スラム街の悪ガキ、天上天下唯我独尊系魔王様と相乗りする 作:カンさん
100年前に、いやもしかしたらずっと前から
その辺りは定かじゃないんだけど、取り敢えず確かに言えるのは直接攻めて来たのは100年前だと言う事。それは一般の人にも公開されている情報で、当時の人口半分が拉致されたのは本当だよ。
その後、対策を講じたのが後に四大名家の家名の元となった
ベルカラント。ミストラム。ミリアドネード。クレアスベイン。そう、私の家の名前と同じだね。別に血が繋がっている訳じゃなくて、私たちのご先祖様達が彼らの名前を引き継いでいるんだ。
その4人の尽力でこの世界の人たちは辛うじて守られたんだけど──今度は別の問題が起きたんだ。
今はもう絶滅している人間以外の生物、家畜って呼ばれる存在が根こそぎ殺されたの。ビックリしているね? そうなんだよ。この世界には人間以外の生物が居たんだよ。
その生物はね、私たちにとって食材だったんだ。歴史書によると使徒はその家畜を真似て造られた可能性があるらしいよ。……気持ち悪い? そうだね。私も同じ気持ち。
しかもね、今当たり前に吸っている空気も無くなり始めたらしいよ。空気を生み出すための植物っていうのも滅んだらしくて、大気汚染というのが起きた。つまり呼吸ができなくなるって訳ね。
当たり前に飲める水も凄く汚くて、そのまま飲んだらお腹を壊しちゃうらしくて、とても飲めたモノじゃないって話だよ。
世界の端にある水は辛くて飲めないしね。……え? 行った事ない? ああ、そうか。これは遠征部隊に選ばれないと行くことないもんね。いや、こっちの話だよ。また今度話すから。ごめんね?
それで、何処まで話したっけ。
ああ、そうそう。食材と空気の話だね。
私たちが生きる上で必要な物が一気に無くなって、たくさんの人が使徒の襲撃以外で死んじゃうって思われたその時にね、全部解決したのが始まりの4人が一人、ベルカラント様なんだ!
……嬉しそう? うん、そうだね! だって人類を救った英雄と同じ名前を持っているから!
話を戻すね? ベルカラント様は【創造】の術式を持っていて、人類に必要な透明な空気と赤と黄色と緑の三食の食材、そして飲める水を作ったんだ!
流石に家畜の創造はできなかったみたいだけど、人間が生存していく為の食材をたくさん作ることに成功して今この瞬間もずっと創造しているんだよ?
え? 100年前の人間が生きている訳ない?
うん。そうだよ。でも死んでもいないんだよ。
……そう。ベルカラント様は己の肉体を捨てて術式を半永久的に持続できるようにしてくれたんだ。
だからねイヴくん──人類の食材って限りがあるんだよ。
何とか私たちが術式の出力を調整して増やす事ができるけど──あれって美味しくないよね? 人によっては食べられないし、食べたら死んじゃう人も居る。体に合わなくて。
ご年配の人となると飲み込めなくなるし、子どもだと食べ辛いかもしれない。
でもベルカラント様ができたのはそこまでだったんだ。
……じゃあ、これは何だって?
うん。そうだね。こういうのみたいに加工ができれば良いよね。
所でイヴくん。他人の魔力を飲み込んだ事ある?
無い? そっか。
えっとね、普通他人同士の魔力は受け入れる事ができないの。普通は拒絶反応が起きてダメージを受けてしまう。
イヴくんも何ともなかったでしょ?
じゃあ
そしてそれを食べる事ができるのは魔力に耐性ができた人間──つまり
ここまで聞いて分かったよね? 私たちしか食べているんじゃなくて、私たちしか食べられないんだ。
都の人たちも同様だよ。食事以外は確かに裕福になっているよ。それが戦場に向かう
でもね、食事だけはダメなんだ。
実際、美味しい物を食べたいと
逆に食べられない人の事を想ってあえて加工しない人を私は一人知っている。でも私は命がけで戦うのなら、しっかりとしたご飯を食べて欲しいって思っている。
……うん。仕方がない事なの。もし配っても魔力当たりを起こして死ぬ可能性があるから。
それだけじゃないだろうって?
