スラム街の悪ガキ、天上天下唯我独尊系魔王様と相乗りする   作:カンさん

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第10話『スラム街の悪ガキ、怒りの炎に身を焦がす』

「疾っ!!」

 

 足に魔力を集中させて、爆発的な速さでオーガに肉薄するイヴ。拳が触れる瞬間に魔力を集中させて殴り飛ばした。

 ガンッとまるで岩を殴っているかの様な感触に、しかし生物特有の肉の柔らかさを感じた。魔王の言う通り、今回の使徒は生物であるようで──しかしそれで彼の闘争本能は抑えられない。

 

 血が流れるから何だ? 今まで沢山の人を攫い、殺して来た連中と変わらない。むしろ殺せるのなら──この胸の奥で燻る炎も少しは収まるかもしれない。

 イヴは臆するどころか、振り抜く拳の苛烈さを増して使徒を殴り続ける。

 

「……ヤ」

 

 殴られ続けている使徒は。

 

「メ……イ……vu」

 

 その瞳から涙を流していた。

 イヴはそれを見て──。

 

「──何泣いていやがるんだテメェ!!」

 

 怒りの炎をさらに燃え上がらせて、思いっきりオーガの頬をぶん殴った。

 悲鳴を上げて吹き飛ぶ畜生に対して、イヴは直ぐに大地を蹴って追い付き、さらなる拳で地面に叩き落とした。そのまま亀裂の入った地面に埋まったオーガの腹に乗ると、彼は何度も何度も拳を叩き付ける。

 

「散々俺達から奪っておいて! 反撃したら泣いて──そんなのおかしいだろうが!」

 

 許せない。許せない。許せない。

 泣くのも。痛みを訴えるのも。許しを請うのも。

 全てが気に入らない。認められない。否定する。拒絶する。

 

「今度は俺たちが奪う番だ」

 

 やめてくれとオーガは泣き叫ぼうとして、その口は下顎を殴り砕かれる事により止められる。

 怯えて助けを求める両目は抉り取られ、顔面はイヴの拳で腫れ上がっていき──そのオーガはイヴに徹底的に破壊されて沈黙する。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 気分が晴れない。心が渇いていく。どれだけ奪っても満たされない。

 ただ拳に伝わる痛みだけがイヴの中に残った。

 

「グオオオオオオ!!」

「イヴ! そちらに行きました!」

 

 仲間が倒されて怒りに燃えたのか、ユーリが相手をしていたオーガがイヴに向かって襲い掛かる。その目には彼に対する怒り、憎しみ、嫌悪の感情が宿っており──それすら今のイヴには癪に障る。

 片腕をユーリに斬り落とされ、絶えずローリンの術式で肉体が拘束されている状態で無理矢理動いているからか、体中の至る所から血が噴出していた。

 

「うおおおお──ラァ!!」

「グオアアアア!!」

 

 イヴの拳とオーガの拳が衝突し、お互い後方に吹き飛ばされる。

 しかしすぐにイヴは地を蹴って片腕を失ったオーガの懐に入り込み、拳を突き刺す。

 

「グ──アアアアアア!」

「さっきの奴より活きが良いなぁ!!」

 

 棍棒を生成し、こちらに向かって振り下ろしてくるオーガだが……背後からユーリが斬撃を繰り出し無事だった片腕を斬り落とされる。

 それに気を取られた瞬間に、イヴのアッパーカットがヒットしオーガは吹き飛んだ。

 

「ユーリ、アレを試すぞ。良い機会だ」

「承知しました」

 

 イヴは空に向かってジャンプし、オーガの背後に回り込んで拳を構える。

 ユーリもまたイヴに続くようにしてオーガの正面に跳び剣を構える。

 

「合わせろ!」

「はい!」

 

 そして二人は拳と剣を突き出し──オーガの体内で魔力と魔力が衝突を起こす。

 

「ゴガ!?」

「うおおおおおおお!」

「はあああああああ!」

 

 あえて同じ箇所を攻撃する事により、魔力の衝突を使徒の体内で起こし内部から破壊する二人のコンビネーション技だ。これなら皮膚の硬い使徒を簡単に殺す事ができる。

 そしてこの特殊なオーガの苦しみ悶える様子から、その衝撃の痛みは相当なものらしい。

 イヴとユーリとシャルロットは、空いた時間でこの技を練習していた。たくさんの使徒を殺せる様に。たくさんの人を助ける為に。強くなって並び立てる様に。

 

「ゴ、ガガガ……!」

「トドメだ!」

「終わりです」

 

