ここだけシド君に人間性をブレンドした世界線   作:読者その1

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今回はほぼオリジナル回です。


第3話 茨の道

「痛たた…………」

 

翌日。アレクシアは腹部を押さえながら、目を覚ました。

昨日刺された傷がまだ痛むのだ。

 

「どうせなら、完全に治してくれれば良かったのに」

 

アレクシアは思わず悪態を吐いた。

そして直ぐに思い直した。

 

「いえ、命が助かっただけ、儲けものね」

 

致命傷だった傷が、痛いだけで済んでいるのだ。

この痛みも生きている証。そう思う事にした。

コンコンとノックが鳴る。

 

「アレクシア起きてる?」

 

扉越しに聞こえてきたのは、アイリスの声だった。

 

「はい、姉さま」

 

アレクシアが答えると、ガチャと音を立てアイリスが入って来た。

 

「どう、傷の痛みは?」

「ええ、かなり酷いですが、何とか」

「今日ぐらいは学校を休んでも良いのでは?」

「いいえ、それには及びません。実技の授業は見学をする事になるかと思いますが、座学ぐらいは平気です。寮に居てもやる事ないですし」

「そう、無理はしないでね」

「はい姉さま」

 

アイリスは昨日の件を知っている。

シャドウと別れた後、血塗れになっている姿をアイリスに発見され、それから何があったかをアレクシアは説明した。

 

「朝食の準備が出来ているわ。先にテーブルで待っているわ」

「ええ、着替えて直ぐに行きます」

 

それから暫くした後、アレクシアとアイリスは対面する形でテーブルに座り、用意していた朝食を口にしていた。

本来なら、ここにメイドや執事が待機しているのだが、今回は姉妹水入らずで話がしたいと説明し、別室に待機している。

今この場に居るのは2人だけだった。

 

「確認なのだけど、最近王都でシャドウガーデンと名乗り人斬りを行っているのは、シャドウガーデンではなく、それを騙る何者と言う事で合っているかしら?」

 

勿論、姉妹水入らずで話したいと言う事に間違いはない。

ただそれは、世間話ではなく、王国の今後にも関わる重要な話だった。

 

「ええ、シャドウはそう言っていました」

 

シャドウ。その人物の名にアイリスは複雑な感情を抱く。

彼は最愛の妹を2度も助けてくれた恩人だ。

けれど、先の王都動乱事件の首謀者である可能性もある危険人物でもあった。

 

「シャドウガーデンとは、シャドウが治める組織、或いは場所という事で良いのかしら?」

「口ぶりからして恐らくは、シャドウはシャドウガーデンの名を騙る者達に激怒していましたから、余程大切な何かなのだとは思います」

 

アレクシアの脳裏に激怒するシャドウの姿が鮮明に思いだせる。

脳裏に焼き付いて、消える事のない恐怖だ。

もし、あの怒りの感情が自分に向けられたら、そう思うとゾッとする。

 

「姉さま。決してシャドウとは敵対してはなりません」

 

故に願う。最愛の姉がシャドウと敵対しない事を。

 

「それはシャドウ次第です。彼とシャドウガーデンが王国に牙を向かないのであれば敵対する事はないでしょう」

「…………敵対する場合は?」

「決まっています。戦うまでです」

 

アイリスは断言した。

 

「私達が戦争を望まなかろうと、敵が攻めてくるのであれば迎え撃ちます。ここは私達の国なのですから。当然の事です」

 

相手が強いから戦わない。そんな馬鹿げた話はない。

それでは王国は強者の言いなりとなり、奴隷となる。

それで犠牲になるのは戦う力のない市民や女子供達だ。

 

「…………そうですね」

 

アレクシアはそれ以上の事は言わなかったし、言えなかった。

彼女としても、王国をディストピアにしたいとは考えていない。

ならばせめて、シャドウが王国と敵対しない事を願った。

 

「…………所で、例の彼とはどうなのかしら?」

「彼?シドの事ですか?」

「そうよ。ゼノンとの婚約が嫌で付き合い始めた偽の恋人なんでしょ?ゼノンは死んだのだし、そろそろ別れても良いのだとは思うのだけど…………」

「…………いや、まあ、ゼノン以外にも鬱陶しい婚約者候補(やから)は多いですから、その、暫くはこのままで良いかと」

 

顔を赤らめ、髪の毛を弄るアレクシア。

 

「アレクシア。貴方、まさか……、シドという少年に弱みを握られているのではないですよね!?」

「……はい?」

 

アイリスの思わぬ言葉に、素っ頓狂な声を上げるアレクシア。

 

「やはり、あの噂は本当でしたのね!」

「噂?」

「ええ、彼の学友。ヒョロとジャガと言う少年が言っていました。曰く、シドという少年はアレクシアの弱みを握っていると」

「えぇ……」

「アレクシア。もし弱みを握られているのであれば、私に言いなさい。私が力になります」

「私、別に弱みなんて握られてないですよ?」

 

