スラム街の悪ガキ、天上天下唯我独尊系魔王様と相乗りする   作:カンさん

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第8話『スラム街の悪ガキ、正隊員となりて初めての任務につく』

 

 イヴが入隊して22日目。

 

「ようやく彼も正隊員になったかぁ」

 

 肩の荷が下りたと言わんばかりにレインが息を吐いた。

 イヴがケイムスと決闘をして5日後にはポイントは1万を超えた。しかし座学の試験に落ちてしまい、そのまた次の試験でようやくクリアしたのだ。

 正直正隊員に上がる速度としては一般的な正隊員と同じくらいだ。

 

「でも逆に良かったのかもね」

 

 そう言ってレインが見るのはイヴの成績表。試験に合格する前に受けた実技の訓練ではイヴは全てを1位を取っていた。さらに彼の合鍵(バディ)である少女シャルロットもそれに追従する様に好成績を取っている。座学は得意だが実技は苦手。そんな印象を持っていた魔鍵師(ウォーロックスミス)だったが、今は基礎魔法の理解を拡張しており……思わぬ拾い物をしたとレインは満足している。

 さらにイヴにボコボコにされた彼と同期の訓練生達はイヴへの対抗心から実技訓練以外でも自主訓練をしており全体的な実力が上がっている。イヴにポイントを搾り取られてなければ、通常なら2週目には正隊員になる逸材が育った。

 特にケイムスは将来精鋭になる事が確定する程に優秀で、近々術式の取得も視野に入ってる程。

 とても喜ばしい事だ。

 だが――喜んでいられない事もある。

 

「おめでとうって言葉だけしか言えないのも支部長の辛い所だね」

 

 エリア外蓋門(がいもん)発生事件が起きてしばらく経つが――イヴが入隊と同時にエリア外の蓋門(がいもん)は終息していた。

 つまり、エリア外に蓋門(がいもん)に開かせた裏切り者として最も疑われているのはイヴである。

 

 

 

「呼び出されたかと思えば……」

 

 イヴはレインに支部長室に呼ばれて、本部の見解を彼に正直に伝えた。

 はっきり言って的外れも良いところである。疑われている本人からすれば。

 しかし、状況証拠的にエリア外に蓋門(がいもん)が発生していた現場に常に居た人間が、GUARDに入った途端に発生しなくなれば誰もがその人物を疑うのは当然と言える。

 

「私個人で言えば君はシロだと思っているの」

【こういう時、上に立つ者は中立的な発言をするべきだぞ小娘】

 

 ピシャリと魔王に発言を切って捨てられ、シュン……っと落ち込むレイン。

 そんな彼女を不憫に思ったのか、イヴは話題を変える為に魔王に話を振る。

 

「そういうお前はどう思っているんだ」

【裏切り者の正体か? そうさなぁ……】

 

 魔王はニヤリと笑みを浮かべ。

 

【そこの小娘はどうだ?】

「え!?」

「私!?」

【この支部で最も地位が高く、本部への報告も己の裁量でいくらでも変えられる。裏切り者としてはこれ以上ないほどにGUARDにとっては脅威だ】

「ち、違うよ!? 私はそんな事――」

【――とまぁ、疑われた者は皆そう言う。真の裏切り者でもな】

 

 揶揄われていた事に気付いたレインが、顔を真っ赤にさせてイヴの中に居る魔王を恨めしそうに睨みつける。尤も二人からは可愛いとしか思われていないが

 

【くっくっくっ、すまんな。だが、誰が裏切り者か? と考え出してもキリがないぞ。術式の効果によっては星の裏側に真犯人が居たという事もあり得る】

「そこまで考えたらもう分からなくなるよ……」

【――だが、小僧が入隊と同時に事が収まった以上GUARD内に居るのは確実だ】

 

 魔王は裏切り者に対して少し呆れていた。今の状況になって隠匿する行為は、自ら居場所をこちらに教えているようなものだ、と。

 

【小僧に疑いの目を向ける目的もあったのだろうが、おそらく理由は別にある】

「理由?」

【盗み聞きしている奴の存在だ。察するに奴はこの支部内全ての音を聞き分けられる。違うか?】

「う、うん。コロちゃん……あっ、ローリンちゃんね? コロちゃんは術式の副効果で凄く耳が良くて、今自分の部屋に居るんだけど此処の会話も聞いていると思う」

 

 実際レインの言う通り彼女たちの会話は聞かれており、自分の名前が出て来て体を跳ねらせてベッドから転げ落ち、そのまま頭を打ち付けて悶絶していた。

 

