スラム街の悪ガキ、天上天下唯我独尊系魔王様と相乗りする   作:カンさん

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第13話『スラム街の悪ガキ、裏切り者と相対する』

 

 バチバチと魔力同士のぶつかり合い。拮抗しているかに思われた天秤はすぐに傾いた。

 

「ぐっ――あぁ!?」

 

 弾かれたのはイヴだった。

 身体強化魔法の魔力を脚だけに集中させた彼の一撃は、ただ普通に全身に魔力を巡らせたイザベラの一撃に遠く及ばなかった。

 イヴの現在の(ゲート)開放率は25%。対してイザベラは――。

 

(ゲート)を全開放している私に適う訳ないじゃない」

 

 ――100%。

 つまり魔鍵師(ウォーロックスミス)の高みに居る事を意味する。いくらイヴが魔法を工夫しても超えられない壁がそこにあった。

 

「でも褒めてあげる。一瞬でも私の一撃に耐えた事と……そこの雑魚を回収した事を」

 

 イヴは弾かれる寸前にユーリの守護装束(ガーディアン)を掴んでいた。それによりイザベラから彼女を救う事に成功している。イザベラもその抜け目の無さには感心を示す。

 しかし。

 

「フー……! フー……!」

「ふふふ……たった一撃でもうグロッキー?」

 

 イヴの足は赤く腫れ上がっていた。イザベラの蹴りに耐えきれなかった証拠だ。

 さらに頭を打ったのか、額から血が流れて頬を伝い、ポタポタと異空間の地面を赤く染める。

 イザベラの一撃を、そして流し込められた魔力を受け止めきれなかった。

 

「必死だね――じゃあ、もう一回頑張ってみようか?」

 

 そう言ってイザベラは術式を発動させ――イヴが抱えていたユーリを自分の手元へと置換させた。

 

「なっ――」

 

 ユーリの肉体には既にイザベラの魔力が貼付られている。彼女を奪うのに1秒も要らない。

 

「ほら、助けてみなよ!」

 

 そう言ってイザベラは手刀に魔力を込めて思いっきり振り下ろし――ブシュッと鮮血が舞い、彼女の手に肉を裂き骨に触れる感触が伝わる。

 

「っ、ああ……!」

「おお、頑張るね」

 

 ユーリにさらなる傷は加えられなかった。イヴがその身を割り込ませる事によって。

 痛みに耐えながらもイヴはユーリを抱き締めるとイザベラから急いで離れて――。

 

「はい、次」

「っ――クソが!!」

 

 しかしすぐに置換によってユーリを奪われてしまう。思わず悪態を吐いてしまうイヴだが、それも仕方ない。彼が焦っているのはこのままではユーリが死んでしまうからだ。明らかに致命傷で、その治療をできないまま時間が経てば死んでしまう。それをイザベラも分かっているから、こうして時間を稼いでいるのだ。

 

 しかし、時間を掛ければ――この男が動く。

 

「はぁぁああああ!」

「何度やっても無駄――」

 

 拳を構えて突っ込んでくるイヴを嘲笑おうとして――イザベラは背中に氷柱を突っ込まれたかのような悪寒が走った。

 すぐさま回避しようとし。

 

『遅い』

 

 イヴとは別の魔力が彼の全身を包み込み――イザベラは気が付いた時には既に蹴り抜かれていた。

 

「ガハァ……!?」

『そら、おまけだ』

 

 さらに彼女の全身に寒気がする程の魔力が流し込められたかと思うと――四肢が爆発四散し、頭がグチュリと圧縮し、血が蒸発したかと錯覚する程の痛みが彼女を襲った。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?!?」

 

 とてもではないが術式を保てない程の激痛だった。

 苦しみ悶えるイザベラを尻目にイヴはユーリを回収した。

 

守護装束(ガーディアン)に傷が無いのに腹が抉られている――聞いていた通り置換の術式だな』

「どうにかできないか?」

『容易い』

 

 魔王に手を翳せと言われたイヴは彼に従い、すると魔王の魔力がユーリの空いた腹に纏わりつくと……どんどん傷が塞がっていく。それどころかぶちまけられた血液や肉も元の場所に戻っていく。

