トリニティの郵便屋さん   作:腐った肉塊

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2話目なので初投稿です。

先生視点の一人称にすると、いつも時たま変態になるメモロビ時空の先生の思考を地の文に導入しなければならないことに気づき、どうしようか悩み始めました。

話を無駄に長くしてしまうのは悪癖です。それでもいいという方のみお付き合い下さい。

今回からルビと特殊タグなるものを使ってみてます。間違いがあればそのうち修正します。


2

「これで、締め切りが明日までのものは終わり、ですね。後は一週間以内のものと、処理に時間がかかりそうなものを分けておきました」

 

 コトミは掛け値なしに優秀だった。積まれていた書類をパラパラと一度めくっただけで、それらの全てを整理してしまった。こうして分けられたものをめくってみても、確かに彼女の言う通り、期日が迫っているものから順にきちんと整理されている。『時間がかかりそうなもの』の山は、見ているだけで頭が痛くなりそうな案件だらけ。週休三日、ああ、その権利は私も欲しい。でも、プリンは週に1個で十分だ。

 本当に、彼女には頭が上がらない。手紙の整理で慣れていると言うけれど、ここまでの生徒は珍しい。冷酷と噂さるミレニアムの算術使いさんとは別の方面に頼もしいものだ。コトミは計算が苦手なようで、それ以外の書類を処理してくれた。電卓を使ってもいいよと言ってはみたが、なぜか苦笑いされるばかり。まあ、それ以外の部分があまりに頼もしすぎたので問題ない。本人にそう言えば、トリニティの図書委員は皆この程度造作もないとのこと。今度シャーレの当番になってくれないだろうか。

 そして、最後の書類に判を押す。スキャナにかけて電子化し、少し震える手で連邦生徒会へと送付した。また突き返されたりは……するだろうな、と、げんなりしながらも、コトミの方へ向いて頭を下げる。

 

"ありがとう……"

 

「いえいえ。お手紙の整理は慣れていますから」

 

 ほう、と、ひとつ息を吐く。疲れが息とともに少しだけ抜けて、だけれども、その一瞬で目の奥からじんわりと痛みが湧き上がる。もうしばらくは書類の活字を見たくない。リンちゃんに頼めば、一日ほど締め切りが伸びないだろうか。頭の中で彼女に頭を下げたが、すぐさま隣の財務室長に釘を刺されてしまった。

 手をぐるりと回し、座ったまま背伸びする。ぐぅと、体からおかしな音が鳴り、続いてぱきぽきと関節から音が鳴る。砂漠ではもう動けないと思っていたのに、今ではすっかり体を動かしたい欲求で満ちている。

 伸ばした手を机の上に戻すと、書類とは違う質感の紙が手に触れた。そちらに目を向けてみれば、普通な生徒が描いたペロロ様のイラストが目に留まった。そう言えば、コトミはシャーレの当番に来たわけではないのだったと、もう二時間以上も経って思い出した。

 かわいい……かは人を選ぶ便箋を手に取って、作業用に机に出していたペーパーナイフを取り寄せる。こちらもひと山できるほど積もった書類だが、嫌な気持ちはまったくしない。

 コトミも背筋を伸ばして小さく声を上げている。その声につられてみれば、彼女にも真っ白な羽が生えている。その付け根は一体どうなっているのだろう。私の視線に気づいた彼女は頬を染め、手元に手紙があることに気づくと、心配そうに声をかけてくれた。

 

「あの、先生。そろそろお休みになった方がよろしいのでは?」

 

"事務書類じゃない活字を見たいんだ。それに、折角届けてくれたものだから"

 

「はぁ。なるほど。羽川先輩が心配するわけです。――でしたら、先生。ええと……今先生の手元にあります阿慈谷さんの手紙と……横から失礼しますね。こちらの羽川先輩の手紙。これら二通を先に読まれてください。おそらくはアビドスの件に絡んだお手紙です」

 

 そう言って、コトミは手紙の束からひとつ、迷わず手に取って渡してくれた。手渡してくれた便箋に似たものもあるが、全て覚えているのだろうか。送り主には申し訳ないけれど、私には見分けがつかなかった。

 ハスミからの便箋は飾り気のないものだった。差出人には彼女の名前のみ。いくら手紙と言えどシャーレに送るもの。対外的にはあくまで個人の手紙ということにして、という意図かもしれない。モモトークで教えてくれた限りだと、彼女もあの事件の後処理に追われていた。

 

"アビドスの……。コトミは知ってたんだね"

 

「一部は阿慈谷さんや、他の生徒の噂で耳にしておりました。先ほどの書類で、おおよそ何が起きたかは察しました。先生、私が見が見てはいけない書類も混ざっていましたよ?見なかったことにはしますので、気を付けてくださいね?」

 

"えっと、気を付けます……"

 

「それで、阿慈谷さんのお手紙は感謝状とのことです。羽川先輩のお手紙も個人的な感謝状のようですが、少々お願いもある、と」

 

"ハスミが?"

