主人公がちゃんと戦闘に絡まない場面は、皆さんの方が脳内解像度が高いはず
いつか主人公ちゃんが戦う時に描写します
「戦闘終了。これで、この区域は安全ですね」
指揮を始めて二分と少し。不良生徒は二十人以上は居たけれど、オートマタに彼女らの注意が逸れたおかげで何とか事態を収めることができた。スズミの閃光弾で大部分を無力化できたことが大きい。流石にオートマタには通りが悪かったものの――
「お疲れさまでした、先生。後は我々にお任せください」
暗色の羽を翻し、硝煙が残るライフルを下した彼女が、遮蔽に隠れていた私に声をかける。その後ろからは、彼女のように黒い制服を着た生徒たちが駆けてゆく。はじめの物陰から移動するために、未だにお姫様のように私を抱えるコトミに言って下してもらい、私も右手を軽く挙げ、彼女へと挨拶した。
"コトミ、ありがとう。ハスミも、来てくれて助かったよ"
「羽川先輩、お疲れ様です。ありがとうございます」
「いえ、むしろ遅れてしまい申し訳ありません。コトミさん、そしてスズミさん。先生を守っていただき、ありがとうございます」
戦闘が始まって数分程度、不良生徒の大半を片づけて、オートマタが残りの大部分を占め始めたころ、彼女たち正義実現委員会が到着した。元から状況を伝えていたため、専用の弾薬を装備した彼女たちの到着は、戦況を一気に動かし、そのまま一分と経たずに付近の制圧を完了してしまった。
そんな正義実現委員会の生徒たちと、おそらくは現場の引継ぎに関して話していたスズミがこちらへと歩いてくる。
「後はよろしくお願いします。……ところで、先生はどうしてトリニティに来られたのですか?たまたまパトロール中だったので間に合いましたが、危ないところでしたよ」
「あ、それは私も気になります。仮に昨日の手紙の件だとして、ここは正実の本部からは反対のような位置にありますが……」
制圧ー!と、元気な掛け声で走っていく正義実現委員会の生徒を背にし、スズミとコトミは不思議な表情を浮かべていた。コトミの方は、昨日の今日だったためか、用事が何か検討がついていたらしい。
"今日は正義実現委員会との交流に来たんだ"
「コトミさんの言う通り、どうしてこのような場所に来てしまったのですか。今朝連絡して頂いた場所の方に警備を集中していたので、こちらは手薄だったんですよ」
"迷ってしまって……"
「迷ってたどり着く場所では無いかと思いますが……」
呆れた声でハスミが小言をつぶやく。タブレットの中からも、本当ですよ、先生!と、ぷんすかと怒る相棒の声が聞こえてくる。まあ、確かに。相棒が表示してくれている地図を改めて見てみれば、目的地の正義実現委員会本部は駅とちょうど反対方向にあった。今更ながら、どうしてこんなところに来ることができたのか、私自身も不思議に思う。
タブレットから顔を上げてみれば、ハスミを含め皆が苦笑を浮かべていた。
「はぁ。……このような場で申し訳ありませんが、改めまして、先生。トリニティ自治区へようこそ。このまま、正義実現委員会の本部までお送りします」
"ありがとう。ハスミが送ってくれるなら安心だね"
「スズミさんとコトミさんは、この後どうされますか?良ければ、先生の案内を手伝っては頂けないでしょうか」
「ご一緒したいところですが、私はまだパトロールを続けます。この騒ぎにあてられていないか、念のため見回っておこうかと」
スズミはそう言って、早速次のパトロールに向かうそうだ。数人とモモトークを交換している。何かあったときは、それで連絡を取るつもりのようだ。見ている限りだと、背の低い生徒と主にモモトークを交換しているみたいだった。小隊のリーダー格らしい生徒と話している様子もあるところから、まだ交換していない生徒が居たのだろう。
「そうですか……。コトミさんは?」
「ええと、私は……。次の配達は確かに中心街の方ではありますが……」
コトミの方はといえば、悩んでいるようだった。迷惑をかけないか、という悩みとは少し違うように見えるが、彼女の中で何かが邪魔をしているのかもしれない。
だったら、理由を私が作ってしまえばいい。確か鞄の中に入れた筈だと、ごそごそとあさってみれば、手紙の束が手に当たった。
"昨日の手紙、返事を書いてきたから、一緒に届けてくれる?"
