ここだけシド君に人間性をブレンドした世界線   作:読者その1

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今回で王都動乱編は終わりです。


第6話 エピローグ

いや~。楽しかった。

まさかお前は!って、敵が僕の正体に気付いた瞬間に倒す。

主人公、または主要キャラにあいつは何者なの?と疑問を残してその場を去る。

うんうん。実に陰の実力者らしい行動だ。

主目的はアレクシアの救出だったけど、その過程で陰の実力者ムーブが出来て、僕は満足だ。

後は帰って混乱に包まれる王都を肴に晩酌でもして寝ようかな。

 

「ガァァァァァ!」

「ば、化け物!?」

「きゃぁぁぁぁ!」

 

そう思っていた僕の目の前に飛び込んできたのは、全長数十メートルの醜い人型の化け物だった。

うむ。静観するか、戦いに入るか迷う。

僕は悪人を何の躊躇いもなく殺せる程度には悪人で、目の前で苦しんでる人間を見捨てない程度には善人のつもりだ。

けれど、積極的に人を助ける程お人好しでもない。

僕は陰の実力者になりたいのであって、ヒーローになりたいんじゃない。

それはきっと、僕じゃない誰かの役割だ。

 

「きゃぁぁぁ!」

 

けれどまぁ、一応、化け物の攻撃や瓦礫が飛んできて死にそうな人間は、魔力の糸を使って適当な場所に避難させた。

僕が来てからは、人的被害は出て居ない筈だ。

 

「ぐわぁぁぁぁ!」

「ランサーが死んだ!?」

「この人でなしの化け物め!」

 

あ、槍使いの騎士が踏み潰された。死角になってて気付かなかった。

まあ良いや。全員を助ける義理は無いし、そこまでお人好しじゃない。

 

「悪魔憑き、だけではないな」

 

悪魔憑き特有の体が腐り果てた醜さはあるけど、悪魔憑きは動けなくなるだけで、巨大化して暴走する事はない。

 

「今だ、一気に畳みかけろ!!」

「「「うおぉぉぉ!」」」

 

騎士団が化け物の背後をとって、斬りかかる。

 

「「「ぎゃぁぁぁぁ」」」

 

だが、化け物が振るった腕でまとめて吹き飛ばされた。

お手本の様なモブムーブだ。

僕は魔力の糸を使って、重症を負いながらも死なない程度の速度で建物に衝突する様に騎士団を助けた。

 

「あの巨体であのスピード、化け物め」

「な、奴の傷が再生しているだと!」

 

騎士団が斬りつけた傷は瞬く間に再生していった。

うん。やっぱり普通の悪魔憑きじゃないな。

多分、教団の実験台にされて怪物化したって感じかな。

 

「そこまでよ!」

「おお、アイリス様だ!アイリス様が来てくれたぞ!!」

「これで勝てる!」

 

炎の様な真っ赤な髪にルビーの様な瞳。少女と呼ぶには凛々しく、大人と言うにはまだ幼さが残っている顔と佇まい。

成程、彼女がアレクシアの姉アイリス・ミドガルか、あまり似てないな。

 

「貴方達は下がりなさい。ここは私が対処します」

 

そう言うと、彼女は化け物に向かい疾走した。

狙いは首。一撃で化け物を仕留めるつもりだろう。

流石に彼女を見殺しにするつもりはない僕は、化け物とアイリス王女の間に入って剣を弾いた。

 

「なっ!?」

 

突然の乱入者に驚いたアイリス王女は一気に距離を取り、警戒心に満ちた表情で剣を構える。

 

「何者ですか!」

 

うんうん。急に現れた謎の人物。

その人物は王国最強の剣を難なく弾き、余裕の表情を浮かべて佇む。

陰の実力者って感じだ。

アレクシア救出編で満足してたけど、まさかデザートが待ってるなんて、僕は運が良い。

 

「貴様が知るにはまだ早い」

 

ならば、ここは安易に正体を明かさず、謎の人物のままでいる事こそが最適。

 

「ガァァァァァ」

「危ない!」

 

僕の背後から、化け物が襲い掛かる。

けれど心配無用。

 

「何かしたか?」

 

一瞬の内に化け物の肩に乗り、余裕の表情で問うた。

 

