スラム街の悪ガキ、天上天下唯我独尊系魔王様と相乗りする   作:カンさん

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第6話『スラム街の悪ガキ、下剋上を成す』

 

「んー……」

 

 隊長室にて、レインは報告書を見て唸っていた。

 彼女の想定ではイヴは入隊して7日で直ぐに正隊員に上がると思っていた。しかし実際は試験には落ちて、訓練でも成績が振るわない。

 ローリンの時の様には行かないか、と思わずため息を吐いた。

 

「私としては初めから正隊員で良かったんだけど……」

 

 しかし、ただでさえ保護区出身者への差別意識が強いこの支部で、イヴを特別待遇してしまえば組織内の軋轢は悪化するだろう。

 だから彼には正規ルートで力を周りに知らしめて欲しかったのだが……魔王が居てあの程度なのか? と不安になる。ローリンから受けた報告との印象がかけ離れている。

 それとも魔王が何もしていないからこその、この成績なのだろうかとレインは眉間の皺を揉んで混乱する考えを鎮める。

 とりあえずユーリとイヴは行動を共にしている。現状は監視に留めたら良い。あれ以来エリア外で蓋門(がいもん)が開いていないのが気になるが……。

 

「このままだとまた彼らが裏切り者候補としての可能性が……」

 

 行動を制限されていたから蓋門(がいもん)を開けない、という見方ができてしまい、暴走してイヴを害する者が出てくるかもしれない。ただでさえ一度彼が裏切り者という噂が流れてしまったのだから。

 それを払拭するにはイヴが無害だと周囲にアピールしなければならない。それが裏切り者を見つける近道となるのだから──。

 

「……でも、やっぱり」

 

 イヴがGUARDに来てから発生しなくなった蓋門(がいもん)

 彼が裏切り者だというイヴを貶める噂の拡散。

 イヴがスラム街出身だという情報が共有されて差別的な目で見られているこの状況。

 

 レインはそれがどうしても裏切り者がイヴを消そうと必死になっている様にしか見えなかった。

 

 それから暫くして、レインは明日、イヴが成績最優秀の訓練生と決闘をする報告を受けた。

 

 

 

 

「眠たい……」

 

 ユーリとシャルロットに説教をされたイヴは寝不足なのか、目を擦りながら昨日指定された訓練室に向かう。

 二人とも命を落とす可能性のある決闘を簡単に受け入れた事に相当怒っていたようで、日が変わっても二人の怒りは収まらなかった。

 ユーリによる正論攻めとシャルロットの感情の込もった泣き落としはもうコリゴリである。

 

 尤も、イヴは決闘を辞めるつもりは毛頭ないが。

 

「よく逃げずに来たな」

 

 訓練室に辿り着くとそこにはケイムスが既にいた。イヴに向かって慢侮の視線を送っている。これから彼をどの様に弄んでやろうか、と下卑た考えが透けて見える。

 正直それはどうでも良い。

 気になるのは既に集まっているたくさんのギャラリーである。昨日の騒動を聞きつけてやって来たのだろう。興味津々にイヴ達を見ていた。

 とある事件により決闘をする訓練生が居なくなって、初めて見るもしくは久しぶりに見る決闘が楽しみと感じる者が3割。後はスラム街出身のイヴの醜態を楽しみにしている者がほとんど。通りで気に入らない視線が多いなとイヴは舌打ちした。

 

『何処に行っても人気者だな貴様は』

「そんなに気に入らねぇのかね」

『その辺りはGUARDのせいとしか言えんな。命を捨てて使徒と戦うのなら、大いに優越感に浸って貰おうという魂胆だろう』

「そんな心意義で戦っていけるのか……?」

 

 イヴのその言葉に、魔王はさぁなと答えつつ。

 

『まぁ、奴らが欲する戦力に、尊い信念や聖人染みた性格も不要だという事だ』

「力だけ、か。」

『むしろ小娘どもが少数派と言える。良い縁に恵まれたな』

 

 イヴがチラリと視線を向けると、ギャラリーに交じって心配そうにこちらを見るシャルロットといつもの澄ました表情を浮かべるユーリが居た。

 シャルはともかく、ユーリのそれを――理解したイヴは思わずため息を吐いた。だったら説教しなくても良かったじゃん、と。

 

 でも、まぁ、やる気は出た。

 

 イヴは視線を戻し、真っすぐとケイムスを見据えて歩みを進めて彼の前に立つ。

 