さっき見た地図を思い浮かべ、ざっと十に満たないくらいの手紙を選んでコトミに差し出す。
「……受領します。先生、わざとですよね?本部までのルートを辿るように選びました?他の手紙もあったのに」
"残りは、後でお願いするね"
「……それより、先生。地図は読めたんですね?」
"地図上だと分かるんだけどね……"
コトミを含め、ここに居る皆の口からため息が漏れた音がした。そこまで言わないでもいいのに、と、思わなくもない。ただ、まあ。私のせいで被害も大きくなっているのだから、非難はしっかり受け取っておく。
「はぁ。羽川先輩。私もご一緒させて下さい」
「感謝します」
正義実現委員会の生徒たちも作業がだいたい片付いたらしく、ハスミのところに数人戻ってきていた。スズミが簡単に挨拶をしてパトロールへと向かっていく。代わりやってきた生徒たちから報告を受けつつ、ハスミはコトミへ礼をして、懐から端末を取り出す。服も、羽も黒い彼女は、スマートフォンもまた黒いものを使っていた。
「これから、先生と一緒にそちらへ戻ります。ツルギに伝えておいて下さい。あとは……」
多分、本部への連絡だろう。ツルギというのは確か委員長の名前だったはず。トリニティの知り合いからは結構な言われようだったけれど、大丈夫かな?
と、そんなことを頭によぎり、少し頭を横に振る。目の前に居る生徒をありのまま受け止めるのが、私の思う先生だった。風評を軸に判断しては、何よりこれから会う生徒たちに失礼だろう。気持ちをひとつ入れ替えてみれば、ハスミとコトミが私の方を見ていた。
「それでは、先生。行きましょう」
"うん。よろしくね"
◆
"濃い一日だったね……"
「そうですね……。結局最後までついていってしまいました……」
がたんごとんと揺れる列車に、横並びで座る私とコトミ。窓から差し込む光は真っ赤に染まり、今日もまた美しい夕焼けが広がっている。反対に私たちはげっそりと力を抜いて、横並びに座り、各々壁へと体重を預けていた。
D.U.シラトリ区へ向かう列車の車内に私たちは居た。トリニティからの帰り道、およそ二時間に満たない移動時間は、かわいい道連れのおかげで寂しくなくて、けれども疲れはどうしようもなかった。
"コトミは、こっちに乗ってよかったの?"
「心配ということもありますが、私もこちらに用事がありますので。途中で乗り継ぎになってしまいますが」
"そうだったんだ。心配してくれて、ありがとう"
あの後、正義実現委員会の生徒たちと合流し、お互いに自己紹介した。したのは良かったのだが、濃かった。良くも悪くも前評判通り、悪い子では無いのだろうけれど、流石に初対面での印象は強かった。なんとなく、ツルギはそれを諦めているような雰囲気もあって、少し強引にモモトークを交換した。正義実現委員会の子たちは、今日でかなり知り合いが増えた。とはいえ、私が到着した際の騒ぎもあって、そのうち半分くらいの生徒としかまともに喋ることはできなかったけれど。
残念だったのは、正義実現委員会以外の子とはあまり知り合えなかったことだろうか。昨日、コトミが教えてくれた子の半分も知り合えていない。
「他の方、ですか?ええと、たとえば自警団には――」
昨日も聞いた図書委員。はじめて聞いたシスターの子たち。私も知っている救護団の生徒たち。はたまた、スイーツが好きな子たちの部活動。ひとりで過ごすには長い列車の旅も、気づけばどんどんと時間が過ぎる。
駅をいくつか通り過ぎ、乗る直前に買った飲み物もかなり減らして喋りこんでしまった。そんな時間も残り僅か。コトミはそろそろ目的の駅が近くなって来たのか、鞄を膝の上に動かした。
"昨日はもう少し郵便が少なかったと思うけれど、その鞄って何通くらい入っているの?"
