スラム街の悪ガキ、天上天下唯我独尊系魔王様と相乗りする   作:カンさん

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第11話『スラム街の悪ガキ、裏切り者の正体を知る』

「ねぇイザベラ……起きてよ」

 

 レインは耐えていた。シャルロットを失ったイヴとユーリの手前、大切な者が戻って来た自分は泣いてはいけないと。悲しんではいけないと思っていた。魔王にはバレていた様だが。

 

「私……もう嫌なんだ」

 

 思い出すのは彼女がまだ幼い時の事。

 GUARDの魔鍵師(ウォーロックスミス)だった母親は、使徒との戦いに敗れてそのまま蓋界(がいかい)に連れ去られてしまった。

 その時の自分は泣く事しかできず、姉は復讐に燃えて家に帰って来なくなった。

 寂しかった。辛かった。悲しかった。

 そんな彼女を救ってくれたのが──イザベラだった。

 イザベラは不器用な女だった。慰めの言葉を送る訳でもなく、励ましてくれる訳でもなく、ただ傍に居てくれた。

 

 孤独感が薄れ、イザベラに依存する様になったのはそれからだった。

 

 だから3年前のエリア外蓋門(がいもん)事件で彼女が死んだと思った時は絶望したし、でも生きていると分かって安堵した時は大いに泣いた。

 それから自分も強くなって、今度はイザベラを守ろうと誓った。支部長になって色んな物を守らなくてはいけなくなっても──最も大切なのは、一番はイサベラだった。

 

「お願い、イザベラ……」

 

 何が起きたのかを聞きたい訳じゃない。シャルロット達がどうなったのか確認したい訳じゃない。ただただ愛しい幼馴染の無事な姿を早く見たい。

 

 今この時だけはGUARD南支部の支部長レイン・ベルカラントではなく、一人の少女レインだった。

 

「……」

 

 イザベラはレインの声を聞いても、ずっと目を閉じていた。

 

 

 

「はぁ……」

 

 ユーリは気分が落ち込み、思わずため息を吐いてしまった。

 昨日はイヴに酷い事を言ってしまった。自分はGUARDである為、例え親しき者が蓋界(がいかい)に連れ去られたとしても、命を落としてしまったとしても、人類存続の危機に瀕しているのならその解決方法を探すのが義務だと考えていた。今回は裏切り者の早期発見がそれだと思っていた。

 

 いた、のだが……。

 

 ──お前にとってシャルはその程度の存在だったのか!? アイツはお前の事を親友だと言っていたんだぞ!? 

 

「……っ」

 

 イヴのあの言葉は流石に傷ついた。

 シャルロットはユーリの事を親友だと思っている様に、ユーリもまたシャルロットを掛け替えのない存在だと思っていた。

 北支部に居た頃は強くなるのが必死で友人を作る余裕がなかった。さらに特殊な血を引いている彼女は、誰よりも強くならないといけなくて、しかし術式に目覚めなくて──苦しい日々を送っていた。

 

 南支部に異動されてからも、裏切り者を見つける為に常に疑心暗鬼になり、誰も信用できる者が居らず──だからイヴと出会い、その後に現れたシャルロットには心を救われた。

 彼女の周りには強さを求めるあまり、他者を蹴落とす人間が多く……。

 ユーリは彼らの様になりたくないと思い、正しくあろうと己を律する性格になった。

 だからあそこまで善性に溢れた彼らを特別視するのは、当然の帰結であった。

 

 ──私、ユーリちゃんの事尊敬しているの! 

 

「……尊敬しているのは私の方ですよ」

 

 よくシャルロットは、ユーリの正しくあろうとする姿を好意的に受け止めて彼女の長所として慕ってくれた。

 イヴと街に遊びに行った後に「今度はユーリちゃんも!」と誘ってくれたのが嬉しかった。

 弓を使う彼女がひたむきに強くなろうとする姿勢は好ましく、共に戦闘訓練をする時間が好きだった。

 お洒落に無頓着な自分に、それでは女の子に生まれた意味が無いと部屋に押し掛けられ、着せ替え人形にされたのは疲れたが……楽しかった。

 

「──」

 

 居なくなってすぐに切り替えられるほど、シャルロットが軽い存在である筈が無かった。

 蓋界(がいかい)に攫われたと聞かされて目の前が真っ暗になった。

 もう死んでいると思うと胸の奥が苦しくなり吐き気がする。

 

 助けたいという気持ちが、生きていて欲しいという願いが、彼女への想いが溢れ出す。

 

「──シャル……!」

 

 しかし蓋界(がいかい)に攫われた人間は総じて帰って来ない。

 GUARDも彼女を既に死んだ人間として処理し、彼女の親に報告しているだろう。

 絶望感が彼女の身を蝕む。

 奇跡は起きない。

 それでも──とユーリは諦める事ができない。

 

「──イーヴァルディ……頼みますよ」

 

