スラム街の悪ガキ、天上天下唯我独尊系魔王様と相乗りする 作:カンさん
「――遊びたぁぁぁぁい!!」
「……どうしたのですか突然」
イヴの部屋にて寛いでいたユーリは、同じくこの場に居たシャルロットの突然の叫びに反応を示して問い掛ける。
「午前は勉強。午後は訓練。空いた時間は自主練! そんな毎日でユーリちゃんは息が詰まらないの?」
「休日なら設けられている筈ですが……それにこうして本を読む時間もあります!」
「そんなんだとカビが生えちゃうわよ!?」
「あの……そもそも何で二人とも当たり前の様に俺の部屋に居るんだ?」
部屋の主にも関わらず部屋の隅で膝を抱えて座っているイヴ。
姦しい二人に突っ込みを入れるも、その声に覇気が全く無かった。
「……大丈夫ですかイヴ?」
「その、また次頑張りましょうよ」
「……くすん」
二人に慰められている事から察せられるだろうが、イヴは二回目の試験に落ちてしまった。実技の方は好成績を出せているが、座学の試験をクリアできなければ正隊員に一生なれない。
「シャル、先に正隊員になっても普段通りに接してくれよな……?」
「先輩後輩の関係になると思っている!? そもそもイヴくんが試験に合格できないと私も正隊員になれないわよ!?」
「わ、わぁ……」
「泣いちゃった!?」
「はぁ……」
体を小さくさせて可哀そうな生き物になりかけているイヴの対応に、わたわたと慌てるシャルロット。静観していたユーリはため息を吐いて本を閉じ、二人にとある提案をした。
「シャル。イヴ。気晴らしに街に出掛けたら如何ですか?」
「え……?」
「詰め込み過ぎても息が詰まるのは理解できます。心機一転してまた明日から頑張ってください」
遊びに行くように促すユーリだが、シャルロットは不思議そうに尋ねる。
「ユーリは行かないの?」
「……はぁ。私は隊長と用事がありますので今回は不参加です。次の機会まで楽しみにしています」
「そっか……分かったわ! それじゃあイヴくん、午後から遊びに行きましょ? 1時に正門に集合ね!」
ユーリの言葉に納得した様子を見せてシャルロットは、親友と一緒に遊びに行けない事を惜しみつつもイヴと約束した。
イヴはそんな時間があるのだろうかと思いつつも、彼女の勢いに押されて頷いた。
【良いのか小娘? ライバルに塩を送るような事をして】
(……何を勘違いしているのですか貴方は)
こっそりと魔王がユーリを突っつく。
彼としては、三人による修羅場が起きるのだとちょっぴり期待していた。だからユーリの行動に、彼女の性格を考慮すれば理解しつつ揶揄い半分に問い掛けた。
(私は本心で二人には休んで欲しいと思ったのです。それに
【気遣いの出来る良い女だが、ちと積極性に欠けるな】
(この色ボケ魔王……)
自分たちで暇を潰そうとする魔王に呆れつつ、ユーリはどうすれば良いんだと悩むイヴに叱咤する。
「ほら、イヴ。シャルに恥を掻かせないでください」
「え?」
「その訓練着でデートに行くつもりですか? GUARDは服のレンタルができます。そこで見繕いましょう」
「ちょっと待ってユーリさん。今デートって――」
「そう言いましたが? ほら、さっさと準備しますよ」
「ちょ、待って、頭の中が整理できない――」
「……童貞」
「!?!?」
――ユーリは、魔王の言葉を飲み込み、忘れて……ただただ二人の幸せを願った。
自分には勿体ない親友と戦友達の。
「お、おまたせ」
「わぁ! イヴくんその服似合っているわ!」
青のワンピース姿で待っていたシャルロットは、黒のジーンズに白い服の上に茶色のコートを着込んだイヴに目を輝かせる。
彼創造で造られた衣服は、かつて古代の人々が逢引の際に用いたデザインを元にされているらしく、普段は動きやすい服を着ているイヴは少し落ち着かない様子だった。
シャルロットとしては、自分と遊ぶためにお洒落をしてくれた事が凄く嬉しくかった。
「それはじゃあ、行きましょう」
そう言ってシャルロットは、イヴの手を握って街に駆け出し。
「あ、ああ」
イヴは突然彼女に手を握られて動揺し、シャルロットの柔らかい手に心臓を煩く高鳴らせた。
都に来るのは初めてだったイヴはシャルロットに何をするのか尋ねる。
ずっとスラム街育ちの彼にとって、都で遊ぶと言われてもいまいち想像できなかった。
「そうね……先ずはあそこから行きましょうか!」
