陸戦人型汎用歩兵機人試作零號 作:改造人間サンタロー
フェアリーテールモデルの生産成功。
ドロシーを契機として続くそれらは、新たなる女神を降臨させる事に繋がる。
「~♪」
上機嫌に鼻歌を歌いながら、
ワーカホリックである彼は同隊の仲間たちが心配するものの、ソレを無意識の自分の行動で黙らせていくという力技を押し通していた。
ただ、ここ暫くは少し違う。
指揮官には音楽を。
リリーバイスからは本を。
ドロシーからはお茶を。
それぞれに勧められて、ゼロの心はじんわりと成長していた。今歌っている鼻歌も、そんな趣味の押し付けの一つ。
嵌め殺しの窓。飛行艇という特性上、掃除の難しいここを手作業で掃除できる者など彼ぐらい。いや、ニケならば可能かもしれないが彼女らは
ラプチャーに襲われる可能性を加味すると、清掃ロボットを動かす訳にもいかず。結果としてゼロの行動が最適解。少なくとも、汚れたまま放置し続けるよりは遥かにマシなのだ。
最後に乾拭きして水気を拭い去り、次の窓へ。
「……む?」
その前に、ゼロの足が止まった。
彼が見つけたのは、この飛行艇には居ない金色の髪をした女性を見つけたから。
杖を背負い、オロオロと胸の前で両手を組んで右往左往している。
「ま、まさか迷ってしまうなんて……!ああ、神よどうか導きを……」
迷子である。いや、確かにこの飛行艇は大きいのだから迷っても決して不思議ではないのだが。
そこでふと、ゼロは少し前に指揮官の仕事を手伝った事を思い出した。
(そういえば、今日は新たなニケの方が合流する日の筈)
改めてオロオロとする女性を見やるゼロ。
シスターのような格好で、その一方で出るとこは出て、引っ込む所は引っ込んでいる抜群のプロポーション。
リリーバイスやドロシーもそれぞれが別系統に優れた容姿をしているが、彼女もまた別系統の美人だ。
もっとも、情緒が子供のままであるゼロにはそういう事はよく分からない。
今日を生きる事に精一杯であったから、色恋沙汰などにうつつを抜かしている暇など無かったのだから。
このまま放置している訳にもいかず、ゼロはゆっくりと女性へと近づいた。
「失礼いたします!」
「ッ!?は、はい!な、何でしょうか……?」
声量が馬鹿であるゼロの声に、女性の肩が大きく跳ねた。続いて声の方へと向き直り、子供である少年の姿に少し驚いたように目を見開く。
「ゴッデス部隊に合流される新たなニケの方でしょうか?」
「あ、はい。そう、ですけど……あの、貴方は……?」
「はい!自分は……」
ハキハキと自己紹介をしようとするゼロだったが、何を思い出したのか突然に右手の平で自身の開きかけた口を叩いて塞ぐ。
そして勢いよく頭を下げた。
「申し訳ありません!指揮官殿より、初対面の相手にはいきなり名乗るな、と厳命されているのです!ゴッデス部隊の所属ではありますので、ご案内させていただきます!」
こちらへ!と手で通路を示すゼロ。
馬鹿正直というか隠し事が出来ないというか。美徳ではあれども、権謀術数の蔓延った組織では褒められた気質ではない。
だが、女性も困っていた事は事実。ついでに、その性根は善性のもの。
「え、えっと……よろしく、お願いします?」
「はい!お任せください!」
@
ラプチャーとの戦争が始まってから、指揮官は何度となく予想だにしない状況に巻き込まれた事がある。そしてその度に、乗り越えてきた。
だが、やはり何度経験しても予想外の状況というのはついて回る訳で、
「指揮官殿!本日合流されるニケの方をお連れ致しました!」
「ほ、本日よりゴッデス部隊に合流いたします、フェアリーテールモデル3番ラプンツェルと申します!よ、よろしくお願いいたします……!」
ビシリ、と音が鳴りそうな綺麗な敬礼を決めるゼロ。そして彼の隣で、深々と頭を下げる金髪のシスター、ラプンツェル。
今日新たなるニケが合流する事を、指揮官も把握していた。ついでにこの場に居合わせるのは、自分と秘書官だったリリーバイス。後は参謀的立ち位置を確立したドロシーだと思っていた。
だが、蓋を開けてみればこの場に居る事を想定していなかったゼロが立ち会っている。
彼は今日一応非番だった。その為、いつもの軍服から上着を脱いで袖を捲った白いシャツ姿。ついでに左手にはちゃぷちゃぷと水の入った、縁に雑巾の掛けられたバケツが下げられている。
「ええっと、ゼロ君?」
「はい!」
「また、掃除してくれてたの?」
「はい!その折に、艦内で迷われていたラプンツェル殿と出会い、案内させていただきました!」
「あ、案内していただきました……!」
頬を染めて小さくなるラプンツェル。いい年をして迷子になっていました、と大っぴらに言われれば羞恥も覚えるか。
この辺りの配慮も覚えさせるべきか、指揮官は眉間を揉む。
「あー、ゼロ。とりあえず、そのバケツと雑巾を置いてきたらどうだ?それから、身なりを整えて戻って来てくれ」
「はい!了解いたしました!」
きびきびとした動作で執務室の出入り口へと歩を進めるゼロ。退室前にクルリと踵を返した。
「では、失礼いたします!」
最敬礼から、クルッとターン。姿勢正しい背中は扉の向こうへ。
その背中をジッとラプンツェルは見送っていた。
「あの子が気になる?」
「ッ!」