 だから彼女は待ち続ける──彼の口から裏切り者の名が紡がれる事を。

 その名を聞いた瞬間、彼女の白金の剣は赤く染まるだろう。

 己の親友を連れ去った外敵の穢れた血によって。

 

 ユーリは、その時を待ち侘びる。

 

 

 

 

 

「……」

 

 イヴはローリンと共に都とスラム街の境い目……エリア外蓋門(がいもん)発生現場へと向かっていた。

 彼はあの後自室で一人考え、眠れない夜を過ごし、朝になっても考えが纏まらず──ただただシャルロットの事を想っていた。

 

 死んでいるとは思っていない。攫われただけだ。だから間に合う。助けられる。約束したのだから。

 

 でも。

 

 これまで攫われた人は誰ひとり帰って来ていない。もし助けられても(ゲート)を無理矢理開けられて廃人になっている可能性が高い。もうシャルロットは──。

 

 ユーリの言葉を思い出し、嫌でも過るのは手遅れの三文字。

 イヴは……答えを出せないでいた。

 

『おい小僧。何をしみったれた顔をしている』

「うるさい。今は放っておいてくれ……」

『ふん。色恋は人を変えると言うが、貴様はそれに輪をかけて分かりやすいな』

「──何が言いたいんだよ」

『そうやってイジイジしていれば、貴様の愛しい人は帰って来るのか?』

 

 魔王の言葉にカチンと来るイヴ。

 何なんだコイツは。こういう時くらい優しい言葉を送ってくれても良いじゃないか、と。

 

『慰めを期待しているのなら無駄だぞ──小僧。悲しみに暮れるのも、後悔に咽び泣くのも早いぞ』

「……諦めるなって言いたいのかよ」

『そうではない──その悲しみを、怒りを、無力さを、己の感情を研ぎ澄ませろ』

「……」

『まだ裏切り者は見つかっていない。そやつを見つけ出し、小娘の事を洗い浚い吐かせて……そこからだ。貴様が思い悩むのは』

「……本当に手厳しいな」

 

 思わずと言った風に零すイヴに、魔王はフンッと鼻で笑う。

 

『貴様はうるさいくらいに元気なのが丁度良い。分かったらさっさと調べに行くぞ』

「はいはい」

 

 しかし、何も考えずに悲観に暮れる事は無かった。

 僅かな可能性に夢を見るのも、見たくない絶望に目を閉じるのも──裏切り者をぶっ飛ばしてからだ。

 

 イヴはローリンと歩き回り、蓋門(がいもん)が発生した地点に辿り着いた。

 彼女の耳で何か変わった音があるのか確かめてみるもそう言った事はなく、やはり無駄足だったかとイヴが魔王にどうするか指示を仰ごうとしたその時。

 

『小僧。こういう場合何を考えれば良いか、分かるか?』

「何を考える……?」

 

 いまいち魔王の言葉を理解できず首を傾げるイヴ。

 そんな彼に懇切丁寧に、魔王は解説した。

 

『こういう情報が少なく、犯人を見つける時……我はいつ、どこで、誰が、何を、何故、どのように行ったのか……一つずつ頭の中を整理しながら考える』

「……うん」

『一つずつだぞ。──裏切り者は、いつから裏切っていた?』

 

 魔王の問いかけにイヴは。

 

「そりゃあ……ずっと前からじゃないのか」

『ふむ。何故だ』

「何故って……配給を操作してたのも結構前って話じゃないか。そんな事ができるのはGUARDの人間だから……」

 

 そこまで言って自分の言葉に違和感を覚えるイヴ。

 ()()? 当たり前のことだが、組織に所属し上の立場の人間になるには信用が必要だ。そしてそれを地道に築いていくのに必要なのは──時間。

 

「──昔に入隊した人間?」

 

 それも組織内部の情報をかなり詳しく知る事ができる人間、だ。

 少なくともユーリよりも昔にGUARDに入った人間であるのは確実だ。それこそ彼女が南支部に配属されるよりも以前に、南支部に入隊した古参の人間。

 

 イヴの中の違和感が強くなっていくのを感じながらも魔王は続ける。

 

『では次だ。裏切り者は何処に居る?』

「……GUARD、だな」

『何故だ?』

「……イザベラ隊の壊滅を起こすには今回の防衛任務のスケジュールを把握する必要があるんじゃないか?」

 

 通常の任務ではなく、新人隊員二名を二人抱えていたイザベラ隊は格好の餌だったのだろう。そこを狙えるのは外部の敵ではなく内部の敵である可能性が高い。

 すぐに答える事ができたのは、その可能性があるとレインが言っていたからだ。

 

『誰がやった?』

「……イザベラさんとローリンさんの不仲を知っている人物」

 

 さらに同時期にローリンが防衛任務に就きながらも、イザベラ隊の状況を把握できなかったのは、イザベラとローリンの不仲を知っているからであり──それを今回の犯人は知っている。

 イザベラが彼女の事を嫌い、自分の音を聞かれたくなくて術式でガードしているのを知っていたのなら、イザベラ隊を壊滅させてもすぐに気付かれないと分かっていた事になる。

 

『何をした?』

「……蓋門(がいもん)のエリア外の誘導と、イザベラ隊への攻撃」

 

 故にGUARDは裏切り者を探そうとして──そこでイヴは違和感に気付いた。

 裏切り者と言われているが──もしも初めからそれが目的でGUARDに入隊していたとしたらどうだ? 