そう言って彼女に連れられて入った建物は――。
「射的屋?」
「そう! この魔道具であの的を当ててポイントを稼ぐの!」
イヴ達が入ったのは狙撃銃で遊ぶ施設だった。
決められた弾数で一定以上の高得点を叩き出せば景品が貰えるらしい。
さらに他の施設と連動しているらしく、東西南北の全ての都のプレイヤーランキングが張り出されている。
「【ラミラミ】……俺の目がおかしくなければ99999ってカンストしている様に見えるんだが」
「もしかしたら別の支部のGUARD隊員かもしれないわね。とりあえずやってみましょう!」
ランキング一位を見たイヴは目を丸くした。ラミラミなる者は相当な腕を持っているらしい。
そう言ってシャルロットは魔力を支払う。
こういった施設で遊ぶ際には魔力が必要であり、
イヴが周りを見れば幼いながらも
「あーん! やっぱり上手くいかない!」
120点とランキングを見るとかなり拙い点数。弓と勝手が違うようでシャルロットは苦戦していた。
イヴは苦笑しつつ自分もやってみた。
「119点……」
「あはははは! イヴくん下手っぴね!」
「……もう一回!」
「それじゃあ私も!」
それから二人は狙撃銃で的を撃ち続けたが結果はそこまで変わらず、ランキングに名を乗せる事もなかった。
「こういう施設って多いのか?」
「そうね……パンチの強さを測る所や、跳んでくる魔力弾を魔道具で打ち返す所、他にも色々とあるわね!」
どれもこれも戦いにおける動きを遊びで身に着ける施設ばかりで、複雑な気持ちになりつつも感心する魔王。イヴはただ「へー」と気付いていない様子。
「色々周って見ましょう!」
「そうだな。パンチなら自身がある」
二人は色んな施設を回った。
「ランキング15位! 凄いじゃない!」
「いや、1位の【グレイ】には到底及ばない。もう一度!」
「イヴくんって負けず嫌いよね……」
自慢の拳がまだまだ発展途上だと自覚したり。
「――どうだ!?」
「ランキング11位! 凄いわ」
「ありがとう! ……でもこの1位の【ホリホリ】って何者なんだ? 0.0001秒って」
100mの移動速度を測る施設ではまだ遅いと知り。
「弾を撃ち返すのって、身体強化していないと結構難しいな」
「私腕が疲れちゃった~」
「体力つけような?」
棒を振って弾を撃ち返し、特定の場所に入れば得点が入る施設では体の動かし方を再認識した。
「意外と楽しかったな。訓練とはまた違った感触があった」
「やっぱり楽しく体を動かすと気分が良いわね!」
他にも色々な施設で遊んだ二人は、どこかスッキリした顔をしていた。結構魔力を使ってしまったが、訓練後の疲労感とはまた違った感覚があった。
「……ん? シャル、あれは何だ?」
ふとイヴはとある施設が目についた。
何故かそこは大人しか居らず、施設内に並べられた箱の前の椅子に座り、その箱に備えられたレバーを動かしていた。箱の中には小さな魔力物質化で造られた玉が上から転がり、打ち込まれた釘に弾かれながら下に落ちていく。
その様子を遊んでいる大人たちはジッと見ていたり、箱が光ると大声を上げて喜んだりしていた。
中には景品である酒を飲みながら遊んでいる者が居り、とてもではないが治安が良いとは言えない。
「あれはまだイヴくんに早いわ……」
「そ、そうか……?」
何処か据わった目でイヴをその施設から遠ざけるシャルロットには、何処か言い寄れない迫力があった。
「――あ! イヴくんあそこに行きましょう!」
何かを見つけたのか、シャルロットはイヴの手を取ってとある施設に走り出す。
そこは個室が複数用意された施設で、防音の術式が刻まれていた。
「此処は?」
「此処はね、詠唱を如何に上手く紡げるか競う施設なの」
魔法には本来詠唱が必要である。しかし
しかし詠唱を使えば魔法の威力、効果を底上げできる。
この施設はその力を遊びながら鍛える事ができる施設だ。
「私、昔から得意なの! 良かったら聞いてくれる?」
「お、おう」
イヴの了承を得たシャルロットは魔力を支払って機器を操作し、詠唱の熟練度を採点する魔道具を持つ。片手で持てるサイズだ。
ノリノリで体を揺らしながら詠唱を紡ぐシャルロットの綺麗な声を聞きながら、イヴは部屋に備えられた椅子に座り……ふと気が付く。
シャルロットの詠唱に合わせて奏でられている音……ローリンの術式じゃないか?