 その光景をイヴは茫然と見つめ、痛みから解放されたイザベラは息も絶え絶えに魔王の()()に舌を巻く。

 

「それが……かつて世界を統べた魔王の……時を操る術式!」

【……どうやら貴様には洗い浚い吐いて貰う必要があるな】

 

 己の術式を知られている事に、目の前の少女の正体を……その裏に居る裁かねばならない存在を知覚する魔王。

 彼の術式を知っている者は、本来ならこの世界には居ない筈なのだから。

 

「私も聞きたいことがある――何時から私が怪しいと思ったの?」

【初めからだ】

 

 イザベラの問いに魔王は当然の様に答える。

 

【あの金髪小娘に便所の汚れの様にこびりついた魔力。さらに小娘のみに送った筈の念話を聞けた事――あとは消去法と勘だ】

「……全く。初めから目を付けられていただなんて、私も運が悪いな」

 

 故に、自分が襲撃を受けて重傷を受けた偽装を行ったのは正解だったと言える。

 やはり自分の創造主は目の前の魔王の事をよく理解している。

 

 彼に仕えていたのだから当然か。

 

「――俺も聞きたいことがある」

「……私はキミ自体に興味は無いんだけどね」

「シャルをどこにやった」

「――くっ、あはははははははは!」

 

 イザベラの言葉を無視して問いかけてくるイヴに――思わず笑ってしまった。

 

「何がおかしい」

「いや、だって、そこの雑魚も同じことを聞いてきたから――ああ、おかしい」

「――言葉には気を付けろよクソ野郎」

 

 強く握り締められた拳から血が滴り落ちる。

 開かれた赤き眼光はイザベラを貫き、浮かび上がった憤怒の表情はまるで化け物だった。

 

「俺はもう疑っていないんだよ――お前が、人類の敵である事に」

 

 だから。

 

「死ぬ前に応えろ――シャルは! 何処に居る!!!」

「殺す前に聞き出してみなよ――それができるならさ!」

 

 大地を蹴ってイザベラの懐に入るイヴ。彼はそのまま拳に魔力を集中させてラッシュを叩き込む。

 しかしイザベラはこれを魔力障壁で完璧に捌き、受け止めていく。

 威力も、速度も、魔力も足りない。

 

 だったら――。

 

「ふっ――」

(ゲート)を閉じ――」

 

 ――響門(レゾナンス)

 

 (ゲート)を開くと同時にイヴの拳がイザベラの魔力障壁に激突し――魔力事故が起きる。

 イヴの籠手が砕けて吹き飛び、しかしイザベラの障壁にも同様の現象が起きた。

 驚きの表情を浮かべるイザベラ。(ゲート)の開放率の差で絶対に貫かれないと思っていたからだ。

 

「うおおおおおおおおお――ラァ!!」

 

 障壁を乗り越えたイヴの拳が、響門(レゾナンス)により開放率の上がった魔力が目の前の怨敵に届く。

 ガンッと底上げされたイヴの一撃がイザベラの頬を穿ち、彼女は勢いよく吹き飛ばされ異空間の壁に激突する。

 その際に空間に罅が入り、イヴの一撃の重さを表した。

 

「――」

 

 唇から流れる血に触れて、イザベラは何が起きたのかを把握し――次の瞬間、イヴの視界から消えた。

 

「っ! 何処に――」

「後ろだよ鈍間」

 

 ゴガンッ! と鈍い音が響き、蹴り飛ばされたイヴは異空間の壁に叩き付けられる。その時に生じた罅はイザベラの時よりも大きかった。

 

「ぅあ……!」

「寝るにはまだ早いよ」

 

 イザベラは大量の魔力で造ったナイフを両手に持ち、それをイヴに向かって投げ付けた。

 意識が飛び掛けていたイヴは気力で取り戻し、目の前に迫るナイフに向かって最大限の速度でラッシュを放った。

 

「うおおおおおおおおお――ラァァァァアアアアアア!!」

 

 ガキキキキキンッ! とナイフと拳がぶつかり合う甲高い音が鳴り響く。

 しかしイザベラの投げたナイフはどんどん増え、ついにイヴが捌けない量となり、彼の体にいくつか突き刺さってしまう。

 

「ぐっ――」

「もう終わり?」

 

