スラム街の悪ガキ、天上天下唯我独尊系魔王様と相乗りする   作:カンさん

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第3話『スラム街の悪ガキ、盗聴されていた』

 

「そういえばユーリはなんであそこに居たんだ?」

「……イヴの先輩として色々と教える様にと隊長に頼まれまして」

 

 空き部屋にやって来たイヴは、案内してくれたユーリにふと気になった事を尋ねるとそう答えられた。

 しかし彼女は本当の事を言うつもりないのか、それっぽい事を言ってイヴを納得させる。

 

 彼が来るまで、ユーリとレインは腹の探り合いをしていた。

 しかし結果は分からず。

 レインもユーリも相手が裏切り者なのか判断がつかなかった。

 故に裏切り者の可能性が最も低く狂犬の如く噛み付く彼の傍に置く事で現状の打破をレインが試みて、それにユーリが乗ったという訳だ。

 

 魔王はそのやり取りを理解しているのか、イヴに伝える事無くただ黙っていた。くだらんと思いつつも。

 

「……イヴ、あなたには謝罪をしなくてはなりません」

「謝罪?」

「報酬の話です。隊長の話から分かる通り、貴方の望む報酬は……」

「あー、そっか……」

 

 イヴはユーリの手伝いをする際にスラム街への配給の量を増やすように求めた。

 しかし現在はその裏切り者の妨害で減らされており、もし増やしてもまた操作される可能性がある。そうならない様にレインも尽力するだろうが……おそらく裏切り者は目的の為に、嫌がらせの様に妨害を仕掛けてくるだろう。

 

「もうそれは良いよ。結局その裏切り者を何とかしないとスラム街の奴らの生活も、エリア外の蓋門(がいもん)も解決しないって分かったから」

「イヴ……」

「ユーリも本当知っていたんだろ? そしてソイツをどうにか見つけて何とかしようとしていた。違うか?」

「いえ、合っています」

「だったらやる事は変わらねーな」

 

 イヴは少しだけスッキリした顔で、ユーリに真っすぐ目を向けて答える。

 

「という訳でこれからよろしく頼む」

「いえ、こちらこそ。貴方の……あなた方の力があれば百人力です」

 

 特に魔王の観察眼はまるで未来視の様に全て見通す。

 ユーリは彼が居れば案外すぐに見つかるのでは? と期待していた。

 

 ……そういえば、とふとユーリは気になった事を二人に尋ねる。

 

「あの。こうしてGUARDと協力関係を結べたのですから、体の検査などは受けられないでしょうか?」

「体? 検査?」

「いえ、その……」

「……ああ、そうだった! すっかり忘れていた!」

 

 魔王と融合しているのを当たり前の様に感じていたのか、ユーリの言葉に物凄くビックリするイヴ。

 そうだよ。GUARDに入るならこの不可思議な状況をどうにかできるじゃないか。

 光明を見出した様に喜びの表情を浮かべるイヴだったが……。

 

【辞めておけ。恐らく此処の人間どもでは無理だ】

「……? 何でそう言い切れるんだ?」

「話をする前に決めつけるのは如何なものかと……」

 

 魔王は意味が無いと切って捨てて、ユーリとイヴは不思議そうな顔をする。

 イヴとの融合を魔王自身普通ではないと考えており、出来るなら分離した方が良いと語っていた。それに他に色々と不便もあるのは事実であり……故に否定的な意見を出した彼に怪訝に思うのも仕方がない。

 

【奴らは我の存在を把握していた。大方盗み聞きウォーロックから聞いた情報なのだろうが……。

 そして我らが分離したがっている事を知りつつもその話をしなかったのは出来ないのだろうな】

「イーヴァルディの力目当てにあえて言及しなかった可能性は?」

【それならば逆に言及しそうだがな、あの小娘の性格的に。それに表面上は助力を乞いたのは小僧相手だ。あまり我の事を表沙汰にしたくないのだろうな】

 

 尤もレイン自身にその話題を出す余裕が無かったのか、もしくは後日話すつもりだった可能性もあるが、裏切り者が居る状況で魔王の存在を明らかにすれば利用されるだろう。

 レインも入隊式を通してイヴをGUARDに所属させようとしたという事はつまりそう言う事だ。

 

「うへぇ。まだしばらくお前と一緒かよぉ」

【今我と離れると、ただでさえ弱っちい貴様がさらに弱っちくなるが?】

「うるさいな……」

【図星だから反論に力が無いな。もしくは我が恋しいか? 割とキショいな】

「いつかぜってぇ泣かすからな」

【できない事を大口で叩くのはガキの特権だ。気の済むまでピーピー鳴くが良い】

「こいつ本当に……」

 

「あの、二人でイチャつくのなら私帰りますよ?」

 

 そう言って既に扉に手を掛けているユーリ。

 実際彼女も疲れている為、休みたいのが本音であろう。

 イヴは彼女を引き留める事無く、魔王もまた何も言わなかった。

 