【故に、奴の盗聴から逃れられない以上下手な行動ができんという訳だ】

「……」

【ん?どうした?】

「あ、何でもないよ! ……まさか、ね」

 

 レインの反応が気になりつつも話さない以上聞いても仕方がない。

 魔王は話を続ける事にした。

 

【それと我も魔力探知を建物内張り巡らせていたが、怪しい行動をする者は居なかった】

「なんか此処に入って怠いと思っていたらお前のせいかよ」

「そっかー……それじゃあ、裏切り者はGUARDには――」

【抜かせ。貴様らもGUARDに裏切り者が居ると確信しているのだろう。だから小僧に疑いの目が行くこの状況を好ましく思っていない】

「ぬぐ……」

【そして何より……】

 

 裏切り者は魔王の存在を知っている。

 その名を、その力を、その偉業を歴史から消されている存在である魔王を、だ。

 

【それで。小僧を呼び出したのはただ釘を刺すだけではないのだろう?】

「うん。えっと正隊員になったイヴくんには明日から防衛任務に入って貰おうと思っているの」

 

 防衛任務。それはエリア内に定期的に発生する蓋門(がいもん)の使徒を殲滅するGUARD隊員に課せられる主な仕事。

 初めの任務という事で先輩隊員と一緒に熟すのが通例なのだが……。

 

「イヴくん。君やりすぎだよ」

「あ、あははは……」

 

 ジト目でイヴを見るレインの手にはイヴとの防衛任務を拒否する嘆願書がたくさん握られていた。イヴが他の訓練生を煽って決闘を熟す中、彼に挑む者の中には正隊員も含まれており、イヴは格上との戦闘経験を培う為に彼らからの決闘も受け入れた。

 結果、訓練生にボコボコにされて自信喪失した者や彼を酷く嫌悪する者が多く現れた。故にこの嘆願書の量である。

 尚、シャルロットの方は彼女の性格と容姿の良さから、むしろ立候補する者が多かったらしい。イヴの合鍵(バディ)にも関わらずこの人徳の大きさは彼女の器量の良さを表している。

 

「三人一組で行うのが通例だから、こっちで用意しないといけなくなったんだからね? ちゃんと反省しなー?」

「……うす」

「全く。コロちゃんの時の事を思い出すよ」

 

 ふと零したその言葉に当然イヴは反応を示す。

 ローリンの事は強いこと以外は全く知らない。何ならこの支部に入ってそれらしい人物を見た事もない。

 

「ローリンさん、ですか」

「うん。コロちゃんも保護区出身でGUARDに入った時はあまり良い目で見られていなくて。そんなある日彼女に決闘を挑んだ訓練生が居て――圧勝したの」

 

 入隊前から既に術式を取得していた彼女に、(ゲート)の開放率が50%に届いていない魔鍵師(ウォーロックスミス)が適う筈も無く……。

 しかしそれを認められない者は多く彼女に挑む者は途切れず――結果、1日で一万ポイントに達した。

 

 ちなみに座学の試験では他の者の筆跡の音を聞き分けて、真似て合格基準を満たす点数を叩きだした。それにより彼女は7日で正隊員となり、そのまま南支部最強へと至った。

 

「……ん? それじゃ決闘が廃れていたのって」

「コロちゃんのせいだね」

 

 何してんだ人類最強……。

 ローリンのやらかしで割と被害を被っていたイヴはゲンナリとした表情を浮かべる。

 魔王はお前も同じことしたじゃないか、と思ったが口にしなかった。

 

「という訳で、似た者同士って事で君の防衛任務の引率はコロちゃんに決定しました!」

「ええ!?」

【最強が引率か。随分と至れ尽くせりだな】

 

 魔王の皮肉も何のその。既に決まった事なので反対は受け付けませんと封殺するレイン。

 イヴは少し不安になって来た。ただ強いだけではなく素行に問題がありそうなために。盛大なブーメランである。

 

「もう一人はユーリちゃんに頼んでいるよ」

「まぁ、アイツなら良いか」

 

 何となく察していたのか、イヴはそちらについては対して反応を示さずに納得する。

 この支部で彼に対して好意的な反応を示すのは彼女とシャルロットくらいだ。

 と、考えた所でイヴは気になる事が頭の中に浮かぶ。

 

「そういえばシャルはどうするんです?」

「君と同じ時間にイザベラが引率するよ。それと――ケイムスくんもね」

「……大丈夫なんですか?」

 

