陸戦人型汎用歩兵機人試作零號   作:改造人間サンタロー

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陸戦人型汎用歩兵機人試作零號

 

「そう言えば、今日だったな」

 

「はい?何がですか?」

 

「部隊の補充の件さ」

 

 朝のコーヒーを啜りながらそんな事を言い始めた己の指揮官に目を向けつつ、リリーバイスは自身の記憶を掘り返す。

 該当したのは数日前に送られてきた一通の書類。

 

「ああ、そういえば……もう来るんじゃ?」

 

 時計を見れば、09:00になろうかとしている針。もう一分の猶予も無い。

 引き延ばされる時間感覚の中で、しかし無情にも時は進む。

 09:00となり、同時に指令室にチャイム音が響いた。それから、マイクの独特なハウリング音も。

 

『失礼いたします。本日付でこちらへと配属になりました。入室してもよろしいでしょうか?』

 

「あ、ああ、入ってくれ」

 

 慌ててカップを机に置いて席から立ち上がった指揮官は、そのままカップを隠すようにして執務机の前にまで移動する。

 この間に一言断りを入れて入ってきたのは、一人の少年だった。

 

 年の頃は、十代半ばといった所か。緑の軍服に身を包み、軍帽を被ったまだまだあどけなさを感じられる顔立ちの少年。

 

 彼は入室し指揮官の一メートル手前で止まると、直立。胸を張って少し息を吸い込んだ。

 

「本日付で配属となりました、陸戦人型汎用歩兵機人試作零號です!」

 

 声変わりの時期にある大人と子供の中間のような、少し高さのある声が執務室に響いた。

 それは、幼さを助長するような声色であるが、その一方で彼の言う自己紹介は幼さは愚か、人間味の一つも感じられはしなかった。というか、一個人の名乗りとしてはかなり不適格だろう。

 案の定と言うべきか、サングラスをかけた指揮官はその色付きグラスの向こう側で変な顔をしている。

 代わりに一歩前に出たのは、リリーバイスだった。

 

「初めまして、私はリリーバイス。この“ゴッデス”の隊長、になるのかな?といっても、私と君の二人だけだけどね」

 

「はっ!存じ上げております!リリーバイス殿の武勇は、軍内では有名でありますので!」

 

「そっか……それじゃあ、えっと………君の事は何て呼ぶべき?」

 

「指揮官殿、並びにリリーバイス殿の好きなようにお呼びください!」

 

 キリッと言ってのける少年に、指揮官とリリーバイスは顔を見合わせる。

 彼の呼び名は、長い。リリーバイス、というのも呼び名としては長いかもしれないが、それでも名前として機能している。

 しかし、少年の場合は違う。型番でも呼んだ方が、まだ短いだろう。

 指揮官は顎を撫でた。

 

「うーむ……試作、零號………とりあえず、ゼロと呼ぶ事にしよう。作戦行動中にフルで呼んでいては、舌を噛みかねん」

 

「じゃあ、ゼロ君ですね。よろしくね」

 

「はい!よろしくお願いいたします!」

 

 キッチリとした軍人然としたその態度は、一方で彼の幼さにはそぐわない。

 だが、今は人類存亡の戦時下だ。悪辣な手段だろうと、外道な手段だろうと、採る者は採る。

 頭を掻き、指揮官は机の資料の中から、ゼロに関する書類を抜き取った。

 

「いくつか気になる事がある。質問を良いだろうか?」

 

「はい!」

 

「君は、ニケではないのか?」

 

「はい!自分はニケではありません。ですが、人を素体として製造された事は確かです」

 

「成程……その()()は君の意思によるものか?」

 

「はい!自分は、元少年兵であります!ですが、戦えなくなり、その折に志願者を募っていた実験に立候補した次第であります」

 

 少年兵。地域にもよるが、彼らは戦場の消耗品として重宝されている。

 特に今の大戦は、僅かでも戦力が欲しい状況。それこそ、文字通りの肉盾として子供を戦場へと放り込む場面もあったとか。

 ゼロもその一人だった。彼の幸運、或いは不運は戦場で即死する事無く拾われてしまった事だろう。

 黙り込んでしまった指揮官に代わって、リリーバイスが情報収集へと動く。

 