『(聞きたい事があるが……今は良いか)』

 

 まだその時ではない故に。

 

 こうしてユーリは帰り、イヴはしばらく魔王に弄ばれた後にふて寝した。

 魔王も今日はイヴの体を使って好き勝手する気分ではなかったのか、そのまま眠った。

 

『……鬱陶しいな』

 

 ずっと盗聴されている感覚に眉を潜めながら。

 

 

 

 

 

「――ふぅ」

 

 南支部の外観はかつての古代文明に築かれていた【マナビヤ】なるものを元に再現されているらしい。白亜の壁を背に建築され、中央には時間を表す時計がある。

 そして建築物内に隊員の私室や食堂、戦闘訓練室や座学研修の為の部屋も用意されている。どう考えても外見以上の広さがあるのだが、そこは【創造】の術式の他に始まりの4人の術式によって空間を捻じ曲げて拡張している。

 そして食糧に魔力で加工し古代文明の料理を再現できる様に、隊員の私室も拡張したり改造する事ができる。尤も有限なリソースを使うためレインの許可が必要なのだが……。

 

「これ以上聞いても意味ないかな」

 

 そう言ってかつて古代文明にて【ヘッドホン】と呼ばれる形をした魔道具を付けた。これは装着した者に消音効果をかける為、術式の副作用にて聴力が異常に発達した少女にとって休む時には必須道具となっている。

 少女――ローリンは、ベッドに横になって呻き声を上げた。

 

「うわぁぁああ……レインちゃんの反応的に気付かれていた……」

 

 彼女は今回、イヴ……並びに魔王を名乗る彼の中にいる人物に助力を願うための話し合いの場に、レインに参加する様に言われていた。即効拒否をしたが。

 

(だってイザベラさん怖いし……初めての人と話すのはもっと怖いし……)

 

 ローリンは所謂コミュニケーション能力に乏しい人間である。何せこの南支部で彼女がまともに会話できるのはレインだけだ。他の隊員とはできうる限り接触を避け、防衛任務で一緒になった時も隠れて戦う始末。

 食事も術式を使って周りにバレない様に食堂から持ち出して空間の拡張によって生じた人の通らない謎のスペースで食べる始末。(自室で食べていたらレインに怒られた。寂しすぎるからみんなと食べて、と)

 

「怖い人だったらどうしよ……」

 

 魔王の声は念話を繋げられて初めて聞くことができる為、遠く離れた場所から盗み聞きしている彼女には彼の声は聞こえない。

 しかしイヴやイザベラの反応により、結構厳しい事を言われたらしく心音が乱れていた。その場に居なくて良かったと彼女は心底安心した。

 

「でも、本当は優しくて私の友達になってくれたりして……?」

 

 しかし興味があるのか、ローリンは妄想を広げていく。

 

「なんか強いらしいし、こう……私も強いから? 南支部最強だから? 四強の一人だから? 『あなた強いですね? 私の友達になる準備してください!』って誘われるかも!」

 

 なお、盗み聞きが趣味の陰険な奴と魔王からの好感度は結構低かったりすることをローリンは知らない。

 

 彼女は他人と接するのが苦手にも関わらず、友人を欲していた。それも自分を肯定してくれるローリンにとって都合の良い……ではなくて優しい人間の。

 相反するその感情は彼女に拗れた承認欲求を形成させ、とんでもないモンスターを作り上げてしまった。

魔法の才能があったのも災いして彼女はGUARDに所属する前から野良魔鍵師(ウォーロックスミス)として3年前の事件では使徒を狩りまくり、その後2年の間GUARDの追跡を撒き、当時の南支部の隊長だったレインの姉に捕まった。なお、その際白亜の壁内に無断で入って使徒相手に無双していた。罪状は不法侵入。当然である。

 

「今回は上手く行くかな……」

 

 ローリンがGUARDに入ったのは、「3年前に助けられて憧れています!」と言われるのを期待していたからである。あの事件では彼女は死にそうになりながらもたくさんの人を助けていた。頬の傷はその時にできた。しかし実際はそんな事は無く、むしろイザベラ目当てに入隊する魔鍵師(ウォーロックスミス)が多かった。どうやら3年前彼女もまた多くの人を救助しているらしく、その容姿の良さもあって此処南支部にはイザベラのファンが多い。彼女が死ねと言えば本当に死にかねない程に熱狂的である。

 正直羨ましかった……。

 なので今回、レインにイヴの監視を命じられながらもたくさんの使徒を倒し、たくさんの人を助けた。もしかしたら自分にもファンができるかも、と期待している。

 

 なお、彼女は遠く離れた白亜の壁から使徒を殲滅した事により、助けられた民間人からしたらいきなり目の前で使徒が爆散しただけである。故にローリンに助けられたと感じる人はほぼ居ない事を知り、盛大に悶えるのは後日の話。