 イヴのかかと落としとユーリの振り上げが炸裂し、オーガは最後に大きな衝撃を受けて肉片と化して地に墜ちていく。

 イヴとユーリは着地し、オーガが絶命したのを確認し──視線はもう一体へと向けられる。

 

 目を抉られ、顎は砕け散り、顔が原型を留められない程に殴られ破壊されたもう一体のオーガは、体を引き摺りながらこの場から逃げようとしていた。

 それを見たイヴは──プッツンと頭の中の何かが切れた。

 

「──殺す」

 

 両足に最大限魔力を込めて──跳躍。

 そのままクルリと一回転し、蹴りの態勢に入ったイヴにローリンの声が響く。

 

 ──て、手伝いますね。

 

 先ほどのユーリとのコンビネーション技を羨ましいと思ったのだろう。彼女はイヴに敵に向かって加速する音と打撃が相手の内部に浸透する音、そして魔力接触時に衝撃が走る音をイヴに付与した。

 突然の行動に一瞬イヴが驚くが──今は有り難い。

 

「──はぁあああああ!!」

 

 オーガに向かって加速するイヴ。突き出した脚は濃密な魔力によってバチバチと音と光を発していた。

 その魔力に反応したのか、オーガは振り返って腕で自分の身を守ろうとし。

 

「ya……く……そ……嘘」

 

 何かを()()()とし、

 

「うおりゃああああああ!!」

 

 しかしイヴは全く耳を貸さずに、そのままオーガの体を貫き──魔力の接触時の衝撃を全身に駆け巡らせて……絶命した。

 

 

 

「……結局何だったんだろうな」

 

 ローリンの手助けもあり、無事にオーガを倒したイヴたち。

 通常のオーガと違い再生能力が無く、(ゲート)が弱所でもなく、魔王の言う通りただただ生物だった。

 だからこちらの攻撃が当たった時の痛みに悶える姿が、今まで戦っていた使徒の様にプログラムされた再現ではなく、嫌なリアルさがあった。

 倒した達成感がなく、生物を殺した嫌な感触が残り続けた。

 

「あっ、あのっ、一応この使徒回収、しましょうか……?」

「そうですね。分析結果次第では蓋界(がいかい)について新たな情報が──」

 

 この後の動きを決めて、レインに連絡しようとしたその時──ローリンの魔錠(シリンダー)に緊急通信が入る。

 

『──コロちゃん!』

「あ、レインちゃん丁度よかった。あのね──」

『今すぐイザベラの所に行って!!』

 

 ──レインの声は震えていた。

 ドクンッとイヴの心臓が嫌な音を立てる。

 

「お、落ち着いて? な、何があったの?」

『──イザベラから救援要請があって、その途中で凄い音と悲鳴が聞こえて、そして……』

 

 イザベラ隊三人の魔力、及び魔錠(シリンダー)の反応が消失。

 蓋門(がいもん)はまだ開いているが徐々に閉じている。

 その報告を聞いてその場に居た三人は──最悪の結果を思い浮かべずにはいられなかった。

 

「──すぐに行く」

「私も……!」

「っ……!」

 

 三人は己の最速の動きでイザベラ隊の担当区域に向かった。

 そしてそこで見たのは──。

 

 

 

 後日、レインの元に一つの報告書が提出される。

 イザベラ隊のうち、生還者はイザベラのみ。しかし『修復』の術式で肉体の欠損を治すも意識戻らず重体。敵の術式によるものだと見られる。

 シャルロットとケイムス両隊員は行方不明。しかし状況証拠から蓋界(がいかい)に連れ去れた可能性が非常に高く──本部は両名を死亡したと判断し、除隊処理を行った。

 

 

 

 

 

 

「落ち着いてくださいイヴ!」

「これが落ち着いていられるか!」

 

 GUARD本部に向かおうとするイヴを止めているのはユーリだった。

 あの後イザベラを救助した彼らは、すぐに現場に戻りシャルロット達の捜索を行った。しかし魔王の魔力探知もローリンの耳でも見つける事ができずに、本部が早々に二人を死亡扱いにし──それを聞いたイヴが激怒し本部に直接殴りこみに行こうとしていた。

 

 認められない。認めたくない。シャルロットが死んだ事を認めたくなかった。

 約束したのだ。絶対に助けると。蓋界(がいかい)に攫われたのなら、自分もそちらに向かえば良い。そして使徒に捕まった彼女を助ける。

 

「ユーリは、シャルが死んだと思っているのか!?」

「そうは思いたくありません……! しかし……っ」

 

 蓋界(がいかい)に攫われた人間で帰って来た者は居ない。始まりの四人が向こうの世界に乗り込んだ時には既に(ゲート)は無理矢理開けられて廃人となっていた。

 そしてその廃人となった者は──修復の術式でも治せない。

 

「あれから24時間以上経ちました。既に亡くなっていると考えるのが普通です」

「──本気で言っているのか」

「……」

「お前にとってシャルはその程度の存在だったのか!? アイツはお前の事を親友だと言っていたんだぞ!? それなのに……!」

 

 ユーリの言葉にショックを受けるイヴ。

 あの時間は、三人で過ごした時間は何だったのか? 攫われたから、時間が経ち過ぎたからもう助からない? 

