スラム街の悪ガキ、天上天下唯我独尊系魔王様と相乗りする 作:カンさん
ケイムスは内臓を破壊されている疑いがある為、医務室へと運ばれて行った。
それを見送るイヴの横顔を見て、シャルロットは初めての衝動に襲われていた。かつて自分を助けてくれた少女やイザベラへの憧憬とは違う感情。
少女はソレをまだ知らない。
「あ……」
勝利を収めたイヴはシャルロットとユーリの方へと向くと、少年らしい快活な笑顔を浮かべてサムズアップをする。
そんな彼を見てシャルロットは――赤面した。
ユーリはそんな彼女の変化に気付かず、満足そうにサムズアップし返す。
「負けちまったぞ?」
「スラム街の劣等生に負けるとかあり得ないな」
「成績最優秀ってのもマグレかもな」
口々に罵られる決闘を終えた者たちに対する心無き言葉。
誰もが勝利したイヴへの真実よりも、敗者への疑問に夢中だった。
いや、目を逸らしたかったのかもしれない。守るべき存在。見下していた存在であるスラム街出身者を認められない故に。
騒めくギャラリーに対してユーリもシャルロットも不快感を露わにする。
「――で。次は誰が戦ってくれるんだ?」
その騒めきを止めたのはイヴの一言だった。
ピタリと静かになったこの部屋で、彼の言葉だけが嫌に響く。
「ああ、居ねぇか。此処に居るのは実力の伴わない雑魚しか居ねぇからな」
「――」
瞬間、爆発するギャラリーたちの罵詈雑言。
「ふざけるな劣等生!」
「まぐれで勝ったからと言って調子に乗りやがって!」
「お前なんか俺達に適う訳ないだろう!」
怒り狂った彼らの顔は真っ赤で、しかし反対にイヴはとても良い顔をしていた。
あの顔は絶対に何か企んでいるな、とユーリは痛む頭を抑える。シャルロットはとんでもない事になったと先ほどとは逆に顔を真っ青にさせる。
笑みを浮かべたイヴは、自分に敵意を向けるギャラリーに叫ぶ。
「だったらこれから午後の訓練後、俺に決闘を申し込みな! もちろんポイントを賭けてな――最も、俺に負けるのが怖いなら無しでも良いぜ?」
「んな訳あるか!」
「全ポイント賭けてやらぁ!」
「何ならいますぐ戦ってやるよ!」
彼らの良い反応にイヴは満足気に頷く。
計画通りだ、と。
イヴはチマチマと訓練でポイントを稼ぐつもりは毛頭なかった。だから決闘でポイントを荒稼ぎする事は説明を受けた時から考えていた。
しかしスラム街出身の彼と真面に取り合う訓練生が居る筈もなく、さらに決闘自体行う者が居なかった。
だからケイムスの申し出は渡りに船で、さらにこの状況も彼にとって追い風となりイヴの望む展開となった。
「決闘の申し込みは前日にしかできないだろ? 続きは明日からだ――ポイント減らされても良い奴だけ掛かってこい」
「「「――!」」」
こうしてイヴは無事に南支部の嫌われ者となった。
「何か申し開きは?」
「反省も後悔もしません」
「シャル、ブロックを追加してください」
「分かったわ!」
「分かったわじゃなくてシャルさん助け――いだだだだだだ!?」
現在、イヴは自室にて拷問を受けていた。
冷たい床に正座させられ、その膝の上に重たいブロックを乗せられている。
そして床以上に冷たい視線でユーリに見下されていた。ちょっぴりチビッた。
さらにシャルロットは頑なにイヴを見ようとしないでの、それがさらに彼を追い詰める。童貞は女の子に冷たくされると死んでしまう生き物なのだ。
「貴方の狙いも分かりますが、もう少し穏便にできなかったのですか?」
「痛い……いや、穏便にやったら相手は油断しないだろ?」
「……どういう事?」
シャルに問いかけにイヴは先ほどのケイムスとの戦いを思い出しながら語る。
イヴが彼に勝てたのはケイムスに戦闘経験が全くなかった点にある。魔力弾生成の適正があり、銃型
「それに最後俺がアイツの防御貫けたのも全方位に展開して障壁が薄くなっていたからだ」
もし攻撃に合わせて魔力障壁を一点集中に展開されていれば、イヴの攻撃は届かなかった。それだけのスペックの差が両者にあった。
何よりケイムスはイヴを終始見下し、油断し、手加減していたからこそ、こちらのペースに巻き込んで勝つことができた。
「強い奴が油断しなかったら勝てないからな」
「それじゃあ、あの必要以上の挑発は……」
「ん。そういう事。精々見下し、油断し、怒りに我を忘れて俺のポイントを譲渡してくれって訳よ」
なるほど、とシャルロットはイヴの目的を理解し素直に感心する。自分では思いつかなかった事だ。昨日の食堂で因縁を付けられてそこまで考えていたのかと。
……でも童貞って言われて怒り狂っていたような。
とりあえずその事については今は忘れる事にして、シャルロットはそういえばとユーリを見る。
彼女はイヴのその狙いを知っている様子だった。
それで尚、快く思っていないのでとりあえず折檻をしている。
