スラム街の悪ガキ、天上天下唯我独尊系魔王様と相乗りする   作:カンさん

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第14話『魔王の術式、裏切り者を翻弄する。そして』

 

 彼女がイヴに放った魔力弾の嵐には技名がある。

 速度重視の弾丸は一発では相手を倒せない。しかしその弾丸を通常よりも小さく、そして数を増やして魔力がある限り永遠に放ち続ければ、一度受けた相手は強制的に足を止められる。

 この技の考案者はステラ・ベルカラントであり、その技を引き継いだのが妹であるレイン・ベルカラントであり、幼馴染としてイザベラはその技をマスターした。

 

 その技の名は『流星(ミーティア)』。星の名を持つ女魔鍵師(ウォーロックスミス)が、不器用ながらも雨の名を持つ妹を生かす為に作った技巧。

 

 その技の有用性を理解しているからこそ──イザベラは首を傾げる。

 

「……?」

 

 魔力弾を放ち続けているイザベラは違和感を覚える。

 手応え的にイヴはまだ動けない筈だ。もし回避ができたとしても背後にいるユーリに被弾させる事ができる為、彼女からすればどちらの行動を取られても構わない。

 

 そう思っているのに、この状況に持ち込んだ時点で自分が有利なのに――この嫌な予感は、悪寒は何だ?

 

 その答えはすぐに分かった。

 

 ――ズガガガガガガガ!!

 

「なっ!?」

 

 突如凄まじい音が鳴り響いたと思った瞬間、目の前にイヴが現れた。

 身体強化魔法の局部集中による瞬間移動染みた動きではない。その過程の動きをイザベラはしっかりと見る事ができた。

 

 イヴはただ襲い掛かる全ての魔力弾を叩き潰して接近してきた。

 している事は普通だがその速度が異常だった。まるで彼の動きがそのまま加速しているかの様な――。

 

 いや、違う。

 

「しているみたい、じゃなくて本当に――」

 

 気が付いた時には既に、イザベラは全身をラッシュにて打ちのめされていた。

 身体強化で威力が増した彼の拳に、さらに速度が加わった事で意識が飛びそうな程の痛みが彼女を襲う。

 今まで攻撃を当てるのが一苦労だったイザベラに、簡単に拳を当てる事ができた事実にイヴは驚きに震える。

 

「これが魔王の……」

『うむ。我が術式は『加速』。有象無象を置き去りにし、ぶっちぎる力だ』

 

 単純な効果に見えるが、対象以外を置き去りにする加速は相手に何もさせない。

 どんなに相手が肉体を強化し人智を超えた動きを見せても、加速した彼の動きは時間という概念に囚われているモノから逸脱する。

 

 そう。例え置換で瞬間移動ができても――。

 

「――止まって見えるぜ!」

「がっ――」

 

 イザベラが消えて、その後に現れた場所を探して、そのまま迎撃ができる程に――対象に時間を与える。

 

 背後に現れたイザベラを蹴り飛ばし、走って回り込むと背中に拳を突き上げて空高く打ち上げる。それを追ってイヴが蹴りを放ち、さらに追って今度は拳を叩きつけて、さらに――。

 

 イヴは何度も何度もイザベラを叩きつけては回り込んで叩き続けて、傍から見れば轟音が響く度にイザベラが縦横無尽に吹き飛ばされる光景が広がっているだろう。

 

 だが──。

 

「手応えはある! だけどっ!」

『ああ。ここに来て(ゲート)の差が出て来たな』

 

 回避できないなら防御すれば良い。単純な答えだが、身体強化の魔法で全身を魔力の膜で覆われたイザベラにイヴの拳は届いていなかった。

 

 魔王の術式『加速』は他の魔法との併用が可能である。故にイヴは加速を使いながら、身体強化魔法の局部集中にて攻撃力を高めている。

 しかしそれでも尚、あと一歩届かない。

 

『……む?』

 

 ふと魔王は何かに気付き──全てを察した。

 

『小僧。もう一度仕掛けるぞ。我が指示を出すまで好きに暴れろ』

 

 要領の得ない言葉だが、今更イヴに魔王を疑うという選択肢は無い。

 暴れろと言われたのなら暴れる。指示には必ず従う。それであの女を倒せるのなら。

 

「おう!」

 

 気合いを入れて加速した世界を駆けるイヴ。相手が自分を知覚できないのなら、反撃を警戒する必要は無い。逆にしてくれればその隙を突いて押し切る気持ちで攻める。

 身体強化で防御を固めるイザベラを攻めて攻めて攻めまくる。

 拳で殴り飛ばし、足で蹴り飛ばし、吹き飛ぶ度に追いつき、回り込み、攻撃の手を絶やさない。

 