チラリと部屋の魔道具を見ると【魔響の奇行師協力! 新時代を拓け!】と書かれていた。何してんだあの人。
内心そう突っ込みつつ……しかしイヴはシャルロットの詠唱に釘付けだった。
「――やった! 100点満点!」
「凄いなシャルロット」
「えっへん! これだけは得意なのよ! 私、お父さんとお母さんにいつも綺麗な声ねって言われていたから」
自慢げに語るシャルロットに、イヴは深く頷き。
「ああ。いつも綺麗だと思っていたけど詠唱を紡いている時のシャルは、いつも以上に綺麗だった。ずっと聞いていたいくらいだ」
「……」
「ん? どうしたシャル?」
「な、何でもないわ!」
シャルロットは顔を真っ赤にさせて、それが見られたくなくて咄嗟にイヴから顔を逸らした。
無意識に紡がれたイヴの本音は、彼女の胸を強く打った。
やはりあの時以来彼に対して妙な気持ちになる。この感情を知らないシャルロットだったが――。
(もしかして私――)
自覚が芽生え始め――。
「シャル?」
「――!! な、何でもないわ! それよりも他の詠唱も試して良いかしら?」
「あ、ああ。……俺も、もっと聞いてみたいからさ」
「――」
シャルは顔を真っ赤にさせて、それでも100点満点を叩き出していた。
しかし彼女は己の声が聞こえず、ずっとシャルの耳に届くのは心臓の音だった。
「そろそろ帰らないとな」
「そうね」
食事を終えるともう辺りは暗くなっていた。
楽しい時間が過ぎ去るのは何時だって早い。まるでそういう術式を使われているかの様に。
そろそろ帰ろうか、とイヴが言うとシャルはその前に寄りたい場所があると告げる。
「こっちよ」
「ここは」
連れられたのは装飾品を売っている店だった。
シャルロットは、店に並べられているペンダントの中から白い星の形をした綺麗な石が付いてる物を手に取り、魔力を店主に支払って――イヴに渡す。
「はい、記念!」
「え?」
「イヴくん、都で遊んだの初めてでしょ? ……これから正隊員になったら、こうして一緒に過ごせる時間はないのかもしれない。だから、このペンダントを見て今日の事を思い出して欲しいの」
シャルロットは、思い出をイヴに渡した。
明日になればまたいつもの日常に戻る。だから、その前に自分を目の前のヒトに刻み込みたいと思った。
「――だったら」
イヴは同じ形で……しかし色違いのペンダントを魔力で支払い購入する。
そのペンダントはシャルロットの明るい髪と同じオレンジ色の星型の石が付けられていいた。
「シャル。お前も今日の事を忘れるな。そして――また遊ぼう」
「――」
彼女は、イヴからペンダントを受け取ると――無意識に涙を流した。
嬉しい――嬉しい嬉しい嬉しい。
イヴからプレゼントを貰った事が、また一緒に遊びたいと言ってくれた事が、今日の事を忘れたくないと同じ想いを抱いてくれたことが。
それがたまらなく嬉しい。
「――うん。約束ね」
シャルはまたイヴと遊びに来る日を夢見て――星の様な輝きを持つ笑顔を浮かべた。
その後二人は、ユーリの分も買ってGUARD支部に帰った。
ペンダントを受け取ったユーリは二人の優しさに苦笑しつつ、そのプレゼントを大切そうに身に着けた。
そして翌日からはイヴとシャルロットは訓練と勉強に励み、見事正隊員となって――。
「――シャル」
目を覚ましたイヴの手には――砕け散ったシャルロットの
星の輝きは――失われたままだった。