(´;ω;`)ウッ…
でも、それ以上に多くの方に高評価や感想を貰ってるので、頑張ります!
見渡す限り、暗闇が続く通路。そこをアレクシアは歩いていた。
彼女の姿は、1週間前と比べて変わり果てていた。
捕らわれの身であった為、入浴は出来ず。
髪はふけに塗れ、傷んだ髪があちらこちらに跳ねている。
純白のシャツは無理矢理口にさせられた吐瀉物の様な食事と、腐った水で汚れていた。
「全く、運が強いんだか、悪いんだか……」
誘拐されたという点に於いては運が悪いと言える。
然し、拘束されていたアレクシアが、こうして歩けているのは運が良かったとしか言えない。
シド達、シャドウガーデンが動き出しディアボロス教団のアジトを襲撃した事によって、功を焦った研究者が悪魔憑きの少女に完成したばかりの薬物を投与。
悪魔憑きの少女から、本物の悪魔の如き姿に変貌した彼女は、己を散々痛めつけていた研究者を殺害。
偶然か、否か、彼女の振るった手はアレクシアの拘束具を破壊し、アレクシアを解放した。
その後は天井を突き破り、何処かへと去って行った。
そしてアレクシアは偶然、近くに落ちていた鍵で魔封じの枷を完全に解き、これまた偶然に落ちていた剣を手に出口を目指して薄暗い道を歩いていた。
やがて、彼女は下水路に繋がる道に出た。
「良かった。後はこの水の流れを辿れば外に出られるわね」
そう安堵したのも束の間。
コツコツ、と何者かが近付く足音が響いた。
アレクシアは音がする方を振り向き、剣を構える。
「勝手に逃げられては困るな。君を手に入れるのに、どれだけ苦労したと思っている?」
「……なんで貴方が、って聞くのは野暮よね」
アレクシアの前に現れたのは、見知った顔だった。
良くも悪くも忘れる筈も無い。
そこに現れたのは、アレクシアの婚約者候補で、この国の剣術指南役であるゼノンだった。
「ゼノン。貴方の仕業ね……」
「如何にも」
ゼノンは自慢げな表情で答えた。
その表情にアレクシアは怒りを抱く。
今にも斬りかかってやろうかと、強い殺意が湧いた。
「絶対裏の顔があるとは思っていたけど、これがそう?」
だが、まだだ。無暗に斬りかかって勝てる相手じゃない。
アレクシアは自分に言い聞かせ、落ち着く。
「ああ、そうとも。次期ラウンズ第12席ゼノン・グリフィ。それが僕さ」
「ラウンズ?第12席?」
「陰で世界を牛耳るディアボロス教団の最高権力者の地位さ」
「オカルト染みた話ね」
だが、一介の剣術指南役に王女誘拐などと言う大それた事が出来るとは思わない。
裏社会で強い影響力を持つ組織がバックに付いているのは確実だろう。
ディアボロス教団と言う組織が陰で世界を牛耳る事が出来る程の組織かは兎も角、一旦は実在する組織だと考える事にした。
「君がどう思おうが勝手さ。だが、この地位は王国の剣術指南役や君の夫の地位などとは比べ物にならない程の地位と名誉だ。僕は君を手土産にラウンズに内定する。本当はアイリスの方が手土産としては良かったが、あの女は人気者でね。彼女を手にするには中々時間と労力が掛かる。今回は君で我慢するとしよう」
まあ、尤も、とゼノンはゲスい笑みを浮かべた。
「君を失い、傷心中の彼女に近付いて、彼女もゲットするつもりだけどね」
その言葉にアレクシアの中で何かが切れる音がした。
「そう♪……それが遺言で良いのね!!」
アレクシアは剣を抜き、ゼノンに斬りかかる。
それをゼノンは子供をあしらう様に、簡単に受け流した。
「怖い怖い。そう言えば、君との恋人役を演じていた彼。今頃は君の誘拐犯として逮捕されている頃だと思うよ。明日の今頃には打ち首だろうね。彼の首は僕が刎ねさせて貰える様に手配しようかな」
