スラム街の悪ガキ、天上天下唯我独尊系魔王様と相乗りする 作:カンさん
「イヴ、目が覚めたのですね……!」
安堵の表情を浮かべたユーリだが――イヴは対して反応を示さなかった。
ただ――確認がしたかった。
「ユーリ……アイツは死んだのか?」
「……それ、は」
何処か答え辛そうにしている彼女を見て、イヴの心がざわつく。
意識を失って七日。イヴは何も知らない筈なのに、何故か嫌な感覚が頭の隅にこびり付いて仕方が無かった。
魔王が彼の意識がない間に活動をしていた事と関係があるのかもしれない。その際に見聞きした事を情報として取得している可能性がある。
故に――否定したかった。
【我が答えよう】
「……魔王」
【契約を違えた非礼だ――真実を語ってやる】
「――いえ、魔王。私が伝えます――シャルの親友である私が、伝えないといけません」
彼女の声には――重い覚悟があった。
「ユーリ……?」
【……無粋だったな。許せ】
「いえ。……イヴ、どうか聞いてください」
彼女は語った――あの後の顛末を。
意識が目覚めたレインは事の顛末を聞き――己の感情を押し殺して支部長として動いた。
すぐさま本部に報告を行い、イザベラが裏切り者である証拠を徹底的に調べた。
支部長であるレインを害した時点でクロだったが、イザベラを裏切り者だと断定して調査した結果――クロだった。
スラム街への食材配給の操作。本部データベースの侵入の形式。魔力の偽装。隊員への術式の付与。
上げればキリが無かった。何故気付けなかったのかと疑問に思うくらいに――しかしそれが術式の効果なら頷ける。
本部はイザベラを正式に裏切り者として断定し、レイン支部長に一つの指令が下った。それは――。
「公表しない!? ふざけているのですか!?」
レインから語られた本部の決定に、ユーリが激怒する。
現在、支部長室にはレイン、ローリン、ユーリ……そして意識を失っているイヴの肉体を操っている魔王が居た。
彼らだけが現在この南支部でイザベラが裏切り者だと知っている者で――箝口令を敷く為に招集された真実を知る者たち。
「そんなの納得いきません……!」
「これは決定だよユーリちゃん――直ぐに本部長から君に直接指示が出される筈」
「……!」
レインの言葉にユーリは表情を変えた。
魔王は、今の言葉と反応でずっと疑問に思っていた事が氷解し、納得の声を上げる。
「なるほど。小娘は本部からこの支部の裏切り者の調査を命じられていたのだな――そこの金髪小娘が裏切り者である可能性を示唆されて」
「まさか私が疑われていただなんてね。だからユーリちゃんが刺々しい訳だよ」
――最も、裏切り者は副支部長だった訳で、故に本部はイザベラが裏切り者である事を公表しない……否
「イザベラが貼り付けていた憧れは、本人の術式の効果が無くなっても……残り続けている」
長い間貼り付けられていた嘘は、落ちない
さらに彼女が副支部長である事実が、イザベラの真実を伝えれない状態となっている。
「副支部長が裏切り者だと知られればGUARDの信用問題になる。だから――」
「――だからGUARDはイザベラは裏切り者と相打ちした英雄とし、本人の肉体は奪われたと……そういう美談を流すのだな」
信じられない、とユーリが目を見開いてレインを見る。しかし彼女は魔王の言葉を否定しない。何故なら彼の言う通りの対応をGUARDは行うのだから。
ただでさえ危うい人類が、唯一彼らを守護する組織を信じられ無くなれば――待っているのは破滅のみ。
故にGUARDはイザベラを――シャルロットの仇を……敵ではなく、失ってしまった惜しい人材として、味方として、存在しない裏切り者から人類を守った英雄として終わらせる事にした。
「――そんなの! あんまりじゃないですか!!」
慟哭するユーリ。
「それじゃあ、シャルは……シャルの、無念は……!」
そして何よりも――。
「――イヴの想いはどうするのですか!」
彼女の問いかけに、レインは――。
「――説得して、欲しい」
「――」
