スラム街の悪ガキ、天上天下唯我独尊系魔王様と相乗りする   作:カンさん

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曇らせ注意


第15話『魔女、悪を執行する』

 

 イザベラがこの異空間を作り出したのはその女性を呼ぶ為の前準備だった。

 現れたその女性は、同性が思わず見惚れてしまうほどの白く、魅惑的な肢体を持ち、その身を包む黒いドレスにより魔性の女という言葉が当てはまる怪しい色気があった。

 夜闇よりも黒く、昏く、深く――この世界の人間では不吉と言われている黒い長髪を靡かせていた。泣き黒子に赤い唇。穏やかな目つきに赤い瞳。

 

 その姿を見て――魔王は一瞬呼吸を忘れた。

 

「な、なんだあいつ……!」

 

 しかしそれ以前から呼吸を忘れていたのは……イヴとユーリ、そしてローリンだった。

 あの女が現れた瞬間、悍ましい魔力が彼らの全身を撫でつけるかのような不快感と恐怖が駆け巡った。

 

 あれはやばい。

 あれは違う。

 あれは――ダメだ。

 

 生物の本能が訴えかけている。此処から逃げろと。アレと戦ってはいけないと。

 

「イザベラちゃ~ん? 術式魔装を使うだなんて許可出していない筈よ?」

「……申し訳、ありません」

 

 優しい声で、優しい言葉で、優しい表情でイザベラを りつける。一見怒っていない様に見えるが、イザベラからはそうは見えないのか顔を青くさせていつの間にか跪いていた。

 

「本当、無駄な事をしたらダメよぉ? 計画はなるべくスマートに……ね?」

「は、はい!」

「うんうん。でもお仕置きは必要ね」

 

 そう言って女はイザベラの頭に触れて。

 

「一回死になさい♡」

 

 次の瞬間、彼女の頭は膨れ上がって――パンッと破裂した。

 肉と血、そして脳漿が辺りに飛び散る。首から下の体は力なく倒れ伏し、異空間に夥しい量の血とむせ返るような異臭が広がった。

 

「お、まえ……何して……」

「何って……お仕置きよ?」

 

 イヴの問いに、女は心底不思議そうな顔をする。

 まるで悪戯した子供を叱り付けているだけだと言わんばかりに。

 ……いや、実際彼女にとってはその程度の認識なのだろう。そう思えるほどに彼女にとって人が死ぬというのは、人の命は軽いのだろう。

 

「こうしないと覚えないからねぇ。人間っておバカさんじゃない?」

 

 笑いながら女はそう言い。

 

「貴女もそう思うでしょ? イザベラちゃん」

 

 死体に手を翳すと、イザベラの死体はグジュグジュと音を立てて……元に戻った。

 それだけではない。ユーリに斬り落とされた腕も元通りに、さらに心臓へとのダメージを回復しているのか魔力の乱れも戻っていた。

 

「は……はぃ……」

 

 しかし、死ぬ瞬間の痛み、感触を覚えているのか息を乱して顔に血の気は無く今にも倒れそうだった。

 女は、そんなイザベラの様子を見てしっかりと反省したと判断したのかニッコリと笑みを浮かべる。

 そして次に視線を向けたのはイヴ――否、魔王だった。

 

「久しぶりね、魔王様?」

「……魔王、知り合いなのか?」

 

 声に、感情に親しみを込めて魔王に話しかける女。本当に心の底からそう思っているかのような言動に、イヴは思わず自分の中に居る魔王に問い掛ける。

 魔王は暫く黙っていたが――念話を使って女に言葉を返した。

 

【いいや……()()()()()()性悪女】

「あら、酷い言い草ね。たった1000年で忘れる程の仲じゃなかった筈よ?」

【生憎、我に貴様の様なドブカス女と仲を深めた記憶が無いんでな?】

「……言葉遣いが悪いのは変わらない様ね」

 

