陸戦人型汎用歩兵機人試作零號   作:改造人間サンタロー

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元・少年兵と指揮官と女神

 ニケというのは、完成した存在だ。戦闘経験こそ、実戦で得るものの銃火器の扱いや立ち回り、敵戦力の把握などは予め情報が脳へとインプットされている。

 しかし、その一方で技術というのは実戦を経て獲得、練磨されていくものだ。

 

「フッ……!」

 

 しんと静まり返っていたトレーニングルームに鋭い音が響く。

 突き出された正拳突き。引き手を意識し、前へ前へと突き進むフルコンタクト空手を元とした力の連打こそが、陸戦人型汎用歩兵機人試作零號、通称“ゼロ”の戦闘手段だった。

 彼の出力は特化型ニケを上回る。そこから放たれる拳打は、その一発一発が戦艦砲に迫る。

 

 陸戦人型汎用歩兵機人試作零號(ゼロ)が肉体鍛錬、技の研鑽を怠らないのは自身の力の全てを十全に戦闘で扱う為。

 

「精が出るな」

 

「!おはようございます、指揮官殿!」

 

 空間を引き裂くような上段廻し蹴りが放たれ、残心を取っている所に声が掛けられゼロは姿勢を正してそちらへと勢いよく頭を下げた。

 

「ああ、おはよう……随分と早いが、よく眠れたか?」

 

 言いながら指揮官が時計を確認すれば、06:30にもなっていない。彼が早く起きたのは、昨日の書類整理の残りを朝の内にやってしまおうと考えていたから。その道すがらで、明かりのついたトレーニングルームを見つけ顔を出した次第だ。

 

「はい!いいえ、自分は寝食を必要としませんので!」

 

「…………つまり、寝ていないと?」

 

「はい!掃除並びに雑用をしておりました!」

 

 愕然、と言うべきか。指揮官はあんぐりと口を開ける。

 ニケといえども睡眠は必要とする。睡眠とは、脳を休める時間であり、挟まないとパフォーマンスが落ちてしまう。

 それを必要としないのは、にわかには信じがたい事だった。

 

「ゼロ。君の脳は生身じゃなかったか?」

 

「はい!その通りであります!ですが、自分の脳は改造を施されており、且つ動力機関である零式エンジンが無尽蔵のエネルギーを発している為、数ヶ月単位の連続戦闘を可能としております。ですので、日常生活を送る上では休息並びに補給を必要としないのであります!」

 

「そ、そうか………」

 

 破格が過ぎる。同時に指揮官は彼が徒手空拳である利点の一端を垣間見た。

 ゼロの体は頑強だ。それはそう。真正面からラプチャーをぶん殴って、蹴り飛ばして破壊するのだから。修繕もそこまで必要としない。

 そして、素手だからこそ弾丸などの補給を必要としない。必要としないのなら、後は戦えるだけ戦い続ける事が出来る。

 

 何より問題なのが、

 

(こいつはそれを、是としている)

 

 指揮官は眉根を寄せた。

 彼の身上としては、ニケ含めた己の部下は戦場を共に駆ける戦友であって、いたずらに浪費して良いものではない。

 自然と、その手はゼロの頭の上へ。

 

「……指揮官殿?」

 

「ふむ、少し付き合ってもらうか」

 

 頭を撫でれば首を傾げるが、されるがまま。

 暫く撫でまわしてから、指揮官はゼロを伴ってトレーニングルームを後にする。向かったのは、執務室だ。

 扉が開き、出迎えたのは書類の山。

 ため息が出そうになるが、斜め後ろに控えた少年への見栄の為か、ぐっとこらえて飲み込んだ。

 

「書類仕事が少し溜まっていてね。手伝ってくれるか、ゼロ?」

 

「はい!自分で良ければ、お手伝いさせていただきます!」

 

「よし。それじゃあ、そこの机を使ってくれ。まずは書類の整理から始めるとしよう」

 

「はい!」

 

 ゼロへと席を薦めて、指揮官は書面の分け方を説明していく。

 指揮官の決済印が必要なもの、目を通す必要があるものなど様々だが、その一方で何故こちらへと回って来たのか分からない様な書類もある。

 

「基本的には、期日を優先してほしい。最悪なのは、遅れる場合と期日ギリギリの発掘だからな」

 

「分かりました!」

 

 仕事を教えながら、指揮官は少し懐疑的であったりする。

 とはいえ、やってもいない仕事の判断など見る前から出来る筈もない。

 幸い、ゼロは素直だ。それこそ、少し心配になる程度には素直過ぎる。

 

 一通り仕事を教え、書類仕事開始。

 電子書類と紙の書類。入り混じっているのは、対応する部署や嘆願書など種類によって違うから。

 これらの仕分けは中々に面倒だった

 

 だが、

 

「ふむふむ……」

 

 書類へと目を走らせながら、ゼロの手は止まる事無く書類を仕分けていく。

 

