スラム街の悪ガキ、天上天下唯我独尊系魔王様と相乗りする   作:カンさん

6 / 29
第6話『スラム街の悪ガキ、己の限界を越える』

 

 (ゲート)の開放率はそのまま戦闘能力に直結する。

 イヴの(ゲート)開放率は約4%。ユーリの(ゲート)開放率は10%。真正面から戦えば勝負にならない程にユーリがイヴを倒すだろう。

 

 しかしキャスパリーグはユーリ以上にイヴを警戒していた。

 正確には彼の中にいる異物に対してだが。

 

(造られた畜生にしては存外、野生の本能が働く様だな)

 

 そして魔王もまたそれを把握し、真正面から突っ込む気満々のイヴに釘を刺す。

 

『小僧、アレは先日の使徒と違い戦闘タイプだ。貴様一人では逆立ちしても勝てん』

「! あれが……」

『我が見るに肉体強化、自陣加速、貫通攻撃の効果を持つ術式が仕込まれているな』

「術式……?」

 

 魔法が使える様になって日が浅い為聞き慣れない単語が多いのは仕方ない。しかし()()という言葉には何故か酷く惹かれる印象があった。

 イヴが思わず単語を繰り返すも、魔王は『今は忘れておけ』と彼の興味を斬って捨てた。どのみち今のイヴには全く関係のない話だから、と。

 それはそれとして、目の前の相手の力は明確に理解して貰わないといけない。

 

『さて、学の無い貴様に分かりやすく言うと……奴は物凄く速くて、こちらの動きは絶対に見切られ、そして奴の攻撃は防げない上にこちらの攻撃は効き辛い』

「マジか」

『ああ、マジだ――そら、早速教えてくれるぞ』

 

 魔王のその言葉と共に、キャスパリーグの四肢に魔法陣が浮き上がる。すると全身に魔力が巡り、周囲の空間の時間が乱れ、爪に魔法による概念付与がされる。

 

『小僧、右に跳んで足が着くと同時にジャンプをしろ』

「っ!」

 

 魔王の言葉に従って体を動かすと同時に、突風がイヴの体を襲った。

 全身を叩きつけるかのような風に耐えながら、魔王の言葉に従ってジャンプし――眼下の光景に息を呑む。

 先ほどまでイヴが立っていた場所に前脚を減り込ませているキャスパリーグ。その時の衝撃が鎌鼬となって周囲の家屋を輪切りにしていた。

 

「……あ! あの子は!?」

『先ほどの小娘なら心配いらん。我の術式で保護しておる』

 

 魔王の言う通り、ユーリには怪我一つ付いてなかった。それどころか時間が経てば経つほど傷跡が無くなっていく。

 ユーリは、鎌鼬が防がれた事により自分が付与されている力の一端を見る事ができた。しかし理解する事はできなかったようで、混乱した表情を浮かべている。

 その様子を見てホッとし……イヴは頭を振って雑念を払う。魔王はそんな彼に内心笑い、揶揄うのを我慢しながら指示を出す。

 

『地面に降り立ったら、左右に駆けながら奴との距離を縮めろ』

「ああ!」

 

 イヴは魔王の言葉に従い、着地すると同時にジグザグに走りながらキャスパリーグへと向かっていく。するとキャスパリーグは彼の動きに惑わされる様にして視線が釘付けになり、頭を左右に振る。その場に留まりジッとイヴを見て、だ。

 

『――真上に跳べ!』

 

 魔王の言葉に反応してイヴが跳ぶと同時に、キャスパリーグは両前脚で捕まえる様にして飛び掛かり躱される。

 その一連の動きで相手の特性を把握した魔王は、一気に勝ち筋までの動きを逆算し、ついでにイヴを次のステージに上げるための動きを計算に入れた。

 

『小僧、一度(ゲート)を閉じろ』

「あん? なんで?」

『自力で魔力強化を使えない今の貴様なら閉じても開いていても変わりないからだ。それよりも面白い技を教えてやる』

「???」

 

