スラム街の悪ガキ、天上天下唯我独尊系魔王様と相乗りする   作:カンさん

16 / 29
第5話『スラム街の悪ガキ、誇りを傷付けられ激怒する』

 

 正隊員になる為には二つの条件を満たす必要がある。

 一つは7日に一度実施される試験を合格する事。入隊した訓練生は5日間の午前中は魔法理論や歴史、使徒の種類や攻略方法を講義で学ぶ事になっている。

 内容は簡略化されており、学の無い者でも直ぐに覚えられる。5日間の講義の翌日に試験があり、それに合格すれば正隊員になる為の資格を半分獲得する事が可能だ。

 合格基準に満たせず失格となっても7日後に試験を受ける事は可能で、その間の講義を受ける事も可能だ。

 また、さらにその先を求める者は図書室と呼ばれる場所に本があり、それを参考に知識を深める者は一定数居る。

 

 正隊員になるもう一つの条件はポイントを相方と一緒に一万ポイント貯める事である。

 訓練生用魔錠(シリンダー)には保有者のポイントを計測するシステムが組み込まれており、このポイントは午後の実技訓練に参加する事で得られる。

 訓練内容は5日間それぞれで異なり、その種類を顧みて参加するか否かを選ぶ事が可能だ。

 

 訓練内容は、

 

 ①使徒殲滅速度測定訓練。

 ②民間人救助、避難誘導訓練。

 ③索敵訓練

 ④隠密訓練

 ⑤拠点防衛訓練

 

 となっており、参加者の成績の順位により得られるポイントが変わる。1位が20ポイント、2位が19ポイント……との様に。

 

 他にも一つポイントを稼ぐ方法があるがそれは後ほど。

 

 早い者は僅か7日で正隊員になり、その者は歴代に名を残す魔鍵師(ウォーロックスミス)となる者が多い。

 

 さて、魔王という謎の存在を保有し魔鍵師(ウォーロックスミス)に目覚めて直ぐに使徒と戦闘し打ち勝ったイヴはというと──。

 

「落ちた……」

 

 座学で頓挫していた。試験日の次の日は休日かつ合格発表日であり、イヴは見事試験に落ちた。なおシャルロットは普通に通過したので完全にイヴが足を引っ張っている。

 

「大丈夫よ! 7日後まで頑張れば合格できるわよ!」

「シャル。根拠の無い慰めは時に人を傷付けるのです」

「ユーリちゃんは諦めないで! 教育係でしょ!?」

 

 食堂の空いたスペースに、撃沈しているイヴと座学成績優秀者(シャルロット)最速で正隊員になった者(ユーリ)が居た。

 スラム街出身のイヴにとって午前の座学は荷が重かったらしく、正直内容の殆どを覚えていなかった。特に文字を書くのが苦手で、正解を書こうにも書けない問題が発生していた。

 その辺りはシャルロットとユーリが付きっきりで教える事で何とかするとして、問題は彼の頭の中の許容量である。

 

「1+1は?」

「にぼし」

「ダメだわ……」

「ダメですね……」

 

 キャパオーバーを起こす時思考回路が破壊され、単純な計算もできなくなる。やばい。

 試験内容の答えを詰め込もうにもご丁寧に毎回問題が変えられている。それでも大体普通なら二週目三週目で合格できるのだが……今のイヴを見ると何時合格できるのか展望が見えなかった。

 

「そもそも保護区出身者がGUARDに入る事自体稀ですしね」

 

 魔鍵師(ウォーロックスミス)に覚醒するのは殆どが都出身の者、つまりGUARD所属の者の血縁者がであり、ある程度の知識は親や施設で得ている。シャルロットやユーリがそれに該当する。

 

「それに……午後の実技についてはお二人とも成績が良いとは言えません」

「ぐっ!?」

「ぐはっ!?」

 

 ユーリの言葉の矢に貫かれる二人。この7日間で親交を深めた故に遠慮は全く無かった。

 