「……ッ!!」
アレクシアは追撃を行う。
ゼノンが余裕の表情で弾く。
2人の応酬は一瞬の間に数十と繰り広げられ、それと同じ回数だけ火花が散っては消え、金属同士がぶつかる音は暗い下水路によく響いた。
「うんうん。何時もの基本に従っただけの剣よりかは幾分かマシだね。……でも、所詮は凡人の剣だ」
「その余裕も何時まで続くかしらね!」
アレクシアの一閃が、ゼノンに傷を付けた。
薄皮1枚、ほんのりと血が滲む程度の掠り傷だ。
然し、確かにゼノンに一太刀を浴びせた。
「ほう、やるじゃないか。なら僕も、少しだけ本気を出してやろう。次期ラウンズとしての剣をね」
次の瞬間、アレクシアの剣は弾かれ、目と鼻の先には剣先が突き付けられていた。
「なっ!?」
アレクシアには何も見えなかった。
剣筋も、己の剣がどのように弾かれたかも、全く見えなかった。
……勝てない。そう思った。
心が折れると、アレクシアはこれまでの疲労が一気に襲い掛かり、膝を突いた。
「一緒に来てもらうよ」
アレクシアに抵抗する気力は残っていなかった。
瞳から一筋の涙が流れ、池に落ちた。
その瞬間、
コツ、コツと足音が響いた。
「……何者だ?」
ゼノンが背後を振り向く。
そこには漆黒のロングコートに身を包んだ男が居た。
顔はフードで覆われ、視認できない。
「我が名はシャドウ。陰に潜み、陰を狩る者」
「……シャドウ。数年前から教団の拠点を潰して回る野良犬だったか」
ゼノンはシャドウに向き合うと、真剣な表情で剣を構えた。
そこに、アレクシアと対峙していた際に浮かべていた余裕は存在しなかった。
「その歩き方、姿勢、隙だらけの様に見えて隙が無い。成程、教団が手こずる訳だ」
ゼノンは己の実力に絶対の自信を持っている。
それ故の驕りもある。だが、慢心はしない。
シャドウと名乗る男の佇まいから、只者で無い事を、ゼノンは見抜いていた。
ゼノンの脳裏にシド・カゲノーの姿が過る。
アレクシアに無理矢理1部に引き上げられ、試合稽古を通じて他の生徒にボコボコにされてこそいるが、歩き方や姿勢からそれなりの実力者である事は分かっていた。
恐らく、1部の生徒とも引けを取らない実力はあるのであろう。
それを表に出さないのは、階級社会故の厄介事に巻き込まれない為だろう。
そこに不自然さは感じない。半端な実力を持った下級貴族は上級貴族に目を付けられて、嫌がらせを受けるのが世の常だ。
貴族社会を生き抜く為に己を偽るのは、別におかしな事ではない。
おかしな事、ではない。
けれど、どこか不気味さを感じさせる。
「どうした、こないのか?」
「……ッ!?」
シャドウの声に、ゼノンは目の前の敵に意識を集中させた。
「君を誘って居たのさ、一流の魔剣士は無闇やたらと手を出さないんでね。先ずは君に先手を譲り、実力を推し量ろうとしていただけさ」
「……そうか」
次の瞬間、ゼノンの左腕が吹き飛ばされていた。
「なっ!?」
「が、がぁぁぁぁ、ぼ、僕の腕が、腕がぁぁぁぁ!!」
ゼノンと様子を見守っていたアレクシアが同時に驚きの声を上げた。
「……何か、測れたか?」
ゼノンはシャドウに対する評価を改めた。
王国に知らぬ者無しと称される自分ですら反応どころか、目にすら捉えられない剣筋、別次元と言える程に隔絶した実力差。
もし、シャドウが教団の人間だったならば、実績の有無関係なく、その腕前一つでラウンズ入りは確実だろう。
こいつはただ、教団のアジトを潰して回っていた塵芥じゃない!教団の喉元に食らいつかんとする猛獣だ!