 ヒクッとこめかみを動かす女だが、魔王はつまらない物を見る目を向けていた。

 それを感じ取って気に入らなかったのか、女は笑みを浮かべて問いかける。

 

「でも、知っている姿と術式でしょ?」

【……】

「ふふふ。沈黙は肯定と見做すわ」

 

 魔王は心底不快だと言わんばかりに舌打ちをした。

 予想はしていた。嫌な予感がしていた。しかしどうする事もできないと確信していた。

 故にこうして最悪の形として見せつけられると――どうしようもなくイラつく。

 女は溜飲が下がったのか、視線をイヴへと向ける。

 

「可愛いわね魔王の器――食べちゃいたいくらい」

「っ――」

 

 ゾワッと背筋に悪寒が走ったイヴは、虚勢を張る様に叫んだ。

 

「お前は、何なんだ!?」

 

 イザベラの様な裏切り者の様には見えなかった。存在感が違う。どちらかと言うと魔王に近い気配を感じた。

 だが分からない。何故人間の形をしているのに、人間とは思えないのか。

 

「そうね。貴方たち風に言うと――人型使徒って所かしら?」

「人型……」

「実際は貴方たちと同じ人間なのだけれど……根本的に違うのは……そうねぇ」

 

 ――ニチャリと笑みを浮かべるその顔はとても悍ましくて、イヴは……彼女が人型使徒だと言った意味を理解した。

 

「人間が大っ嫌いでぇ、ぜぇんぶ、滅ぼすべきだと思っている事かしらねぇ」

 

 彼女は蓋界(がいかい)に住む人間で、こちらの世界の人間を、命を、存在を、積極的に害す気満々の生き物だ。

 気に入らないから。気持ち悪いから。何となくで。そういった悪意を吐き出し、殺すことを愉しむ最悪の存在。

 

 それが――彼女たち人型使徒。

 

「とくにねぇ、元気で明るくてぇ……性格の良かったあの女の子はダメだわぁ。全身に鳥肌が立ったのは久しぶりよぉ」

 

 元気で、明るくて、性格の良かった女の子――それを聞いてイヴとユーリは1人の少女を連想した。して……しまった。

 

「――シャルは」

「ん?」

「シャルは、どうしたんだ!?」

 

 イヴは、心が騒めくのを自覚しながら問いかけた。

 

 この時、彼は聞いてはダメだと思っていた。聞いたら──後戻りできなくなる。知らないまま、希望を抱いていた方が良い、と。シャルを助ける事ができる可能性を残して置いた方が良いと思っていた。

 

 しかし、現実は常に残酷だ。

 

 非情な真実を、目を逸らしたい事実を突きつけてくる。

 

「あら? おかしな事を言うわね」

 

 そしてそれは時に――想像を超えて心を打ち砕く刃となる。

 

「あの女の子なら、貴方たちがしっかり殺したじゃない」

 

 ――静粛が異空間を包み込み。

 

「は?」

 

 イヴは声を発し、言葉を絞り出そうとして……できなかった。

 シャルを殺したのは──俺たち? どういう事だ? 目の前の女は……何を言っているんだ?

 

 訳が分からず、理解できず、頭の中が白くなった彼に……彼らに、女はあの日――イザベラ隊が全滅した時に起きた真実を話し始める。

 

「えっとね、これはイザベラちゃんにちょっとしたお遣いを頼んだのだけど――」

 

 

 

 

 

 イザベラは、使徒を造り出す為の生贄としてシャルロットとケイムスを選んだ。

 理由は特にない。あえて言うなら彼女たちが優秀で、この日に正隊員として初めての任務に就き、イザベラ隊に選ばれたのが二人だったからだ。

 性格も正反対で、実験において素材の性格の差が行動パターンに現れるかどうかの調査に使えると思った。

 

「ねぇシャル。あのイヴって子好きなの?」

「え!? いきなり何を!?」

「……けっ」

 

