超楽しみなんだけど。
僕は今、留置場的な所にいた。
「おら、話す気になったか?」
「お前しか考えられないんだよな!!」
そこで僕は騎士団の男2人にボコボコにされていた。
…………何故!?
事のあらましを簡単に説明すると、以下の通りだ。
1.アレクシアが僕と別れた後、消息を絶つ。
2.最後の接触者である僕が容疑者として浮上する。
3.重要参考人として連行される。
4.現在に至る。
うん。恐らくゼノンかアレクシアと交際している僕を疎ましく思った誰かの犯行だな。クソが!
「おらおら、さっさと吐かないと、爪全部無くなっちまうぞ」
ビリ!
「ぎゃぁぁぁぁぁ!」
大袈裟に絶叫したけれど、別に痛みは感じない。
魔力で痛覚を遮断してるからだ。
傷も後ほど、治癒すれば問題はない。
とは言え、僕が拷問されたという事実は変わりない。
「ぎゃあだってよ!ぎゃあって!」
「情けない悲鳴上げやがって、それでも男か?」
「次は玉をもいでやろうか?」
「もっと良い悲鳴を上げてくれよ」
どうやら、2人は仕事で仕方なくやってる訳じゃなくて、楽しんでる様子だ。
僕を拷問している2人の顔は覚えた。
ほとぼりが冷めたら、殺そう。
イータの研究の実験台にでもしてやろうか。
「や、止めてください!お願いします!」
「じゃあさっさと、アレクシア王女の居場所を吐くんだな!」
「知らないです、本当です!」
「じゃあ、思い出すまで、痛め付けてやるよ!」
「ぎゃぁぁぁぁ!」
そんなこんなで、僕の拷問は昼夜問わず続いた。
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解放されたのは、5日後だった。
良かった。もし、あのまま自供した事にされて殺されそうなら、シド・カゲノーは死んだ事にして逃げるしかなかったからね。
嘘、あいつは死んだ筈じゃ!って言われるのも陰の実力者ぽくて良かったけど、そのルートだと姉さんが弟を王国に殺された復讐者ルートを辿りそうだったから回避して良かったかも知れない。
うちの姉さん、重度のブラコンだからな……
昔冗談で言った、将来は姉さんと結婚する!って言葉を今も真に受けてるし……
寧ろ、弟離れさせる為にも死んだ事にした方が良かった、のかな?
そんな事を考えながら、僕は学生寮まで戻った。
「お帰りなさい」
寮の部屋に帰ると、そこには全身にフィットする黒いボディースーツに身を包んだ金髪エルフの美女が居た。アルファだ。
彼女と出会って5年。彼女は実に女性らしく成長した。
出会った当初は、まだ第二次成長期を迎える前のお子様体型だったけれど、今では誰もが振り向くであろう絶世の美女だ。
1週間近い禁欲生活を終えた後の思春期男児には、辛い物がある。
「食べるでしょ?」
彼女の手には、肉厚なマグロがサンドされたハンバーガー擬きが入った袋を握られていた。
5日間まともな食事を取れなかった僕にとっては、今すぐにでも口にしたい食欲があった。
……けれど、今はそれ以上に満たしたい欲求があった。
「あら?」
僕はアルファの肩を抱き寄せ、そっと口付けをした。
「……積極的ね」
生物は死に近くなると子孫を残す為に、生殖本能が活発化するらしい。
実際には命の危険は皆無と言っても良かったが、5日間に渡る拷問で僕の肉体は死に近い状態だったと言っても良い。
そんな状態で現れた絶世の美女。
「嫌?」
「いいえ、嬉しいわ」
召し上がれ、と両手を広げるアルファ。
据え膳食わぬは男の恥。
いっただきまーす!
