陸戦人型汎用歩兵機人試作零號 作:改造人間サンタロー
「今日は、新しい仲間が着任する」
朝礼にて、指揮官はそう切り出した。といっても、特段サプライズといった内容ではない。
「指揮官殿!」
「どうした?」
「教導役には、自分とリリーバイス殿どちらを宛がわれるのでしょうか?」
真っすぐと天井へと向けられた挙手を見せるゼロの問いに、指揮官は顎を撫でる。
陸戦人型汎用歩兵機人試作零號、通称ゼロが“ゴッデス”へと配属されて半年が経過していた。この間にも多くの戦果を挙げてきた。
しかし、戦況は芳しくない。寧ろ悪化していると言ってもいいだろう。
この状況に一石を投じるべく導入されるのが、特化型。フェアリーテールモデルと呼ばれる現状の技術の粋を集めたニケ。
彼女らは、人類の希望としての在り方を求められる事だろう。
「それなんだが、少し待ってほしい」
「待つ?」
「ああ。新しく来る新人が、本当に使い物になるのかどうか。それを見極める必要がある」
「ゼロ君も知ってるように、戦場で知識だけの頭でっかちに待ってるのは“死”だけ。そして、その隊員が居る部隊も同じくね。だから――――」
「最悪使えない場合は、本部へと送り返す事になる」
「成程……了解いたしました!」
納得したようにうなずくゼロだが、この半年間での付き合いから二人は目ざとくその内心を汲み取っていた。
「ゼロ。厳しいようだが、これは戦争なんだ。我々は、勝たなければならない。そして、その勝利への道筋に陰りを齎すのなら、味方であろうとも切り捨てて行く必要がある。納得はしなくて良い、だが理解しておいてくれ」
「わ、分かっております!」
敬礼するゼロ。
彼自身も戦場を経験した身。二人の言わんとしている事は分かるし、少年兵だったという経験から奥でふんぞり返っている実戦経験のない無能な上官の不要さもよく知っている。
しかし、それはそれ。共に轡を並べて戦わんとする同士を、見もせずに、知りもせずに最初から切り捨てる選択肢を持てるほど彼は達観してはいない。
その子供らしい甘さを、指揮官は否定しない。
「無理に私たちに同調する事は無い。個性を殺してまで、私は君を制限しようとは思わないからな」
「は、はい!」
再度敬礼するゼロの頭を撫でて、指揮官は二人を連れて待ち合わせの会議室へと足を向ける。
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「――――本日よりゴッデス部隊に配属されました、フェアリーテールモデル2番。ドロシーです。よろしくお願いします」
三人がやって来た会議室には、既に先客がいた。
桃色の髪色に、真っ白な色合いのドレスにも似た衣装を着た清楚な雰囲気のあるニケだ。
ドロシーの自己紹介に対して、一歩前に出ようとしたのはゼロ。しかしその前にリリーバイスに捕まえられてその場に押し留められてしまう。
代わりに声を発したのは、指揮官だ。
「ああ、聞いている。私が、この部隊の指揮官だ……それにしても、ニケ、というよりは人間と一切変わらない見た目だな」
「指揮官?私もニケですよ?」
「いや、君の場合は少し違うだろう?」
「へぇ……?お聞かせ願えます?」
「…………メカゴリラッあああああ!?」
「全くもう……ゼロ君?この人みたいな大人にはなっちゃダメだよ?」
「もごもご……」
左手でゼロの口を押さえつつ、右手で指揮官の脇腹をつねったリリーバイスは苦笑いを浮かべた。
「ごめんね。この人、よくこんな風にふざけるから」
「お、おふざけの制裁じゃないだろう……!脇腹が抉れたぞ……!」
「乙女にゴリラなんて言うからですよ」
「いやもう、乙女なんて名乗れる歳じゃああああああああ!?」
再度つねられる指揮官の脇腹。皮膚を引き千切らない程度に、しかし甚大な痛みを与えるという無駄に高等な技術によるチネリは再度デリカシー無し男を悶絶させて余りある。
制裁を下したリリーバイスは、改めてポカンとするドロシーへと向き直る。
「ごめんね、騒がしい所で。幻滅したかな?」
「いえ……寧ろ、少し安心したというか………」
「むぐむぐ……」
「思ったよりも気安い雰囲気があるな、と。それから、何故その少年の口を押さえているんですか?そもそも、彼は一体?」
「そ、それは、私の方から話そう……」
脇腹の痛みを抱えながら立ち上がる指揮官。心なしかその顔色はゲッソリとしていた。
「改めて、ゴッデス部隊へようこそドロシー…………と言いたい所なんだが、早速で悪いが君にはこれから信が置けるかのテストを受けてもらいたい」
「テスト、ですか?ですが、私の頭には必要な情報は全てインプットされています」
「そうだな。だが、実戦と情報は別物だ」
「戦場で厄介なのは、無能な味方、だからね」
「…………見もせずに、無能と判ぜられるのは聊か癪に触りますね」
「いやならば、断ってくれても構わない。その場合は、ゴッデス部隊への参加も無しだ。無論、君が本当に優秀ならば、この部隊ではなくとも華々しい戦果を挙げる事が出来るかもしれないが」
ドロシーはムッとした表情を隠さないが、その一方で二人の発言を冷静に噛み砕いて理解する知性があった。
