スラム街の悪ガキ、天上天下唯我独尊系魔王様と相乗りする   作:カンさん

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第9話『スラム街の悪ガキ、最強を知る』

 

 白亜の壁内にはかつての人類が捨てた街並みが残っている。

 使徒による破壊痕が残った廃墟の中央には天高く聳える塔が建てられており、そこがGUARDの本部であり、蓋門(がいもん)誘導装置が設置されている人類最後の重要拠点だ。

 GUARDは東西南北の支部から二部隊が出動して所定の位置に配置される。そして蓋門(がいもん)が発生した際には使徒を速やかに殲滅するのが彼らの任務だ。

 イヴ達の所属南支部からはローリンが隊長を務めるローリン隊、イザベラが隊長を務めるイザベラ隊が出動していた。

 

「イヴ。守護装束(ガーディアン)にはもう慣れましたか?」

 

 初めての防衛任務にて、ユーリは隣を歩くイヴに問い掛ける。

 訓練生から正隊員になった事により、イヴの持つ魔錠(シリンダー)の機能が拡張された。彼の(ゲート)とリンクし、魔錠(シリンダー)を発動させると最高効率にて魔力を引き出し、魔法を行使できるように調整される。本来の開放率の10%上がった魔力を扱えると聞けば、どれだけ優れている魔道具かが窺い知れる。

さらに固有武装と守護装束(ガーディアン)の自動展開が、正隊員の魔錠(シリンダー)の特徴と言えるだろう。イヴの両腕には純白の籠手が装備され、動きやすさを主軸にした守護装束(ガーディアン)を着こなしている。

 全身に張り付く黒のインナーシャツとズボン。上体には籠手と同じ純白の軽鎧に、腰のベルトは銀色に中央には彼の瞳と同じ赤い宝玉が嵌め込まれていた。

 

はっきり言って派手だなぁと思っているイヴだが、シャルロットがノリノリにデザインしてしまい、後になってもっと地味なのに変えてくれと言えず今日に至る。

 

「……とりあえずいつも以上に戦えそうだ」

 

 魔錠(シリンダー)を使っての身体強化は、ソレ無しと比べて雲泥の差である。これなら以前ユーリと二人掛かりで倒したオーガも一人で倒せそうだ。

 しかし、一つ疑問に思う所があるのかイヴは怪訝な表情を浮かべる。

 

「……素の時と違和感なく使えるのは何でだ?」

『それは恐らく【適応】の術式が使われているのだろう』

「(てきおう……?)」

『そうさな……貴様に分かりやすく言うと赤子が歩ける様になるのと同じだ』

「(ふむ……)」

『本来なら開放率以上の魔力を扱えはしないが、適応によって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 故に戦闘に置いて違和感による隙で死に至るといった事故は起きない。

 イヴは魔王の説明を受けて、とりあえずお手軽に強くなれるのだと理解した。魔王はやっぱり説明しても無駄だったかと頭を抱える。

 座学の試験をギリギリで合格した男の理解力は伊達ではない。

 

「ん? 何でそんなに詳しいんだ?」

『……さてな』

 

 イヴの疑問に魔王は珍しく誤魔化した。

 そんな珍しい彼の反応に、さらに追及しようとしたその時。

 

「あっ、あの。イヴ……さん」

「え? あ、はい何ですかローリンさん」

「……」

「……」

「……」

「……あの?」

 

 突然話しかけて来たローリンだったが、イヴが反応を示すと何故か硬直する。

 とりあえず用事は何だと黙って彼女が話すのを待つのだが……それから先の単語が全く出てこない。

 なんだこいつ? と先ほどと似た状況になったのも相まって、ローリンに対する困惑の気持ちが高まっていく。

 

「そ、その守護装束(ガーディアン)は、ですね……適応、するんです」

「……はい?」

「適応の術式で、その、いつもより強くなります」

「あっ、えっと……ありがとうございます……?」

「……っ(むふー)」

 

 ???????? 何だこの人???