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「あむ。もぐもぐ、ごくん。……美味い!」
「呑気な物ね。今の状況を分かってるの?」
「絶世の美女を抱いた後」
「…………もう」
あれから数時間、ハッスルした僕はアルファからの差し入れを受け取り、5日ぶりのまともな食事に有り付いていた。
「ところで、貴方を尋問していた2人だけど、どうするつもり?」
「イータにプレゼントしようと思っているよ」
「そう、確か生きたままの人間を解剖したいとか言っていたわね。良い素体が手に入ってあの子も喜ぶわ」
うへぇ……、可哀そう。
イータは7番目の七陰で、シャドウガーデンの研究開発を担っている。
地球で身に着けた素人知識を陰の叡智と称して話すと、彼女はほんの僅かな情報から様々な技術を開発、再現に成功させる事が出来る。
僕が考案し、開発したスライムスーツも彼女の手によって最適化及び量産に成功している。
優秀な研究者ではあるのだけど、彼女は興味を示した事にはとことん貪欲だ。
そこに善悪は存在しない。
駄目だと分かっていても、それが犯罪行為であったとしても、彼女は己の知識欲求を満たす為なら手段を問わない。
謂わばマッドサイエンティストだ。
僕も何度か、彼女の実験台にされてえらい目にあった。
直近の出来事だと、僕の能力が子供に遺伝するのか研究したい。とか言って精力剤を盛られた。
その所為で、女を見れば即座に襲い掛かりかねない程に理性が破壊された事があった。
アルファ達が居なければ、性犯罪者になっていた所だった。
……シャドウガーデンの中で僕が性豪として知られる事になる悲しき事件の元凶でもある。
「尋問官が気の毒に思えてきたよ」
「同情する余地は無いわ。これまでに彼らの尋問によって、冤罪で殺された人間は数えきれないもの」
「じゃあしょうがないか」
冤罪ダメ。絶対。
「それに調べた限りでは、騎士団は教団と繋がっているわ。あの2人も末端とは言え、教団の構成員だわ」
「教団ね……」
ディアボロス教団。
最初は僕が適当にでっち上げた架空の組織だったんだけど、この5年で本当に実在する組織だと判明した。
目的や思想までは分からないけど、悪魔憑きを集めて何かの研究をしている様子だ。
詳しい事はアルファ達が調べてる。
「王女誘拐事件は間違いなく、教団の犯行よ」
「確かなの?」
「ええ、恐らくより濃い英雄の血を得るのが目的ね」
「英雄の血ね……」
なんでも、ミドガル王国は魔人ディアボロスを倒した三英雄の子孫が建国した国らしい。
その為、王族は英雄の血をより色濃く受け継ぎ、産まれ付き魔力量が多いそうだ。
「貴方を犯人に仕立て上げようとする動きがあるわ。気を付けて」
アルファはそう言うと、部屋の窓から出て行った。
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釈放されてから2日。
僕は密かに用意していたセーフティハウスに居た。
うんうん。やっぱり、陰の実力者ならセーフティハウスの一つや二つ、用意するべきだよね。
アンティークランプに照らされた部屋には、僕が長い年月を掛けて収集した陰の実力者コレクションが飾られていた。
それぞれが数十万ゼニーは下らない家具や絵画の数々だ。中には値が付けられないとされる代物まである。
その中でも際立つのが、幾ら積んでも手に入らないと言われる幻の絵画モンクの叫び。
それから、45万ゼニーのワイングラスに、南部で生産された1本90万ゼニーのヴィンテージワイン。
僕は長年の努力に彩られた部屋を見渡しながら、ワインを呷る。
……うん。最高だね。癖が無く飲み易い。
安物のワインだと、癖のある苦みとか臭みがあって好きになれないけど、これなら僕でも飲めるや。
味を上手く表現出来るだけの知識はないけど、素人なりにこれは美味しいと思える味だ。
背後からキイィ、と音を立てて扉が開く音がした。
「……!凄い」
消える様な小さな声だったが、確かに聞こえた。
よっしゃ!期待していた反応通りだよベータ君!
「ベータか?」
「は、はい!シャドウ様。準備が整いました。動員可能人数114人。全員王都に集結しております」
「114人?大分集まったな。良く頑張った」
「……ッ!勿体なきお言葉です!」
僕はグラスをベータに差し出した。
「飲むか?」
「しゃ、シャドウ様の飲みかけ、……ごくり」
「嫌だったか?」
「いえ、ありがたく頂戴致します」
ベータはグラスを受け取ると、何回か揺らし、ワインの色を見る。
次に鼻を近付けて香りを楽しみ、ワインを口にした。
……僕より様になってない?