「性懲りもせず、今日もズルをしたようだなスラム街のクソガキ」

「あれが俺の実力だって考えないのか?」

「は? あれが? お前の実力? ――あはははははっは! お前マジで言ってんのか!?」

 

 イヴの言葉が心底おかしかったのかケイムスは大声で嘲笑った。

 ギャラリーにもイヴの言葉が聞こえたのか、彼を快く思っていない者たちも嘲笑う。

 

「そんな訳ねーだろ! お前、自分の(ゲート)の開放率がどれくらいか知っているのか?」

「あん? 確か……8%だったか?」

 

 初めての座学の講義の際に、(ゲート)の開放率に対する測定が行われたのを思い出すイヴ。

 開放率に伴う基礎魔法の取得を教える際に必要な事だったのだが、どうやら今期入隊した訓練生の中でイヴは最も開放率が低かったらしい。

 10%のシャルロットには気にしないで、と慰められたが、何処か釈然としなかったのをイヴは覚えている。

 

「そうだ! たった8%しか開いていないお前がオレより優れている筈がねぇんだ」

「そんな事言われても結果は出ているだろう」

「それが不正だって言っているんだ! ……良い事を教えてやる。オレの(ゲート)開放率は――20%! お前の倍以上だ!」

 

 自信満々なケイムスの言葉を聞いて、外野にてユーリは密かに驚いていた。

 一般的な正隊員の開放率は20%。つまり彼は正隊員と同等の力を持っている事になり、訓練生で既にそこまで至っているのなら即戦力に成り得る逸材だ。今期最優秀訓練生に選ばれているのも納得である。

 

「すぐに術式を取得し、オレはたくさんの使徒を殺す! テメェみてぇな弱いスラム街出身者は引っ込んでいろ!」

「……使徒を殺したい気持ちは本当みたいだな」

 

 そして自分は戦う者であり、スラム街……保護区の人間が戦うのは異常だと認識している。

 GUARDの印象操作の賜物か、もしくは彼の境遇か――。

 差別意識はある。イヴを侮っているし、GUARDから追い出したい気持ちも強い。

 はっきり言って嫌な奴だ。他者を思いやる気持ちが全くない所が余計にそう感じさせる。

 

「別に俺はアンタより目立ちたい訳でも、都出身者のテメェらの鼻を明かしたい訳でもねぇ」

「ああん?」

「俺がGUARDに入ったのは許せない奴らが居る。そいつらをより多く殺したいから此処に入った」

 

 イヴは胸元から自分の魔錠(シリンダー)を取り出した。

 

「だからさっさと正隊員になって、できるだけ多くの使徒を、蓋界(がいかい)の奴らをぶっ殺してやりてぇんだ」

 

 魔力を込めると彼の両腕の籠手が装着され、拳に力が宿る。

 

「その為には――お前を超えていく」

「言ったな――雑魚の癖によぉ!」

 

 ケイムスもまた己の魔錠(シリンダー)を起動させ、両手に拳銃が出現し握り締める。

 

「俺の糧になれ優等生」

「塵にしてやるよ劣等生!」

 

 ――決闘開始。

 訓練室に備えられた自動音声が二人の魔錠(シリンダー)の起動を確認し、戦いの合図が送られる。

 

 

 

「喰らいな!」

 

 ガン! ガン! と先制攻撃をしたのはケイムス。魔力弾を二発放ち、それをイヴは籠手で殴り付けて逸らした……が。

 

「籠手が砕けた……!?」

「当たり前だろうが!」

 

 身体強化の魔法を行使し、一気に距離を詰めたケイムスの拳を受け止めるが……重い。衝撃が全身を駆け巡り、しっかりと踏ん張ったにも関わらず後ろに吹き飛ばされてしまう。

 

(ゲート)の開放率はそのまま戦闘能力の差! オレとお前には圧倒的差がある!」

「……」

「雑魚がオレの一撃を耐えられる訳ないだろうが!!」

 

 ケイムスは腹部に向けて思いっきり蹴りを放ち、それに合わせる様にイヴも蹴りを繰り出して、ぶつかり合った衝撃で両者が吹き飛ぶ。

 しかしダメージを受けたのはイヴのみであり、彼の足から鮮血が舞う。身体強化の魔法で骨は折れていないが肉は裂けている。

 

「その程度の傷でこの決闘は終わらせねぇぞ」

 