 魔王の言葉に首を傾げながらも着地したイヴは、彼の言葉通りに(ゲート)を閉じる。

 キャスパリーグはイヴを睨みつけて、しかしすぐに魔力を感じ取れない事に戸惑いキョロキョロと周りを見渡し、落ち着かない様子を見せながらもイヴを見続ける。

 そんな相手の変化にイヴは怪訝に思い、魔王は己の予測が当たってふんっと鼻を鳴らす。

 

『やはりな』

「何か分かっているみたいだな」

『まぁな。奴ら使徒の役割を考えれば、標的の違いを見分けるなら魔力しかないと思ってな』

 

 捕縛タイプのミノタウロスやオークは自分よりも弱い人間、つまり(ゲート)が開いていない非魔鍵師(ウォーロックスミス)

 戦闘タイプのキャスパリーグは(ゲート)が開いた厄介な相手、つまり魔鍵師(ウォーロックスミス)。魔力が枯渇し満身創痍なユーリを無視してイヴを襲って来た所からもそれがうかがえる。

 

 だから突然(ゲート)を閉じたイヴに戸惑い、どうすれば良いのか行動パターンにバグが生じる。

 しかし魔王の狙いはソレではない。

 魔王はイヴに指示を出す。

 

『小僧。このまま奴に向かって走れ。そして我が合図を出したら(ゲート)を開くと同時に拳を叩き込むんだ』

「――分かった」

 

 魔王の指示の意味をイヴは全く理解していない。しかし彼の言葉を微塵も疑っていない。

 だから彼は迷いなく駆け出して拳握り締めてキャスパリーグに向かって駆け出す。

 対して思考回路にエラーが出ているキャスパリーグは、どうすれば良いのか分からない。(ゲート)が開いていない人間は餌も当然。その餌がこちらに向かって来ており、脅威であるのに脅威ではないと矛盾が生じる。

 だから混乱したまま、安易に前脚を突き出した単純な攻撃をした。

 

『今だ! 拳を突き出せ! (ゲート)を開けろ! そして、己を超えろ!』

「うおおおおおお!!」

 

 イヴは魔王の言う通りに拳を突き出しながら(ゲート)を開く。すると、拳がキャスパリーグの前脚と激突するのと(ゲート)が開くタイミングが重なり――体に途轍もない衝撃が走ると同時に目の前に閃光が迸る。そしてキャスパリーグの巨体が遠くまで吹き飛んだ。

 

 いや、そんな事はどうでも良い。

 それ以上にイヴは己に起きた変化に震えた。

 

「――これ、は」

響門(レゾナンス)だ』

響門(レゾナンス)?」

 

 ――響門(レゾナンス)(ゲート)を初めに開いた魔力と己の肉体が、相手の魔力と肉体に衝突した際に起きる魔力()()。その際に起きる過負荷は両者を吹き飛ばすほどの衝撃と(ゲート)への不調を引き起こす。

 

 そして、その不調とは――(ゲート)の開放率の一時的な底上げ。

 

『さて小僧。今の貴様なら身体強化の魔法を使えるだろう――思いっきりやれ』

「――応!」

 

 現在、イヴの(ゲート)の開放率は7%。

 魔王が行っていた身体強化の魔法の感覚を、イヴは感じ取っていた。故に初めてにも関わらず簡単に身体強化の魔法を発動させた。

 全能感に近い感覚がイヴを包み込み、しかしすぐに気を引き締めてキャスパリーグへと駆けた。

 その時の速度はまるで世界を置き去りにしたかのように速くて、キャスパリーグが気付くよりも早く、速く、迅く、彼の拳が鼻っ面に叩き込まれた。

 

『ギャオン!?』

「まだまだぁ!」

 

 ひっくり返って腹を晒したその上にイヴは乗り上がると、両の拳でラッシュを叩き込む。

 

「うおおおおおおラララララララララッ!!」

『ギュオオオオ!?』

 

 1秒間に30発のラッシュがキャスパリーグに叩き込まれ,腹部の肉がへこみ、裂けて、破壊されていく。

 キャスパリーグはただ殴られるこの状況に怒りを覚えたのか咆哮を上げながら腹部の上にいるイヴに向かって鋭い爪を振るう。

 

「スゥウウウウウウウウ──ハァァァアアアアア……!」

 

 しかしイヴは一つ深呼吸をし、

 

「うおるゥラァア!!」

 

