陸戦人型汎用歩兵機人試作零號 作:改造人間サンタロー
ドロシーがゴッデス部隊へと所属して暫く。彼女は少し気になる事が出来ていた。
(彼は、いつ休んでいるのかしら……?)
彼女の考える彼。それは、
一応の世話役として、飛行艇内の案内や任務時の発着場。食堂やシャワールーム、自室等々。その他、隊内での規律などを教えられたりした。
元々優秀なドロシーにしてみれば、一度教えられれば後はそこから応用が利く。教えられた事自体も忘れる事はないし、面倒だからと改悪したりもしない。
その為、自然と教導役であるゼロと共に動く期間もほとんど無かったりする。
しかし、
「おや?ドロシー殿!」
「こんにちは、ゼロ君」
こうして飛行艇内でよく出会う。
今回は、彼右手にはモップが握られており左手には汚れた水の入ったバケツが。
そう、ドロシーはゴッデス部隊に所属してから一度としてゼロが休んでいる様子を見た事が無かった。
ある時は、廊下の掃除をしており。
ある時は、僅かな取っ手などを掴んで窓拭きを。
ある時は、甲板の輸送機、戦闘機などの発着部を掃除し。
ある時は、ニケでも持ち運ぶのに苦労しそうな量の荷を運んでいる事があり。
ある時は、指揮官の書類整理を手伝っていた。
兎にも角にもあちこちに現れては働いている。しかも、見つけた時には大抵働いていた。
その上で、戦闘にも参加し近接攻撃のみという特性を遺憾なく発揮し、時にヘイトを集め囮となり、時に大型のラプチャーを押し留め、時に皆の盾となる。
ドロシーとしても、ゼロの実力を疑う事は、最早無い。寧ろ、心強い味方の一人とカウントしている。
だからこそ、気にかかる。文字通り、昼夜問わず働き続ける少年の現状に対して。
「――――その辺りを、指揮官はどうお考えですか?」
「唐突だな」
非番のリリーバイスに代わって秘書官を務めているドロシーがそう切り出せば、指揮官は眉を上げた。
「ゼロ君の事です。彼の働く姿勢は勤勉で見習うべき所も多いとも思いますが、過ぎたるは及ばざるが如し。下士官以下、他職員の仕事を奪ってしまうのは宜しくないのでは?」
「まあ、な。一応、私とリリスの方から言ってはみたが、如何せんゼロはああ見えても頑固だ。隠れて仕事をし続けるだろう。であるのなら、目に見えて動き回る現状の黙認の方が良い、と判断した結果なんだ」
「ですが、疲弊しない訳ではないですよね?零式エンジン、でしたか」
「ああ。確かに疲弊するが、それ以上にゼロの格は破格だ。何せ、アレ一つあれば人類連合軍のエネルギー事情を凡そ六割前後解消できるとも言われるからな」
「クゼ博士、でしたか。天才だったのなら、軍でも重宝されそうですが……」
「…………まあ、な。世の中、そう上手くはいかないという事だ」
天才は、必ずしも成功する訳ではない。死後にその価値を認められる画家などはその辺りが顕著だろう。
何より天才は先を見る能力に長ける。その結果として、凡人が分からない未来に訪れる結末を先読みする事も出来、だからこそ訪れる先の絶望を知るのも速かった。
ドロシーも思う所はある、が今は後回しの問題だ。
「それで、指揮官からは何か方針などは有りませんか?」
「さっきも言ったように、ゼロの好きなようにさせるってのが基本だ。現に、ゴッデス部隊に所属してからアイツが限界を迎えてダウンした事は一度もない。戦闘に参加した上で、その他雑事を熟しながら、だ」
初見では、引いた。というか今でもそのバカみたいな仕事量は、引かない方が難しいというもの。
どうにかこうにか休ませようとしたが、如何せんゼロは無趣味人間だった。その為に、仕事を取り上げてしまうと後は鍛錬位しかやる事が無くなってしまう。
「では、ゼロ君に趣味を見つけてあげるというのはどうでしょう?」