 ああ、確かにそうなのだろう。イヴも頭の冷静な部分では同じように思っている。思って……しまっている。

 

 だからこそ認めたくない。

 そしてできればユーリには──諦めて欲しく無かった。

 

「……今は、敵の存在を……裏切り者を見つける事を優先すべきです。できない事を声高らかに叫んでも──無駄です」

「──ユーリ! てめぇ!」

 

「はい、ストップ!」

 

 口論を続ける二人を止めたのは、彼らに待機指示を出したレインだった。

 彼女はローリンを伴って部屋に入ると、先ずイヴに視線を向ける。

 

「イヴくん。君の気持ちはよく分かるよ──私もお母さんを攫われて、助けたいと思った。生きていて欲しいと願った」

「……っ」

「そしてそう願ったのは私だけじゃなくて……それから、どれだけの人が心を苦しめているか──それが分からない君じゃない筈だよ」

「……っ」

 

 次にレインはユーリを見る。

 

「ユーリちゃん。貴女の言っている事は正しい。GUARDだと常識とも言える模範的な考え方だよ」

「……」

「でもね……友達を想う気持ちを抑え込んでまで正論を説き続けるのは苦しい筈──だから、我慢しないで」

「……っ」

 

 少しだけユーリの表情が歪み……彼女も辛いのだとイヴはようやく気が付いた。

 シャルロットの死を認めている訳が無い。諦めたくない。辛くない訳が無い。

 彼女にとってもユーリは掛け替えのない存在だったのだから。

 

「……すまん」

「……いえ、私も……」

 

 お互いに冷静ではなかった。それが気が付けただけでも良いとレインは思う。

 

「二人とも今日は休みなよ。気持ちの整理して、また明日指示を出すから」

「……ああ」

「……承知しました」

 

 レインの言葉にイヴ達は素直に従い、それぞれ己の部屋へと立ち去っていく。

 それを確認した所でレインはローリンに合図を送った。

 

「お願いコロちゃん」

「うん──術式発動」

 

 ──『静寂』。

 

 一定空間内の音を消す、木霊とは別の術式

 ローリンの()()()()の術式が発動し、二人の声は外に漏れない様になる。

 レインは彼女に一つ礼を述べて、声を発した。

 

「念話で繋いでいるんだよね?」

【あそこまで意味あり気に見ていれば、な。ああ、安心しろ。小僧は勿論小娘にも気取られない様に調節している】

 

 部屋に残った二人の脳内に魔王の声が響く。

 どうやらローリンの視線から自分に話があると察したらしい。彼自身確認したい事があった為、こうしてレインの意図に乗っかる形で念話を飛ばしている。

 

【それであの使徒は──やはり元人間か?】

「……うん」

【その反応、貴様知っていたな?】

 

 レインは頷いた。

 かつての始まりの四人が戦っていた使徒は攫われた人間を改造して造られた存在だった。(ゲート)を使うだけ使って廃人になった者を素材に、さらなる人間を攫う為の化け物に変えられた哀れな存在。それが使徒である。

 今現在は別の方法で使徒を造り出しているのだろう。だからイヴが倒した使徒は血を出さず、魔力となって消えた。

 

「エリア外で出て来た奴のオリジナルだったんだと思う……」

【……そうなると、やはり使徒を造り出している術式は──】

「うん。ベルカラント様と同じ……『創造』だよ」

 

 今現在人類を活かしている同じ術式が、人類を脅かしている使徒を造り出している。そんな事、公表できる訳がない。だからこの事はGUARDでも一部の者しか知らない。

 

【やはりな。訓練で使徒を造り出せたのはそもそも同じ創造だったから、か】

「うん……」

【まぁ、そっちは今は良い。問題は今回殺した使徒が人間だったという事だ】

 

 魔王の嫌な予感は当たった。本人たちは気付いていないが──イヴ達は人間を殺した。正確には人間だったモノ、だが……この事を知れば彼らの精神は不安定なものになるだろう。

 

【そこの盗み聞き魔は大丈夫なのか?】

「えっ、何が、ですか……?」

【……まぁ、良い】

 