「無駄だよ」

 

 もはや無抵抗に殴られているイザベラだが、全くダメージを受けた様子を見せずにイヴを嘲笑う。

 

「私が魔法で守り続けている限り、お前程度じゃあ拳では傷つけられない」

 

 衝撃と轟音に身を委ねながらイザベラは無駄だと煽り続ける。

 それがイヴを、魔王を攻略するための一番の方法だからだ。

 

(そうだ。そのまま何も考えず、怒りのままに魔力を消費しろ)

 

 魔王は現在肉体を持っていない。イヴと融合し、彼の(ゲート)から出る魔力を使って術式を使っている。

 使われたら最後ほぼ無双できる魔王の術式だが、(ゲート)の開放率が低いイヴの肉体ではどうしても制限時間が設けられてしまう。さらに響門(レゾナンス)を発生させている為、何れイヴは倒れる。

 

 尤も、響門(レゾナンス)による(ゲート)の開放率底上げが無ければ術式自体使えなかったのだが……。

 

 故にイザベラは身体強化の魔法で己の身を守るだけに集中し、イヴが息切れをするのを待つ。術式が使えなくなった瞬間に、術式を用いて魔王の器を破壊する。

 

「うおらあああああ!」

 

 ゴガンッ! とイザベラを叩き落とすイヴだが。

 

「っ……ハァハァ……!」

 

 魔力切れを起こしかけており、さらに身体への影響もあるのか息も乱れて来た。

 それを見たイザベラは思わず笑みを浮かべた。もう少しでこの茶番も終わりだ。イヴを倒した後はユーリにトドメを刺して、レインを連れて蓋界(がいかい)に逃げる。

 その為にこの3年間を過ごして来たのだ。だから――邪魔な存在はさっさと消したい。

 

「――うおおおおおお!!」

「いちいち叫んでうるさい。発情期か?」

 

 突っ込んでくるイヴを見据えて減らず口の止まらないイザベラ。既に勝利を確信しているのか油断していた。

 

 その瞬間を《《彼ら》」は待っていた。

 

【――此処だ。狙うのは心臓だ!】

「っ、おりゃあああ!!」

 

 魔王の指示を聞いて、イヴは拳に魔力を集中させて言われた箇所に向けて振るう。

 それをイザベラは嘲笑った。急所に狙いを定めたようだが意味が無い。彼の拳が届かない事はじっくりと体感したから。

 

 故にイザベラは気付かない。

 

 背後にもう一人、戦場に立ち上がった勇者が居た事を。

 

「――行きますよイヴ」

 

 ユーリは剣先に魔力を込めて後ろからイザベラの心臓を突いた。

 同時にイヴの拳もイザベラの胸を穿ち――二人の魔力がイザベラの体内で衝突する。

 

「――あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?!?」

 

 ビリビリと魔力の膜を超えて伝わった衝撃が、内部からイザベラの肉体を破壊する。

 身体強化の魔王を使っていた為致命傷にはならなかったが、それと同等の痛みが彼女の心臓に走った。

 視界が揺れ、体に力が入らなくなり、呼吸も浅くなる。当然(ゲート)も閉じてしまい魔法が解けた。

 

「お、まえ……ユー……リ……!」

 

 倒れて体が動かせない為、視線を背後に向けて思いっきり睨みつける。

 魔王の術式により傷を癒した彼女は、とても冷たい目でイザベラを見下ろしていた。

 

「私たちの勝利です。約束通り――シャルの事を吐いて貰います」

「――クソ!」

 

 イザベラは、血反吐を吐きながら(ゲート)を無理矢理開いて術式『置換』を使って離れた場所に移動する。

 しかし加速の術式を使っているイヴはしっかりとその動きを捉えていたので、先回りして彼女を蹴飛ばしユーリの元へと吹き飛ばした。

 

「ガッーーざ、こどもがぁ!」

 

 イザベラはナイフを生成し、吹き飛ばされた勢いを使ってユーリに斬り掛かる。

 あの一撃を受けてすぐに動けるイザベラにユーリも半ば感心する。どうやら(ゲート)を完全に開いた魔鍵師(ウォーロックスミス)は化け物らしくタフなようだ。

 だったら容赦しなくて良い。

 ユーリは剣に魔力物質化の魔法を使って切れ味を強化し、こちらに向かってくるイザベラのナイフを斬り砕き、返す刃でイザベラの体を斬り裂いた。

 

「ぐっ、がぁぁああああああ!」

「……レイン支部長が気絶していて良かった」

 