 突然守護装束(ガーディアン)には適応の術式が使われていると教えて来たローリンに、困惑を通り越してちょっと恐怖すら感じ始めたイヴ。

 お礼を言うと明らかに嬉しそうにして、そのまま先ほどと同じように後方に離れていく。声を掛けるにはまぁまぁ大きい声を出さないといけないくらいの距離だ。

 

「イヴ」

「ユーリ。今の何だったんだ?」

「できればイーヴァルディの念話を使って伝えたいと思います」

【構わんぞ】

 

 ユーリの要請にイヴが答える前に了承する魔王。どうやら彼も念話で話をしたかったらしい。

 

 イヴが成長したからか、魔王の干渉が前提ながらもユーリとイヴの間で念話が通じる様になった。早速と言わんばかりに魔王の力により、二人の間で魔力が繋がる感触がする。

 

【ローリン氏は音に関する術式を保有しているのですが、その副作用で耳が驚くほど良いのです】

【そう言えばレイン支部長がそんな事を言っていた様な……】

【はい。なので先ほどのイヴの呟きを聞いて、教授なされたのだと思います】

 

 あんなに離れているのによく聞こえたな、とイヴは思いつつもタイミングが悪かったなと思う。彼女に教えて貰う前に既に魔王から教えて貰ったので、感謝よりも困惑の感情が勝った。

 

【あー…………良い人、なんだね……?】

【他人の独り言を盗み聞きして話しかけてくるのは、まぁまぁの奇行だぞ】

【こら! 魔王! そんな事を言ったらダメ!】

 

 言葉を濁しているイヴを他所に、バッサリと思った事を言う魔王。

 それに対して注意するイヴだが、その反応から彼も同じように思っている事が窺い知れる。そしてユーリも否定しなかった。

 

【彼女は悪人ではないのですが、性格が少々特殊でして】

【特殊……】

【はい。他者との交流をしないのかと思えば防衛任務でもあの様に突如積極性を見せ、防衛任務が終わった途端消えます】

【消えるの!?】

【そして防衛任務で一度会話した者の部屋の前にむき出しの食材を山の様に置いて行きます】

【嫌がらせじゃねーか!】

 

 何故そのような事をするのか、真意はローリンのみ知る……。

 しかしその奇行に一般隊員たちは恐れ、彼女が人類最強である事もあり、以降ローリンとの防衛任務を拒否している。

 

【その奇行と彼女の術式の特性から『魔響の奇行師』と呼ばれる様になりました】

【なんて悲しいんだ……】

【その様な理由で通り名が付くとは、なかなか居らんぞ……】

 

 ちなみに本人はその通り名を気に入っているが付けられた経緯を知らない。

 皆が自分の為に付けてくれている! もしかして私人気者……ぐへへへ――と笑っていたとか。

 

【しかし小娘。貴様がこうして念話を使うという事は……】

【はい。彼女は大変繊細な精神構造をしている為、本人に聞かれない様にこうして……。

 今回の防衛任務を無事に終える為に必要だと判断しました。お二人が知らず知らずのうちに彼女の地雷を踏んでしまっては元も子もないので】

【……面倒くさいな】

【小僧と同意見なのは気に喰わんが、我もだ】

【間違っても本人の前でそのような事を仰らないで下さいね?】

 

 

「(に、二回も会話できた……! もう友達だよね? 今日は良い日だ……友達と防衛任務ができる。ユ、ユーリちゃんという親友も居るし)」

 

 なお、ローリンの中でイヴは既に友達認定されている。

 ユーリは今回二度目の防衛任務という事もあり、親友と見られているようだ。

 二人がこの事を知ったらどのような反応を示すだろうか。恐怖で震えるに違いない。

 そして彼女と唯一真っ当に友人関係でいるレインに対して畏怖の念を抱くだろう。

 

【人類最強だとか、四大最強とか言われているから凄い人だと思っていたんだが――】

 

 イメージと違ったなとイヴはチラリとローリンを盗み見る。

 どうやら自分の世界に入っているようで彼に見られている事に気付いていないローリン。

 

「……」

 

 ふとイヴの視線がある一点に向けられる。いや、実は初めて会った時から視線が吸い寄せられていたのだが、そちらに向けない様に努力をしていた。

 しかし――思わず視線を向けてしまう。普段猫背であるローリンが、今は背筋を伸ばしており彼女の女性的な体格が表に出ていた。

 古代文明にかつてあった『ジャージ』なる物を再現した守護装束(ガーディアン)は装着している者の体格をある程度隠す効果があるのだが、彼女にはその機能が働いていない様に見える。

