 

「シャドウ──貴方がスタイリッシュ盗賊スレイヤーさんだったのですね……!」

 

 そして今、ローズは二度と会えないと思っていた憧れの存在と再会した。

 いや、これが4度目の邂逅だった。

 2度目の邂逅は学園がテロリストに占拠された時、あの時はまともに言葉を交わす余裕も、シャドウの剣筋を見る余裕も無くて気付けなかった。

 3度目はつい先日の地下道。あの時は暗くてよく見えなかった。

 けれど、この4度目の邂逅にて、漸くシャドウの剣筋を見て、シャドウの正体がずっと憧れていたスタイリッシュ盗賊スレイヤーだと気付けた。

 

「私は、貴方の剣に憧れて、ここまで強くなれました……あの時、貴方に助けられたから、私は今ここにいる。改めて感謝を」

 

 ローズは長年抱えていた気持ちを吐露して、感謝を述べた。

 そんな時ではないと分かっていながらも、その気持ちを伝える事だけは止められなかった。

 

「貴方に力を貰ったのに私は楽な道を選ぼうとしました……まだ、戦える筈なのに、簡単に諦めてしまいました。ごめんなさい……」

 

 そして謝罪を述べる。

 

「──ならばどうする?」

「──戦います。私の命尽きるその時まで……!!」

 

 ローズは決意を新たにした。

 シャドウは満足そうに頷くと、風通しの良くなった窓に剣を向ける。

 

「──往け」

「…………はい!!」

 

 ローズは走り去った。

 

「ま、待て!」

 

 ローズを追おうとするドエムにシャドウは剣を突き付け、動きを牽制した。

 

「くっ……!衛兵何をしている!?さっさとこの者を捕らえろ!!」

 

 ドエムは側で硬直しているミドガルの衛兵に対して叫ぶ。

 彼らはミドガルの衛兵である為、ドエムの指示に従う義理は無いが、それでも衛兵として襲撃者を捕縛あるいは排除する必要がある。

 

 ──しかし、今や王都で知らぬ者は居ないテロリストの主犯者という大犯罪者にして、オイボレーノ・クソジージと身分を偽りブシン祭で証明した圧倒的強さを前に、衛兵達は立ち竦んだ。

 

 ミドガル王国最強とされるアイリス・ミドガルでさえ一撃に敗れた相手だ。自分達が敵う訳ない。立ち向かえば何が起こったかかも分からぬ間に殺されると理解していた。

 

「──私が()る」

 

 だが、ここにはアイリス・ミドガルと同等か、それ以上の強さを持つ者がいた。

 

「おお!武神ベアトリクス様が剣を抜いたぞ!!」

「た、助かった……!」

「ベアトリクス様!そんな奴さっさと斬っちゃって下さい!!」

 

 ベアトリクスが剣を抜き、シャドウと相対するとVIPルームの者達は安堵の表情を浮かべ、歓声に包まれた。

 

「ほう、強いな。お前は我を楽しませる事ができるか?」

「ん、頑張る」

 

 ミドガル王国最強と謳われたアイリス・ミドガルをたった一撃で倒した最強の剣士シャドウ。

 武神の二つ名を冠するエルフの剣聖ベアトリクス。

 

 王国の歴史に残る伝説の戦いが──今、始まるッ!!




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シド君の性事情についてアンケートを取ります。

1を選べば、七陰はにっこり

2を選べば元聖女様がハッスルします。
また、ニューに対するパワハラが増します。なんででしょうね?

3を選べば原作で負けヒロイン臭が漂うあの人が勝ちヒロインになるかも?
また、ハニトラ仕掛けようとして返り討ちに遭う憐れな狐が居たりいなかったり?

※初期構想だと七陰までだったんですが、感想欄見ると意外と皆さん寛容な様子ですし、アンケートの結果を参考に今後の展開考えようと思います。

当初はアルファと関係持たせて、低評価の嵐食らわないか戦々恐々だったんですが、本作シド君の事後描写した辺りから感想増えた辺り、みんな紳士(意味深)なんだなぁ〜と思ったり。

シド君のエクスカリバーの射程は?

  • 1、七陰まで
  • 2、シャドウガーデン関係者まで
  • 3、射程?そんな物は存在しないッ!
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