「えーっと、ゼロの武装は無いようだけど、それはどうして?」

 

「はい!自分は、近距離格闘戦での戦闘力を求められ、製造されております。故に、徒手空拳であります」

 

「…………素手で、ラプチャーとの戦うの?」

 

「シミュレーションは終えております。また、少年兵時代に交戦経験があります」

 

 ますますきな臭い。二人の内心はそうシンクロしていた。

 ラプチャーを素手で破壊するなど、ニケですら難しい。出来ない事は無いが、格闘戦は文字通り最終手段なのだから。

 にもかかわらず、ソレを主眼に置いた設計などいよいよもって怪しい。それこそ、腹の中に爆弾の一つも抱えているのではないか、と邪推したくなる。

 資料を置いて、指揮官は頭を掻いた。

 どうしたものか、と考えて不意に響くのは甲高い警報音。

 咄嗟に、執務机備え付きの受話器を取った。

 

「何があった」

 

『当機前方ニ十キロにラプチャーの集団を発見。小型、大型の混成部隊のようです』

 

「分かった、直ちにこちらも出撃するとしよう。リリーバイス」

 

「はい、聞いていましたよ」

 

「それでは、直ぐに向かおう。ゼロ」

 

「はい!」

 

「君も来るように。突然で悪いが、実地テストだと思ってくれ」

 

「了解いたしました!」

 

 ビシリ、と敬礼を決めるゼロに何とも言えない表情の指揮官。

 不安要素は多いが、しかしだからといって新たな戦力候補を簡単に手放せるような状況ではないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラプチャー。人類を滅ぼさんとする機械生命体。その登場は、人類の覇権というものを一瞬の内に崩壊させてしまう程。

 何より、彼らは執拗なまでに()()()()()()()

 他生物や植物などは結果的に巻き込まれる事はあったとしても、積極的に狙われるような事は無い。

 

 このラプチャーに対抗する存在が、“NIKKE”と呼称された。

 勝利の女神の名を冠する彼女らは、脳髄以外を全て人工物質へと置換し、生身の人間が扱えばその反動で吹っ飛ぶような兵器を扱いラプチャーを討つ。

 

 彼女らを率いるのが、指揮官。その中でも、この“ゴッデス”を率いる彼は優秀な部類。

 

「さて、ゼロ。性能テストだ。今回の指揮は無しとしよう、君の動きやすいように動いてくれたまえ」

 

「はい!了解いたしました!」

 

 荒野にて遠くに見えるラプチャーを視認し、指揮官はそう命令を下す。

 頷いたゼロは、両手に付けた黒いグローブを少し確認し、前へと足を踏み出した。

 一歩、二歩と進み前傾、加速。瞬く間にその背中は小さくなり、真正面からラプチャーの群れへと突っ込んでいく。

 一応、リリーバイスに予め、危険な時には援護するように、と含めている為、指揮官は真っすぐにその新たな仲間候補の実力を見極めんと双眼鏡を手に取った。

 

「速いな。量産型のニケと比べても圧倒的だろう」

 

「ですねぇ……それに、正面から突っ込んでいますけど、ラプチャーの攻撃を正確に見切っています。あ、ほら、あの不意打ちも躱してますよ」

 

「凄まじい体捌きと、空間認識能力と言うべきか……うん?仕掛けるな」

 

 指揮官は、ゼロが拳を握ったのを見た。

 彼が突っ込むのは、小型ラプチャーの一体。赤い光弾を紙一重で躱し、踏み込み、腰の回転と肩の回転で加速させた衝撃を余す事無く拳へと伝える綺麗な正拳突きだ。

 まるで、水面でも殴りつけたかのように大きくボディを歪ませたラプチャーは、一瞬の間をおいて弾け飛ぶ。

 そこから始まるのは、一方的な蹂躙劇だ。

 ゼロの手足は、面白い様にラプチャーを破壊する。中型程度ならば一撃だ。

 

