スラム街の悪ガキ、天上天下唯我独尊系魔王様と相乗りする   作:カンさん

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第4話『スラム街の悪ガキ、ゲロを吐く』

 

「──此処なら暫く身を隠せるな」

 

 イヴは以前の家を捨てて新しい家を手に入れた。と言ってもスラム街に数ある廃墟の一つを勝手に使っているだけだが……尤も以前の家も勝手に使っていた廃屋だったりする。

 荒れて埃塗れのソファに座り一息つくイヴ。裏路地で目覚め、ゴロツキ共に追われて、果てには使徒との戦闘。流石に疲れた。

 

『英雄に祭り上げられるのは嫌いか? 小僧』

「別にそんなんじゃねぇよ……」

 

 疲労困憊なイヴは魔王の茶々に力なく答える。

 使徒を倒した後、その場に居たスラム街の人たちは口々にイヴを褒め称えた。

 助けてくれてありがろう。お陰で助かったと。

 正直良い気分だったイヴだったが、彼の中で魔王の零した言葉によって直ぐにその場を後にした。

 

 

――小僧。どうやら貴様が最後だったようだぞ。

――何がだ?

――貴様の言う使徒とやらだが、他に9体現れたが瞬く間に殲滅された。それと複数の魔力がこちらに向かっている。

――それって……!

──ん?どうした小僧何処へ行く。まだ我は賛美の言葉を受けておらんぞ。ほら、あそこに丁度良い女が居るではないか。ちと体を渡せ。聞いているのか小僧?おいこら小僧!おい!貴様!無視するな!ちょっと遊ばせろ貴様ァ!

 

 

『GUARDとやらは鼻が利く。すぐに居場所がバレるぞ』

「……」

『そもそも何故隠れ潜む必要がある? そして何故そこまでして奴らを毛嫌いする?』

「……」

『黙りか。童らしいくだらん理由と見た』

「ちっ……」

 

 舌打ちをするも語るつもりはないのか、イヴは魔王の煽りをとことん無視した。

 

『まぁ、何となく察してはいたがな』

「……」

『貴様がGUARDを語る際、まるで肥溜めの中を覗いているかのように不快感を抱いているのを感じ取れた。融合している弊害だな』

「ふん……」

『それに』

 

 魔王は、この世界についてイヴから聞いてずっと疑問に思っていた事があった。

 

『貴様、もしかしたらGUARDならこの状況をどうにかできると考えたのではないか?』

「……何が?」

『呆けるな。貴様は無知だが悪知恵は働くクソガキだ。おそらく何らかの魔法により融合した我と貴様を分離させる方法をGUARDなら知っているだろうと当たりを付けた。しかし私情でその選択肢を捨てた。違うか?』

「……」

 

 魔王の言っている事は当たっていた。

 イヴはGUARDが嫌いだ。3年間に起きた事件で彼は全てを失い、それをGUARDは守れなかったし――そもそもの事件の原因はGUARDにある。

 だからそれ以来彼はGUARDに不信感を抱き、頼りたくないと思った。

 魔王との融合は不気味だし困っているし、どうにかしたいと思っているが……GUARDに頼るくらいならこのまま死んで良いとすら思っている。

 しかしその事を正直に魔王に言いたくなかった。あっさりと見抜かれたが。

 

「文句あるのか?」

『いや? その選択を愚かだとは言わん。個人的にはくだらん、幼稚、今まで童貞だったのが納得な程にクソガキだと思うだけだ』

「お前に体があったら思いっきり殴ってやりてぇ」

『どのみち不可能だ』

 

 ハンッと鼻で笑われ、イヴの苛立ちは増すばかり。

 

「……何だ? その選択は間違いだからGUARDを頼れって言いたいのか?」

『いや? 別に良かろう』

「……は?」

 

 魔王の言葉に素っ頓狂な声を出すイヴ。

 

『……我は選択した者を否定せん。浅はかだろうが思慮深ろうがな』

 

どうせなら後悔してでも選択をした方が良いと、諦めて選択自体を放棄するのは勿体ないと魔王は言った。そしてイヴに選択を迫った。

 