「はわぁ……。シャドウ様。これ凄いです」
「……そうであろう」
「くっ、こんな事ならもっとワインについて学んでおくべきでした。このワインが素晴らしい物である事は分かっても、如何に凄い代物か、表現する術を私は知らない!」
大丈夫だよ。僕も知らないから。
「それで、首尾はどうなっている?」
「は、はい。この数日で王都に点在した教団のアジトは調査済みです。アレクシア王女が囚われているであろう場所もある程度絞り込みに成功しました。奴らのアジトに同時攻撃を行った後に、アレクシア王女の魔力痕跡を辿り居場所を特定、発見次第保護する計画です」
成程ね。
僕は懐に入れていた手紙をベータに投げる。
投げられた手紙を受け取ったベータは「これは!」と驚いた。
「招待状だ」
それは差出人不明の手紙だった。
手紙には短くこう書かれていた。
【ミドガル魔剣士学園女子寮の近くにある森林まで来られたし。さもなくば、アレクシア王女の命はない】
文字は血をインクにして書かれていた。
魔力痕からして、僕の血だ。
招集に応じなければ、僕の血を誘拐現場にでも撒き散らして、アレクシアを攫う際に争った証拠とかにするつもりだろうか。
「開戦の合図は僕が出そう」
「畏まりました。その様に手配致します」
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ミドガル魔剣士学園女子寮付近。
僕は今、招待状にあったアレクシアの誘拐現場付近の森林に訪れていた。
「おやおや?こんな所でどうした。シド・カゲノー」
暫くして、森林には2人の男が現れた。
僕を拷問してた2人だ。
「犯人は現場に戻るってな。おおっと、これはアレクシア王女の靴じゃないか!付近には血痕の跡があるぞ!」
「この魔力痕、覚えがあるぞ、シド・カゲノーお前の魔力痕だな!」
実にわざとらしい演技だ。
「シド・カゲノー。お前をアレクシア王女誘拐事件の犯人として逮捕する!」
「もう二度と、陽の光を浴びれるとは思わない事だな!」
陽の光ね……
「その言葉、そのままお返しするよ」
「……あ?」
次の瞬間、男達は地中から現れたスライムに捕らわれた。
「むぐっ!?」
「んん!んん!?」
「抵抗は、無駄」
そして暗闇から一人の少女が現れた。
黒いロングヘアを靡かせた、エルフの少女だ。
「イータ。君も来てたんだね」
「うん、新鮮な実験台。早く、欲しかった……」
彼女こそ、7人目の七陰イータだ。
普段は研究室に籠もっていて、中々姿を表さない。
こうして姿を表すのは稀な事だ。
「……お前達、もう、二度と……陽の光、浴びれると、思うな……」
「おや?珍しく感情的だね」
普段、好奇心以外の感情を表に出さない彼女だが、今日の彼女は声に怒気が籠もっていた。
研究室の外に出た事と良い、感情的な事と良い、普段の彼女からは考えられない非常に珍しい事だ。
「こいつら、マスター。拷問した。赦せない……!」
「愛されてるな~、僕」
目元が熱くなっちゃう。
いかん、陰の実力者として、情けない姿は見せられない。
僕は空に手を掲げ、魔力を放出する。
紫色の眩い光が夜空を照らす。
それに呼応して、王都の至る所で轟音が鳴り響き、爆炎が立ち昇り始めた。
「さあ、始めようか……」
「うん、実験台。沢山……確保する」
原作シド君との相違点
今回は盛り沢山。
1.自分を拷問した男に恨みを持ってる。
そりゃそうだ。
2.原作シド君は痛みを我慢したのに対し、本作シド君は痛覚を遮断する事で拷問を乗り越える。
これは昔、イータに精力剤を盛られ、己を制御出来なかった事を切っ掛けに、精密な魔力操作によって体内の毒物の無効化や神経を自在に操作出来る様に修行した成果。
原作シド君も痛覚の遮断くらい出来そうだけど、必要無いと判断してやらなそう……。
3.思春期男児並みの性欲を持ってる。
そんなシド君が、あんな美女に囲まれて理性保てる方がおかしいよね。
4.アルファと大人の関係を持っている。
もしかしら、他の七陰とも?
5.ディアボロス教団が実在する組織だと知ってる。
みんな、やけに具体的な報告をしてくるものだから、本当に実在する組織なんじゃ、と調べたら本当に実在していた。
シド君「…………マジか、でも、本当に悪い組織の様だし、別に良いか」