 ①使徒殲滅速度測定訓練。イヴ1位。シャルロット23位。

 ②民間人救助、避難誘導訓練。イヴ32位。シャルロット31位。

 ③索敵訓練。イヴ11位。シャルロット32位。

 ④隠密訓練。イヴ12位。シャルロット20位。

 ⑤拠点防衛訓練。イヴ9位。シャルロット18位。

 

 以上が彼らの成績である。これは酷い。

 特にシャルロットは戦闘が苦手なのが顕著に出ており、索敵訓練では最下位になってしまっている。(ゲート)の開放率は15%と高いのだが、本人の気質が問題なのだろう。教官は時間が解決すると思っているようで問題視していないが。

 

 問題はイヴである。座学も実技もできないとなると正隊員になる道は遠い。

 そもそも何故此処まで散々なのか――それは魔王が全く力を貸さないからである。

 正隊員になるまでの道筋を聞いたイヴは当初。

 

「なるほど。だったら7日で正隊員になれるな!」

 

 豪語しており、それに乗っかる形で魔王が。

 

『貴様では無理だろう。我手伝わないし』

「はぁ? やってみないと分からねーだろうが。それに俺もお前の力借りるつもりは無いぞ?」

『学もない。戦闘経験も浅い。ないないづくしの貴様が我の力なしで? フフフ……丁度良い機会だ。その伸びに伸びた鼻っ面折られて、我の力の有難さを噛み締めるが良い』

「言ってろ。お前こそ俺の事見くびり過ぎだって思い知らせてやる」

 

 ――そして、結果は御覧の有様である。

 

『おい小僧。今どんな気分だ? あれだけデカい口を叩きながら、この様な醜態を晒した気分はどうだ? フッフッフッ……確か? 見くびり過ぎ? だったか? ン? おい小僧。もう一度言ってみよ。今なら我を見上げての発言許してやるぞ? 鼻っ面折られたクソガキの面を、よくよく見ておきたいからなぁ?』

「っ! っ! っ!」

「ど、どうしたのイヴくん!? そんなに顔を真っ赤にさせて! それに、凄い表情になっている!? だ、大丈夫よ? これから一緒に頑張りましょう! 勉強の休憩の合間に強くなりましょ?」

 

 魔王の事を知らないシャルロットは、突然イヴが奇行を始めたようにしか見えずに慌てて宥めようとする。

 反対にユーリはイヴの反応から、魔王が物凄く気持ちよく煽り散らしているんだろうなと予想し、大正解だった。

 

「(シャルが近くに居る時は控えて欲しいんですけどね)とにかく、お二人とも正隊員になる為には課題がある事がよく分かりました。今後はその点を留意しつつ訓練に励み、知識を深め、試験に挑んでください」

 

 ユーリの言葉に二人は返事をした。イヴは元気なかったが。

 よっぽど自信があったのだろう。何処か他の新入隊員と自分は違うと考えていたのかもしれない。おそらく魔王はその辺りを察して、今回の様に盛大に恥をかかせた。

 ……ただ煽りたかった可能性もあるが。

 とにかく、イヴは良い経験をしたと言える。正隊員になるまでにはまだまだ学ぶことがたくさんあるという事を理解しただろう。特に座学方面を。

 

 

 

「――おいおい。泣きたいのはこっちの方だぜ?」

「……あ?」

 

 突然イヴに向けて悪意の乗った言葉が投げられた。 

 視線をそちらに向けると一人の少年が、イヴをニヤニヤと嗤いながら見下していた。

 誰だろうこの人。3人が見覚えない少年に眉を潜めてそれぞれ思い出そうとするも、全く思い出せそうにない。首を傾げて顔を見合わせて、知らないね、と首を横に振った。

 その態度が気に喰わないのか、少年は突如怒りを露わにして叫んだ。

 

「ケイムスだよ! 知らねぇのか? 今期入隊隊員の最優秀成績者の!」

「知らないわね」

「知らん」

「……ああ、そういえば掲示板に名前が記載されていましたね」

 

