夕暮れが無法都市を赤く染め上げていく頃、クレアとランサーは今回血の女王討伐の拠点となっている魔剣士協会へと訪れた。
中にはクレア達と同じ様に、血の女王討伐を目指す為に集まった魔剣士達で賑わっていた。
「ひゅー。これ全部血の女王討伐に集まった魔剣士か?結構いるな」
「数だけ揃えても意味ないでしょ。吸血鬼の弱点が広まる前の時代とは言え、相手は幾つもの国を滅ぼしたって言われる吸血鬼よ?」
「まあ、伝説の吸血鬼を相手するには役不足だわな」
俺もお前もなと、ランサーはクレアに視線を向ける。
クレアは睨み返すが、反論の言葉は出なかった。
クレアとて、自分の実力を弁えていた。弁えた上で勝算があると判断して今回の作戦に参加した。
「皆、良く集まってくれた」
吹き抜けとなった二階から、女性の声が響いた。
クレア達は声のした方へと視線を向けた。
そこにはつばの広い帽子を被った赤髪の女が立っていた。
彼女こそが、今回の血の女王討伐作戦を立案し、参加者を募った人物であり、クレアが──そしてこの討伐作戦に参加した多くの魔剣士が勝算があると判断した要因だった。
「私は最古のヴァンパイアハンターのメアリーだ。今回は私の呼び掛けに応じてくれた事に感謝する」
メアリーはそう言って集まった魔剣士達を見渡して一礼した。
「周知した通り、今回の討伐作戦に於いて、血の女王は私が相手をする。しかし血の女王が拠点を置く紅の塔には無数の吸血鬼やグールがいる。私一人では血の女王に到達するのは困難だ。そこでキミ達には血の女王の配下である吸血鬼やグールの相手をお願いしたい」
事前に周知された通りの説明に、何人かの魔剣士はほっと胸をなで下ろした。
血の女王という伝説の吸血鬼を倒せ得る存在がいて、彼女が伝説の吸血鬼を相手する間、配下の吸血鬼やグールを倒すだけで血の女王討伐作戦に参加したという名誉が得られる。
そこそこの実力がある魔剣士達にとってはローリスク・ハイリターンと言って良かった。
「命懸けの戦いになる。渡せる対価もあまり多くない……にも関わらず、これだけの人数が集まってくれたこと、改めて感謝する」
それでも危険があるのに変わりはない。
メアリーは改めて頭を下げて感謝の意を示した。
「決行は3日後の早朝、吸血鬼の動きが鈍くなる時間を見計らって作戦を開始する」
「少し悠長過ぎないかしら?」
「3日と言わず、今からでも良いぜ?」
メアリーの言葉に、クレアとランサーが異を唱えた。
「今日はもう日が暮れる。夜は吸血鬼の独壇場だ。危険過ぎる」
「なら、明日の朝でも良いでしょ?何故、3日も待つ必要があるの?」
「準備期間ってのは分かるが、これだけの頭数揃ってんだ。下手に時間を置けば敵に勘付かれるぜ?」
「それは……」
メアリーは理由を説明しようとして、一瞬言い淀む。
情報の流出を危惧しての事だったが、志気を考慮して決断する。
「──武神ベアトリクスが合流する予定だからだ」
その言葉に広間に衝撃が走った。クレアは思わず目を見開き、ランサーも驚きを隠せない様子だった。
「なっ!?あの武神が?」
「なるほど、確かに彼女が合流するのであれば、それを待って行動するのが合理的だ」
そして誰もが納得した。
「異論はあるか?」
「……いいえ、ないわ」
「それ程の人物が合流するってなら、そりゃ待つさ」
最古のヴァンパイアハンターに武神ベアトリクス。
この2人が揃えば、血の女王の討伐も、紅の塔に潜む吸血鬼やグールの討伐も容易だろう。
その場の誰もが作戦の成功を確信した。
「ガァァァァ!!」
その直後、協会の窓ガラスを破りグールが現れた。
「なっ!?グールだと!?」
「まさか、計画がバレたのか!?」
広間に悲鳴と怒号が交錯する。だがここにいるのは血の女王を討伐せんと集まった猛者達だ。
グールの近くにいた魔剣士達が次々と武器を取り、グールを斬り伏せる。
しかし、次から次へとグールは窓の外から襲来する。
「
「外に出て応戦するしかないわね」