「なっ、見えなかった」

「そうか、ならば見せてやろう。最強の一端を」

 

僕は剣を掲げ、詠唱する。

 

「……アイ」

 

瞬間、僕の魔力が一帯を覆う。

 

「なっ、なんて魔力」

「と、とても個人が内包できる魔力じゃないぞ!?」

「なにかのアーティファクトか!?」

 

うんうん。モブの声が、より良い演出を醸し出してくれる。

それでこそ、この技を披露する甲斐があるってもんだ。

 

「アム…………」

 

魔力が膨張し、濃密な魔力が辺り一帯を紫の光で照らす。

 

「リカバリーアトミック」

 

辺り一帯を覆っていた魔力が僕の剣に凝縮された。

それを化け物に向かって振るい、化け物は魔力の奔流に飲み込まれた。

 

---------------

 

それは人知を超えた力だった。

その日、アイリス・ミドガルを始めとした、一部の人間は人では決して到達し得ない極致を目にした。

魔力の奔流が収まると、そこには漆黒を纏う男と一糸纏わぬ姿で横たわる少女の姿があった。

男は少女の元に近付くと、そっと優しい動作で抱えた。

その手に握られていた剣は姿を消し、少女の身は黒い毛布の様な物に包まれていた。

男はアイリスを一瞥すると、興味を失ったかの様にアイリスに背を向けた。

 

「待て!その娘をどうする気だ!?」

「……我々で保護する。その後にどうするかは、この娘次第だ」

「……お前は、何者なんだ?」

「知りたくば、力を付けろ。貴様は弱い」

「ッ!」

 

その言葉にアイリスは悔しさに顔を歪め、奥歯を噛み締めた。

王国最強。その称号に胡坐を掻いていたつもりはない。その称号に相応しい力を身に着ける為の鍛錬を欠かしたつもりもなかった。

だが、今、正に最強の名に相応しいだけの力を見せつけられたアイリスは、己が井の中の蛙であった事を知った。

 

「今の貴様では、何も為せない。世界の闇と戦う事も、妹を救う事も、何も……」

 

頭では分かっている。己が未熟者である事は嫌と言う程思い知らされた。

けれど、感情が追い付かない。

気が付けば、アイリスは疾走していた。男の眼前に向けて剣を振るっていた。

人知を超えた力を持つ男と、王国最強と称される己の力。そこにどれだけの差があるのか、ただ図りたかったのだ。

 

「未熟ね」

 

だがそれは、男にではなく、突如現れた女の剣によって弾かれた。

男は無防備だった。まるでお前の剣など脅威にすらならないと、そう言わんばかりの態度だった。

 

「なっ!?」

 

今の一撃はアイリスが繰り出せる全力の一撃だった。

周りの被害なども全て考慮から外した、全力の一撃だった。

これを王国で受けられる人間など存在しない。

受けようとしたが最後、剣も鎧も関係なく一刀にて両断される。そんな一撃だった。

それを易々と弾く女。それは金髪長髪のエルフだった。

男に続く、己を上回る実力者の登場。

 

「アルファか」

「ええ、出過ぎた真似だったかしら?」

「……いや、手間が省けた」

 

無防備に会話を続ける男と女。

その様子にアイリスは苛立った。再び剣を振るおうと構える。

 

「止めておきなさい。死ぬわよ」

「ッ!?」

「アイリス様!」

 

気が付けば、アイリスは四方を謎の人影に囲まれていた。

それぞれが黒いローブに身を包み、漆黒の剣をアイリスの首元に突き付けていた。

少しでも動けば死ぬ。

アイリスの全身に冷や汗が流れた。

まるで断頭台に拘束された死刑囚の様だった。

 

「よせ、ただの戯れだ」

 

男の言葉に、謎の人影達は剣を下げ、数歩下がった。

 

「かはっ……」

 

解放されたアイリスはその場に膝を突き、首元を押さえた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

自分の首がまだ繫がっている事を確認して、肩で息をした。

 

「観客は、観客らしく舞台を眺めてなさい。あなたは舞台に立つ資格は無いわ」

 

アルファと呼ばれた女は、膝を突くアイリスを見下しながらそう言った。

 

「な、めるな……」

 