「……何が言いたい」

『別に。ただ、その選択の先を我は見届ける責任がある。貴様の青いケツを蹴飛ばした手前故な』

「……」

 

 その言葉に釈然としないながらも、魔王がそれ以上GUARDについて何も言わなかった為イヴも話を広げる事は無かった。

 

 

 

「それにしてもまさか俺が魔法を使えるとは思わなかった」

 

 しばらくして、イヴは先ほどの戦闘を思い出して己の手を見つめる。

 ずっと焦がれていた力。何故自分には魔法の才能がないのだと腐っていた。

 しかし今日初めて彼は魔王の力を借りて自分の魔力を帯びて使徒を倒した。その実感がフツフツと沸き起こり始めた。

 

『何を不思議がっている。貴様には元々才があった。それに気づけなかっただけだろう』

「それはそうかもしれんが、勝手に言ってくれるな」

『フン。貴様と融合した時、しっかり(ゲート)の存在を確認したからな。当然だ』

「……は? 何を言っているんだ?」

 

 イヴは魔王の言葉に首を傾げて。

 

「人間に(ゲート)があるなんて当たり前だろ?」

『……む?』

 

 魔王はイヴの言葉に首を傾げる。

 

「……俺変なことを言ったか?」

『……一つ質問をする。貴様の言う魔法の才能は(ゲート)の有無であろう?』

 

 魔王にとっては人間が両足を使って歩くのと同じくらいの常識。

 しかしその常識はこの世界では通用しない事を薄々感じ取っていた。実際に、イヴは「なんだそれ?」と怪訝な声を上げて否定する。

 

「人間に(ゲート)があるなんて普通だろ?」

『……ならば、如何にして魔法の才の有無を図るのだ? この世界は』

「そんなの(ゲート)を開く為の鍵があるかどうかだろ」

『鍵?』

「……俺も詳しい事は知らないけどさ」

 

 人が魔法を使う際に開かれる(ゲート)。その開放率によって魔鍵師(ウォーロックスミス)の強さは左右される。そして、その全人類が持っている(ゲート)を開くためには自分の中にある鍵を知覚し、(ゲート)を開放しないといけない。

 それが出来るか否かで魔法の才の有無がはっきりと分かれ、その後開放率をどれだけ上げられるかが魔鍵師(ウォーロックスミス)に求められる才能である。

 

 そしてイヴはこの3年間全く自分の中の鍵を知覚できず、使徒と戦う力を有していなかった。

 

「そして魔法が使えない俺たちはこの保護区と言う名の荒れた街に隔離されているんだ」

『なるほど……』

「……そして、魔法が使える奴はGUARDに入ってさ、その家族は都の居住権を手に入れるんだ。もしかしたらまた魔鍵師(ウォーロックスミス)になれる奴が出るかもしれないって」

『なるほど。それで追い込まれている癖に貧富の差が生まれているのか』

「都の奴ら俺たちの事を『鍵無し』って馬鹿にしやがる……魔法が使えないのはあいつ等も同じ癖によ」

 

 人は自分よりも弱い存在を認識して安心しようとする。

 あんな貧困生活をしたくない、とスラム街の住人を見て自分たちが豊かな生活をしている事実を噛み締める。そしてスラム街の住人たちは都の人間に対して、魔鍵師(ウォーロックスミス)に対して、GUARDに対して敵愾心を抱く。

 イヴの言葉を受けて、なるほどと納得する魔王。

 

『(門無しではなく鍵無しか)しかし貴様らスラム街の食料の配給をGUARDは行っているようだが?』

「それでも量が少ないし取り合いが起きている」

『ふむ。つまり飼い殺し状態という訳か』

「どういう意味だ?」

『GUARDに余裕がないのか、もしくは敢えてそうしているのか知らんが……』

 