 

 つまり、何が言いたいかと言うと―ー。

 

【ふむ。デカいな。この世界で我が出会った女で最もデカい。小僧が必死に盗み見るのも頷ける】

【な、なななな何を言って!?】

【イヴ。この事はしっかりとシャルに報告致しますので】

【ちょ!?】

 

 イヴがユーリに冷たい目で見られている中、それは起きた。

 

――ゴゴゴゴゴゴゴ。

 

 空間が揺れ、天に穴が空き、その奥から魔力が溢れ出す。

 

「あっ、使徒。ふ、二人とも使徒、使徒で――」

 

「イヴ。使徒が現れました。構えてください」

「ああ!」

 

 彼らが構えると同時に蓋門(がいもん)から使徒が複数体現れる。

 現れたのは戦闘タイプのキャスパリーグ。そして捕縛タイプでありながら戦闘能力が備えられているオロチ。

 その長い巨体を素早く動かし、人間を丸呑みする姿は人の本能に恐怖を与える。さらにその牙には魔力を分解する術式が組み込まれており、身体強化や防御魔法を貫き、守護装束(ガーディアン)の効果を打ち消す。

 

「ローリン隊長。私はイヴと連携をして――」

 

 ユーリが後方に居るローリンに向けてこれからの行動を伝えようとしたその時――既に戦いは終えていた。

 

 ――ギュイィィィィィイイン!!。

 

 ローリンの魔錠(シリンダー)は、かつて大海に沈んでいた古代文明の工芸品(アーティファクト)を元に造られた特殊な武器である。

 エレキギターと呼ばれていたらしい。

 胴体の部分に貼られている糸を弾くと音を出す様に設定されており、ローリンはその音と己の術式を用いて戦闘を行う。

 

「掻き鳴らせ――木霊」

 

 彼女の術式『木霊』は任意の音を再現し、音に伴う現象を再現する事ができる。

 打撃の音を再現すれば殴り飛ばし、斬撃の音を再現すれば斬り裂き……。

 

 その者が死ぬ際の音を再現すれば、その者は死ぬ。

 かつて彼女はこの術式を使い、イヴとユーリがオーガにトドメを刺した音を再現してオーガを20体討伐した。

 

 そして目の前のキャスパリーグとオロチを殺せる音を、ローリンは既に覚えている。

 

――ギュイィィィィン!

 

 ギターを弾くと同時に蓋門(がいもん)から現れた使徒たちは(ゲート)を破壊されて、魔力の粒子と化して消え失せた。

 蓋門(がいもん)発生して1分経たない内に使徒を殲滅。

 

 これが――四大最強。

 

 イヴとユーリは彼女の圧倒的な実力を目の辺りにし―ー。

 

「――いや、ローリンさん! アンタが倒してどうするんですか!?」

「!?」

「そうですよ。今日は一応イヴの初任務なので、彼に倒して貰わないと……私とローリン氏は引率です」

「あ゛」

 

 イヴに良い所を見せようして暴走してしまったローリンは顔を真っ赤にさせて――。

 

 ――キュウイン。

 

「あっ、逃げた!」

「木霊の術式で見えない所に移動したのでしょうね。自分が聞こえる範囲内で」

 

 イヴ達の目の前から消えた際には使ったのは、誰かの術式使用時の音だろうとユーリは当たりを付ける。

 ユーリの考えは的中しており、ローリンは離れた廃墟内で悶えている。

 イヴは呆れてため息を吐いてしまう。ユーリに控えて欲しいと言われているにも関わらず。

 

「キャスパリーグはともかくオロチとは戦っておきたかったな」

「オーガを倒せる貴方なら敵ではないと思いますが」

「経験は詰んでおきたいんだよ。――使徒をなるべくたくさん殺したいからな」

 

 GUARDに入ってからもイヴの使徒への憎悪は消えない。それは彼に限らない話だが……。

 

「むしろ私はシャルの方が心配です」

「今のシャルなら落ち着いて対処すればオロチを倒せるだろ」

「使徒相手もですが……」

 