 ゼロに学は無い。彼は元々この体になるまでは、文字を書く事は愚か、読む事も出来なかった。会話にしたって最低限。洒落た言い回しなど出来る筈もない。

 しかし、肉体を改造され、脳そのものへと知識を詰め込まれた結果、今の彼は秀才レベルの知識を得ている。

 

 要するに、単なる書類仕事の仕分け程度ならばそれ程苦にならないという事。

 

「指揮官殿!」

 

「どうした?」

 

「こちらの書類仕分けを終えました!上から順に期日の近いものを並べ、重ねております!また、こちらは補給物資に関する書類ですが、規定量には達していないようです。続きまして――――」

 

 報告を聞きながら、指揮官は内心で驚いていた。ここまでの逸材だとは思いもよらなかったからだ。

 

(これほどか……電脳の影響か、或いは元々のゼロが持っていたポテンシャルか。オマケに、こいつはエネルギーの補給を必要としない。それこそ、年単位で書類仕事を任せる事も――――)

 

 そこまで考えて、指揮官は頭を振った。

 良くない思考であったから。戦友に対する扱いではない。何より、ゼロは頼めば絶対に断らないだろう、という予感もあった。

 軍人然としている、言えば聞こえは良いかもしれないが上からの命令に対するYESマンを続けて良い事など無い。

 群に所属する者としての従順さは必要な事だが、だからといって考える頭を持たない兵隊ほど非常時に役に立たないのだから。

 特に、“ゴッデス”はニケで構成されるとはいえ少数精鋭。確かに一般兵の一個師団程度は物の数にもならないが、ラプチャーの群れを相手にする時に思考停止した者はあまりにもお荷物。

 

(この辺りは、追々修正していくとしよう)「良い仕事だ」

 

「ありがとうございます!」

 

「それじゃあ、次の仕事を――――」

 

「おはようございまーす」

 

 欠伸混じりに入室してきたのは、リリーバイス。因みに現在の時刻は、07:30。隊の始業時間は一応として08:00となっている。軍としては少し遅いが、“ゴッデス”の場合は緊急出動が多い為、休める時に休むよう緩めの時間を規則としていた。

 彼女の入室に、ゼロは席を蹴倒すような勢いで立ち上がる。

 

「おはようございます!リリーバイス殿!」

 

「はーい、おはよーう」

 

 敬礼をする少年の頭を撫でて、リリーバイスは己の指揮官へと目を向けた。

 

「おはようございます、指揮官」

 

「ああ、おはよう」

 

「今日はお早いですね。仕事、そこまで溜まっていましたっけ?それに、ゼロ君まで引き連れて……」

 

「あ、いや、これはだな…………」

 

「ゼロ君?」

 

「はい!指揮官殿に書類仕事を教わっておりました!」

 

 別段隠す事でもない、とゼロは元気よく答えた。

 実際、隠す事ではない。大なり小なり、書類仕事というのはどこかしらで付いてくる。故に、慣れていて損は無い仕事技能だ。

 しかしリリーバイスがジト目を指揮官へと向けるのは、少し理由が違う。

 

「指揮官?まさかとは思いますけど、ゼロ君を無理矢理言葉巧みに誘導したわけではありませんよね?」

 

「まさか!私がそんな事をすると思うのか?」

 

「どうでしょう。ゼロ君は素直な子ですし……指揮官の口の巧さが合わされば…………」

 

「言いがかりだ!それに、今回ゼロに書類仕事を教えたのは本当に今後必要になると考えての事だ」

 

「へぇ?」

 

「これから先、この部隊には複数のニケが配属されるだろう。そこで、君一人に負担を掛けるのは宜しくない。そうだろう?かといって、私が付きっきりで仕事を教える暇はないかもしれない。であるのなら、教導役を複数設けるのは良い事じゃないか」

 

 ペラが回るとは、正にこの事。因みに、指揮官はゼロに声を掛けた時はここまで考えていない。

 それが分かる付き合いのあるリリーバイスのジト目は続くが、しかし彼の言い分も分からないものではない。

 

 現状、単騎戦力最強であるリリーバイスと、持久戦最強のゼロの二人が居るがこれから先も特化型のニケは開発され、そして部隊へと回されていく事だろう。

 如何に情報をぶっこまれたニケといえども、個人差がある。それも量産型とは違う個性の強い特化型ならば猶の事。

 だが、仕事が苦手だからと筆を投げられては困るのだ。特に、ニケそれぞれからの戦場観測記録はその後の戦況その物に影響を与える事もある。

 

 リリーバイスとは対照的に、ゼロはキラキラと目を輝かせていた。

 

「指揮官殿の深いお考え、感服いたしました!自分も、誠心誠意努めさせていただきます!!」

 

 今日一番の元気な声。

 同時に、リリーバイスは少々の不安を覚えた。

 

(この子、素直すぎない……?)

 

 もう少し疑う事を覚えてほしい、と。

 同じような感想を抱いたのか、指揮官もまた額を指で押さえる。

 

 その後、ゼロが食事も睡眠も、それこそ人間生活で必要なあれこれを不要とする、と聞き二人は奔走する事になるのだった。

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