 イザベラの問いにシャルロットは赤面して動揺した。

 憧れの先輩からの質問。気になっている異性の話題。そして突かれた図星。

 脳の処理が追い付かないシャルの大声に、思わずケイムスは舌打ちをした。聞きたくない名前を聞いたというのもあるだろうが。

 

「どんな所が好きになったの? 何時好きになったの?」

 

 イザベラは恥ずかしがるシャルロットの頬に触れながら術式を使う。

 すると羞恥でなかなか言おうとしない彼女は、()()()()()()()()イザベラ相手になら話しても良いと思った。

 

「最初は見た目が好みだったんですよ! 女の子みたいに可愛くって性格も良くて!」

 

 キャピキャピと入隊式の時の事を思い出すシャルロット。

 GUARDに決められた合鍵(バディ)は一体どんな人なのだろう。良い人だったら良いな、とさほど期待していなかったので、イヴを一目見て当たりだと思った。

 

「意識し出したのは、彼が戦っている所を見てカッコいいなって思ったあの時かなぁ」

 

 圧倒的に格上である筈のケイムスを打ち負かした時の横顔を見てドキリとした。

 それからは訓練でいい成績を出せなくて何ともいえない表情を浮かべていたり、座学ができなくて試験に二度合格できなくて落ち込んだり、ご飯を本当に美味しく食べている姿が可愛くて――どんどん彼の事を好きになっていった。

 

 そしてあの夜に約束をして――自分も彼と同じ場所に立ちたいと思った。

 デートに行って、笑って、怒って、泣いて……お揃いのペンダントを付けて、それが嬉しくて――。

 

「そっか――そこまで想ってくれて()()()()

 

 イヴイザベラとの思い出はシャルロットを変えた――。

 

「――え?」

 

 ――シャルロットは強い違和感に、酷く不快に思って……無意識にイザベラの手を払いのけた。

 

「……」

「……あ、あれ?」

 

 嫌な沈黙が両者の間に流れた。

 ケイムスは、突然止まった二人に怪訝な表情を浮かべてイザベラたちを見る。

 

「……イザベラ副支部長? 今、何を」

「……」

「何を……したんですか?」

 

 シャルロットは恐怖、不快、疑念渦巻いた感情を抱きながらイザベラから離れる。

 一瞬、イヴとの思い出がイザベラとの思い出へと入れ替わった感触があった。

 彼との出会いを、彼との日々を、彼への想いを――全てイザベラへの物と誘導されそうになって、吐きそうになる。

 

「何を言っているの? シャルはずっと私と仲が良かったじゃない」

「――何時からシャルって私の事を呼んでいたのですか?」

「ずっと前から」

「嘘です! 私、イザベラ副支部長とあまり会えなくて……でもそれ以上にイヴくんたちとの時間が楽しくて……」

 

 どんどん貼付された偽の記憶が剥がれ落ちていく。

 

「酷いね。私の事そんな風に思っていたんだ」

「ち、違います! 私は貴女に助けられてGUARDに――」

 

 そこまで言って――違う、と気が付いた。

 

「何で、私……?」

 

 自分を信じられなかった。シャルロットを助けてくれたのはイザベラではない。本当に憧れていたのはイザベラではない。恋慕の情を抱いたのはイザベラではない。

 

 だったら、イザベラとは……彼女は自分の何なのだ?

 

「シャル。いつも言っていたじゃない。私の事を好きだって――」

「――違う」

 

 シャルロットは、イザベラを強く睨みつけて叫んだ。

 

「私が好きなのは――イヴくんです。貴女じゃない!」

 

 弓型の魔錠(シリンダー)を構えて、シャルロットはイザベラと対峙する。

 

「貴女は……何なんですか!?」

 

 その問いにイザベラは。

 

「あーあ――やっぱりダメか」

 

 今までの無表情が嘘の様に、心底面倒くさそうな顔をしてため息を吐いた。

 ああ、イラつく。自分の事を好きになってくれないなら――壊すしかないな、と。

 