 伝達事項が張り出される場所には、入隊式の1週間後に毎回最優秀訓練生の名前が張り出される。これにより優越感を与えてより訓練に身を費やして欲しいというGUARDの目的が透けて見えた。

 そしてこの少年は見事その策略に乗っている者で、しかし不満があるらしく忌々しそうにイヴを見ていた。

 

「お前、使徒をヤる試験でズルしただろ」

「は?」

「このオレがスラム街のテメェなんかに劣る訳ないだろうがっ!」

 

 散々な成績を残したイヴだが一つだけ好成績を出した訓練がある。それが使徒殲滅速度測定試験である。

 この訓練はその名の通り用意された使徒を如何に素早く使徒を倒せるかを計測する訓練である。

 用意される使徒はミノタウロスとオーク合わせて5体。魔錠(シリンダー)と訓練室に刻まれている術式にて再現された使徒はリアリティがあり、イヴは思わず戦場での動きを思い出して殲滅した。

 訓練を終えてユーリに聞いた所、訓練で出る使徒は【創造】で作られた模倣体でありあの訓練室でしか造る事ができないらしい。なので万が一が起きる事は無いとの事。

 

(あの訓練で後れを取る事自体、イヴには難しいと思いますが……それよりも)

 

 実戦でユーリ以上の動きを見せてキャスパリーグを圧倒したイヴが、今更捕縛タイプ相手に手間取る事はない。その点を考慮するとし訓練結果1位は妥当と言える。

 それよりも、だ。

 ユーリはケイムスの言葉に許容できない単語があり、自然と彼に向ける視線は厳しいものとなっていく。

 

「ケイムス訓練生。今の発言はどういう意味ですか?」

「どういう意味も何もそのままだよ」

 

 ケイムスはイヴを見下して、食堂に居る他の隊員に聞こえる様にデカい声で語り出す。

 

「GUARDは選ばれた人間が入る事ができる組織だぜ? それなのに場違いにもスラム街出身の劣等遺伝子持ちが紛れ込んでいる。みーんなそう思っているぜ?」

 

 彼の叫びに呼応するように、ヒソヒソと同意の声が聞こえ始めた。

 何で居るんだよ。あいつの言う通りだ。さっさと元居た場所に戻れ。目障りだ。

 訓練生、正隊員問わずにイヴに向かって悪感情が突き刺さっていく。

 差別意識は根深く浸透しているようであった。スラム街の人間は自分たちとは違う。そうでなければならない、とそう信じ込んでいた。

 

「だからお前がたった一つの訓練でも、オレより上ってのはあり得ないんだよ――文字も書けない猿が。元鍵無しだった癖に調子に乗るなよ」

 

 ズイッと顔を近づけて嘲る様にイヴを挑発するケイムスに対して――返されたのは冷たい表情だった。

 いやむしろ――憐みの目。

 至近距離でソレを向けられたケイムスは一瞬呼吸を忘れ――バチンッと頬を打たれるまで一人の少女の平手打ちに気付けなかった。

 

「イヴくんを悪く言わないで! 生まれが何よ! むしろアナタみたいな性格の悪い人がGUARDに入れる事自体がおかしいわよ!」

「いてぇ……!」

 

 頬を抑えるケイムスに怒りを露わにするシャルロット。

 イヴは以前からシャルロットは真っ直ぐ過ぎるなと思っていた。

 彼は正直ケイムスに対して関心を持てなかった。見下されるのは慣れていたし、こうなっている現状はGUARDがそうなる様に仕組んだ結果であり、言わばこの少年も犠牲者の様なものだ。

 だから言いたいことを言わせておいて、満足すれば帰ってくれれば良いと思っていた。だからシャルロットが代わりに怒り手を上げたことに少し面倒な事になると感じ……同時に彼女の言葉に、想いに、優しさに嬉しく思った。

 そしてシャルロットと同じ様な人間がもう一人居り、その少女はイヴが聞いたことのない冷たい声でケイムスに告げる。

 

「――去りなさい。私たちに、貴方の醜い嫉妬に付き合う道理はありません」

「ちっ……くそがっ! スラム街出身の男は、女に守られて恥ずかしくねぇのかよ!」

 