寧ろ、握っているのはアレクシアの方である。

シドは金に弱い。大抵の事は金貨を投げれば従順な犬となる。

 

「本当ですか?」

「ええ、本当です」

「…………一先ず、貴方を信じましょう」

 

半信半疑の様な表情を浮かべるアイリス。何故こうも疑うのかと疑問に思うアレクシア。

 

「取り敢えず、姉さまが心配する様な事はないので、安心してください」

 

アレクシアはそう言い残すと、自室へと戻った。

 

 

--------------------

 

 

その日、学園にはある噂が流れていた。

曰く、アレクシア王女とシド・カゲノーが夜の王都に繰り出した。

曰く、2人は既に大人の階段を登り、親密な関係にある。

曰く、アレクシア王女のお腹にはシド・カゲノーとの赤ちゃんがいる。

 

どれも信憑性が無く、根拠の無い噂でしかなかった。

然し、貴族社会では噂とは紙にインクが浸透するかの如くのスピードで広まる。

そして噂好きな貴族子女は、必ずと言っていい程、噂に尾ひれを付けて誇張したがる。

結果、噂は真実と誇張が重なり合って広まった。

 

「今日は一段と注目されているわね」

 

その日、アレクシアは同じ制服に身を包んだ少年少女からの視線を集めていた。

これ自体は別におかしな事ではない。

王位継承権は無いに等しいアレクシアだが、それでもこの国の第二王女だ。

王女というのは、それだけで注目を集める。

 

「ごきげんよう。アレクシア王女」

「ごきげんよう。ローズ先輩」

 

けれど今日は妙だった。

何時もより注目される視線が多く、教室には普段会う事のないオリアナ王国の王女ローズ・オリアナが現れた。

ローズ・オリアナはこの学園の生徒会長であり、先輩だ。

学年が違う為、アレクシアの在籍する1年の教室に現れる事など皆無だ。

 

「ここは1年の教室ですよ」

「ええ、貴方に聞きたい事があって参りました。少しお時間を頂いても宜しいでしょうか?」

「……?ええ、良いですよ」

 

ありがとうございます。と、ローズは一礼をした。

オリアナ王国が芸術の国と言われるだけあって、その動作は美しく洗礼された物だった。

それからアレクシアはローズに連れられて、生徒会室に訪れた。

既に人払いが済んでいるのか、或いは元々この時間は人が居ないのか、生徒会室にはアレクシアとローズ以外誰も居なかった。

 

「どうぞ。オリアナ王国産の紅茶です。私のお気に入りです」

「頂きます」

 

アレクシアはソファーに腰かけ、ローズから出された紅茶を口にする。

 

「美味しいですね。これ」

「お口にあった様で何よりです」

 

ローズは満足そうな笑みを浮かべ、アレクシアの対面に座る。

自身も紅茶を一口含むと、ティーカップをソーサーに置いた。

 

「アレクシア王女。昨晩は何処に?」

「……用事があって、王都に」

「……王都」

「ええ、何か問題でも?」

 

アレクシアは王族という事もあり、急用で出掛ける事もある。

その為、門限を過ぎても罰則は無い。

故にアレクシアは昨晩王都に出掛けていた事を、堂々と明かした。

 

「いえ、ただ、最近は何かと物騒ですし、あまり褒められた事ではないかと」

「そうですね。極力門限は守る事にします」

 

そう言われると、これ以上言える事はない。

ローズは話題を変える事にした。

 

「そう言えば今日は歩き方がぎこちないですが、体の様子が優れないのですか?」

「ああ、……そうですね。昨日ちょっと初めての体験をしまして」

「初めての体験!?」

 

ローズの目が見開かれた。

思わぬ声に、アレクシアもビクッと肩を震わせた。

 

「ごほん!」

 

ローズが咳払いをすると、紅茶で喉を潤した。

 

「一体、ナニを体験したのかお伺いしても?」

「…………」

 

アレクシアは思考する。

素直に話すべきか、否かを。

誰も居ない生徒会室に呼び出したと言う事は、ローズも昨晩の事は知っているのではと考えた。

不思議な事ではない。魔剣士学園の生徒会長でオリアナ王国の王女。独自の情報網から昨日王都で刺された事を知られていてもおかしくはない。

少し考えて、アレクシアは素直に話す事にした。

 

「ええと、刺されました」

「挿された!?」

「ええ、王都の路地裏でブスリと」

「路地裏で!?それは余りにも乱れてます」

「ええ、今、王都の治安は乱れてます。何とかしなければなりません」

「貴方がそれを言いますか!?」

 

赤面して叫ぶローズに、アレクシアは首を傾げた。

 