ランサーとクレアもまた、武器を構えて窓を破って侵入してくるグールを窓の外へと押し返し、外へと飛び出した。
「これは……ッ!」
外の光景に息を飲んだ。
紅い不吉な月明かりが無法都市を照らしていた。通りという通りにグールの姿が溢れている。建物の影から這い出てくるもの、路上を疾走するもの──いずれも数え切れないほどの量だ。
「なんて数だ……」
「これは想定外よ」
これでは討伐作戦もなにもあったものではない。
「遅かったか……奴め、こんなに早く行動を起こすとは」
クレア達の背後で細剣を抜いたメアリーが、月明かりに紅く照らされる紅の塔を睨む。
「こうなっては仕方ない。これより計画を前倒しにして血の女王討伐作戦を開始する!」
メアリーが号令を掛ける。しかし──
「こ、こんな状態でか!?」
「数が多過ぎる。討伐どころか、こっちが蹂躙されるぞ!」
「くそっ、なんだこのグール!強過ぎるぞ!?」
「ふっ、ふざけんな。俺は逃げるぞ!ギャァァァ!!」
魔剣士達は既にパニック状態。
元々寄せ集めという事もあって統制など取れない状況だった。
「よお、大将。これって血の女王の仕業って事で良いのか?」
ランサーがメアリーに襲い掛かったグールをメアリーが剣を振るよりも早く倒し、尋ねる。
「血の女王を倒せば、この混乱は収まるの?」
クレアがグール化した魔剣士を斬りながら尋ねる。
「──分からないわ。けれど、この騒動の主犯を倒さなければ事態は収束しない」
メアリーはそう言って、紅の塔を睨んだ。
「こうなった以上、集団での行動は不可能、私はこれから紅の塔へ潜入し、血の女王を討つ。貴方達はどうする?」
「そりゃ、勿論──」
「往くに決まってんだろ。血の女王だろうが、グールだろうが、この
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うーん。選択をミスったかもしれない。
学園モノのモブなら、あと一歩の所で童貞卒業のチャンスを逃して、トラブルに巻き込まれたりする方がモブらしい行動だろう。
しかし、僕はあろう事か、普通にヤる事ヤッて、出すもん出してスッキリしてしまった。
これは駄目だ。非常にモブらしくない行動だ。
その事に気が付いたのは、全ての事が終わった後の出来事だった。
「ふふっ……大人しい顔して、意外と絶倫なのね……」
僕が身嗜みを整えて賢者タイムに浸っている中、先程まで情事に耽っていたベットには名も知らぬピンク髪のお姉さんが恍惚とした表情で仰向けになっていた。
「あはは……こ、これでも魔剣士なんで!」
思えば、シャドウガーデンメンバー以外に手を出したのは初めてだ。シャドウガーデンの盟主としてではなく、純粋なモブ──シド・カゲノーとしての行為という事もあり、新鮮味があって、結構気持ち良かった。
「……なんか、外が騒がしいわね」
「そ、そういえばそうですね」
僕も今さら気づいたように応じる。正直言って行為中から気付いていたんだけど。
街を覆う不穏な魔力に、街の喧騒──何か面白そうなイベントが発生している予感がする。
「グルルル……!」
部屋の外から低い唸り声が聞こえた。
それと共に足音が部屋に近付いてくる。
「だ、誰……?」
お姉さんが身を起こし、震えた声で部屋の外に声をかける。
僕もモブらしく緊張した趣で、剣を取りお姉さんを庇うように前に立つ。
その直後、何かが木製のドアを粉々に吹き飛ばした。砂埃が舞う中、その影が現れる。
「ぐるるるるる!!」
現れたのは全裸の中年のおっさん。
しかしただのおっさんではない。目は血走り、牙を剥き出しに、涎を垂らす。
絵面だけなら普通の変質者のおっさんだ。
だけど、口元に付いた夥しい血痕と、禍々しい魔力からただの変質者では無いことが分かる。
「ぐ、グール!?なんでこんな所にまでグールが侵入してくるのよ!?」
グール?へぇ、あれがグールか、初めて見た。
確か吸血鬼の手下だっけ?