 鮮血が舞い、イザベラの片腕が体から離れた場所に落ちる。

 身体強化の魔法を使う暇もなかったので、ユーリの剣でも簡単に斬る事ができた。痛みに悶えるイザベラに近づき、再び見下ろすユーリ。

 イザベラは彼女を睨みつけるが、背後に跳んできたイヴが彼女の髪を掴みグイっと無理矢理持ち上げた事により痛みに苦しむ表情へと変わる。

 

「イヴ。女性の髪は大切にすべきですよ」

「何を言っている。こいつは人間の女じゃねぇ、人類の敵だ」

「それもそうですね――ではイザベラ副支部長……いえ、イザベラ。そろそろ吐いてください――シャルの居場所を」

 

 シャルロットの名前が出てイヴの握る力が強くなる。イザベラは痛みに苦悶の声を上げるが、二人は全く容赦するつもりがない。

 

 さらに、イザベラにとって事態は最悪の状況になる。

 

 ――ギュイィィィィン!!

 

 ギターの音が空間に響くと同時に、壁に罅が入り、砕け散り、そこからローリンが侵入して来た。どうやら魔王の言いつけ通りエリア外に発生している蓋門(がいもん)は全て無効化して来たらしい。

 異空間に降り立ったローリンは周りをキョロキョロと見渡し。

 

「あ、レインちゃん」

 

 ベッドに寝かされているレインの元へと走り、彼女がただ寝ているだけである事を確認してホッとした。

 

 それを見たイザベラの視界が赤く染まる。

 彼女に、レインに、自分の幼馴染に近づくな――と。

 

「――ろぉおおおおりぃぃぃぃいいん!!!」

 

 術式『置換』を発動させて、レインに貼付させていた魔力を元にイヴの手から脱出する。

 そして、レインの傍に現れたイザベラは魔力のナイフでローリンの喉に向けて凶刃を振るい。

 

 ――ジャァァアアン。

 ――『キンッ!』

 

 術式『木霊』を使い、ナイフが弾かれる音を再現する事によりイザベラの手からナイフを弾いた。

 

 ――『ドガン』

 

「かはっ!?」

 

 さらに腹を殴られる音にてイザベラは吹き飛ばされ、

 

 ――『ペリッ』

 

 ローリンはその間にレインに貼り付けられた魔力を剥がした。

 3年間、イザベラが彼女にべったりと貼り付けていた執着の塊とも言える魔力を。

 

「――お前」

 

 その光景を見たイザベラは。

 

「死ね」

 

 置換でローリンの足元に落ちている自分の魔力ナイフと入れ替わり、殺そうとナイフで再び斬り掛かるが。

 

 ――『シュンッ』

 

 次の瞬間、イザベラの視界からローリンが消えた。

 いや、違う――自分がさっき居た場所に移動していたんだ。

 どうやって? と疑問を抱いたイザベラだったが――答えは分かっていた。分かっていたが……認めたくなかった。

 

 ローリンが、イザベラの術式『置換』を使った際に起こる音を再現した、とは。

 しかし現実にイザベラ置換されて自分の意図していない場所に移動させられた。それすなわち彼女の術式が無効化されたも当然であり、何より己の術式を簡単に再現された事がショックだった。

 

「――ローリン」

 

 ローリンローリンローリンローリンローリンローリンローリンローリンローリンローリンローリンローリンローリンローリンローリンローリンローリン。

 

「私はお前が――嫌いだぁ!!」

 

 イザベラは、自分が斬り落とされた腕と置換して移動する。

 その後すぐにイヴとユーリの剣と拳が、先ほどまで彼女がいた場所に突き刺さる。

 二人は回避されたことに舌打ちし、移動先に居るイザベラを睨みつける。

 

「イヴ」

「ごめん。魔王が術式止めてる。これ以上はダメだと」

 

 どうやら限界に近いらしく加速の術式は解除された。

 ローリンが加勢した事により、それも必要が無いと判断したのだろう。

 しかし――魔王はイザベラを警戒する。

 

【備えろ貴様ら。おそらく術式魔装が来る】

「「――っ!!」」

 

 魔鍵師(ウォーロックスミス)の到達する最高地点。切り札。

 それをイザベラが使うと聞かされてイヴとユーリは最大限警戒する。

 現に、イザベラは(ゲート)を限界まで稼働させて魔力を高めて、

 

「術式魔装『転換――』」

 

 全てを滅茶苦茶にしようと術式に魔力を込め――。

 

 

 

「――あら? ダメよぉイザベラちゃん。ソレを使うのは計画に無いじゃない」

 

 ヌルリと現れた悪意が――戦況を変える。

 

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