 ケイムスはあの決闘以来イヴに突っかかる事は無かった。しかし時折すれ違う際に、彼に対して尋常ではない視線を送る時がある。あれだけの激情を向けられては、流石にイヴも不安になる。自分の合鍵(バディ)という事でシャルロットに危害を加えるのではないか、と。

 

「イザベラが居るから大丈夫だと思うよ。それにシャルロットちゃんも了承していたし……あっ、そういえば」

 

 そこまで言ってニンマリと何処か生暖かい笑みを浮かべて、物凄く微笑ましい物を見る様にイヴに視線を向けるレイン。

 

「『私の心配する前に、自分の心配しなさい! ……危なくなったらちゃんと呼ぶから』――だってさ!」

「……ん゛ん゛」

 

 何処か気恥ずかしくなり、赤くなった顔を背けるイヴ。

 

「休日には街にデートに行ったりなんかして……仲が良いねぇ」

「……揶揄わないでください」

「あっ、でも。私的にはユーリちゃんとの事も考えて欲しいな?」

「あの、勘弁してくれませんか?」

「でも三人お揃いのペンダントで皆仲が良いね!」

「何でも知っているなアンタ!?」

 

 三人ともまだ恋愛感情というものを正しく認識していないのだろう。友愛と混ざってしまっている事も気付いていない。

 ただ童貞であるイヴはデートと揶揄われると恥ずかしがるし、シャルロットはデートというものを正しく認識しておらずただ友達と遊んでいるとしか思っていないし、ユーリは仲良くて良い事だと二人の変化に全く気付いていない。

 

 その光景を見ているレインは胸がキュンキュンし、もどかしく思っている。

 

「あとイザベラと一緒の任務で凄く喜んでいたよ」

「ああ……確かファンクラブでしたね」

「あのサボり魔も罪な女だよ」

 

 防衛任務も書類仕事もサボっているイザベラの、根拠のない人気に幼馴染として複雑な感情を抱くレイン。

 シャルロットみたいに喜ぶ人間は過去に何度も居たのか、彼女はため息を吐いた。

 

【……その割には、あの女に助けられた者は多いらしいな】

「え? ……あー、確かにそうかも」

【まるで逆だな。盗み聞き女と】

「……どういう事?」

【盗み聞き女は最強なのだろう? ならば奴に助けられた者は多いはず――だが、一度も奴に助けられたと述べる者が居らん】

 

 魔王はその状況に違和感を覚えていた。

 まるで何かが入れ替わっているかのような気持ちの悪さ。

 

「あー、コロちゃんの術式って遠距離タイプだから。それに本人も人前に出たがらないし」

【……貴様がそう言うのなら、そうなのだろうな】

 

 二人と距離の近いレインが言うのなら、彼女の方が正しいのだろうと魔王はそれ以上言わなかった。

 しかしこの違和感を忘れてはならないと頭の片隅に留める事にする。

 何はともあれ。

 イヴはこれから初めての防衛任務だ。

 

 

 

 

 

「あっ、そのっ、今日は、よろよろよろしくっ!!!」

「あっ、はい。よろしくっす」

「よろしくお願いいたします。ローリンさん。イヴ」

 

 白亜の壁に入るには壁の上を超えるか、各支部と繋がっている門で入るしかない。

 イヴ達はその門から入り待機していたローリンと合流したのだが……人類最強は物凄く挙動不審でイヴは心配になった。色々と。

 

「あっ! イヴくん! ユーリちゃん!」

「よっ! シャル。今日はお互いに頑張ろうな」

「ええ! 今まで練習してきた事を活かしてみせるわ!」

 

 シャルロットはイヴ(魔王)の助言により、弓型魔錠(シリンダー)を使う様になってからは目を見張る成長を遂げている。それが自信に繋がったのか(ゲート)の開放率も伸びており、ゆくゆくは術式の獲得に繋がるだろうと目されている。

 

「イヴくんは……」

「全部言わなくても分かっている……」

 

 イヴもまた(ゲート)の開放率を上げて、見事10%を超えたのだが……妙な事に彼には魔力刃と魔力弾の適性がなく生成できなかった。

 理由は分からず、魔王には……。

 

『無いもの強請りしても仕方がない。今持っている手札を研ぎ澄ませ』

 

 と言われる始末。煽って来ないのが逆に怖かった。

 それでも、魔力障壁は使えた為イヴは(ゲート)の開放率と魔力コントロール、そして身体機能の向上を主に修練していた。

 