アイリスが剣を杖代わりに立ち上がろうとした頃には、アルファは姿を消していた。

男も、謎の人影も同様にだ。

 

『王都最南部の地下水路。そこに行け。お前の目的の人物はそこに居る』

 

何処からか響いた男の声が、アイリスの耳に届いた。

 

「あれく、しあ……」

 

そうだ。今は妹を、アレクシアを助けに行かなければ、アイリスはその意思で立ち上がり、男が示した場所へ駆けた。

 

---------------

 

アレクシアが出口に辿り着いたのは、空がうっすらと明るくなり始めた頃だった。

 

「アレクシア!」

 

自分の名を呼ぶ声の方に、アレクシアは振り向いた。

そこに居たのは、アレクシアの良く知る人物だった。

声を聞くのも、姿を見るのも、久し振りだが、間違える筈も無い。

 

「アイリス姉さま!」

 

自分が敬愛する姉アイリス・ミドガル。その人だった。

 

「アレクシア。良かった無事で」

 

アイリスはアレクシアの姿を確認すると、力一杯にアレクシアを抱きしめた。

もう二度と手放すかと、言わんばかりの力で抱きしめた。

アイリスの全身は汗で濡れていた。

 

「ご、ごめんなさい。冷たいでしょう」

 

慌てて、離れようとするアイリスの体をアレクシアは捕まえた。

 

「ううん。大丈夫。……もう少し、このままで」

「そ、そうね……」

「ありがとう。アイリス姉さま」

 

2人はそのまま、抱きしめ合った。

 

---------------

 

あれから数日後、僕はアレクシアに呼び出されて、学園の屋上に居た。

屋上には、僕達以外には誰も居ない。

誰も居ない屋上に2人っきり。そのシチュエーションは良いんだけど、なにぶん暑い。

時期としては初夏で、気温はそこまで高くないけど、日差しが暑い。

今は昼間で、影がないから避暑地も無い。

夜行性の僕に、この日差しと暑さは辛かった。

 

「色々と迷惑を掛けて悪かったわね」

 

アレクシアは申し訳なさそうな表情で謝罪した。

 

「気にしなくて良いよ。君も被害者なんだし」

 

僕は全く気にしてない様子を見せた。

まあ、実際、彼女は何も悪くないのだ。

アレクシアを責めるつもりはないし、そんな事よりも、早く話を終わらせて、こんな暑い場所とはおさらばしたかった。

 

「そうも行けないわ。貴方、危うく処刑される所だったんでしょ。騎士団にも5日も拘束されて拷問されたって話だし」

「それもこれも、ゼノン先生の仕業だったんでしょ?」

 

因みにゼノン先生の生首は現在、王都の中央広場に晒されている。

王女誘拐の主犯で、クーデターを企てたテロリストとして。

王都でアルファ達がディアボロス教団のアジトを襲撃した事件を、王国はクーデターを企てたテロリスト共を騎士団が一斉検挙した。そう報じていた。

まあ、王都のあちこちでテロが起きて、その原因は不明。目下調査中って公表するよりかは、マシだろうね。

王政とは言え、民衆の声ってのは無視できない。王国は今回の事件を隠蔽するつもりらしい。

別に、アルファ達が裏で手を回したって事はない、筈。……多分。

 

「私が貴方を恋人役に選ばなければ、こんな事にもならなかったでしょ?」

「まあ、そりゃそうだけど」

 

本気で申し訳なさそうな表情を浮かべるアレクシア。正直意外だった。

彼女は一度謝罪と言う筋を通せば、後は知らぬ存ぜぬで普段通りの態度を取ると思っていた。

 

「本当に気にしなくて良いよ。僕、最強だから」

 

某目隠し最強キャラの台詞をパクってみた。

 

「……そう、そうだったわね」

 

おや、ここは前回みたいに大した自信ね。って返されると思ってたのに。

 

「貴方、シャドウね」

「…………なんの事かな?」

「基本に忠実、地味だけど、どこか目を奪われる剣。貴方の剣はシャドウの剣に似ているわ」

 