 そう言ってケイムスは二丁拳銃を構えて乱射を始めた。

 受ければダメージを受けるのは先ほどの防御で学んでいるイヴは、今度は回避行動に移る。訓練室を駆け回り襲い来る弾丸から逃げ続け、床や壁の破壊音が響き渡った。

 

「ユ、ユーリちゃんやっぱり止めようよ!」

「何故ですか? そんな事をすればペナルティが発生しイヴとあなたのポイントがあの男に譲渡されます」

「そんな事良いよ! このままじゃイヴくんが本当に死んじゃう!」

 

 シャルロットは限界だった。イヴの足から鮮血が舞った時など卒倒してしまいそうになり、今も顔を青くさせて涙を浮かべている。

 昨日あれだけ言ったのに決闘をすると頑なに譲らなかったイヴに根負けしてしまった自分に怒りを覚える程に後悔している。何とかイヴの命を救いたいと同じ気持ちであろう友達に助力を願う。しかし……。

 

「シャル。貴女はイヴと行動を共にするようになって日が浅い……いえ、私も人の事を言えませんが」

「何を言っているの!?」

「簡潔に述べますと、此処で決闘を止めれば彼に軽蔑されます」

「――命が助かるなら良いじゃないっ」

「ええ、そうですね。私も同じ気持ちです――彼がこのまま負けるなら」

 

 決闘を受けたイヴに対して怒りを覚えた二人には一つだけ違う所がある。

 

 それは、イヴの勝敗。

 

 シャルロットはケイムスと同じように(ゲート)の開放率から、イヴが勝つことは難しいと思っており、始まってからは負けると確信した。開放率の差が彼女の想定以上に大きく、はっきり言って死ななければ御の字と思っている。

 反対にユーリは確かに昨夜ずっと説教をしていたが、彼女はイヴの敗北の未来を全く信じていない。常識的に考えれば開放率に差があれば低い方が負ける。

 

 例外が無ければ。

 

「シャル。貴女は彼の使徒との戦闘は見た事がありますか?」

「え? う、うん。合鍵(バディ)だもの。当然だわ」

「その光景を見てどう思いましたか?」

「どうって……分からないわよ。だって()()()()()()()()()()()()()()

 

 使徒殲滅速度測定訓練1位であるイヴの記録は――0.6秒。2位のケイムスは5秒である。

 正直、シャルロットはイヴが不正を行っているとは思っていないがあの戦闘訓練の結果には疑問を覚えている。

 何か術式のトラブルかバグが起きているのではないか? と内心思っており、ケイムスが怒っていたのも納得はできないが理解はできる。

 その責任の所在をイヴに求めるのは気に喰わないが。

 シャルロットの見解を聞き、ユーリは「なるほど」と前置きをして一つ尋ねる。

 

「先日と今日、どちらもそうだと思っているのですか?」

「……違うと言うの?」

「はい。……彼は先日のエリア外の蓋門(がいもん)発生事件にてほぼ単独でキャスパリーグを討伐し、また動きを見切って翻弄していました」

「――え?」

 

 ユーリの言葉を聞いてシャルロットは己の耳を疑った。

 あり得ない。何故ならキャスパリーグの討伐推奨(ゲート)開放率は20%。どう頑張っても未だ開放率が8%のイヴが適う敵ではない。

 しかし彼にその様な常識は通じない。

 

「シャル、安心してください。貴女の合鍵(バディ)は規格外です。それこそ――」

 

 人類最強の魔鍵師(ウォーロックスミス)達にいずれ届き得る可能性を秘めている。そう確信できる程度には。

 

 

 

「くそ! 何で当てられない! お前程度の身体強化で避けられる速度じゃねぇぞ!」

 

 苛立ち交じりに吐き捨てられたケイムスの言葉は間違っていない。開放率20%の弾丸は、一般人では知覚する前に撃たれて、痛みで漸く気付く速度だ。

 彼から見ればイヴは一般人に毛が生えた程度の存在で、だから何度撃っても避けられているこの現状がおかしいのだ。ダメージを与えられたのは初撃のみで、当たる気配が全くない。

 

「キャスパリーグよりも早いな」

「っ――!」

 

 焦り始めたと同時にイヴがケイムスの懐に入り込む。

 慌ててケイムスは銃口を向けて魔力弾を放つが、既にイヴは顔を逸らして避けていた。

 

(そうか、コイツーー)

 

 弾丸を放つ前に避けていたのだ。だからケイムスの射撃が全く当たらない。

 避けられていた理由が分かったが、さらに別の疑問が浮かび上がる。どうやって自分の攻撃を察知している? とケイムスは混乱する。

 