 イザベラは置換を使ってケイムスの背後に移動した。彼にはすでに彼女の魔力が貼付されている為、移動先として登録している。

 彼女は彼の頭に触れて――。

 

「おいお前ら。今は防衛任務なんだから、面倒な痴話喧嘩は――」

「――うるさいから黙って」

「――あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」

 

 ――たくさんの偽の情報を植え付けた。

 『シャルロットは裏切り者』『自分たちを殺しに来た』『彼女の言う事は全て嘘』『彼女が憎い』『シャルロットが憎い』『あいつは殺さないといけない』『殺せ』『殺せ』『殺せ』。

 

 脳の負荷を考慮しない貼付は、その人間を廃人にする上に効果が長続きしない。

 つまりイザベラはケイムスが死んでも良いから、とりあえず、すぐに、シャルロットを痛めつけて、殺したいと思った。

 

「――フー! フー!」

「さぁ、裏切り者を粛清するよ?」

 

 イザベラの傀儡となったケイムスは(ゲート)を開放してシャルロットに飛び掛かった。

 

 

 

「う……!」

「――」

 

 魔力を使い果たしたシャルロットは倒れ伏して動けなかった。彼女に襲い掛かったケイムスは何とか迎撃したが、イザベラは無傷だった。

 イザベラはシャルロットの無様な姿を見て嗤う。情けない、と。お前は選択を誤ったのだと。

 

「どんな気持ち? 約束を守れずこのまま死ぬのは」

「――確かに、私は死ぬのでしょうね」

 

 魔錠(シリンダー)は砕け散り、(ゲート)も既に閉じている。もうシャルロットに抗うは無いだろう。だが――心では屈したくなかった。

 

「でも絶対にイヴくんが仇を討ってくれる――精々気を付ける事ね。私の好きな人は貴女みたいな卑怯者に負けないんだからっ」

「……生意気な事をっ」

 

 イザベラは苛立ち交じりにシャルロットの背中を踏み付ける、

 痛みに一瞬顔を歪めるシャルロットだが、しかし声を出すのを堪えてイザベラを睨みつける。

 

「可哀そうな人。貴女は嘘でしか人と繋がれないのね」

「――」

 

 その言葉にイザベラが止めを刺そうとして――彼女が現れた。

 

「ちょっとちょっと~。殺したらダメじゃない」

 

 イザベラが創造主と仰ぐ女は、イザベラの行動に困った表情を浮かべながら蓋界(がいかい)からこちら側に現れた。

 その際に溢れ出す悪意に満ちた魔力に、シャルロットは思わず顔を青くさせた。

 なんだ、これは――こんなの人間じゃない。

 

「申し訳ありません」

「まぁ、使徒にする前に死ななければ良いだけだから今回は不問にするわぁ」

 

 そう言って彼女はシャルロットの前に立ち、イザベラは下がる。

 

「あ、貴女は……?」

「私はあなた達風に言うなら人型使徒。……それにしても良い生贄を手に入れたわね」

 

 簡潔に答えた後、女はケイムスとシャルロットの(ゲート)を知覚して満足そうに頷いた。

 これなら良い素材になると。

 

「殺すなら殺しなさい……!」

「相変わらずGUARDの子って、覚悟極まっているわねぇ」

 

 自分に対して吠えるシャルロットに対して呆れる女。そんな彼女を尻目に女はケイムスの体に触れた。

 

「確かにこれから死ぬけどぉ。勿体ないから私の実験に付き合って貰うわよぉ?」

「実験……?」

「ええ。オリジナルの使徒を作る時、いつもは(ゲート)を使い切った絞りカスを使うのだけれど……もし活きの良い(ゲート)があったままの人間を使って、使徒を造ったらどうなるのか。気になってねぇ」

 

 まるで新作の服の試着をするかのような気軽さで、女は人の命を弄ぶ。

 

「それに男と女それぞれ一人というのも都合が良いわぁ。性別の差って結構影響あるのよねぇ」

「人を使徒に……? 何を言っているの……?」

「あらあらぁ。理解できないかしらぁ? まぁ、見ていれば分かるわぁ」

 