 そしてイザベラはイヴに突き刺さったナイフと己を置換し、彼の前に一瞬で現れると握り締めた魔力のナイフを思いっきり振り下ろして肩に突き刺した。

 

「ぐあっ」

「雑魚が粋がっているから、こんな目に合うんだ」

 

 鮮血が舞い、自分の頬に血が付くのを気にせずにグリグリとナイフを動かすイザベラ。

 

「もうこの世界は終わってんだよ――大人しく滅べよ!」

 

 嘲笑い、叫び、罵倒する。

 

「今際の際に足掻くなよ! 反抗するな! 死を受け入れろ!」

 

 深く、ドロリとした感情に身を沈め続ける彼女の言葉に人を想う心は無く、ただただ滅びを願う純粋な悪意しかなかった。

 

【あの小娘も滅ぼすのか?】

「――」

 

 しかし――魔王の言葉がイザベラの動きを止めた。

 その隙にイヴはイザベラの拘束から抜け出し、体中に刺さったナイフを抜いていく。もちろん抜いたナイフは遠くに蹴飛ばしておく。

 

「……何が言いたい」

【いや滑稽だと思ってな。利用するだけ利用して捨てようと思っていた愛玩動物に、本気になって腰を振る畜生程惨めな物はない】

「――」

【ふん。一丁前に怒りを覚えるか――おい女。これだけは言っておく。貴様のその歪んだ愛はいつか己に返って来るぞ

 

 必ず後悔する。必ず涙を流す。必ず心を痛める。

 魔王はイザベラの所業に吐き気を催しながらも、嘘で貼り付けられた彼女自身を、因果応報で身を滅ぼすと予言し――その果てにある結末について忠告した。

 

 たった一つの本物に敬意を抱いて。

 

「訳が分からない」

【ふん。偽りだらけの悲しき女だ】

「ちっ」

 

 苛立ち交じりに魔力のナイフを投げるも、イヴはしっかりと叩き落とした。

 

「もう良いか?」

『うむ。伝えたい事は伝えた』

「――こいつに何を今更」

 

 イヴもまた苛ついていた。

 

「洗脳された訳でもなく、脅されている訳でもなく――こいつは初めから人類の敵だった」

 

 3年前からずっと皆を騙し続けていた。たくさんの人を苦しめた。多くの人々を殺そうとしていた。

 

 イザベラを慕っていた者たちも多い。彼ら、彼女らはイザベラに憧れて魔鍵師(ウォーロックスミス)となって人類を守ろうとしていたのに、彼女はそれを裏で嘲笑っていたのだ。好意を裏切っていた。

 

 レインはイザベラの事を誰よりも信用していた。最後まで彼女の事を信じ続け、目覚めないイザベラの事を想い涙を流した。

 魔王にイザベラの髪を渡したのも彼女の無実を証明する為で――実際は逆となってしまった。レインの信頼を裏切った。

 

 そして何より――シャルロットを害した。

 

 到底許せない。許すわけにはいかない。

 だからそんな相手への魔王の態度が気に喰わなかった。何故その女の未来の事を、忠告するかのような言葉を送る?

 俺たちの未来を奪ったのに!

 

「こいつの事情なんか知らない! 敵なら殺すだけだ!」

『怒りに呑まれるな小僧――だが、その研ぎ澄ました怒りはぶつけるべきだな』

 

 しかし実力差は明らかだった。(ゲート)開放率100%の魔鍵師(ウォーロックスミス)との戦闘は、今のイヴにとって荷が重い。

 

「だからどうした」

 

 しかしイヴは止まらない。

 

「俺は何時だって未知の敵との戦いをしてきた――今回も同じだ」

 

 彼の魔力が()()して全身を駆け巡っていく。

 

「魔王、力を貸せ」

『フン。言われなくとも――我も奴には聞かねばならない事がある』

 

 拳を構えるイヴに魔王は笑みを浮かべて応えた。

 

『行くぞ小僧。憤怒の恐怖を教えてやれ』

 

 

 

 イザベラは大量のナイフを作り出し、それを異空間全体に散らばる様にして投げる。

 何を目的にそんなことをしたのか。それが理解できない程イヴは愚鈍ではない。

 