まだ肝心の事を話していないって?
うん、そうだね。話していなかったね。
使徒が
ねぇイヴくん。それを聞くって事は不思議に思ったんだよね?
戦った君なら分かると思うけど、アイツら
つまり、さ。
誘導装置で
何故? 理由が分からない?
だったら
……うん。そうだよね。分からないよね。
うん? 別に勿体ぶっていないよ? ただちょっとだけ……ちょっとだけ、言い辛いんだ。
私もこの事を知った時は凄くショックだったから。
えっとね、使徒が
意味が分からないって顔だね。ユーリちゃんは……知っているよね。
えっとねイヴくん。
使徒はね、開いていない
信じられないって顔だね。でもね
イヴくん。
今の話を聞いて君はどう思う?
「どう、って……」
作り話と切って捨てるには作りこまれていると思った。
全てイヴを納得させる為の方便ならどれだけ良かっただろうか。
『…………』
語られたのは、どうしようもなく
GUARDは死力を尽くして、崩壊して零れ落ちた欠片を手に入れて──現在に繋げている。
イヴはそれを、過去の人たちの頑張りを知らずに不満を叫ぶだけで──。
『小僧。余計な事を考えるな』
「……魔王?」
『無知は確かに罪だと言われるが、コレはGUARDが意図的に黙っていた情報だ』
故に知らないのは無理もなく──スラム街の人間がGUARDに対して不信感を抱くのは当然と言える。
何故ならそう仕向けたのはGUARD自身なのだから。
解決できない食糧問題を解決できないのなら、不満を解消できないのならどうすれば良い?
【ベルカラントの小娘】
「うわ、びっくりした!? これが噂の念話!?」
【ふん。大方あの妙ちくりんなウォーロックの盗み聞きで把握しているのだろう】
魔王は
【貴様の話は事実なのだろう? 現に
「吐き散らしていねぇ」
吐き散らしている。
【だが都の住人のスラム街への差別はGUARDの策略であろう?】
「……」
「何を根拠に言っているの?」
レインは押し黙り、彼女に代わるようにイザベラが魔王の言葉に喰って掛かった。
【(む……?)フン。根拠も何も我にはそうとしか聞こえなかったぞ? 都の人間は食への不満をスラム街への差別によって解消している。反対にスラム街の人間どもは都の人間を敵視していた】
魔王はイヴの肉体の中で見ていた。都の人間の蔑む視線を。スラム街の苛立ちの混じった視線を。
【追い込まれている絶滅危惧種にしては内輪揉めし過ぎだと思っていたが──差別による安心を与える事で都の人間をコントロールし、スラム街の人間には劣等感で弾圧】
「そ、そんな事……」
【ない、と言い切れない表情だな】
「レインを虐めないで」
涙目のレインを庇う様にイヴを、正確には彼の中に居る魔王を睨みつけるイザベラ。
流石に差別云々は聞かされていないが、隊長の座に付いているレインも何となく察していた。その為にどうにかしようと彼女の尽力している。故に、魔王の指摘は痛かった。
【ふん。先に虐めたのはそちらだろうに。あのような内容を、あのような語り方で聞かされれば、この小僧の様な単純馬鹿はすぐに価値観を染められる】
「馬鹿って……」
【それとな? 我は存外こやつを気に入っておる。打てば響く所が特に】
「お前が馬鹿だよクソ野郎」
【つまり、我の遊び道具を使うのならそれなりの礼儀ってものが必要だ】
「お前が礼儀を知れよ」
直接繋げられていないユーリは魔王が何を言っているのか聞こえていないが、何となく何を言っているのかを察していた。
「……ごめんなさい。私、そんなつもりは」
【ふん。真に人の心根を聞き遂げたいのなら、己の想いを伝えるだけでなく相手の想いを引き出す語り方を身に着ける事だな】