 ローリンの反応を見てため息を吐く魔王。これくらいぶっ飛んでいないと術式魔装を会得していないし、()()()()を獲得して平静を保てていないだろう、と判断する。

 

【採取された血液から、変えられた者の正体は掴めないのか?】

「分析班が調べているけど……使徒に変えられた時点で変異しているから」

【分からぬ、と】

 

 ──魔王の勘はよく当たる。

 あの時に感じた()()()()は決して無視して良いものではなかった。そしてその時の感覚はまだ残っている。

 引き続き分析は行われるらしいが──そこで得られるのはパンドラの箱の中身なのかもしれない。

 

「あの、魔王様。……貴方は裏切り者が誰だと思っていたんですか?」

 

 ふとレインが魔王に尋ねる。しかし、その声は震えていた。

 聞いてはいけない事を聞こうとしている、その様な──。

 

【我は『  』だと思っていた】

 

 そしてその答えはレインが最も聞きたくなくて、しかし予想できていた答えだった。

 

「……何でですか?」

【貴様とそこの小娘以外で最も可能性のある者が其奴だった。それが一つ】

 

 そしてもう一つの理由を魔王が語る。

 すると二人とも反論する事ができずに押し黙ってしまった。

 

【その反応から察するに、貴様らも同じ結論に至ったようだな】

 

 魔王の言う通りだった。ローリンの話が本当なら、支部内で怪しい動きをした者は居ない──あの人物以外は。

 さらに最悪なのは、あの人物の術式がGUARDの把握している以上の効果を発揮できるのなら蓋門(がいもん)をエリア外に発生させる事が可能だ。

 

「でも、アイツは動機も証拠もない!」

【そう思いたいだけだろう? ……我が調べてやる。貴様が把握している範囲で構わんから、奴の術式を教えろ】

「……っ」

 

 レインは『  』の無実を証明する為にその人物の術式について話した。

 術式の効果を聞いて魔王は納得し、同時に違和感を感じた。

 

【それで全部だな?】

「うん……」

 

 しかしレインに嘘を吐いている様子はない。

 彼は追及しても無駄だと判断し、これからすべき事を考える。

 

「ねぇ、魔王様。本当にアイツが裏切り者なのかな……?」

【……今回の一件が起きるまでは、ほぼ確実にそうだと思った】

 

 だが魔王の予想に反した出来事が起きてしまい、判断が難しくなる。

 もしあの人物が裏切り者なら、今回の行動には不利益しか起きない。

 

【貴様の言葉に嘘偽りが無いのなら()()を開いて時間が経っているのだろう──突発的な裏切りは無いと思っている】

「裏門……?」

【む? GUARDの策略的に裏門を開く事前提で動いていると思ったのだが──いや、貴様が知らされていないだけか】

 

 気になる言葉を吐く魔王だが、レインの疑問には応えるつもりはなさそうだ。

 

【そうさな──小娘、何を悩み、迷っているのか知らんが、その答えは他人の言葉で飾るべきではない】

「……」

【我から言える事は少ない──その時が来れば選択を恐れるな】

「選択……」

【どのような真実があろうと、事実は異なるかもしれん。もしくは現実を否定したくなる程の真実に圧し潰されるかもしれん──それでも歩みを止めた時、己に負けた時、貴様は闇に堕ちる】

「……」

 

 魔王の忠告は、レインの胸に深く突き刺さった。

 覚悟を決める必要があると、この厳しくも慈悲深い王が忠告してくれているのだ。

 だったら向き合うべきなのだろう。──この世界に。

 

「あの、居なくなった二人のどちらかが裏切り者の可能性が……」

【ふむ。そうだな。普通に考えればそうなるな】

 

 ローリンのその言葉を魔王は否定しない。

 実はGUARD内に裏切り者は居らず誤情報を流して組織内で疑心暗鬼にさせて、入隊と同時に内部に潜入。

 そして今回の初防衛任務で将来有望な魔鍵師(ウォーロックスミス)を拉致。

 むしろそちらの方が可能性があるのかもしれない。

 

「だったら……!」

【しかしそれは貴様の希望的観測であろう?】

「──っ」

【……真実から目を背けて視野が狭くなれば、己の手から零れ落とす代償は大きくなる。忘れるな】

 

 そしてその可能性を聞けばイヴやユーリは真っ先にケイムスを疑うだろう。根拠もなく。シャルロットが裏切り者である可能性を微塵も考えずに。

 そうなれば真の裏切り者を見つける事など到底不可能だ。

 

【小娘。今から言う物を用意しろ】

 

 魔王の言葉を聞いたレインは、苦い表情を浮かべて……最終的には了承した。

 

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