「多分私じゃあ……コロちゃんも、通じない。だから――」
ユーリは、レインの前まで駆け出し――強くその頬を引っ叩いた。
今の言葉は本部からの命令ではなく、レインの言葉だった。
だから許せなかった。許してはいけなかった。――我慢できなかった。
「――あなたの、せいで……!」
「……」
「あなたは、あの女とずっと一緒に居たから……だから――っ」
その先の言葉は。
「止せ――小娘」
止められる。
「貴様まで冷静で居なければ――死人がでる」
ローリンの術式によって――。
ユーリの首には魔力が宿っていた。ローリンの術式が発動すれば――胴体から分離させられる程の魔力が。
魔王の言葉により霧散するが、ローリンの目は暗くユーリを見据えていた。
それ以上言えば命はないと言わんばかりに。
「――ごめん」
レインが頭を下げる。ユーリをその姿を見る事しかできない。
「もちろん私もちゃんと説明する。でも――人類を守る為に協力してください」
感情を押し殺したその声に――ユーリは気付く。
目の前の少女もまた失ったのだと。
そしてその立場故に己の私情を挟むことができず、部下であるイヴやユーリに非情な命令を下さなくてはならない事に。
それに対して自分は――ただ感情を爆発させただけ。
納得はしない。嫌悪感がある。許せないと思う。
しかし今のユーリにレインを否定する事はできなかった。
「……承知、しました」
――ごめんなさいシャル。
「イヴを必ずや説得します」
――私は貴女の尊厳を守る事ができない。
「人類存続の為に」
「なんだよそれ」
ユーリから話を聞いたイヴの瞳は大きく揺れ動いていた。
「何でアイツが英雄になってんだよ」
「……」
「裏切り者はアイツだろ? アイツはユーリを死なせたクソ野郎じゃねぇか」
「……」
「――何でだよ!」
思いっきり振り下ろされた拳は、ベッドに力なく沈む。
【理由は話の通りだ】
「そうじゃねぇよ!」
イヴはユーリの胸元を思いっきり掴んで、引き寄せて――己の憤怒を八つ当たりで、ぶつける相手が居ないから、目の前の彼女にぶつける。
「なんで!? 何でなんだよ! 何で納得したんだよ! なぁ! おい!」
「……」
「なん――っ」
イヴは、口を押えてせき込む。けほけほ、かはっと息を吐き続けた後に吐血する。
「イヴ、血が――」
「どうでも良いんだよ俺は!」
肩を掴んだその手を払いのけ、再びユーリを掴むイブだが――その力はあまりにも弱かった。
「なぁ……何でだよ」
「……」
「アイツが裏切り者だって言えばいいじゃねぇかよ……シャルが誰のせいで死んだのか――言わせろよぉ……!」
イザベラの全てを破壊したかった。地位も。尊厳も。命も。その想いも。
しかしGUARDを守るために結果的とは言え――彼女の全ては保たれている。
次に再びGUARDの前に現れれば、本部も彼女を殺すだろう。しかし、その時は裏切り者のイザベラを殺すのではなく――人類の為に犠牲となった英雄イザベラを騙る偽物として、だ。
真実は、事実は、現実は――こんなに糞ったれなのに。
「ああ、そうだ」
イヴは本当に許せない者を思い出した。
「――なぁ、アイツは殺したんだよな魔王」
【……】
「約束、したよな」
自分では殺せなかったあの女。
泣き叫ぶシャルロットを嗤いながら怪物に変えた全ての元凶。
闇に堕ちていく中、己を拾い上げ、体を使い、代わりに殺してくれると言ってくれた。
だからイヴは縋るように魔王に問い掛けた。
【ああ。あの女はあの場で殺した】
そして魔王はイヴの望む答えを吐き、
【だが奴自身はあの場に居なかった】
「……」
非情な現実を突きつける。
既に全てを知っているユーリは固く目を閉じて見たくない現実から目を逸らし、不甲斐ない自分を呪う様に拳を強く強く握り締めた。
「なん……だよ、それ」
【奴は生きている。あの場に居たのはあの女が遠隔操作していた肉人形に過ぎん】
「――じゃあ」
【……あのドブカス女は生きている】
その言葉を聞いてイヴは――感情抑える事ができず、我慢する事などできず、全てを曝け出した。