「どうしましたローズ先輩?」

「どうしたもこうしたも……。いえ、国が違えば価値観も変わりますよね。申し訳ありません。少し取り乱しました」

 

ミドガル王国が、ここまで情熱的な国だったとは。ローズは小さく呟いた。

一息吐くため、紅茶を口にする。

心なしか、カップを持つ手が小刻みに震えている。

 

「一つ聞いても良いですか?」

「ええ、良いですよ」

「その、…………い、痛かったですか?」

「そりゃそうですよ。血が滅茶苦茶出て痛かったです。死ぬかと思いました」

「そ、そんなに痛かったのですね……。一体、どれだけ大きかったのですか?」

「大きさ?……暗闇ではっきりとは見えませんでしたけど、これくらいですかね?」

 

アレクシアは腹部を刺した短剣の大きさを表した。

全長30センチぐらいの大きさだ。

 

「そ、そんなに大きいのですか!?」

 

ガタッと立ち上がるローズ。

 

「そ、そんなに驚きますか?」

「あ、アレクシアさんは驚かなかったのですか?」

「え、まあ、こんな物かなと…………」

 

ローズは眩暈を覚えた。

性知識については淑女の、王女としての役目を果たす知識の一環として、知っていた。

だが、実物を見た事はない。

男性のアレとは、自分が思った物よりも遥かに大きな物なのですねと、ローズはカルチャーショックを受けた。

 

「うっ、思い出したら痛みが……」

 

一方のアレクシアは、昨日の今日で刺された時の出来事を思いだし、腹部を押さえた。

その様子にローズは目を見開く。

 

「まさか、噂は本当だったのですか!?」

 

下腹部を押さえるアレクシア。

その姿がまるで、そこに新たな命が宿っているのではないかと、ローズは錯覚した。

実際には痛みで抑えているだけなのだが…………。

 

「アレクシアさん。本気ですか?」

「何がです?」

「その道は茨の道ですよ」

 

茨の道?

まさか、ローズ先輩もシャドウガーデンの存在を知っている?

不思議な事ではない。王位継承権が皆無な自分とは違い。

ローズ先輩は次期国王候補に名が挙がる程度には、地位がある。

シャドウガーデンとそれと敵対する組織の事を知っていてもおかしくはない。

知っているからこそ、その事を、世界の裏に潜む闇を探る事は茨の道だと、そう言っているのか。

アレクシアはそう考えた。勘違いである。

 

「承知の上です。それが茨の道であろうと、私は進む事を決意しました」

 

アレクシアは決意に満ちた表情で答えた。

その眼差しに、ローズは慄いた。

 

「そ、それ程までの覚悟を、持っているのですね」

 

王族と下級貴族。

例え王位継承権が無いに等しいアレクシアだとしても、王族の血はそれだけで価値がある。

卒業後はアレクシアには政略結婚が待ち受けている。

2人の恋は決して叶う事のない物だ。

それを分かった上で、茨の道を進む決意をしたのだ。

ならば、私は2人を応援しよう。

ローズはそう考えた。勘違いである。

 

「ならば私はこれ以上言う事はありません。表立って手伝える事はありませんが。私は貴方を応援します」

「ええ、承知の上です」

 

恐らくは、限られた者しか知らないであろう世界の闇。それを立場の無い今の自分に語る事は出来ないし、手伝う事も出来ない。

当然の事だろうと、アレクシアは頷いた。

 

「貴方の進む道の先が、光り輝く未来である事を願います」

「ありがとうございます」

 

2人は固い握手を交わした。

互いの誤解が解ける事はなかった。

 

--------------------

 

その日の晩。

アレクシアが最近お気に入りのミツゴシ印のコーヒーを楽しんでいた所に、血相を変えたアイリスが現れて爆弾発言をした。

 

「アレクシア!妊娠したって本当!?」

「ぶー!?」

 

口にしていたコーヒーが宙を舞い。部屋を黒く汚した。

掃除が大変だった。




今までは原作の流れに沿っていただけに、ほぼオリジナル回の今回は初投稿時よりも緊張してます。
面白いと思われたのであれば、高評価や感想を頂ければ励みになります。

現在学園編は骨組みと言える部分の執筆が完了しました。
学園編は王都動乱編の倍近い話数になりました。
後は全体を通して違和感がないか、要所要所のチェックを行い、必要に応じて編集や加筆を行って、投稿します。

次回は20日の同じ時間に投稿予定です。

当初は週1投稿を維持しようと思ってましたが、学園編が思ったよりも速く書き終わったので、多くの人に見られる年末年始に全話投稿してしまおうと考えてます。

その後は次章の執筆の為、暫く期間が空きます。
次章は完成してから投稿を再開しようと思っているのですが、その投稿頻度について、参考までにアンケートを取ります。
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