事実として、彼女はニケとなる前は、銃を握った事も、戦場へ出たことも、何ならFPS系のゲームをした事も無い。
代わりに、彼女の頭には知識が放り込まれている。銃の撃ち方も、狙い方も、動き方も。それら全てが情報として刻まれているのだ。
しかし、経験を伴わない知識のみというのは、実戦を生きてきた者にとっては手放しで信じられるものではない。
戦場に、もう一度は無いのだから。
「……良いでしょう、テストを受けさせていただきます」
「ありがとー。それじゃあ、行こうか」
~一時間後~
「――――終わりました。他には何か?」
「「…………」」
凛とした様子で言うドロシーだが、指揮官とリリーバイスは反応を返さない。
自分としては大きな手応えのある結果であったつもりだが、こうも何の反応も無いと自然と心配になるというもの。
だが、その不安が口から零れる前に、彼女の前にピシリと伸ばされた手が割り込んできた。
「ドロシー殿!素晴らしい結果であります!」
「ッ!……あ、ありがとうございます………そういえば、貴方は…………?」
「自分は、陸戦人型汎用歩兵機人試作零號と申します!」
「陸戦……?ニケでは、ないのですか?」
「はい!自分はニケの方々と同じく身体改造を受けた身ではありますが、その基本骨子に差異があるのです!」
はきはきと喋る少年に、ドロシーは驚いた表情をどうにか収める。とはいえ、その内心は未だに驚愕が抜けていないが。
ニケの原型。それは、このゴッデス部隊のリリーバイスがそうだ。そして、彼女を基として特化型“フェアリーテールモデル”は制作される事になった。
この過程で、男性型のニケに該当する存在の開発は確かに行われていた。しかしそれらは全て失敗。実験は闇に葬られていく事になる。
陸戦人型汎用歩兵機人試作零號。彼は唯一無二の最初で最後の実験成功機体。
そして同時に、指揮官とリリーバイスが少々過敏とも言える新人への対応をした理由でもあった。
「ゼロは、そんじょそこらのニケより強い。何せ、ラプチャーを素手で破壊するからな」
指揮官の手が後ろからゼロの頭へと乗せられる。
「改めて、ゴッデス部隊へようこそ、ドロシー。君を歓迎する」
「……テストの結果はお気に召しましたか?」
「もっちろん!こんな優秀な子が来るとは思わなかったぁ」
「丁度歓迎会用の予算もある事だ、盛大に騒ぐ…………前に、君には一つ約束をしてほしい」
「約束、ですか?」
「ああ、といってもそう難しい事じゃない。ゼロに関する事だ」
「ゼロ……彼の事ですか?」
「ああ。自分でも名乗った様に、こいつはそもそも根底から君達ニケとは大きく異なる存在だ。総数は一体のみ。ゼロを造り出した博士も既にこの世に居ない」
「……成程。つまり私が、彼を用いて何かしら事を起こそうとするのではないか、と?」
「そうだな。それに近い、がゼロ自身も自衛は出来る。緊急事態には反撃する事も許可を出している。だがな。敵は、ラプチャー
含みのあるその言葉に、ドロシーの怜悧な頭脳が察する。
(つまり、この少年を求める者は多い、と)
あどけないというか、見た目の年相応の幼さと素直さを併せ持った少年は今はリリーバイスに髪がボサボサになるほど撫でまわされていた。
ただ、ドロシーにも、目的があってニケへと志願した身だ。そしてその目的を果たす上でゴッデス部隊に所属している方が何かと都合がいい。
「…………現状、私にハッキリと言える事はありませんね。まだ私は、彼の事も、彼を取り巻く環境も知りませんから」
「いや、今はそれで良い。強力な仲間が増える事は大歓迎だからな。それから、暫くの世話役にはゼロをつける」
「よろしくお願いいたします!」
「……よろしいんですか?」
さっきの今だ。ドロシーの胡乱な目が指揮官へと向く。
「ああ。やはり、為人を知るには伝聞よりも自分の耳目で見聞した事の方が信を置きやすいだろうからな」
「あ、解散の前に書類の必要だから質問させてね」
ムニムニとゼロの頬を挟んで弄んでいたリリーバイスが一枚の紙を取り出す。
「貴女はどうしてニケになったの?」
「戻りたいからです」
「戻りたい?」
「はい、失われた昔を取り戻したい、戻りたいと。あれら全てを片付ける事が出来たのならば戻れると、信じています」
「そっか……」
「過去には戻れないぞ」
「指揮官?」
「この戦いの結果がどうあれ、君の思い描く過去には戻れない。だが……何気ない日常を奪っていった奴らに、仕返しぐらいはできる」
ラプチャーの出現は、多くのものを奪っていった。そして、奪われ失われたものは、どれだけ見た目を取り繕っても決して失う前のモノとは似て非なる存在となる。
指揮官自身は、ドロシーの目的を否定するつもりはない。だが、過去へと戻りたいという思いは、モチベーションとしてはどうしても後ろ向きすぎる。
これから先、戦いが続けば過去の遺物はより少なくなり、記憶も薄れて朧げなものとなっていく事だろう。そうなれば、戦う理由すらも見失う。
「……それも、良いかもしれませんね」
その日の夜は、少し豪勢な食事会と相成った。