 しかしイヴは反応を示さず。

 

「ああ、それとも? その女顔だから守られる存在だって思われているのか? 良い身分だな」

 

 みんな同じような事しか言わないんだな、とイヴはさっさと去ってくれと聞き流した。

 

「これだけ言われても反応を示さないとか、お前男じゃねぇだろ」

 

 ケイムスは言葉を続けるが、全く無意味だと流石に理解し苛立ちが募る。

 いつか泣かしてやると誓い、彼は舌打ちをしながら食堂の出口に向かった。

 

「情けねぇ……この童貞野郎が」

 

 

 

「おい」

 

 ケイムスは肩を強く掴まれ、強制的に振り返らされると。

 

「俺は童貞じゃねぇ!」

「ぐはっ!!」

 

 思いっきり顔面をぶち抜かれた。

 

『えぇ……』

「えぇ……」

「えぇ……」

 

 そこで怒るんだ、と若干3名が引いていた。

 一方ケイムスは体が吹き飛び、先ほどヒソヒソと遠巻きに同意し嗤っていたギャラリーを巻き込んで倒れ伏した。

 魔力を込めていないので死にはしないが、物凄く痛いだろう。おそらく鼻は折れている。

 

「……数々の暴言に流石に俺もイラっとした」

 

 いや絶対童貞って言われたからだろ……。

 誤魔化す様に呟かれたイヴの言葉に、その場に居た全員が心の中で突っ込みを入れた。

 しかし殴られたケイムスは別で、彼は鼻血を流しながら起き上がり、巻き込んだ他の隊員たちをどけて立ち上がると、イヴの胸元を掴みかかった。

 

「テメェ……決闘しろ!」

「けっとう?」

「元々するつもりだったが、容赦しねぇ! 明日の午後の訓練後、対人戦闘室に来やがれ!」

 

 その言葉に――イヴはニヤリと笑みを浮かべた。

 

 ポイントを溜める方法は、実は訓練で好成績を出す以外にも一つ方法がある。

 それは訓練生同士のポイントを賭けた決闘である。

 両者の同意があれば特定の訓練室で戦闘を行い、その勝者にポイントが割り当てられる。その際のダメージは医務室と同様の術式で瞬時に回復できるが――時に事故は起きる。そしてその際の事故の責任を取るのは敗者であり、死人に口なしであり、加害者に課せられるのは謹慎程度である。

 正隊員になると殺害行為は明確なペナルティとなるが――訓練生同士だと異なる。

 つまり合法的に気に入らない者を殺せる方法であり、ケイムスはそれを狙っていた。

 

『弱い者はいずれ死ぬから問題ない――そういう思考か』

 

 魔王は歪なこのルールの根幹を理解しており、吐き捨てる様に呟いた。

 当然イヴは魔王の声が聞こえており、ケイムスの考えている事も理解している。

 それでも大量の得点ゲットのチャンスには変わらない。

 

「喧嘩は得意なんでね。良いよ、ヤろうぜ」

「後悔させてやるからな……!」

 

 捨て台詞を吐いて走り去るケイムス。

 おそらく医務室で折られた鼻を治しに行くのだろう。情けない背中だとイヴは鼻で笑った。

 

「イヴ?」

「――」

 

 しかしそんな彼も、人の事を笑っていられない。

 ガシリッと背後から肩を強く握り締められた。先ほどのケイムスの様に。凄く振り向きたくないなとイヴは冷や汗を掻く。

 

「少々お時間よろしいでしょうか?」

「よろしくないです」

「ありがとうございます。ではこちらに」

「よくないって言ったよね!?」

「シャルも言いたい事が山ほどあるそうです。良かったですね」

「良くない!」

「イヴくん? 諦めてね?」

 

 こうしてイヴ達も食堂を後にし、しばらくして何処かの部屋で彼の悲鳴が上がった。

 そして今回の騒動は瞬く間に南支部に広がり、翌日の決闘ではたくさんの見物人が集う事を誰も知らなかった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。