 

 

 二人の手紙は、それぞれに彼女らの色が見えた。ヒフミの手紙は便箋と同じように、たくさんのフレンズたちが迎えてくれた。私が知っているのはペロロ様くらいなものだけど。オフィスに最近置かれた不思議な猫も描かれている。ウェーブキャットさんというらしい。他にもたくさんのキャラクターが描かれているが、彼らもオフィスにいつか現れるのだろうか。

 ハスミの手紙は便箋と同じように装飾の少ないものだった。ただ、彼女らしいというか何というか。手紙の隅の方に小さく、パフェが描かれていた。描かれた大きさこそ小さいが、幾つも果物が乗っている。そして何より、開けた時にほのかに甘い匂いが香った。書いている横にでもあったのだろうか。

 手紙の内容は二人とも似たようなものだった。アビドス高等学校での一件。砂漠を、カイザーの拠点を舞台にした大立ち回り。対策委員会との繋がりのあるヒフミは、最後まで彼女たちに手を貸せなかったことへの謝罪と、私への感謝のことば。ハスミの方は、トリニティの学生であるヒフミを助けたことへの感謝のことば。綴られた言葉こそ違えど、私に向けてくれる感謝の気持ちは同じもの。それを読んで、少し恥ずかしいような、誇らしいような。

 ただ、ハスミの方には気になることが綴られていた。失踪した連邦生徒会長が立案した条約、それに絡んだ不穏な動き。まだ決定的なことこそ起きてはいないが、私にも共有したい、と。それで……

 

"トリニティに……かぁ"

 

「あら、先生。トリニティがどうされました?」

 

 口に出ていたらしい。鞄から出した湯呑に口をつけて、緑茶の香りを楽しんでいたコトミがこちらに顔を向けた。トリニティと言えば紅茶かと思っていたのだが、彼女はそうでもないらしい。聞いてみれば、むしろあの香りが苦手なのだと教えてくれた。

 苦味の効いた緑茶の香りが私の方まで届いている。私にも淹れてくれた。意外とキヴォトスでは嗅ぐ機会が少ない気がする緑茶。手紙の雰囲気を崩さないためにか、優しく、強すぎない、いい香りだった。普段はコーヒーの香りがする私のカップから、お茶の香りがするのは少し特別な気分になる。先日公園で会った百鬼夜行のほわほわした彼女の部室では、また違った緑茶が飲まれているのだろうか。

 お願いの内容は、是非トリニティに一度足を運んでほしいというもの。情報の共有であればシャーレでもできるのだけれど、今後に備えて正義実現委員会のメンバーを紹介したいらしい。私としては、願ってもいないお願いだった。

 

「ええと……成程。そういうことでしたか」

 

 シャーレに常備しはじめたお茶菓子を二人でつまみ、ハスミの『お願い』について話し合う。届けてくれたとは言え、手紙の内容を他の生徒に話すことは気が引けたが、残念ながら私はトリニティの一部の生徒のことしか知らない。普段の生活や、他の生徒に関係して、噂について何か知らないか、トリニティ生であるコトミに折角なので聞いてみることにした。

 

「私自身も、トリニティのカフェ街で噂好きのご婦人に教えて頂いたことがあります。他は……」

 

 活動の関係で、コトミはハスミだけでなく、かなりの生徒と知り合いらしい。正義実現委員会をはじめとした、トリニティの著名な部活、それだけに留まらず、果ては不良生徒とも関わりがあるそうな。そんな彼女の情報網によれば、ハスミが手紙で伝えてくれた噂は、確かに一部の市民、特にトリニティ中心部で囁かれていると教えてくれた。

 

"そうなんだ。教えてくれてありがとう。コトミは色々な人と仲が良いんだね"

 

「いえ、守月さんをはじめとした自警団の方々には劣ります。確かに私は広く付き合いのある方だと思いますが、一般市民や生徒の皆様の意見は、彼女らの方が精通しているかと」

 

  知り合いの生徒の名前が出るとは思わず、少し驚いてしまう。赴任初日、まだ記憶に新しいシャーレの奪還作戦。あのとき知り合ってから、彼女とは何度か会う機会があった。トリニティの治安を守る彼女、そして彼女たちが所属する自警団であれば、確かに市民との関わりは多いだろう。

 彼女は他にも、心当たりのある生徒を数人紹介してくれた。どの生徒も知らない名前ばかりで、先生を名乗る以上は少し恥ずかしい。でも、そんな生徒たちを紹介してくれる彼女自身もとても楽しそうで、ほっこりとしてしまった。

 そうして話は生徒のものへと移り、話題が回って噂の話に戻ろうかという頃。手持ちのお茶が切れてしまい、新しく淹れようとした彼女は壁を見てはっとしたような表情を浮かべた。つられてそちらを見てみれば、時計の針が両手を肩より上にあげ、そろそろ深夜に近づいてしまっていた。