 非魔鍵師(ウォーロックスミス)は魔王が認識している範囲だと何もしていない。ただ生かされているだけだ。

 仕事を与えて働かせて労働力する事無く、ただ決めた範囲に人類を配置して餌を与えている。それでは腹は膨らんでも心は貧しいままだと魔王は言った。

 そしてそれは都の非魔鍵師(ウォーロックスミス)にも同じことが言えて、それがそのままスラム街への差別意識となっている。

 

「……良く分からん」

『まぁ、我はGUARDを知らんからな。今言った事も的外れの可能性が大いにある。そして貴様がGUARDと接触する気がない以上、奴らの真意を知ることはできん』

「……」

『ただ、国も人間も腐った場所から壊死し、崩れ落ちる。精々そちら側にならぬ様に気を付ける事だな』

 

 魔王の言葉にイヴは返す言葉が無かった。

 正直言われた事のほとんどが理解できていなかったが、自分も魔法が使えると分かった時に湧き上がった感情を思い返して……あれは都の奴らと一緒なんじゃないかと思ってしまった。

 そうすると自分が嫌な人間になってしまいそうで……少し、怖かった。

 

 

 

『さて、魔法を使えるようになったお子様の為に、ある程度の力の使い方を教授してやろう』

「言い方腹立つな」

 

 唐突に始まる魔王様による魔法講座。受講生は一人。しかも初心者である。受講態度は最悪だが講師も最悪なので無問題だ。

 

魔門師(ウォーロックスミス)に目覚める為には先ず(ゲート)を開けなくてはならん。貴様の言葉を信じるならば鍵を見つける事だな』

「正直その感覚が無いんだけどな」

『我が勝手に開けたからか、もしくはあの鍵が原因か知らんが……考えても答えが見つからんのなら置いておく。今回貴様のその物覚えが悪そうな脳みそに刻み込んで欲しいのは、魔門師(ウォーロックスミス)としての常識だ』

「煽らないと死ぬのか? 死ねよ」

 

 受講生からの苦情を無視して魔王は講義を進める。

 

 (ゲート)を初めて開いた魔鍵師(ウォーロックスミス)の開放率は1%である。たった1%だが、開く前……0%とは雲泥の差がある。

 (ゲート)を開いた人間は、それまで知覚できなかった存在……魔力を感じ取る事ができる。

 

「……それで何か変わるのか?」

『変わる。今まで感じ取れなかった物は違和感となり、その違和感は貴様の力となる。

 赤ん坊が歩けるようになり、幼児が話せるようになり、子どもが感情と理性を育て、大人がこの世の情理を学ぶ様に。

 新たな世界に一歩踏み出した人間は、それまでの古い自分から逸脱した存在へと昇華される。

 違和感を違和感と感じなくなり、当たり前の感覚と認識すれば……息をするのと同じ様に当たり前の事だと魔力を、魔法を認識したその時に魔鍵師(ウォーロックスミス)と成るのだ』

「……」

 

 まだ実感はない。しかし魔王の言葉には相変わらず妙な説得力があった。

 それ以上に……使徒との戦いがイヴに昨日までの自分との違いを妙実に示していた。

 

「……この力を扱い熟せば、(うえ)の奴らを倒せるのか?」

『敵の正体、実力が分からん以上確かな事は言えん。確実に言えるのは、貴様程度でも魔門師(ウォーロックスミス)に目覚めれば昨日の雑魚くらいなら倒せるくらいだな』

「……雑魚? あれが?」

 

 確かにほぼパンチ一発で倒したが、普通の人間では到底太刀打ちできない存在だった。棍棒を振る速度も威力も高く、逃げ惑う人間に容易く追いついていた。

 

『あの牛頭。我の魔力探知で調べた所……主な目的は人間の捕縛だろうな』

「使徒が人間を攫うなんて当たり前だろ?」

『それを加味しても、だ。体内に四つの収納袋を宿している以外には特別な能力もなく、弱所を破壊すれば容易く崩壊する。あれを戦闘用と定めるにはちとレベルが低すぎる』

「……そうなのか?」

『現に、奴らが現れてすぐにGUARDの奴らが倒していたぞ』

「何でそんな事分かるんだ……」

『魔力探知だ。我レベルとなると広範囲で何が起きているのか把握できる』

 