 ユーリが思い出すのは今回彼女と同じイザベラ隊に配属されたケイムスだ。

 彼は噂によると今期において本部から最も期待されている訓練生だとか。術式もそろそろ取得されると見込まれている。

 イヴとしてはシャルロットをもっと評価して欲しいと思っているのだが……。

 

「ケイムスは性格クソだが、流石に防衛任務中にちょっかい出さないだろ」

「そうだと良いのですがね……」

「それに何かあればローリンさんが知らせてくれるんじゃないか?」

 

 彼女の耳なら離れた位置に居るイザベラ隊の様子も把握できるだろうとそう言ったのだが……。

 

 ――あ、無理です……私イザベラさんに嫌われていて、彼女の近くの音は聞こえない様に術式で妨害されています……。

 

「そうなのか……というか、術式使って話しかけてくるくらいならこっちに戻って来てくださいよ」

 

 ――……。

 

「……はぁ」

 

 完全に沈黙した様子から察するに、まだ恥ずかしいらしい。

 魔響の奇行師とはよく言ったものだと、イヴは名付けた者に感心した。

 

 ローリンが使徒を倒した後、蓋門(がいもん)はすぐに閉じた。

 とりあえず再び使徒が出てくるまでこの場で待機すべきだとユーリに言われ、イヴは体の力を抜き――。

 

『むっ。小僧、次の蓋門(がいもん)が開くぞ』

 

 しかしすぐに蓋門(がいもん)が開いた。

 イヴは気持ちを切り替えて拳を構える。

 

「相変わらずよく気付くなぁ」

『……』

「……ん? どうした?」

『小僧――用心しろ』

 

 魔王がイヴの軽口に反応しない。それどころかイヴに警戒を促し、その声にはオーガと初めて遭遇した時のような緊張感があった。

 

『グオォオオオオオ!!』

『キシャァ……!』

 

 蓋門(がいもん)から現れたのは――オーガ。

 GUARDの分析により、この使徒はミノタウロスとキャスパリーグの合成された存在である事が判明した。

 それが二体。

 イヴとユーリは油断なく構える。既に戦った相手だ。倒し方は理解している。問題ない筈だ。

 

 しかし。

 

【小僧、小娘少し待て】

「どうしたのですか?」

 

 魔王は戦闘に入ろうとした二人を制止し、念話を仕方なくローリンへと向ける。

 

【おい盗み聞き女】

「(え!? 何この声!? もしかして私の心の中の友達が夢の中以外で話しかけて来たの!?)」

【時間が無いから貴様の妄想は無視するぞ? 一つだけ確認する。あの使徒を生け捕りする事は可能か?】

 

 その言葉に三人とも驚き、そしてすぐに否定、反対、抗議の声が響く。

 

「(む、無理です。アレを拘束する音を私は知らない……)」

「そもそも! 使徒を何で捕まえないといけないんだよ!」

「私も生け捕りする理由が分かりません。何か理由が?」

 

 三者三様の声を聞き、魔王はため息を吐いた。

 

【あの女ができないのなら、この話は忘れろ。だが――】

「だったら、もう倒して良いだろう!?」

 

 イヴは苛立ち交じりにそう叫ぶと、一瞬でオーガの懐に入り込み拳を叩き込む。

 メキリ……ッ! と拳が肉に減り込む感触が響く。

 そしてオーガは()()()()()後ろへと吹き飛んだ。

 その光景を見たイヴ達は驚愕する。

 

「使徒が血を……!」

【――やはり、か。小僧。嫌な予感がする。貴様が相手をしているのは今までの造られた存在ではない。血の通った生物だ】

「――だから何だ?」

【……】

 

 イヴは、魔王の警告を無視する選択肢を取った。

 

「使徒である事に変わりはねぇだろ――アイツは敵だ。俺が殺すべき存在だ。それに代わりは無い!」

「私も同意見です」

 

 そう言ってユーリも剣を構えてイヴの隣に立つ。

 

「私たちがアレを倒せなければ、被害を被るのは戦えない人たちです。どちらにしろ、此処で処分しなくてはなりません」

【……好きにしろ】

 

 二人の言葉を聞いた魔王はそれ以上何も言わなかった。

 イヴ達は魔王のその反応に何か引っかかりつつもオーガたちに突っ込んだ。

 

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