 

「あら、もうこんな時間でした。そろそろ、私はお暇させて頂きますね」

 

"ごめんね、遅くまで手伝ってもらって。もう遅いけれど、大丈夫?シャーレの居住区には……"

 

「いえ、大丈夫です。これ以上遅れては難しいですが、トリニティ行きの路線がまだ数本残っています」

 

"ええと、交通機関っていう意味じゃないのだけれど……"

 

「ふふっ。大丈夫です、先生」

 

 オフィスに設置されているキッチンで湯呑を軽く洗い、さっと拭いて、彼女は湯呑を密閉袋へと押し込んだ。鞄から別のポーチを取り出し、そちらに湯呑を入れ、肩に掛ける。

 気づけば、彼女の荷物は全て回収され、彼女は椅子に置いていた帽子を深く被る。そうして、手紙が詰まっている鞄を軽く撫で、彼女は私の方へと向き直った。

 

「私は郵便部。手紙に傷は付けません。硝煙の香りがついてしまっては、想いが台無しになってしまいますから」

 

「それでは、先生。失礼します。トリニティにいらした際には、そして、手紙の配達はお任せください」

 

 

 そうして、彼女はシャーレを去っていった。ここ数日で慣れたと思ったひとりきりのオフィスだが、やはり、少し寂しさを感じさせた。

 

"あ、モモトーク、忘れてた"

 

 キヴォトスの生徒と知り合うと必ず交換していたそれを忘れていた。そう気づいたのは彼女が帰ってから十分ほど経った頃。書類の不備をひとつずつ、徹底的に指摘するメールが届き、彼女と食べていた茶菓子の残りを現実逃避に摘んでいた時だった。

 

 

 翌日、私はトリニティ自治区に足を運んでいた。都合よく(?)、今日までシャーレの当番の生徒はお休み。書類は今日締め切りの分まで偶然たまたま全て終わっている。書類の訂正も、朝方までかかったがなんとか済ませることができた。

 つまり、今日はフリーということではなかろうか。誰かが元気に肯定してくれた気がする。コトミが整理してくれた、『面倒な案件』が一切片付いていないが、まあ、うん。私は頑張った。少しくらい、大丈夫だろう。

 そう自分に言い聞かせ、――生徒にこうなってほしくはないなぁと思いながら――ハスミのモモトークを開いた。今日の都合がつくことを確認し、早速訪れたトリニティ自治区。鉄道一本でトリニティの中心部まで来れるとは、アビドスの時と違って乗り換えの面倒が無くて良いなぁと思っていたところ。私は肌身離さず持ち歩いているタブレットPCの画面を見て、渋い顔をしていた。

 

「……先生?」

 

 シッテムの箱から、頼れるメインOS(相棒)の咎めるような声がする。いや、まあ、確かに。先日酷い目にあったばかりだと言うのに、また同じ轍を踏むことになるとは。私だって迷いたくは無かった。

 アロナがいつも通り居眠りしていた間に私がたどり着いてしまったのは、多分トリニティ自治区の路地裏だった。おかしい。昨日アロナには地図をダウンロードして貰っていたというのに。地図をしっかり見ながら歩いていたというのに。

 

「先生、今度から出かけるときは、私か、生徒さんに案内してもらってくださいね……」

 

"ごめんなさい……"

 

 ちなみにアロナ曰く、思い出した(記録されていた)GPSの挙動はどう見ても不審者だったらしい。正直なところ、久しぶりの外出でお高めなおやつを食べて、満足感から居眠りしていたアロナにそこまで言われたくは無かった。

 アロナの声にそって路地裏を進む。早めに大通りに出た方が良いのではないかとも思ったが、このあたりの道は袋小路になってしまっているらしく。これでも最短ルートで大通りに向かっていると言われた時には驚いた。どうしてこんなところまで入って来ちゃったのかと咎められた。

 そんな折、通りの向こう側、曲がり角の先から銃声が鳴り響く。爆発音はしていないが、私にとってはひとつひとつが十分に致命傷になり得る音。自然と体がこわばり、シッテムの箱を握る手に力が入る。

 銃声はだんだんとこちらに近づいて来る。まだキヴォトスに来て日は浅いというのに、銃声からしてSMGの系列だと分かってしまう自分に悲しくなりながら、アロナに頼んで自警団の皆や正義実現委員会に連絡を取ってもらう。これで、最悪の事態は免れるだろうと、目線を曲がり角へと戻した。

 

「あら、先生?昨日ぶりですね!」

 

 路地から顔を覗かせたのは真っ白な服に身を包んだ、昨日ぶりのコトミだった。




ブルアカ二次をもっと読みたい。

今更ながらここまでで1話にした方が区切りが良いですね。
そろそろ他の子出さなきゃ……

続かない。
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