「……その様に策略を巡らせる所、イーヴァルディに似て来ていますね」
イヴは物凄く嫌そうな顔をした。
『ふん。あの程度策略とも言えんがな。ただのガキの悪知恵よ』
イヴはさらに嫌そうな顔した。
「イーヴァルディ? 誰?」
「そうですね……イヴの父親みたいな方ですね」
「ユーリ、滅多な事を言うな」
『こやつが倅だと心労で胃に空きそうだな』
「……っ!」
シャルロットはまたイヴがイラついた顔をしているのを見てとそっとする事にした。
ユーリは魔王が念話を使っていない為彼が何を言っているのか分からないが、何となく察した。
イヴの百面相が面白いのでもうしばらく見ていたいが、とりあえずユーリはブロックを追加した。
「何で!?」
「いえ、反省が見られないので……」
「理由は教えたじゃん!」
「それとこれとは話が別です。私たちを心配させた咎、しっかりとその身にきぞみこんてください」
イヴが解放されたのはそれから1時間後だった。
夜になると辺りは暗くなる。食材や空気だけではなく、かつて存在した太陽と月が空に存在した時間もまた『創造』で造られている。
暗くなった空を見上げると
しかし、屋根に一人空を見上げて夜風に体を涼める者が居た。シャルロットだ。
彼女は時折こうして外に出ては造られた夜の世界を見上げ、想いを馳せる。
「眠れないのか?」
「イヴくん?」
しかし今日は彼女一人だけではなかった様で、イヴがシャルロットの隣に座る。
7日以上一緒に居たからか、初めて会った時の様な緊張感を抱くことなくイヴはシャルロットと接する事ができる様になっていた。
彼女がユーリ同様に心根が優しい人格者だったというのもあるだろうが。
反対にシャルロットはイヴと二人っきりというこの状況に昨日までには感じなかった緊張感を強く抱いていた。
顔が熱くなり心臓の音が嫌に大きく聞こえる。風邪でも引いたのだろうか? と思いつつも――嫌な感覚ではなかった。
「なぁシャル。俺の勘違いだったら良いんだけどさ……何か悩んでいる?」
「……どうして?」
「いや、単純にそういう顔をしているのを何度か見ていてさ」
そう言われてシャルロットは心配させてしまった事による申し訳なさと、彼に見られている事に喜びを感じていた。
どうしちゃったのだろう私、と己に戸惑いながらも彼女は誤魔化す事無くすんなりとその理由を述べた。
「私ね、戦いが怖いの」
「……」
「
憧れと月日にて忘れていたと、そう言い聞かせていただけだったのだシャルロットは。使徒への恐怖を。しかし、誤魔化し切れないトラウマは先日の事件であっさりと顔を出した。
「ねぇイヴくん。正隊員になるポイントが1万ポイント必要なのは知っているよね?」
「ああ、もちろんだ」
「それじゃあ、その内訳も?」
「え?」
「だからね――私に戦闘の才能が無くても、君が一人でポイントを稼いだらなれるんだよ――私が弱くても。正隊員に」
「――」
切磋琢磨し正隊員になる為の
しかしそれには意図した欠陥がある。一つは座学試験は簡単にクリアできる様に設定されている事。もう一つはポイントさえ溜めれば正隊員になれる事。
さらに、決闘を活用すれば短期間で正隊員になれる。
つまりGUARDは。
『元々そういう見通しだった、という訳だ』
「……?」
『主力となる原石の教育は二の次。本当は紛れ込んだ宝石を発掘する為の、精鋭となる者の選出を主目的にしている。
そしてその為なら――将来精鋭となる者の為なら他の者が自信喪失しても構わないし、実力に伴わない者が正隊員になって早死にしても仕方ないと割り切っている。
弱い者は正隊員になれず無駄に命を散らす事無く、そして戦場に立てずとも次の世代に繋ぐ母体としての役割を遂げる。
魔王から
「ごめん」
「え?」
「……俺が
その言葉を聞いてシャルロットは――ムッと頬を膨らませて怒った。
「ちょっと! 確かに私落ち込んでいるし、イヴくんがすぐに正隊員に慣れなさそうでこれでゆっくり強くなれると思ったのに、本当は凄く強くてすぐに正隊員になれそうで焦っているけど、貴方と
「本当? 割と鋭い言葉で突き刺されたんだけど」
デカい口叩いて醜態を晒した古傷を抉られて満身創痍のイヴ。決闘の時以上のダメージを受けていた。
「入隊式の時に、貴方なら良いわって言ったけど……今は貴方だから良いって思えるようになったのよ?」
「……? 何か変わっているのか?」
「んーもう! 全然違うわよ!」
何故かシャルロットは、イヴのその反応にポカポカと彼を軽く叩いて抗議する。
「私、本当は不安だったの。GUARDでやって行けるのかって。
「自分で言うんだ……」
「でもね? イヴくんとユーリちゃんと出会って、楽しい日々を送れたの。他にも友達できたし、思っていた以上にGUARDの生活が楽しかった。だから――」