「ええと……数えたことは無かったのですね……」
唐突な私の質問に、彼女は左の人差し指を唇に当てて思案にふける。右の指はぐーとぱーを行ったり来たり、多分数えているのだろう。少し乾燥した手には、よく見れば幾つかの傷がついていた。
「そうですね、大体五千には届かないくらいかなぁ、と。四桁は軽く超えているはずです」
"そんなに入ってるの!?"
「トリニティ全体のものとなれば、このくらいは。これでも少ない方ですし、郵便部が過去一番忙しかったころの一割にも遠く及ばないらしい……ですよ?」
にへへと音が鳴るような、やわらかな笑顔を向けてくれる。大きな鞄だとは思っていたけれど、そこまでの数が入っていたとは思わなかった。コトミに運ばれた際に一旦持ったとき、それほどの重さは感じなかったのは何故だろうか。そもそも彼女の細腕で鞄を軽々と持ち上げるのだから、そういう事もあるのかと自分を一旦納得させた。
"他の子も、同じくらい配達しているの?"
「他の子……。郵便部の子ですか?いえ、今は……」
"昨日、言ってたっけ。真面目に活動しているのは……"
「……はい」
一転、コトミは寂しそうな表情を浮かべた。郵便部に何が起きているのか、ただ真面目な生徒が少ないだけだったら、良くは無いけれど仕方がない。"何か"が起きているのなら、私も力になりたい。でも、それ以上に、彼女がしてほしいことが知りたかった。
"コトミは、大変じゃない?"
「大変かと言われれば、そうかもしれません。でも……」
膝に乗せた鞄に手をおいて、数秒。目を閉じ、開き、私を見て、そのころには既に先ほどの寂しい顔はいなくなっていた。
「でも、私は、郵便部の活動が好きなんです。電子機器の発達でお仕事が少なくなろうとも、手紙の良さは変わりません。便箋を選び、手紙へ、一文字ずつ書き起こす。そうして出来上がった手紙を送り、返事を待つ。そのやり取りを、手助けできれば……。あ、別にモモトークを悪く言ってるわけではありませんよ!?モモトークにはモモトークの良さがありますから。ちょっとは手紙を使う人が増えればいいなぁと、思うことは、あります、けど……」
"コトミは、モモトーク使ってる?"
「え?あ、ええと、一応……」
"教えてくれるかな?まだ返せてない手紙が残っているんだ。書き方とか、お返事を書くときに教えて欲しいなって"
手紙の書き方なんて、調べればいくらでも出てくる。彼女に聞きたいという意図もある。でも、これは建前で。
"だから、コトミも、困ったときは、気軽に私に話しかけてほしいな"
「……はい、先生」
彼女に何が起きているのか。できれば教えて欲しい。けれど、今はまだ、教えてくれはしなさそうだった。
まずは、自分なりに調べてみよう。こっそりと箱を操作し、メモに書き残す。アロナは私の意図を把握してくれたのか、コトミには見えないようにそっとデータを持って行った。
止まっていたコトミが動きだし、制服のボタンをぽちぽちとふたつ開けて、胸ポケットからメモ帳を取り出す。そのままメモ帳へ長い英数字を書き起こし。そのまま私に手渡した。
「一応なのですが……、こちらのIDを入力してください。それで、今更なのですが、そちらのタブレットを近づけないでいただければ」
"ありがとう。PCを近づけないでって……盗撮とかはしてないよ!?"