「一緒のチームだったら連携を試す事ができたのにね」

「次の機会に期待しよう」

 

 そして合鍵(バディ)として二人は将来共に戦う時の事を想定し、コンビネーション技も練習していた。魔王は笑いながらも悪くないと言う出来であり、使徒相手に使うのを楽しみにしていた。

 

「相変わらず仲がよろしいですね」

「ユ、ユーリちゃん!」

「しかしあまり見せつけないでください。私、嫉妬してしまいます」

 

 そう言ってクスリと笑う彼女に、シャルロットは揶揄われたのだと分かり頬を膨らませて怒る。ユーリちゃん! と親友の名を呼んで追い掛け回した。

 

「あ、付けてくれてるのね」

「……そういうシャルこそ。それにユーリだって」

「ふふふ。皆これが大切なのですよ──お守りですし」

「〜〜んもう! ユーリちゃん嬉しい事言ってくれるわね!」

 

 三人お揃いの星型のペンダントがチャリッと揺れる。それぞれイヴが白、シャルロットがオレンジ、ユーリが赤紫だ。

 これからもずっと一緒だと願い、都で手に入れた大切な宝物。

 イヴ達はそれぞれのペンダントに触れてこれまでの時間を想う。

 戦闘前だというのに穏やかな時間が流れる。

 

「――ケッ」

 

 それが気に喰わないのか、イヴ達から離れた場所に居るケイムスは唾を吐いた。

 気付いたイヴがそちらに視線を向けると、ケイムスはひと睨みした後に背を向けてそれっきりこちらに意識を向けて来なくなった。

 

「と、友達居るんですね……」

「え? あ、はい」

「……」

「……」

「……」

「……」

 

 ……え? 何この沈黙?

 ローリンが自分から話しかけてきたかと思えば、それ以降何も言わずにその場に立ち尽くしたままだ。目元が髪の毛で隠れて表情がいまいち分からない。口元がもごもごと動いているが……それだけだ

 

「シャル。そろそろ行くよ」

「はい! イザベラ副支部長! それじゃあねユーリちゃん。イヴくん」

 

 ユーリにじゃれついていたシャルロットはイザベラの鶴の一声で、彼女の元へと戻っていく。

 その際、イザベラがシャルロットの事を愛称で呼んでいるのを聞いて、いつの間に仲良くなっているんだ……とシャルロットのバイタリティにイブとユーリは驚いていた。

 シャルロットは親友二人に一声かけて、次視線を向けたのは二人の引率であるローリンである。

 

「ローリンさん。二人の事をよろしくお願いします!」

「あっ、はい」

「……?」

 

 おどおどとした様子を見せるローリンに、シャルロットは首を傾げた。

 いや、彼女の態度に違和感を覚えたのではない。初めて聞くローリンの声を聞いて、ザワリと心が揺れ動いたのだ。

 ローリンの声を、シャルロットは――。

 

「――シャル! 行くよ!」

「――あ、はい! 今行きます!」

 

 しかしイザベラの声によってそれも遮られて、シャルロットはローリンに一度お辞儀をし、最後にイヴ達に手を振ってイザベラの引率の元防衛任務に赴いた。

 それを見送った三人は。

 

「それでは行きましょうか」

「あっ、はい」

(いや、あっはいじゃなくてアンタが先頭に立って誘導してくれよ)

 

 何処かぎこちなく彼らも防衛任務に赴いた。

 

 

 

 

 チャンスだと思った。

 あの日からの屈辱の日々を送っていた。

 アイツだけはどうにもならなかった。今までは誰もが自分を持ち上げていたのに、アイツだけは自分の力が通じなかった。

 

 醜い嫉妬?一方的な悪意?ああ、そうだろうな。この感情は間違っているんだろうな。

 でもそれがどうした?

 ようやく――時が来たんだ。だったらもう我慢しなくて良いだろう。

 

 自分が人類の裏切り者とバレればアイツは殺しに来るだろう。

 あの時と同じ目で、こっちを価値のない物を見るような絶対的な強者の立場で見下し――この命を刈り取る。

 

 だったら――利用しよう。

 

 シャルロット。どうやら彼女はアイツに対して特別な想いを抱いているらしい。無意識みたいだが。

 ああ――全てを知った時アイツはどんな顔をするのか楽しみだ。

 

 だから、せいぜい――苦しめよ? 我が怨敵よ。

 

 その裏切り者は輝く笑顔を向ける少女に向けて、昏く、黒く、淀んだ感情を向けていた。

 

 




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