「嘘吐いたのかよ! お前、アイツを殺してくれるって言ったじゃねぇか!」
【……そうだな。結果的に契約を反故にした】
「何冷静に言ってんだ! 謝罪の一つくらい――」
【――貴様の言う通りだ。すまなかった】
「あっ、ぐっ……」
イヴは言葉を詰まらせた。
「んだよ、それぇ……!」
魔王の素直な謝罪に――何より。
「何で、お前が、そんな声……出すんだよぉ!」
これまで絶対的な信頼を置いていた相手の――感情を押し殺した声に、何も言えなくなった。
あんなに偉そうに、いつも馬鹿にしてきて、自信満々で――何でもできると思っていた相手のそんな声を聞きたくなかった。
「――魔王」
【……何だ】
「お前はさ……シャルがあのオーガだって気付いていたのか?」
【いや。
あの時に気付いていれば――そう考えるのが普通だ。イヴもそう思っている。
しかしそれと同時に――。
「なぁ。お前の術式だったらシャルを元に戻せたか?」
【――無理だ】
シャルロットはあの時救う事ができなかった事は確かだった。
【ドブカス女を殺した時の様に我が降臨できていれば話が別だが――あれは貴様の同意と殺意があってこそ。シャルロットの存在に気付き、貴様に伝えたとしても――殺意の前に悲しみに暮れる。そして救えると分かれば期待が高まる】
そして普段の状態ではイヴの
それだけ敵の術式の効果が深く、複雑で、そして悪意に満ち溢れていた。
イヴは魔王から全てを聞くと。
「何だよそれ……」
頭を抱えて蹲り。
「全部俺のせいじゃねーか……!」
力が足りないから仇を打てず、挙句の果てに魔王に頼り、無様に当たり散らす。
自分がイザベラを裏切り者だと気付けなかったから、シャルロットは連れて行かれてた。
「イヴ。自分を責めてはいけません。悪いのは敵であり――」
「でもシャルロットを殺したのは俺じゃねぇか!!」
「――っ」
そして何よりもイヴはシャルロットを殺した。
オーガに変えられたとは言え、この手で殺した。
憎悪のまま誤った相手を殺した。
自分に救いを求める、自分の事を好いてくれた人を――好きだった人を殺した。
「魔王が! 嫌な予感がするって止めたのに! 俺は選択してしまった!!」
【……】
「――俺がシャルを! シャルを殺したんだぁ……」
――かつて少年は選択をする意志も、力も、気概も無かった。
遥か古代の魔王と出会い、己の運命に負けない様に選択する道を選び、迷いながらも……後悔はしない様に歩み続けた。
しかし彼は選択を誤った。後悔し、咽び泣き、大切な人を失うと言う最悪の結果を招いた。
――イヴは責任を取らなくてはならない。選択をしたその結果を。
だが。
「あああああ――あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
今の彼に――立ち上がる為の、歩む為の……暗闇を進むイヴを照らし、寄り添ってくれる光は無い。
その光は彼自身の手によって潰えたのだから。
「――さーて! これからが大変だぞぅ!」
「……」
支部長室にてレインは事後処理に追われていた。
イザベラの死を偽装するのは最も彼女の近くに居り、事の八端となった南支部の長である彼女の仕事だ。
休んでいる暇はない。
「それにしても酷い話だよね。生きていたと思っていた幼馴染が本当は
「……」
気にしていない様に明るい声でレインは不満を口にする。
それも仕方のない事だ。孤独を埋めてくれた幼馴染が偽物で、しかも本物は当の昔に死んでいたと聞かされたのだ。彼女には仇を討つ必要がある。
悲しむ暇はない。
「しかもサボっていると思ったら工作活動していて、さらに厄介な置き土産までしてくれてさ~」
「……」
裏切り者だと公表すればGUARDの信用問題となる為公表できないが、イザベラの死の公表もまた厄介だ。彼女の信奉者は多く、しばらく混乱は続くだろう。
憎む暇もない。
「本当にさー。いっそ清々しいよね! この3年間全部嘘だったんだから!」
「……」
確かめる暇はない。
「本当に……」