「ああいや、違うんです!あの、私、特異体質……とでも言いましょうか。電子機器を触ると壊れてしまうのです」
"あれ、でも、モモトークはやってるって……"
「はい。ミレニアムの皆さんの協力のおかげです」
メモ用紙を受け取れば、彼女はボタンを外した上着の内から、少し大がかりな端末をひとつ取り出した。
「私でも使える通信端末を、エンジニア部の皆さんが一年かけて作ってくれたんです」
ふぉんと起動音が鳴り、起動画面が私にも見える。数秒もすれば起動したらしく、その画面を私に向けて見せてくれた。
それは、スマートフォンというよりも、ひと昔前の折り畳み端末のようなものだった。大がかりな端末には、いくつかの操作用ボタンがついている。それぞれのボタンには、対応する操作が印字してあり、多少操作に慣れは要りそうだが、私でもすぐに使えそうな見た目になっている。そんな彼女の端末からは、ぼろぼろになったキーホルダーがひとつ垂れていた。
「まあ、それでもひと月くらいでおかしくなってしまうので、定期的にミレニアムで検査して貰っているのですが……」
"それでミレニアムの手紙を届けてくれたんだ"
「はい。まだ会ったことが無いと白石さん……エンジニア部の部長さんに言ったら、会ってくるといいと、手紙を」
"ウタハの手紙、確かに受け取ってるよ"
確かにウタハからも手紙が届いていた。手紙は昨日のうちに全部読んでしまった。かなりの量があったが、気になって寝付けなかったので結局読んだ。その中で紛れ込むように入っていたのがウタハからの手紙だった。コトミの言い分では、その場で簡単に書いたものだったのだろう。他の生徒と違って、理由がありそうなハスミのように事務的な見た目のものに、ごく短い文章が綴られていた。
ウタハは手紙で一切コトミのことについては触れていなかった。あくまで、手紙は手紙。コトミについては自分で話すと踏んだのか、それとも。
「知り合いだったんですね、先生。それで、一度持ち帰って悩んでいたら、親友が後押ししてくれて」
"親友?"
「……ひとり、大切な親友が居るんです」
"そうなんだ。もしかして、私の知り合い?"
「いえ、先生には会ったことが無いと言っていました。でも、気になるならば会っておいた方が良い、と」
その"親友"から貰ったものなのだろう。コトミはキーホルダーをぎゅっと握って、胸に押し当てた。くたびれたキーホルダーは彼女の手の形を覚えていた。
"コトミは、実際に会ってどうだった?"
「……分かりません。ただ、悪い大人では無いのだなと、少し安心しました」
変わった人ではあるみたいですけど、と、彼女は付け加えながら、笑ってくれる。きぃと、小さな音を立て、私たちの体は進行方向に少し傾いた。隣に座っていた彼女が、私に軽くぶつかり、彼女は顔を真っ赤に染めてごめんなさいと謝ってくる。
【次は――】
「ああ、先生。そろそろ、私は」
"うん。コトミ、今日はありがとう"
どちらからとも言わずに立ち上がる。私が降りる駅はまだ先だから。二人してドアへ近づき、窓から流れる景色がだんだん速度が落ちていく。そうしてすぐに景色が止まり、しゅぅという音を立てて扉が開いた。
「先生、また。お手紙があれば、お呼び下さい」
それだけ言い残したところで、彼女は扉の向こうへ出て行った。
すぐに扉は閉まってしまい、透明な壁が私と彼女を隔てる。彼女がすっと手を振って、そのまま、列車は次の駅へと走り出した。
◆
その後、差し戻された書類を一生懸命片づけた。終わった後にモモトークを開いてみれば、複数の生徒からモモトークが来ていた。その名前の中にはコトミもあり、彼女は手書きの手紙を写真に撮って送って来ていた。入力に慣れていないのか、難しいのか、はたまた端末の機能として備わっていないのか。思い返せば、私が見た端末の様子からして、最後のものが一番あり得そうだった。
エミュ甘いのでそのうちキャラのセリフを修正します。
次は作中の時間を少し飛ばしてエデン条約編に移りたい。
と、思っていたんですが、いろいろやりたい描写やるにはコネクションが必要そうなので、コトミちゃんには幾つかの高校の生徒と絡んで貰うことにします。
何も考えずに好きなキャラ突っ込んでシミュしたら原作沿いには行かなそうな気配。しかもバッドの方向へ。
筆者はハッピーエンドが好きなので、ハッピーエンドにします(天下無双)。
あと、一応連載にしておきました。飽きたら未完にします。
けど、続かない。