 答えは簡単だった。

 

『(小僧はスラム街で喧嘩慣れしたクソガキ。幼く、小さく、弱い子どもが、格上の大人を負かし、生き残る為に培われた対人戦闘の経験はその辺の温室育ちよりはある)』

 

 故に相手の視線、銃口の向き、指の動きからイヴはケイムスの動きを予測していた。

 

『(それにしても初見の武器にこうも容易く順応するとはな)』

 

 イヴは銃を知らない。故に相手の敵意を元に弾丸を払いのけてダメージを受けてしまった。その()()を糧に回避が最適解だと判断し、対処した。

 

「くそ、何なんだよお前! またズルしてんのか!」

 

 ガン! ガン! と撃ち続けるケイムスの弾丸を避け続け、イヴは身体強化の魔法を使い地を蹴った。瞬間、まるで最初からそこに居た様に彼の背後15メートルに移動した。

 

「あれ、居ない!?」

 

 当然ケイムスは彼の動きを見切る事ができずに動揺する。しかし動揺したのは彼だけではなかった。戦闘を眺めているギャラリー全員がイヴの動きを見切る事ができなかった。

 彼らから見てもイヴが突然瞬間移動した様にしか見えず、しかしそんな魔法は知らない。

 術式なら可能性があるがイヴの開放率はそこまでに至っていない。

 シャルロットも混乱し、知っているであろうユーリに問い詰めた。

 

「ユーリちゃん、あれが貴女がイヴくんを信じていた理由!?」

「何アレ知らない……」

「ええ!?」

 

 何で知らないの? とシャルロットが驚き、何で知っていると思うんですか? とユーリの視線が交じり合う。

 ユーリ、特に根拠なくイヴを信じていただけだった。

 

『(器用な事をするなこやつは)』

 

 そして魔王は当然イヴが何をしているのかを把握していた。

 

『(身体強化の魔法を右脚のみに集中させているな。それも地を蹴るその瞬間に)』

 

 おそらく響門(レゾナンス)の経験を応用したのだろう。魔力の移動と肉体の動きが合わさった結果、ただ動くよりも素早い動きを可能にしていた。

 さらに驚きなのはその移動速度で肉体にダメージが行かない様にすぐさま全身に魔力を巡らせている点だ。

 卓越した魔力操作が無ければ成しえない技だ。

 魔王はそんなイヴに昔の自分を重ねて、思わず口角が上がる。

 

「――っ」

「ぐっ、また!?」

 

 再び相手の懐に入り込むイヴ。しかし今度はケイムスも予想していたのか、魔力弾を放つのではなく全身に魔力障壁を展開した。

 これなら先ほどの瞬間移動をされ、知覚できないスピードで何処から攻撃されてもダメージは通らない。妙な技を使われていようと開放率の差で彼の拳は届かない。そう考えているのだろう。

 

『(教科書通りの賢い選択――だが、このクソガキにそんな常識は通じんぞ?)』

 

 イヴはその場でギシリッと拳を握り締める。

 

『(もし貴様が消えた小僧を探すのに躍起にならず、もっと周りを――小僧の踏みしめた地面を見ていれば予測できたであろうにな)』

 

 魔王の視線の先には、イヴの足跡の形で陥没した床があった。

 創造の術式で作られた頑丈な床の、だ。

 勝負は既に決した。魔王は少なかった興味をさらに失った。さっさと終わらせろ小僧、と退屈そうに心の中で言いながら。

 

「死ぬほど痛ぇと思うが――喧嘩吹っ掛けたのはテメェだ」

「は?」

「俺の勝ちだ」

 

 最後にそう言ってイヴは拳を解き放ち、魔力障壁と激突する瞬間に魔力を拳に集中。

 するとケイムスの魔力障壁はまるでガラスが割れる様に簡単に砕かれ、そのままイヴの拳は彼の腹部に突き刺さり――全ての衝撃が彼の体の体内に留まり、体の組織が破壊されたケイムスは盛大に血を吐きながら気絶した。

 

「ああ、シャル。一つ言い忘れていました」

「……何?」

「私は確かにイヴの事も多少心配していましたが――それは相手を殺してしまわないか」

 

 その点に限っては物凄く心配していました。

 彼女の言葉を何処か遠のいた意識で聞きながら、シャルロットは決闘の行く末を茫然と見ていた。

 

 k勝者イヴ。

 

 

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