 それは裏切り者ではない──工作員だ。それも蓋界(がいかい)の。

 

『何故そのような事をした?』

「……それが、ソイツに与えられた任務だった?」

 

 自分たちはとんでもない勘違いをしていたのかもしれない。

 ソイツはずっと息を潜めていたのだ。信頼を勝ち取り、情報を操作できる位置まで上り詰めて、裏切り者だと、敵だとバレないように。

 

『ではどのような方法で?』

「──術式」

 

 南支部にて術式を持つ人間は──三人しか居ない。

 レインとイザベラとローリンだけだ。

 しかし三人にはアリバイがある。

 レインは南支部に居る所をたくさんの隊員に目撃されており、イザベラ隊が壊滅したのを察知すると同時にローリンに連絡した。

 イザベラはそもそも襲われた身だ。今も意識不明であり、レインが毎日見舞いに行っている。

 ローリンはイヴ達と共に一緒に居た。一瞬だけ離れたがその後共に戦っている。

 

 三人とも犯人に成りえない──が、術式の効果によってはアリバイを作りながら犯行は可能だ。

 術式の効果を考えれば考える程キリがない。

 

 故に魔王は証明する事にした──今回の一件にて人類を裏切る事ができる術式を持つ者がたった一人だけである事を。

 

『小僧、金髪小娘から貰ったモノは持っておるな?』

「あ、ああ」

『それを飲み込め』

「……えぇ」

 

 思いっきり嫌そうな顔をするイヴ。

 正直生理的に嫌だった。

 しかし魔王は反対意見を聞くつもりがないのか、さっさとしろと煩く叫ぶ。

 

「……はいはい」

 

 根負けしたイヴは懐から包み紙を取り出し、それを開けると──中に入っていた髪の毛を口の中に放り込み飲み込んだ。

 ローリンはイヴの突然の奇行にギョッとする。普段から奇行を繰り返しているのに。

 口の中の不快感に吐き出しそうになりながら耐えている中、魔王は──魔力探知を行っていた。

 

 人の体組織には(ゲート)を閉じていても微弱ながら魔力を帯びている。

 魔王はその微弱な魔力を対象の人物の体組織を取り込む事で探知する事ができる。

 

 それが例え道に落ちている髪の毛一本であろうとも。

 

『──やはり奴が裏切り者だったか』

 

 魔王は、スラム街と境い目に等間隔で魔力反応を探知し、そしてひと際大きい反応をGUARD南支部から感じた。

 

 そこに今回の黒幕がいる。エリア外に蓋門(がいもん)を発生させた裏切り者が。

 

【小僧。急いで支部に戻れ。小娘に待機させているがおそらく奴ひとりでは勝てん】

「裏切り者が分かったのか!? 誰なんだ!」

【道中に説明する──盗み聞き魔!】

「あっ、はい!」

 

 魔王は、意識を天に向けて。

 

【此処は頼んだぞ】

「──え?」

【──走れ小僧!】

 

 どういう意味だと問いかけようとして、しかしその前にイヴが物凄いスピードで支部に向かって走っていった。

 魔王の言葉の意味が分からず困惑していると──空間が震えた。

 

「え──」

 

 ローリンが(ソラ)に目を向けると──そこには夥しい数の蓋門(がいもん)が発生していた。

 

 やばい。

 

「術式魔装──音位転換!」

 

 彼女はすぐさま魔錠(シリンダー)を起動させて、音位転換によって蓋門(がいもん)の術式に干渉する。

 

 ローリンの術式魔装『音位転換』は、相手の術式に干渉しズレを生じさせる事で正常に発動させないようにする事ができる。

 これにより蓋門(がいもん)を強制的に閉じる術を彼女は持っており、それができるのはGUARD広しと言えどローリンくらいである。

 

 ただ──。

 

「多い……!」

 

 どうやら相手も彼女の術式魔装の特性を知っているらしく、次から次へと蓋門(がいもん)を開いている。ローリンがこの場に居なければ大量の使徒が現れスラム街所か都に甚大な被害が起きていたのかもしれない。

 魔王の言葉はこういう事だったのか、とローリンは理解する。

 

「友達の頼み……成し遂げてみせる!」

 

 エレキギターを掻き鳴らし、彼女を己の音を天に届かせる。

 人類を守るために。

 

 

 

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