 そう言って女は自分の術式を使い――ケイムスを使徒へと変えた。

 

「ご、ごがががが――アアアアアア!?」

「あら? 一瞬で合成体になったじゃない! 確かGUARDは……オーガって呼んでいるのよね? 凄いじゃない!」

「――」

 

 予想外の結果に嬉しそうにする女。それを倒れたまま見ていたシャルロットは――絶句していた。

 何が起きた? ケイムスが、人間が……人類の敵である使徒に変わった?

 それじゃあ今まで戦って来た使徒は――元々は人間だった? それも……昔、助ける事が出来なかった人たちを素材に?

 

 それを理解した瞬間――これはダメだと、知ってはいけない事だとシャルロットは認識した。

 特にイヴはダメだ。優しい彼にこんな残酷な事を教えられない。

 

 シャルロットは、好きな人がこの先絶望する事を恐れて……此処で死ぬことはできないと強く思った。

 

 

 

 しかし、彼女の運命は既に決まっている。

 

「それじゃあ次は貴女ね!」

「っ……!」

「ああ、それと――私、アンタの事嫌いだわ」

 

 そう言って女は強くシャルロットの髪を掴んだ。良く手入れされた綺麗な髪で、サラリと指の間を通り抜けようとする。

 恋する乙女の努力だが──それを女は薄汚れた手で掴み上げ、グイっと顔を上げて目を合わせる。

 

「さっきのイザベラへの啖呵。とーってもカッコよくて、とーても真っすぐで、仲間を想う気持ちは強くて、死を恐れない――まるで勇者みたい」

 

 だから――気に喰わない。

 

「これから貴女は使徒になるけど――それだけじゃないわ」

 

 だから――とことん苦しめてやる。

 

「使徒となった貴女は愛する人の前に送り込まれる。そうなればどうなるかしら?」

 

 だから――とことん嫌がらせをする。

 

「使徒を殺す事を生業にしているGUARDなら当然殺しに来るわよね?」

 

 だから――とことん凌辱する。

 

「貴女は化け物となって、愛する人を殺そうとして、でもなーんにも知らないソイツは貴女を殺すわ――何も知らずに」

 

 だから――だからだからだから。

 

「そしてその後に――全てを教えてあげるの」

 

 だから悪を執行する。

 

「――ぁ」

「――ふふふ。良い顔ね。ようやく貴女の事を好きになれそうだわ」

 

 女は満足そうに嗤って――術式を使った。

 瞬間、シャルロットは全身にこれまで生きて来て味わった事のない激痛を感じ――しかしそれ以上にこれから訪れる絶望に泣き喚いた。

 

「――いやだ。いやだいやだいやだいやだいやだ……やだぁ!!」

 

 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!

 本当はまだ生きていたい。立派な魔鍵師(ウォーロックスミス)になってイヴと一緒に戦いたい。そして平和になったら彼と添い遂げたい。

 

 なのに――なのに!

 

「やだやだやだやだやだやだ! 助けてイヴくん!!」

 

 少女は想い人の名を叫ぶ。

 しかし来ない。約束は違えた。

 

「助けてユーリちゃん!」

 

 少女は親友の名を叫ぶ。

 しかし来ない。親友は何も知らない。

 

「助けて、たす――」

 

 そして少女は――あの時の事を思い出した。

 自分を助けてくれた魔鍵師(ウォーロックスミス)の事を。

 

 そして少女は――それが誰だったのかを思い出した。

 しかしもうあの時のお礼を、想いを――伝えられる時は来ない。

 

「いやだ……いやだよぉ」

 

 少女の意識が遠のき、怪物へと変わる中最後に口から零れたのは。

 

「おかーさん……おとーさ――」

 

 想い人でもなく、親友でもなく、恩人でもなく。

 迷子になった子どもが当たり前のように助けを求める家族であった。

 




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