「……凄まじいな」

 

「そうですね。ゼロ君の体には、ニケとは違う核が使われている様ですから」

 

「なに?」

 

「あら、資料をお読みにならなかったんですか?」

 

「えっ……ああ、いや!勿論読んだとも!部下がキッチリと新しい仲間の事を理解しているか確認するのも指揮官としての務めだからな」

 

「…………」

 

 星の宿ったジト目が向けられる。とはいえ、いつもの事。リリーバイスは息を吐き出した。

 

「はぁ……彼に搭載されているのは、“零式エンジン”と呼ばれるものです。開発者は、クゼ博士という方みたいですね」

 

「ほう?それで?」

 

「エンジンその物もオカルト染みた物。円環を描き、永久的に高出力のエネルギーを生産し続ける、らしいです」

 

「それほどのモノなら、何故配備されない?オカルトといっても、形になっているだろ?」

 

「制作できたのが、件のクゼ博士だけだからですよ。その博士も、半年ほど前に自殺されています」

 

「……ほう。そして、研究資料その他は全て博士の頭の中にしかなかった。じゃあなんで、ゼロをバラさなかった?」

 

「それは――――」

 

「自分が、制御を受けていないからであります!」

 

 リリーバイスが答える前に、元気な声が答えを伝える。

 見れば、大した手傷を負った様子もなく、精々が軍服が土汚れを起こしている程度で凡そ百に迫るラプチャーを破壊しつくしたゼロが敬礼して立っていた。

 

「制御を受けていない、というのは?」

 

「はい!自分には、“NIMPH”が搭載されておりません!後天的投与も失敗したと言われております!」

 

「……成程、それなら確かに上層部も手元に置きたがらない筈だ」

 

 ゼロの戦闘能力は、ニケと比べても常軌を逸している。

 それこそ、リリーバイスならば問題なく仕留めるかもしれないが、その一方で量産型などが束になろうと物の数ではないだろう。

 要するに、彼が本気で人類へと反旗を翻せばそれだけで人類連合軍は壊滅的な被害を受ける事になるという事。

 指揮官も上の狙いが分かってきた。分からないのは、

 

「何でお前は、未だに戦場に立っている?」

 

 ゼロ自身の事。

 少年兵であった事は、彼自身の口から聞いた。搭載されたエンジンも破格のモノならば、このまま軍に居続ける必要も無いだろう。ラプチャーも大半は彼の前では意味を成さない。

 

「自分が、そう決めたからであります!」

 

 指揮官の問いに、真っ直ぐサングラスを見つめ返しながらゼロは胸を張る。

 

「自分は、孤児です!守るべき両親は愚か、兄弟姉妹も、親類縁者も居りません!従軍した切っ掛けも、食い扶持を稼ぐためであります!ですが、そこで多くの方に出会いました!」

 

 目をつぶらなくても思い出せる事がある。

 

「自分自身の大切なものを守るために戦う者達が居りました!生き残った自分は、彼らに託されたのです!いえ、勝手に背負っているだけではありますが、自分は思うのです!命を散らした彼らに、報えるような一生を送ると!」

 

 戦場は大なり小なり、人が死ぬ。相手が無差別に襲い掛かって来るのなら、軍人だろうと民間人だろうと関係なく、死んでいく。

 生き残ったゼロは、多くの終わり()を見てきた。

 サバイバーズ・ギルトに近いだろうか。ただ、ゼロの場合は生き残った事に罪悪感や恥を抱えている訳ではない。

 

 彼は律儀に、誰かが守りたかった世界を守ろうと自分なりに行動しているだけなのだ。

 

 一通り目の前の少年の言葉を聞いた指揮官は、少しの間を挟む。

 そして徐に、右手を差し出した。

 

「歓迎しよう、陸戦人型汎用歩兵機人試作零號。ようこそ、“ゴッデス”へ」

 

「はい!よろしくお願いいたします!」

 

 応えるように握られた右手と共に、元気な声。

 

 これが始まり。歴史の分岐点。

 伝説の部隊“ゴッデス”に所属した、元・少年兵の話。

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