 視線を向ける素振りも見せず、片腕で受け止め、そのまま殴り続けて爪を砕く。キャスパリーグは痛みに耐えられず悲鳴を上げて前脚を引っ込めた。

 そうなると腹部へのラッシュが再開される。イヴの拳によりどんどん肉が削ぎ落とされていき、此処で初めてキャスパリーグは理解した。

 

 既に捕食者と獲物の立場は逆転していた。

 あの時戦うのでは無く逃げるのが正解だったのだ。

 

『ギャオオオオ!』

 

 キャスパリーグは必死に体を捻って起き上がり、イヴから距離を取る。腹部はズタズタで魔力が漏れている。(ゲート)を破壊されていない為直ぐに再生するがそれでも刻み込まれた恐怖は消えない。何より理解できない。

 

 あの雄の子どもは、あの雌よりも弱い筈だ。感じ取れる魔力からそれは確かだ。

 しかし実際に戦ってみれば強かったのは目の前の少年で、特に吹き飛ばされてからはそれが顕著になっている。

 

響門(レゾナンス)が起きた魔門師(ウォーロックスミス)(ゲート)の開放率の底上げ以外に、もう一つ変化が起きる。それは──』

 

 イヴが地を蹴ると、キャスパリーグが知覚するよりも早く懐に入り込んでいた。自陣加速により意識が他者より高速化し、それに着いていける肉体に強化されているにも関わらず気付けなかった。

 そして全てを貫く筈の爪は既に砕かれており、キャスパリーグは迎撃をするという選択肢を取れなかった。

 もう彼の獣の時間は来ない。これから来るのは──人間による蹂躙。

 

『最高にハイになる。獣、今の小僧は貴様以上に本能に忠実だ』

『ギャ、ギャオ……!』

『何だ? まるで許してくれと言わんばかりの態度だな。獣如きが人間の真似事か?』

 

 届かないにも関わらず、魔王はイヴの体からキャスパリーグに対して嘲笑を向ける。

 

『我は貴様ら使徒とやらの被害を受けていないから知らんが、この世界の人間は違う』

 

 それでも魔王は気にせずに続ける。

 

『小僧は今半分意識がない故、この我が代わりに答えてやろう』

 

 そして何故かキャスパリーグはイヴの中に居る魔王の言葉を感じ取っていた。

 

『──ダメだ』

 

 王による裁定が下される。

 

『貴様、あの小娘で遊んでいただろう。野生のルールから逸脱した行為だ──諦めて受け入れるんだな』

 

 ──ギシリ、と込められた魔力と握力がイヴの拳から音を出す。

 キャスパリーグは涙を浮かべて逃げようとして──イヴに毛先を掴まれた事でグイッと引き止められる。

 

『さぁ小僧。思う存分裁くが良い! 貴様にはその権利と力がある』

「──うぉおおおおおおおおお!」

『──ぶちかませ!』

「ラァアアアアアアアアアアア!」

 

 まるで時が加速したかのように、イヴのラッシュがキャスパリーグに叩き込まれる。脚、爪、腹、首、顔、頭……その全てがイヴの拳が突き刺さり、破壊され、再生しようとしてその前にさらに破壊される。

 

『ウラウラウラウラウラウラウラウラウラ!』

『ギャ、ギャウア!』

 

 キャスパリーグは掴まれている毛が抜けるのを承知の上で抜け出し、駆け出し、しかし回り込まれてラッシュの餌食になる。

 

「ウォラァ!」

『ギャウン!?』

「うぉおおおおおおおお──ラァ!」

 

 迎撃をしようと再生した爪を動かした瞬間、拳が叩き込まれて砕かれる。

 逃げようと脚に力を込めれた瞬間、拳が叩き込まれて砕かれる。

 泣き叫ぼうと口を開けば牙を全て折られた後に頭を殴られて強制的に口を閉じられる。

 反撃も、逃走も、悲鳴も、何もかも許さない。肉体が再生するのが不幸と言わんばかりに破壊され続ける。

 その無限に続くかと思われた地獄に心が折れたのか、キャスパリーグの首裏に(ゲート)の反応が現れる。

 

『ギャ──』

 