アレクシアが僕の正体に気付くのは意外でも何でもない。寧ろ、僕がそうなる様に仕向けた。

色々な伏線を張って、僕の正体に気付いたアレクシアに大々的に正体を明かす計画も存在した。

正直、シチュエーション的には「そうだ、僕こそがシャドウ!陰に潜み、陰を狩る者!」って盛大に正体を明かしても良かったんだけど、些かタイミングが悪い。

場所は良いんだよ。場所は。

誰も居ない屋上に2人っきり、ネタバラシには最高のステージだ。

だけど、時間が悪い。

今は太陽がテカテカ光る真昼間。正体を明かすなら真っ暗闇の深夜。月明かりをバックにコートをハタハタさせながら正体を明かしたい。

 

「シャドウってのが誰だって話は一先ず置いておいて、全く同じ事が君の剣にも言えるよ」

 

僕は惚ける事にした。

ネタバラシはまたの機会だ。

 

「そう、惚けるのね」

 

アレクシアが僕に詰め寄る。僕は壁際まで後退する。

ダァァンっとアレクシアが壁に手を突く。

アレクシアの顔が近付く、あ、良い匂い。

ムラムラ、じゃなかった。ドキドキしちゃう。

 

「貴方の顔、傷一つ残っていないわね。騎士団に拷問されてそんなに日が経っていない筈なのだけど」

 

アレクシアが僕の手を取る。

やだ、積極的。

 

「指も綺麗ね。爪全部剥がれたって聞いたけど。生え揃うのに数ヶ月は掛かる筈よ」

「まあ、魔力で治癒すればこんな物でしょ。君にもこのくらいは出来るでしょ?」

「出来ないわ。これ程、高度な治癒はアイリス姉様や上澄みの魔剣士ぐらいの技量がないとできないわ」

 

そうなの?少し技量を見誤ったかな。

 

「君もこのぐらいできる様になるよ。なんなら教えようか?」

「…………それは後で教わるとして、これだけの技量があって、何故正体を、……いえ、これ以上の追求は無駄ね」

 

アレクシアは壁から手を離し、僕から距離を取る。

 

「私は元々、自分の剣が嫌いだったわ。凡人の剣と蔑まれ、どれだけ努力を積もうと決して天才には届かない非才の剣。けれど違った」

 

彼女は剣を抜き、その刀身を眺めた。

 

「高みを見たわ。決して届かない。そう思っていた天才の剣を凡人の剣が打ち破る高みを。

幼い頃、努力だけで行きつく剣の極致。それは才能の差を埋め、天才の剣とも互角以上に渡り合う。そんな剣を夢見ていた事を思い出したわ。

あの夢が空想上の剣でない事を知った。決して届かない高みではない事を知った。

だから、私は私の剣が好きになれた」

 

そう締め括り、アレクシアは剣を仕舞った。

 

「……貴方、前に私の剣が好きって言ってくれたでしょ?」

「言ったね」

「そう、相思相愛ね。私達」

「ん?そうなるね」

 

確かに、僕とアレクシアの剣は同じだ。

基本に忠実で地味な凡人の剣だ。

彼女が自分の剣を好きになったのなら、自ずと同じ剣を振るう僕の剣が好きだという話になる。

そんな考えをしていると、僕の視界はアレクシアに埋め尽くされた。

唇には柔らかい感触。

僕はアレクシアにキスをされていた。

 

「これからも宜しくね。シド」

 

照れ臭そうに、顔を赤らめたアレクシア。

彼女は場の雰囲気に耐えられなくなったのか、口元を押さえて早足で屋上を去った。

屋上に一人取り残された僕は、唇に残る余韻を感じながらそっと溜息を吐いた。

 

「……なんで、こうなった」




原作との相違点

1.王都動乱にシャドウ様介入
名も無き男の娘が救われる。

シド君「リカバリーアトミック?正直撃つ必要は無かったけど、撃った方がカッコいいじゃん」

アトミック撃たせたいけど、流石に王都に甚大な被害出すからな……。せや、リカバリーがあったやんけ!
って、経緯で撃たせました。

2.アレクシアとの交際継続!
シド君「……なんで、こうなった?」
アレクシア「逃さないわよ。シド」

謎の人影A「どう始末してやろうかしら」

本章に題名をつけるとしたら?今後の章管理の参考にさせて頂きます。※期限は11月29日まで

  • 王都動乱編
  • アレクシア編
  • プロローグ
  • 第1章
  • その他(多ければ活動報告で募集かけます)
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