「趣味か……こんなご時世だからな。難しいだろう?」
「確かにそうですが、しかしだからこそ心のゆとりを持つ為に必要では?」
「うーむ……では、どうする?手軽なものといえば、本か。幸い、書庫がある」
「…………ゼロ君なら、本を読むよりも書庫の整理を始めてしまいそうですね」
「だよなぁ」
二人揃って考え込む。
執務室内を視線が巡り、やがてある一点で止まった。
「……では、私なりの方法をとってみましょうか」
@
ゴッデス部隊に所属するニケたちは、私室が与えられている。
それぞれがそれぞれに個性の出る内装をしており、例えば自室にあまり戻らないゼロは、初期配置から一切何も変わらず、唯一の変化は棚に飾られたゴッデス部隊で撮った写真。
リリーバイスならば、存外シンプルな内装。
そして、ドロシーの場合は、
「失礼いたします!」
「はい、どうぞ」
どこぞの令嬢の部屋、といった所か。
ドロシーの部屋へと招かれたゼロは、何処か落ち着かない様子で進められた椅子へと腰かける。
こうなったのは、つい数時間前の事。小規模なラプチャーの群れを粉砕し、帰路に就いた時の事だった。
曰く、良い茶葉が手に入ったので一緒にどうか?
ゼロ自身、茶の違いが分かるほど飲み慣れていない、と最初は断ったのだが
ソワソワとしながら、待っていれば部屋にふんわりとした爽やかな香りが漂ってくる。
程なくしてカップを乗せたソーサーをもって、ドロシーもゼロの前の席へと座りテーブルへと置く。
「コレが、紅茶…………」
「知り合いに茶葉を扱う商人が居るんです。物資の一つとして送ってくれたものなんですよ?」
カップへと鼻を近づけてニオイを嗅ぐゼロへと軽く説明をしながら、ドロシーはカップを手に取った。
彼女の考えたゼロを休ませる方法。それが、この小さなお茶会への招待だった。そしてその為に、予め指揮官とリリーバイスには話を通しておいた。二人の方も、休ませる理由を求めていた事もありこれを了承。今に至る。
因みに、ゼロは飲食可能。それは、ドロシーの歓迎会で分かっている事だったりする。
飲み方を指摘する事はない。マナーはあれどもこの場は二人だけ。休ませる名目もある為、ドロシーから彼にあーだこーだと注文を付けるつもりはない。
カップを手に取り、香りを少し楽しんでから一口。
彼女の動きを観察し、ゼロもまたなぞる様にカップを両手で持つ。
「……不思議なニオイがします」
口元へとカップを近づければ、自然と紅茶の香りが鼻へと届けられる。
恐る恐る、一口。
「!………?」
芳醇な香りと、茶の渋み。それでいてほのかな甘みと酸味と、とにかく自分の経験した事のない味にゼロは目を白黒させた。
ただ、苦手な味ではないらしくチビチビとカップの中身を消費していく。
そんな少年を見やり、ドロシーは笑みを浮かべた。
「紅茶は、茶葉の種類だけでなく抽出の時間でもその味を変えるんです」
「種類があるのですか?」
「はい。ですがそれは、またの機会にしましょう。もう一杯、いかかです?」
「いただきます」
きれいに飲み干されたカップに注がれる紅茶。
「今度は、砂糖とミルクを入れてみてください。どちらか片方からでも、同時でもそれはお好みで」
ミルクポッドとシュガーポッドが置かれる。
キョロキョロとカップと二つのポッドを見比べたゼロは、恐る恐るシュガーポッドへと手を伸ばした。
スプーンで量を調整できるが、如何せん彼には基準となる量が無い。
という訳で、チマチマと砂糖を入れては紅茶を啜る、という行動を繰り返す事になる。
静かな時間だ。そして、このささやかなお茶会を契機として、時折ドロシーはゼロへとお茶やコーヒーをふるまうようになる。
余談だが、彼女のバリスタとティースペシャリストとしての腕前が上がる事になったり。