「コイツ偉そうに」
【喧しいぞ砂利。語る舌を持たぬなら黙れ】
「……っ」
魔王がイザベラに念話を繋げて直接黙らせた。
さっきから煩くて割とイライラしていた魔王。大人げないにも程がある。
【さて小僧。この小娘は、貴様の本音が聞きたいらしい。馬鹿らしく思ったことを述べよ。我が許す】
「お前本当に何様? でも……」
混乱していた思考。纏まらない考え。今までの己を疑い、これからの自分に不安を覚えた。
しかし魔王のおかげで、選択を誤らず答えを出すことができた。
「……レイン、さん。正直に話してくれてありがとうございます。確かに俺は何も知らなかったです」
「……」
「でも、やっぱり俺の中の怒りは消えません」
かつて
それ以来彼はGUARD全体を敵視していた。
魔王はそれを『貴様らしいガキの道理だな』と笑い、そして否定しないだろう。
「何で俺に力が無いんだ。何でこんな生活をしないといけないんだって」
そう思わせたのはGUARDで、許せるかというと……許せないだろう。
餓死していく子どもをたくさん見て来た。
生きる為に他人を傷つける大人をたくさん見て来た。
そうなる環境を作った組織を──。
「GUARDは好きになれません」
GUARDのこれまでしてきた事や今している事を許せない気持ちはある。
しかし同時に──人類を存続する為の苦肉の策だという事も知った。
「でも俺はGUARD以上の良い方法を考える事ができません」
イヴはGUARDを否定できない。彼には力も、知識も、経験も何もかも足りない。
人類が今現在まで存続できたのはGUARDの力だ。
その事実を彼は否定することができない──イヴがこの世界に居るのはGUARDのおかげだ。
「……それでもGUARDに感謝できないのは、俺がガキだからですかね」
「ううん、それで良いと思うよ。ただ私にとってGUARDは家みたいなものだから」
「……よく怒りませんでしたね」
「あはは! 割と腹黒いから仕方ないかなって? でも何も思っていないって訳じゃないぞー」
そう言ってレインはニシシと笑顔を浮かべた。
イヴに気を使っているのだろう。もしくは考えを改め、自分なりの答えを出した彼に敬意を表しているのか。
その辺りの気配りを察したのか、イヴは恥ずかしそうに顔を逸らす。
「……うん。どうやらイヴくんは違うみたいだね」
レインは何かを確信したのか、一つ頷き──。
「ねぇイヴくん。君、GUARDに入らない?」
「……は?」
妙案とばかりに彼をGUARDに誘った。彼女の言葉にイヴは思わず呆けた顔をする。
「……何で?」
「いやーそのね? 恥ずかしい話なんだけど、さっきGUARDは私の家って言ったばかりにこんな事言いたくないんだけどさ?」
GUARDに裏切り者が居るんだよ、とレインはあっけらかんとした態度で言った。
彼女の言葉に絶句するのはイヴ一人。他の者たちは知っている為何も言わなかった。
「正直君の事もその候補の一人だったんだ」
「何で!?」
「エリア外の
「ぐっ……」
疑いの目で見られていた事に抗議の声を上げるイヴだったが、イザベラの言葉に撃沈した。誰だってイヴの事を怪しいと思うだろう。
「そしてそのウォーロックに秘密裏に接触する人間も、ね」
「……」
「……ちっ」
続くイザベラの言葉にユーリは何も答えない。
それどころか、彼女はレインが語り始めてから一言も話していない。
その事にイザベラは気付いており、その態度が気に入らなかったのか舌打ちをする。
「スラム街への配給が減ったのって裏切り者の手回しなんだよ」
「……本当なのか?」
「うん。配給担当の人間はそう指示されていただけで知らなかったみたいでさ。いつの間にかその辺り操作されていたみたいで、その犯人を捜している所」