そう評価した。
「何者だ貴様!」
「シャドウ。そう答えた筈だが?」
呆れた様子で失笑するシャドウに、ゼノンは怒り心頭に内に秘めた魔力を解放する。
それは一般の魔剣士とは隔絶した魔力。王国最強と呼ばれるアイリスにすら匹敵し得る程の暴力的で、圧倒的な物だった。
「な、なんて魔力!」
アレクシアは驚愕した。ゼノンが放つ嵐の様な場力風に、その場に踏ん張る事しか出来なかった。
少しでも気を抜けば、飛ばされる。
まるで嵐の中に居る様な錯覚にすら陥った。
「どうだ、これが、これこそが、次期ラウンズの力だ!」
ゼノンはシャドウに斬りかかった。
膨大な魔力で身体能力を強化し、走る。ただそれだけで衝撃波を生み出す程の速さだった。
ゼノンが剣を振るう。全てを薙ぎ払わんとする程の剣圧を放ちながら。
それをシャドウは、つまらなさそうな、羽虫を払う様な動作で弾いた。
「はぁ…………」
シャドウが溜息を吐いた。
まるで、お前の剣には何の価値も無い。そう言わんばかりの溜息だった。
「ふ、ふざけるな!!」
それが我慢ならず、ゼノンは左腕を失った痛みも、喪失感も、全てを忘れて、ただ怒りのままに剣を振るった。
片腕を失い、怒りのままに振るう剣は、それでも尚、並みの魔剣士を瞬殺出来る程の威力だった。
アレクシアが相手なら、一太刀で殺されていたであろう程の実力だった。
だが、その全てを、シャドウは簡単に弾いた。
「馬鹿な、……馬鹿な、馬鹿なァァァァ!!」
これがまだ、天才と謳われたゼノンを上回る才能に恵まれた剣だったならば、ゼノンは諦めが付いた。
この世には、己をも超える才能の持ち主がいるのだと、納得も出来た。
腸が煮えたぎる程の悔しさを噛み締めながらも、この結果にも受け入れる事が出来た。
「くそ、くそ、くそォォォォ!」
ゼノンの咆哮が虚しく響く。
それは、子供の癇癪の様だった。
そこには何時もの余裕に満ちた表情は無い。
大人と子供、そう言える程の実力差がそこにはあった。
だが、シャドウの振るう剣に才能など無かった。
「……凡人の剣」
アレクシアがぽつりと呟いた。
ただ、基本に忠実。地味だけど、何処か目を奪われる美しい剣技。
産まれ持った才能、魔力に頼らず、ただ長年の努力で辿り付いた剣技の極致。
幼い頃、アレクシアが考えた理想の剣技が、そこにはあった。
「実に醜い。これが王国最高の剣術指南役とは、世も末だな」
「何だと!?」
ゼノンにとって、王都の剣術指南役など、所詮は表で活動する為だけの地位だった。
真の実力を隠し、片手間の力で簡単に手に入れた地位だった。
けれど、剣術指南の仕事は真面目に取り組んでいた。
己の鍛えた教え子が活躍すれば、教団からも、王国からも、評価が上がる。
地位はどうでも良いが、剣術指南役としての仕事にはプライドを持っていた。
「冥土の土産だ。貴様に剣術指南をしてやろう」
故に、その言葉はゼノンのプライドを刺激した。
王都でも最も優れていると自負するゼノンに剣術指南を行う。これ以上に屈辱な事はない。
「舐めるなよ!」
ゼノンは懐から赤い錠剤を取り出した。
「この薬は人の限界を超え、覚醒者に至る秘薬。常人であれば不相応の力に暴走し、死に至る」
そう語ると、錠剤を口に含む。
直後、ゼノンの魔力が膨れ上がる。
「だが、真の実力者は力を制御し、己が力に変える!」
溢れ出る赤い禍々しい魔力に髪は逆立ち、体中の血管が浮き出る。
体に刻まれた傷は一瞬にして塞がり、失われた左腕は瞬く間に再生した。
全身の筋肉が膨張し、ゼノンの肉体は一回り以上に巨大化した。
「ここからは僕も全力を出させて貰うよ!」
「トカゲが本気を出した所で、脅威にならん」
「その余裕、何時まで持つかな!」
ゼノンが突きを放つ。
それは、今まで積み重ねた努力、魔力、技術、その全てを乗せた最高の一撃だった。
剣速は音を超え、射線上に存在する全てを魔力の波で吹き飛ばす。
その威力は王都の城壁すら貫くだろう。
これに耐えられる者は居ない。
そう自信を持って放たれた突きだった。
「正しい魔力の使い方を教授してやろう」
「なっ!」
だが、その至高の一撃も、簡単に受け止められた。
指2本。それが、ゼノンの突きを止めるのに、シャドウが割いた労力だ。
人差し指と中指の間、そこにゼノンの剣は挟まれた。
膨大な魔力の波は、まるで最初から存在しなかったかの様に凪いでいる。
「な、なにが……」
最高の一突きが、指2本で止められる。
驚愕よりも困惑が勝った。
困惑するゼノンを余所に、アレクシアは何が起こったのか、見ていた。
「……ゼノンの魔力を相殺した?」