シャルロットは――この楽しい時間を失うかもしれない恐怖に身を震わせる。
「私……戦うのが怖い。でもそれ以上にみんなと一緒に居られなくなるのが怖いの。私が死んだらもう会えない。笑えない。喧嘩できない。みんなが死んでもそれは一緒」
「……」
「だからみんなを守れるくらいに強くなりたいのに、それが難しくて……怖いって気持ちが無くならないし、それ所かどんどん強くなるし。私、どうしたら――」
「俺が守るよ」
「――え?」
月の光が二人を照らす。
俯いていたシャルロットがイヴへと振り向くと、そこには――強き意志を宿した瞳で彼女を見据える男がいた。
「怖いのなら俺が代わりに戦う。守りたいのなら俺も一緒に守ってやる」
「イヴくん……?」
子どもの夢物語の様な言葉。しかし感情が込められた言霊は聞く者に安心感を抱かせる。
まるで偉大な王が民草に安寧を齎すかのように。
「元々俺は使徒を全部ぶっ殺すためにGUARDに入った。たったそれだけのちっぽけな理由だ――だから、友達の想いを背負うくらいならできる」
「――」
「だから安心してくれ」
シャルロットの胸に何かが駆け巡った。その感情をやはり彼女は知らない。
しかし何故だろうか。目の前のイヴを愛しく思える。元々容姿の良い人間が好みであるシャルロットだが、彼に対してはそれ以上の想いを無意識に抱いていた。
だから。
彼女がトラウマを乗り越えて、彼と並び立ちたいと思うのは当然だった。
「――ううん! やっぱり私も戦う! 頑張る! 強くなる!」
「え?」
「でもありがとうイヴくん――私、本当に貴方と
「……あ、うん」
シャルロットに真っすぐな言葉と星の様に輝く笑顔を向けられて、イヴはドキリと胸を高鳴らせて赤面する。
「でも早速挫けそうなの」
そう言ってため息を吐いたシャルロットは、
「私、あまり身体能力高くないのに何でこっちの適正があるのかしら……」
「えっとそれって確か」
座学の基礎魔法にて既に習っている事なので、イヴは朧気ながらも覚えていた。
この魔力弾と魔力刃は、その者の適正により原則どちらかしか取得できない。
故にシャルロットもユーリと同じ剣型の
『この時代ではその様に分類されているのだな』
「(昔は違ったのか?)」
『大本は変わらんがな。魔力刃は魔力物質化。魔力弾は魔力エネルギー化と言われていた』
「(物質……エネルギー……なるほど?)」
『……大方、貴様の様にイメージし辛かったから今の様な伝え方になっているのだろうな』
刃と弾と伝えればすぐに取得できるが、逆に固定概念に囚われてしまう者もいる。
それを脱却できれば戦法も広がるが――目の前の少女にそれを求めるのも酷かと魔王は判断する。
『小僧。二つだけ、目の前の小娘に質問しろ』
魔王の言葉を聞いたイヴは怪訝に思いながらも、シャルロットに言われた通りの質問をした。
「なぁ、シャル。
「えっとあまりしていないわね。あ、でもお母様の真似事で弓は使っていたわ!」
「えっと、それじゃあ魔力刃の魔法でそれを――ああ弓じゃなくて矢は造れるか?」
「魔力刃で矢を?」
イヴの言葉を理解できず首を傾げる彼女に、彼は魔王に聞かされた言葉をそのまま伝える。
魔法は基本的にはイメージの具現化である。イメージがより具体的なら精密な魔法を行使できる。固定概念は捨てて自分だけの世界を広げる。
それこそが魔法の根幹だ。
「――って言ってた」
「言ってた? ……ああ! イヴくんのお父様ね?」
「やめてくれ」
『教えるんじゃなかった』
「……とりあえずやってみたら?」
「うん、分かった!」
そう言ってシャルロットは意識を集中させる。
彼女の頭の中で魔力で造られた刃が形成され、しかしそれが徐々に形を変えていく。次第にそれはシャルロットにとって見慣れた矢へと変わり、そして――。
「……できたわ」
「――凄い。凄いよシャル!」
「え?」
イヴは興奮した様子でシャルを褒め称えた。
魔力刃と魔力弾の生成は見た事があったが、魔力矢の生成は見た事なかった。
まさか本当にできるとは思わず、イヴは彼女の手を握って捲し立てる。
「ちょ」
「やっぱり初めての魔法を見ると興奮するなぁ。なぁ、もし俺も魔力刃の適正があったら教えて貰っても良いか?」
「……私が、イヴくんに?」
正直イヴに対して戦闘関係では適わないと思っていた。嫉妬も少ししていた。
だから彼からの申し出は物凄く嬉しくて。
「――うん! 約束よ!」
「ああ! あ、コレを使うなら
「そうね! ……ねぇイヴくん。私、本当に頑張るから。だから――」
約束守ってね?
彼女の言葉にイヴは頷いて応える。絶対にシャルロットを死なせない。守ってみせる、と。
そして彼女もまた誓った。彼の隣に立って戦うと。
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