「バレバレなんだよ!」

 

 イヴの背後の地面に突き刺さったナイフと置換し、蹴りを放つイザベラだが予測されて回避される。迎撃の拳が放たれるも障壁で弾き置換で離れた場所に移動する。

 

「だったら――」

 

 イザベラは再びイヴの背後に現れ、しかしすぐに別の場所に移動しナイフを投げ、さらに移動し、そして――。

 何度も何度も置換で居場所を変えながらその度に移動するイザベラの動きを、イヴは捉える事ができない。投げられるナイフを回避するので精一杯だ。もしナイフが刺されば置換で接近されて致命傷を与えられるだろう。

 

 魔王が居なければ。

 

『――右に向かって跳べ』

 

 イヴは魔王の指示を疑わず言われた通りに跳ぶ。

 すると……とんっと軽い音がし、置換で移動したイザベラとイヴの体が接触する。

 

「え――」

「うおラァ!!」

 

 予想外の出来事に一瞬思考に空白が生まれるイザベラ。その隙をイヴは見逃さなかった。

 練り上げられた魔力が拳に集中し、繰り出される一撃は――過去一番に洗練された物だった。

 

「ごっ……!?」

 

 咄嗟に魔力で守ったのだろうが、顎を捉えた一撃は彼女の脳を揺らす。

 吹き飛ぶイザベラの下で突き刺さったナイフが魔力の粒子となって消えていく。魔力を練れず、維持できていない証拠だ。

 

 此処がチャンスだ。

 

 イヴは脚に魔力を集中させて地を蹴り、すぐにイザベラに追いつく。

 彼は相手の脚を掴むと反対の拳に魔力を込めて、思いっきり振り下ろした。

 腹部に叩き込まれた一撃はイザベラの体を貫いて地面に陥没させる。それを追ってイヴの脚がイザベラをさらに亀裂の入った地面の底に沈める。

 轟音が響くなか、イヴは一度離脱して距離を取り、そんな彼を追う様にして魔力()が放たれる。

 

『小僧、防ぐな。脚を止めればそのまま圧し切られる』

「ああっ!」

 

 身体強化の魔法を使い高速で動いて回避するイヴ。自分の背後を横切る魔力弾の嵐に、確かに受けるとやばかったと冷や汗を掻く。

 

「――ならば!」

 

 当たらない事に業を煮やしたイザベラは、空いた地面の穴から飛び出すと今度はユーリを狙った。まだ気絶している彼女はイヴにとって最大の弱点だ。

 現に狙いが自分から彼女に移ったのを見たイヴは庇う様にしてユーリの前に立った。そして魔力障壁を展開し――100%の開放率を持つ(ゲート)から供給される魔力は無限大。その無限の魔力から放たれる魔力弾は永遠に尽きる事はない。

 

「ちっ……!」

 

 罅が入っていく魔力障壁。魔王の言っていた通り受ければ動けなくなる。そしてこのまま端から削られていき、圧し潰されるだろう。

 それでもユーリを見捨てる選択肢は彼にはなかった。イヴらしい無茶で、お人好しで、考え無しの行動だ。

 

 だが、それを魔王は許し、そして無駄にしない。

 

『――傷は癒えているな』

 

 魔王はユーリの状態を確認し、彼女に施していた術式を解いた。

 すなわち、これでようやく――思いっきり戦えるという訳だ。

 

『小僧。貴様に我が術式を見せてやる』

「術式……!? お前使えたのか!? でも――」

(ゲート)の開放率か? 確かに貴様はそこ(50%)まで到達しておらん』

 

 だからイヴは術式を使えない――()()は。

 

『確かに今の我は貴様の(ゲート)を介さないと魔法が使えん――だが、それで術式が使えないと誰が決めた』

 

 一定以上の開放率に()()した者が術式を取得する事ができる。

 そして魔王はかつての時代、世界で最も魔法を扱う者として優れて――世の理を変える程の頂に上り詰めた。

 

 魔法を極めし王――故に、魔王。

 

 慣れない体で、貧弱な(ゲート)で己の術式を扱う事など――彼にとって造作もない事であった。

 

『小僧――置いて行かれるなよ? 我の術式に』

 

 此処から――魔王の時間が訪れる。

 

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