 もしかしてコイツ規格外の存在じゃないのか? とイヴは少し魔王に対して認識を改めた。

 此処まで聞いてふとイヴは気になる事ができた。

 

「もし戦闘用の使徒が来たら俺はどうなる?」

『我の助言が無ければ、貴様一人で戦えば死ぬ』

「……はっきり言うんだな」

『経験のないガキがおもちゃを手に入れたばかりなら猶更な。そういう勘違いをして早死にした者を腐るほど見て来た』

「……」

『捕縛タイプを倒すので精一杯なら余計に、だ。故に今貴様に求められるのは己の力を正しく認識し、己を知る事だ。敵の事を知るのはそれからだ』

「……分かった」

 

 これまで生き残る事に必死だったイヴは魔王の言葉に素直に従った。

 彼の本能がこれから先に生き残るのに必要な事だと認識したからである。

 イヴは魔王の言葉を従い、まずは(ゲート)を自由に開放できる特訓から始める事にした。

 胡坐を組み、手を合わせて目を閉じる。そして呼吸を一定のペースで行い己の中に集中をする。

 

「……そういえば」

『集中が乱れるのが早いわバカタレ』

「アイツを殴った時、妙に力が入ったけどあれも魔法?」

『……あれは身体強化の魔法。一番最初に取得する基礎魔法だ』

 

 (ゲート)の開放率が5%を超えた時に取得が可能となる魔法である。

 知覚した己の(ゲート)から出てくる魔力を全身に纏わせる事により攻守共に強化4する魔法。ちなみにこの状態で魔法を使えない人間をデコピンすると頭が何処かへ吹き飛んでいく。さらに開放率が上がれば上がるほど、身体強化の魔法は強くなる。

 

「なるほど。だから魔鍵師(ウォーロックスミス)はあんなに強かったのか」

『ある程度の攻撃も防げる様になる。だが貴様にはまだ早い。その前にさっさと魔力を感じ取らんかクソガキ』

「はいはい」

 

 魔王の言葉におざなりに返して集中する。

 それから1時間ほど経ち、イヴは頭の中で何かがハマる音と開く音を聞いた。同時に今まで感じ取れなかった感覚が彼の脳みそを揺らした。

 

「――、オエェ……」

『ふむ。ようやく開いたか。ああ、それと……初めて開いた時は吐くぞ? 魔力酔いと呼ばれている』

「……先に、言え……てか、絶対にわざと言わなかっただろ……!」

『さてな? だが強い違和感だっただろう?』

 

 愉快だと言わんばかりに笑い声を上げる魔王に、本気の殺意が芽吹くイヴだったが魔力酔いによって何も言えずにいた。

 というよりもそれどころではなく、だんだんと意識が無くなって来ていた。

 

「お、ぼえて……」

『すまんな。どうでも良いことは忘れる事にしている』

「く、そまお……――」

 

 

 

「ようやく寝たか」

 

 イヴの体がガクリと落ちた後に、すぐに彼の体は起き上がった。

 イヴ……ではなく魔王は、開きっぱなしになっている(ゲート)を閉じて、新居のベッドに腰掛けようとして……埃だらけだったので()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「やれやれまったく。プライドの高いガキは厄介だ。これではおちおち自由に愉しめないではないか」

 

 イヴの体は限界だった。初めての魔法戦闘による疲労は本人が自覚している以上に負担になっており、しかし本人はGUARDを警戒して休もうとしなかった。

 よって、こうして新たな力の使い方を教えるついでに意識を奪い強制的に休養させる事にした。

 

「この魔王が寝る事しかできんとは嘆かわしい……」

 

 ぶつくさと文句を言いながらベッドの中に入った魔王は。

 

「さて、事が起きるのは……三日後くらいか?」

 

 まるで未来を知っているかのように呟くと、そのままイヴの体と一緒に眠りに落ちた。

 半分だけ意識を外界に向けて警戒心を解かない様にして。

 

 

 

 それから三日後、魔王の言う通り事件は起きた。

 

 イヴは再び――選択を迫られる。

 

 

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