 キャスパリーグは最期に断末魔を上げようとして、

 

「──ウォラァ!!」

 

 それすらも許されず、(ゲート)の上から叩き込まれた一撃により地面に減り込み、そのまま爆散するかのように魔力粒子となって──消滅した。

 

 

 

「──は!? 何処行った!? 逃がさねぇぞ!」

『もう終わったぞ』

 

 意識を取り戻したイヴに対して、呆れてため息する魔王。

 イヴは魔王の言葉に呆然とし、ハイになっている間の記憶が曖昧ながらもキャスパリーグを殴り倒した事を思い出し、そして脱力した。

 

「っ……」

 

 拳が痛い。(ゲート)もいつの間にか閉じていて虚脱感が激しい。

 それでも使徒を倒した実感が湧いたのか、爽やかな気分だった。

 

「俺が倒したんだな……!」

『うむ。響門(レゾナンス)後、我は全く力を貸しておらんし指示も出していない。まぁ我からすれば赤点ギリギリも良い所だがな』

「相変わらず水を差すのが上手いな」

 

 しかし気分が良いのか、はたまた感謝しているのかイヴの魔王に対する語気は何処か穏やかだった。

 

「それにしても(ゲート)の開放率を上げる方法があるなら初めから教えてくれよ」

『アレは本来なら偶然が重なり合い、奇跡のように起きる事故だ。狙って行えるのは我くらいだ』

「そうなのか?」

『うむ。それに使徒の様に常に魔力を放出してる相手だからこそ容易く行えた。それに』

 

 響門(レゾナンス)(ゲート)の開放率を上げる事が出来るとはいえ、それは一時的だ。負荷を掛ける為肉体的にも精神的にもよろしくなく、一定時間の後(ゲート)が勝手に閉じてしばらく魔法を使えないと来た。

 

「……あまり良くない方法なんだな」

『今回はこの方法が確実かつ安全にあの化け猫を倒せるから選んだまでの事。響門(レゾナンス)に頼らない程度には強くなれ』

「……へいへい」

『ああ、それと』

 

 突然、ぐらりとイヴの視界が揺れる。ドサリと彼の体が地面に横たわり、遠のく意識の中……イヴはデジャヴを感じていた。

 

『慣れない者が起こすと意識も無くす。故に魔力()()だ』

「てめぇ、絶対知っててワザと──」

 

 やっぱりコイツ嫌いだと思いながらイヴは意識を失い、

 

「──ふん。意識を失うのは貴様が惰弱だからだ小僧」

 

 そして魔王はそのまま体の主導権を手に入れた。

 グッ、パッと手を開いたり閉じたりして体の調子を確かめて舌打ちを一つした。

 入れ替われば(ゲート)を開けるかと思ったが、どうやら当てが外れたらしい。

 

 尤も、その事を見越して魔王は保険を掛けていた訳だが。

 

「……」

「大義であった小娘。我らの代わりにあの豚共の処理をしてくれた事、褒めて遣わす」

 

 魔王の元に現れたユーリに、彼は尊大な態度で彼女を褒め称えた。

 イヴは戦闘に夢中で気付かなかったが、今回送り込まれた使徒はキャスパリーグ以外にもミノタウスと同タイプのオークも居た。

 ユーリは傷が癒えた後、イヴの援護をするのではなく他の使徒の殲滅を選択した。それが彼女の仕事だと、自分を癒した者の求める事だと思ったからだ。

 

「貴方は何者ですか?」

「ふむ。応えてやっても良いが、生憎小僧は眠っていてな」

「……何を言っているのか理解できません」

「それも含めて答えてやろう。その代わり我も聞きたい事があってな」

 

 魔王は、イヴが気絶しているかつGUARDの人間と接触できるこの機会を狙っていた。これならばイヴの意志を尊重しつつ情報収集できると踏んだのであった。意外と狡い魔王である。

 

「場所を移させて貰うぞ。どうも貴様もその方が都合が良さそうだからな」

「……そうさせて貰います」

 

 ユーリは魔王の案内の元、隠れ家へと向かって行った。

 

 

 

「……」

 

 その様子を見つめる一人の魔鍵師(ウォーロックスミス)の存在に気付かずに。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。