書類を捌いていたレインの手が止まる。
――全てが嘘だなんて思っていない。
確かにあのイザベラは偽物だ。レインの心の隙間を狙って張り込んだ異物。ご丁寧に術式で騙し続けて良い様に利用してきた。さらに明確に人類に敵対行為をしており、下手をすればレインもまた裏切り者の片棒を担いだ人間として見られる可能性があった。
その可能性をイザベラが全て消していた。
「――なんでだよ」
握り締められた拳に彼女の本音が伝わる。
「何でだよぉ……イザベラァ……!」
ギリッと歯を噛み締め、頬を伝う雫を無理矢理拭う。
泣いたらダメだ。悲しんだらダメだ。怒ったらダメだ。
自分にはその資格はない。自分のせいでシャルロットは死に、イヴとユーリに消えない傷跡を刻み込んだのだ。
だから。
「あ、あの! レインちゃん!」
「……コロちゃん」
「わ、私が居ます!」
ローリンがレインの硬く握り締められた拳に両手を添える。
彼女は孤独だった。その力に、その頬の傷に、その性格故に他者と関わる事ができなかった。だから他人との距離を間違えてさらに離れていく。
しかしレインだけは違った。
ローリンの力も、傷も、性格も、奇行も――全てを受け入れた。
そしてローリンが唯一持っていた孤独を奪い、誰かと一緒に居るという当たり前の温もりを与えてくれた。
だから次は彼女の番だ。
「私はイザベラさんの様に人気じゃないし! レインちゃんの好きな事も! 喜ぶことも! して欲しい事も! 全然知らない……でもっ」
「……」
「そ、そそそそそ傍に! 居る事はできるから――だから!」
ローリンは術式『静寂』を使い、外に音が漏れない様にしてレインを強く抱き締めた。
「私の傍では……泣いてください」
「――」
「あ、でもステラさんの胸で泣きたいのなら術式でこっちに引き摺って来て――」
ローリンの言葉を遮る様にして、今度はレインが彼女を抱き締めた。
温もりがお互いに伝わり、じんわりと胸の奥が熱を帯びていく。
「ありがとうコロちゃん」
「い、いえ……」
「ちょっと……このままで居させて……!」
その日支部長室から音がしなかった。
誰も居なかったのだろう。
人類最強の
ただ――何処からか一人の少女の悲しみの声と、それを不器用に受け止める少女の声は誰にも届かなかった。
「――それで? その者の処分はどうする?」
闇に覆われた某所にて、イザベラは全身から冷や汗を掻いて跪いていた。
声を出せば死ぬ。顔を上げれば死ぬ。何か考えれば死ぬ。
そう思ってしまうほどに――そこは死の気配に満ち溢れていた。
闇の奥で鋭い男の声が響く。
「弱き者を生き長らえさせる必要は無いだろう。さっさと殺せ」
闇の奥で柔らかい男の声が響く。
「しかし、彼女が派手に暴れたおかげで
闇の奥で狂気に満ちた幼い子どもの声が響く。
「だから何だい? どうせ使い道が無いのだからさらなる使徒の発展に貢献して貰うのが有意義だと思うがね?」
闇の奥で魅惑的な女の声が響く。
「でもぉ? この子のおかげで魔王の力を見れたのよぉ? 少しはご褒美上げても良いんじゃない?」
姿は見えない。しかし全員が悪意に満ちた魔力を全身から垂れ流していた。
彼らが人類の敵。人型使徒。そして――魔王の記憶に刻まれた4人と瓜二つの別人。
約1000年前彼らはこう呼ばれていた――魔王軍四天王、と。
「それにぃ? 次の作戦で彼女の術式は役に立つよ?」
「フン。どうせあの魔王にすぐに殺されるさ」
「あら? それはどうかしら?」
女が思い出すのは、送り出した肉人形が最後に見た光景。
魔王の姿から、イヴに戻った時の――彼の肉体。魔王の器。――悲しき運命。
「次に降臨した時こそチャンスだと思うわ。だって――」
――器の方が持たないわ。
女はイヴの白い頭髪が一部
人類存続の危機はまだまだ続く。
これにより今作は未完とさせていただきます。
現在カクヨム様にてマルチ投稿させて頂いており、あちらで二章が終わり三章を投稿と同時にこちらでは削除しカクヨムオンリーとさせていただきます。
後日登場人物紹介を載せるかもしれません