しかし中々見つからず困っていた。そこで現れたのがイヴだ。
彼も察したのだろう。レイン何を求めているのかを。
「俺にその裏切り者を見つけて欲しいって訳か」
「それもあるけど誰が敵で誰が味方か分からない現状だと、これまで部外者だった君が信用できるんだよね。あとここのイザベラとユーリちゃんもね! (あと此処には居ないコロちゃんも)」
「まぁユーリはそういう事しないからな」
レインとしては別の理由があってユーリをこちら側だと言っているのだが──あえて言わなかった。
「できたらさ? 二人は行動を共にして欲しいんだ、なるべくね」
「私は構いません。イヴなら信頼できます」
「……それってさ」
「本当? ありがとうユーリちゃん!」
ユーリの言動にイザベラが反応を示すが、それをレインが遮る。
ここで無暗に衝突をするのは避けたいが為に。
そして改めて視線をイヴに向けて、懇願する。
「ねぇイヴくんお願いできない? 裏切り者を見つけたら、私にできる事なら何でもするからっ!」
「──」
『マセガキ』
「うるせっ」
思考を読んだのだろう。魔王の呆れ切った声にイヴは赤面した。
「……俺が一番憎いのは使徒です。そいつらの仲間が此処に潜んでいるなら──絶対にぶっ飛ばしてやりたい」
「それじゃあ」
「ただし! ソイツを見つけるまでです! 終わったら抜けますからね」
「──うん。それで良いよ。ありがとうねイヴくん!」
こうしてイヴはGUARDに所属する事になった。
かつての己が聞けば信じないだろう。正直今も不思議な感覚だった。
それでも彼は今、此処に居る。
【ああ、そうだ小娘。1つ聞きたい事がある】
「あ、はい。何ですか?」
ユーリの案内の元、イヴは己の個室へと向かおうとしていた。
GUARD入隊式まで空き部屋で生活して貰うために。他の隊員にはイヴの扱いを通達しており、道中取り押さえられたりしないだろう。
しかし隊長室を出る前に魔王がレインに念話を繋げた。
【貴様に貼り付けてある魔力はそこの女のモノか?】
「──分かるんですか?」
【──その反応で理解した】
魔王はそれっきり黙り、イヴは何が聞きたかったんだと不思議に思いながらもユーリの後に着いて行った。
それを見送った後に、イザベラがレインに確認をする。
「ねぇ、今のって」
「うん。多分イザベラの術式に気付いたのかも」
レインの肉体にはイザベラの魔力が貼り付けられている。それによりイザベラの術式によって色々とできるのだが……魔王は魔力探知でその辺りの事を察したのだろう。
思わずイザベラの警戒心が高まり、そんな彼女を苦笑しながら大丈夫だとレインは言った。
「でも聞いていた通りに偉そうだったね」
「魔王ってそんなものらしいよ」
「そうなの?」
レインが不思議そうにし、イザベラは話題を変える。
「それよりもあのユーリって子」
「うん。私たちと同じだね」
「やっぱり?」
「うん。だからこそ──イヴくんと一緒に居る事に意味があるんだ」
結局ユーリに尋問はできなかった。しかしそれで良かったのだろう。どれだけ問い詰めても、もし痛みを与えたとしても彼女は何も喋らない。
ならばイヴと行動を共にさせる事で制限を掛ける。
それで何もしないのであればシロ。何か行動を起こせばクロ。
そして──もしユーリが裏切り者でないのであれば、彼女が最も疑っているのは……。
「ねぇイザベラ」
「なに?」
「早くユーリちゃんと仲良くなれたら良いね」
「……そうだね」
強かな幼馴染にイザベラは怪しい笑みを浮かべた。
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