 

 ――コンコン。

 

「コロちゃん、入るよ?」

「ぴゃああああ!?」

 

 突如彼女の部屋がノックされたかと思うと、返事を待つ前にレインが入って来た。

 ヘッドホンをしていても部屋に人が入ってくれば音が聞こえる程に耳が良いローリンは、驚きのあまり奇声を上げる。

 しかしレインは慣れているのかローリンがあたふたしているのを気にせずに、部屋にある彼女の椅子に座る。そしてむすっとした表情でベッド上に居るローリンに向けて、「私怒っています」と言わんばかりに彼女を見つめた。睨みつけたら泣くので睨みつけられないので。

 

「コロちゃーん。また盗み聞きしていたでしょ」

「あっ、その、はい。いつでも制圧できるようにしておきました」

「いや話を聞くだけだって言ったじゃん!? もーう、コロちゃんそういう所あるよね……」

 

 ローリンからすれば得体の知れない相手なので、何をされても対処できるようにしていただけだ。野良時代の経験である。

 ちなみにレインの【コロちゃん】はローリンの愛称である。表情がコロコロ変わったり、使徒と戦うときの殺気が凄かったり、ローリング、転がると連想したりと理由は色々だ。

 尤も彼女の事をコロちゃんと呼んでいるのはレインだけである。

 

「でも、その、私が行くとイザベラさんが……」

「あー……そうだけどさぁ」

 

 イザベラとローリンは仲が悪い。正確にはイザベラがローリンの事を一方的に嫌っている。

 幼馴染であるレインが理由を聞いても教えてくれず、仲良くしてと言っても歩み寄ろうとしていない。だからレインは自分が間に入って何とかしようとするのだが……改善される所かどんどん悪くなっていく。

 

「どうしてなんだろうね……」

 

 本当に不思議そうに言う彼女にローリンは思わずため息を吐いた。

 イザベラが自分を嫌っている理由を彼女は理解している。

 嫉妬。独占欲。執着。そういったドロドロとした感情(モノ)をイザベラは胸の中にへばりついており、レインがローリンに優しくすればするほどその感情は強くなる。

 ローリンとしてはレインが唯一の友達な為、今の関係を無くしたくないのだが……レインにはイザベラの重い感情を理解して欲しいと思っていた。ゆくゆくはコントロールしてイザベラをどうにかして欲しいと思っている。

 

(でも私の方が強いからイザベラさんはどうにもできないんだよね)

 

 私って罪な女、と肥大化した承認欲求に囚われる哀れな女ローリン。

 いきなりニチャッと笑みを浮かべたローリンに、いつもの事だと思いつつ引きながら本題に入るレイン。

 

「聞いていたと思うけど、イヴくんにはGUARDに入って貰ってユーリちゃんは彼に着いて貰うから。コロちゃんには……」

「あっ、うん、分かってる。ずっと聞いていれば良いんだね?」

「そうそう。無いと思うけど何か怪しい事をしていたら報告してね?」

 

 支部内に居る限りローリンの耳から逃れることはできない。彼女が違和感を感じればすぐに術式で拘束、もしくは排除されるだろう。

 レインもそれを期待して、改めて彼女に頼みに来たわけだ。あと過剰な対応しない様に釘を刺す為でもある。

 

「あとコロちゃん……居た? 怪しい人」

「……ごめん。見つけられていない」

「そっか……」

 

 レインの問いかけにローリンは申し訳なさそうに答えた。

 

 イヴを支部内に招き入れれば、裏切り者が何かしらのアクションを起こすと考えていたレイン。しかしローリンの耳でも怪しい人物は見つけられていない。

 そうなるとイヴかユーリが怪しいが、そういう感じの心音をしていなかった。ユーリは何か隠し事をしているが――聞いていて心地良かったので疑っていない。

 他に心音を乱していたのはレインと普段は術式に邪魔されて聞こえないイザベラのモノだが、魔王の言葉で動揺していただけなので除外。

 

 結論、現時点では見つかっていない。

 

「やっぱり、この支部には居ないんじゃ」

「……だったら良いんだけどね」

 

 今度はレインがため息を吐く。

 心苦しいのだろう。自分の家だと言っているGUARDに裏切り者が絶対に居るという事実が。

 

「次に行動を起こすのなら入隊式だと思うから、コロちゃんは」

「――!」(首を全力で横に振る)

「……耳を傾けて怪しい人が居ないか確認してね」

 

 相変わらずな彼女の反応にレインは苦笑しながら、話が終わったのか立ち上がる。

 

「それじゃあねコロちゃん」

「あっ、うん」

 

 そして部屋を後にし。

 

「もうちょっとお話したかったな」

 

 ローリンは寂しそうにそう言って。

 

「……そういう事は直接言ってよ」

 

 扉の外でレインは拗ねた様に呟いた。

 

 

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