「に、逃げて!」
「ぐらぁぁぁぁ!」
お姉さんが叫ぶのと同時に、グールのおっさんが襲いかかってきたから首を刎ねた。
「へっ……?」
うへぇ、返り血が付いちゃったよ。気持ち悪い。
「ま、ま、マリーさん!大丈夫ですか!?今こっちにグールがって──うへっ!?倒されてる!?」
剣を振って血糊を落とすと、グールのおっさんが壊したドアから10歳くらいの少女が現れた。
「えっ、これもしかしてお客さんが?」
彼女は床に転がるグールの死骸と僕が握る剣を交互に見て、そう尋ねた。
「ま、まあね。僕、これでも魔剣士だから」
声や足を震わせて、精一杯強がってる演技をしてみる。
「に、に、に、逃げましょう。ここここは危険です」
「え、でも……」
「──逃げましょう」
「マリーさん!?本気ですか?足抜けになっちゃいますよ!?ユキメ様にバレたらどうなるか」
「この場に留まってたらグールに殺されるわ。大丈夫、仮に捕まってもミナだけは助かるように嘆願するから」
どうやらお姉さんの方はマリー。少女の方はミナというらしい。
マリーさんは躊躇いを覚えるミナを説得して、服を纏い、手早く荷物を纏めた。
迷いのない動きだ。恐らくこの遊郭から逃げ出す計画を以前から立てていたんだろうね。
「お待たせ、行きましょう」
「はい」
先頭を僕が走り、死角から現れるグールを次々を斬り伏せる。
「そこの路地を右に」
「了解です!」
「そのまま真っ直ぐ走れば大通りに出るわ。気をつけて!」
「はい!」
マリーさんは的確に逃走経路の指示を出してくれる。
遊郭に半ば監禁されている状態だったろうに、意外と地理に詳しい。
窓の外から見える僅かな景色と顧客からの話で街の地形を把握しているということなんだろうか?
「もう直ぐ大通りよ。そこを抜ければ都市の外に逃げられる!」
マリーさんの指示に従い走る。
細い路地を抜けて、視界が広がる。
そこには大通りを埋め尽くさんとするグールの群れがいた。
「嘘……」
「グールが、こんなに……」
背後でマリーさんとミナが絶望しているのが分かる。
「僕が道を斬り開きます」
「無理よ!あなた一人じゃ……」
「無謀過ぎます!」
「任せてください。こ、この程度の敵なら百匹来ても問題ありましぇん!」
僕はそう言って大通りに飛び出して、グールを斬り伏せながら道を進む。
「ジィドォォォォ!!」
「ドーデェーソツギョォォォォォ!!」
なんかグール化したヒョロとジャガの姿があった。
流石は僕が見込んだモブ2人、ゾンビパニックものらしくグール化してるよ。
斬っても良いけど、流石に可哀想だったので──
「シンッ!?」
「ヨッシツグッウ!?」
ジャガグールとヒョログールは股間を蹴り上げて空高く吹き飛ばすだけに留めた。モブらしく星になった。
「きゃあ!」
「ミナ!!」
背後を振り向くと、ミナがヒョログールとジャガグールに捕まっていた。蹴り飛ばした方向が悪かった!
「絵面的にアウトだよ!」
キミらの童貞卒業という幻想をぶち殺す!!
「そげぶっ!?」
「ひでぶっ!?」
再びヒョロジャガを殴り飛ばしてミナを救出した。
幸いにも無法都市を出る門は解放され、門の外にグールは居ない。
けれど、大通りからは次々とグールが現れては、こっちに向かってくる。
こ、これは──言えるかもしれない。
あの人生で一度は言ってみたかった台詞を──
「2人とも、僕に構わず先に行け!」
言った。ついに言えたぞ。あの伝説の台詞を。思わず胸が高鳴る。
「そんな!」
「危険ですよ!一緒に逃げましょう!」
「誰かが、あのグールを止めなきゃ行けない!それができるのは僕だけです!さあ、早く行ってください!!」
「……わかりました」
マリーさんが悔しそうに歯を食いしばった。
「でも約束して!必ず生き延びるって!」
「当然ですよ」
彼女は泣きそうな顔で叫びながらミナの手を引いて走り出した。直後、グールの大群が襲い掛かる。
「うぉぉぉぉぉ!!!ここから先は通さないぞぉぉぉ!!!!」
僕はわざとらしく雄叫びを上げながら、グールに立ち向かい──
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
悲鳴を上げながらグールの大群に飲み込まれる。
マリーさん達は一瞬立ち止まりそうになるが、僕の犠牲を無駄にしまいと全力で逃げた。
マリーさん達の姿が見えなくなったタイミングでグールの群れを吹き飛ばし、この辺で一番高い建物の上へと跳躍した。
「ふう……モブらしいかと言われれば微妙だけど、中々面白いムーブできたね」
しっかしまぁ、異世界でゾンビパニック的なイベントが発生するとは思わなかったよ。
モブムーブはやったし、今度は陰の実力者ムーブして帰るかな。
何か面白そうなイベントがないかと街を見渡した。
■ヒットデーナッシー
ランサー・ガーシンダの愛槍にして、ガーシンダ家に伝わる家宝の槍
大体当たらない槍
名前はアッタラネーナと迷いました。
※厚揚げさんの感想から着想を得て、急遽名付けしてみました。
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