目にしたのはほんの一瞬、その一瞬の間にシャドウはゼノンと同等の魔力を放出し、ゼノンの魔力を相殺。ゼノンの突きを指2本で受け止めた。アレクシアには、その様に見えた。
魔力を魔力で相殺する。言うは易く行うは難し。
それを実現させるには、精密な魔力操作と相手と同等の魔力をぶつける必要がある。
そんな事をするぐらいなら、相殺に使用する魔力を使ってカウンターでも行った方が、よっぽど効率的だ。
つまり、シャドウはそれを実現するだけの技量と余裕がある事に他ならない。
「Lesson1」
次の瞬間、シャドウの姿が消え、ゼノンの背後に移動した。
「使う魔力は最小限、使う時は必要な個所に必要な魔力を一瞬で放出する」
ゼノンが振り向き様に剣を振るう。
「速い!」
その全てが最小限の動きのみで躱された。
「Lesson2」
シャドウは剣を振るい、ゼノンの剣の側面を叩く。
剣の弱い部分を叩かれたゼノンの剣はパキンと音を立てて簡単に折れた。
「相手との間合いを掴めば、速さも力も必要ない。魔力任せの剣技など、愚の骨頂。もっと技術を磨け」
シャドウが剣を振るう。
その剣速は酷く遅かった。まるで見取り稽古の為、敢えて動作を遅くしている様だった。
いや、様だったのではなく、実際にそうなのだろう。
基本に忠実だが、地味。けれど、どこか目を奪われる剣技。
その姿がアレクシアとゼノンの中で、ある少年と重なった。
「まさか、お前はシーー」
ゼノンがその名を口にするよりも早く、シャドウの剣がゼノンの喉を貫いた。
「ぐがぁ!」
本来なら致命傷になる傷も、シャドウが剣を抜くと瞬時に再生した。
「まだまだこれからだぞ」
「クソがァァァァ!!」
シャドウの剣戟がゼノンを襲う。
ゼノンはそれに対処するのに精一杯だった。
それは最早戦いではない。一方的な蹂躙だった。
(馬鹿な、これ程の差がある筈が無い!あって良い筈が無い!)
幼き頃、神童と謳われたゼノンにとって、それは感じた事のない程の実力差だった。
これまで己より強い人間には何度も出会った事がある。
まだ剣を握って間もない頃は、己よりも強い者から剣を教わった。
何度も負け、苦渋を舐める経験をした事がある。
だが、その誰もが、手の届く強さでしかなかった。
己の才能があれば、やがては追い付く。その程度の相手でしかなかった。
だが、シャドウの剣は違った。
才能の欠片も感じない凡人の剣。
けれど、それは己では決して届き得ない。
必要なのは才能ではなく、絶え間ぬ鍛錬と忍耐力。
己の技量では100年鍛錬を積んでも、届き得ない至高の領域。
そう思わせられる剣だった。
ゼノンは産まれて初めて、挫折を知った。
「遊びはここまでだ」
シャドウの振るった剣は酷く、遅い動作に見えた。
けれど、ゼノンは反応が出来なかった。
それは何故か、シャドウの剣が恐ろしく速かったからだ。
遅いのに速い。その矛盾を生じさせたのは、単にゼノンとアレクシアの目が慣らされたのだ。シャドウの手によって。
最初はゼノンとアレクシアの目でも捉えられる速さで動き、そこから徐々に速度を上げ、気が付けば、己の力量では決して捉える事ができない速度を捉える事が出来る領域まで、2人の目は慣らされたのだ。
その事に気が付いたのは、シャドウの剣によって刎ねられたゼノンの首が酷く遅い動作で宙を舞ってからだ。
最大限に引き伸ばされた時間の中で、ゼノンは死に行く己の運命に絶望した。
嫌だ。死にたくない。
そんな言葉すら声に出せず、ただただゆっくりと死に近付く恐怖を味わって死んだ。
アレクシアはシャドウの剣にただただ、魅了された。
己が目指すべき、剣の極致。それを視た。
コツコツ、とシャドウはロングコートを靡かせてその場を去る。
待って!貴方は何者なの!?
そう声に出そうとしたが、口は酷くゆっくりとした動作でしか動かなかった。
手を伸ばそうとしても、自分の体じゃないかの様に全く動かない。
最大限に引き伸ばされた時間の中で、アレクシアはただ、シャドウの後ろ姿を見る事しか出来なかった。
原作シド君、……だけじゃ伝えられなくなった原作との相違点
1.アトミックを撃っていない。
本作シド君「え、地下でアトミック撃ったら王都に大きな被害出るじゃん」
2.ゼノン分からされる。
名も無き男はシド君からのLessonを受けられなかったからね。代わりにゼノンにLessonを施した。
少し未来の話のアレクサンドリア(シャドウガーデンの拠点)
イータ「楽には、殺さない」
実験台1号&2号「「ぎゃぁぁぁぁ」」
アルファ「教えてあげるわ。古都アレクサンドリアに於いて、死はこれ以上の苦痛を与えられないという意味で、慈悲なのだと」
シド君を拷問していた2人には、ありとあらゆる苦痛が与えられていた。