リリーバイスの言葉に、ラプンツェルの肩が跳ねる。同時に勢いよく頭が下げられた。
「も、申し訳ありません!つい、その……」
「あ、ごめんごめん。責めるつもりは無いの。少年兵がこんな所に居るのが珍しいって所でしょ?」
「そう、ですね……彼も、ゴッデス部隊の一員と伺ったのですが……」
「ああ、その通りだ。ふむ……」
指揮官は改めて、頭の上から下までラプンツェルを眺めた。
中々に際どい格好だが、それよりも気になるのは、
「……シスターか」
「指揮官?」
「いや、待て。単なる感想だ」
だから脇腹は待て、と指揮官は左腕を体に回して右手をイイ笑顔で迫ってくるリリーバイスへと突き出した。
漫才のような二人に代わって聞き取りをするのは、ドロシーだ。
「どこかで見た顔、と思えば。あなたは確か、次の教皇として有力だった……」
「これまでの立場は全て返上させていただきました」
先程までの、どこかオロオロとした態度は消え代わりに真っすぐと強い意志を持った目でラプンツェルは前を見た。
「この生き残る事を優先する世界に、私に出来る事はありません。祈りは、人々の心に余裕あってこそ届くものですから」
「でも、将来の約束された地位でしょ?」
「その将来も、どうなるかは分かりません。そして私は漫然と来るかもしれない未来を待ち続けるよりも自分で行動したいと思いました。その折に、皆さんのお話を聞いたんです」
ハキハキと両手を胸の前で組み、ラプンツェルの言葉が響く。
「この世界に光と希望を齎さんとする皆さんに、私も加わりたいと思いました。そして、その思いを果たすべく、この身をニケへと変えて参上した次第です。争いごとは苦手です。ですが、今は祈りや信仰よりも武器を持って立ち上がるべき時である。私が適合者として選ばれた事もまた、神の思し召しなのでしょう」
まるで後光でも射しているかの如し善性だ。何というか、心の底から奉仕する事が染みついている様な雰囲気がある。
どこぞの少年兵とはまた違うが、ラプンツェルもまた善人に間違いはない。
彼女からの言葉を噛み砕いて理解し、指揮官は一つ頷いた。
「良いだろう。これらからよろしく頼むラプンツェル。早速だが君の能力を、と言いたい所だがまずは君の疑問から応えるようにしよう」
「あの少年の事ですね」
「ああ、そうだ。アイツは、正確には人間じゃない。君達ニケと本質的には似ている、一種の改造人間とも言うべき存在だ。正式名称は、陸戦人型汎用歩兵機人試作零號。長いから、私たちはゼロと呼んでいる」
「ゼロ……彼も、戦場に立つのでしょうか?」
「勿論だとも。言っておくが無理矢理じゃないぞ?これに関しては、ゼロ自身の意思を尊重してだ。何より、守られる立場になるほどアイツは弱くない」
断言した指揮官に同意するように、リリーバイスとドロシーも頷いた。
実力云々に関しては、実際に見た方が速いだろう。どうせ、その内に嫌でも戦場に足を運ばねばならなくなる。
ラプンツェルが割り切れるまで少し待っていれば、部屋に入室を報せるチャイムが響く。使う者など、一人だけだ。
「失礼いたします!お待たせして申し訳ありません!」
「いや、そんな事は無いぞ、ゼロ。今日は非番だからな」
入室し敬礼をするゼロへと、指揮官は手招きを一つ。
小走りで駆け寄り、少年は聖女の前で頭を一つ下げた。
「自分は、陸戦人型汎用歩兵機人試作零號と申します!皆さんには、ゼロと呼ばれております!よろしくお願いいたします!」
「は、はい!よろしくお願いします!」
つられて頭を下げるラプンツェル。馬鹿真面目と世間知らずな二人の組み合わせは、存外悪くないらしい。
少し微笑ましい気持ちになりながらも、話はまだまだ終わりではない。
「親交を深める事も大切だが、先に実務的な話をするとしよう。ラプンツェル、君はいったい何が出来る?」
「そうですね……祈りには自信があります。三日三晩祈り続けた事もありますので……それから、説教や演説でも高い評価を頂いています。聖歌隊にも所属していました」
「いや、そうじゃない。確かに素晴らしいことかもしれないが、今の君はニケだ。出来れば、戦闘面での話を聞かせてほしい」
「あ!も、申し訳ございません……!そうですね、まず私の武装はこちらの杖が欠かせません」
少し頬を赤くしながら、ラプンツェルは背負った杖を示す。
「この杖には、ガッデシアムを再生させる機能があるんです」
「ガッデシアム…………ってなんだ?」
「……ニケの身体を構成する物質です、指揮官。まさか、知らなかったんですか?」
「いや、知っているとも。ああ、勿論。これは、君達がきちんと理解しているのかを試しただけだ。んんっ、されラプンツェル。話を遮ってすまない。続きを聞かせてもらおうか」
「あ、はい。ええっと、正確にはガッデシアムの粒子?を撃ち込んで破損個所を塞ぐ、と表現する方が正しいかもしれません」
「……ただ損傷を埋めるだけですか?それでは、機能に障害が出てしまいそうですが……」
「いえ、私は全ての知識を与えられています。ニケの構造を知識として詰め込まれているんです。ですので、正しく埋め直す事で機能不全を起こすことなく戦闘行為を続行する事が出来ます」
継戦能力の上昇は、戦場における生存率にも繋がるだろう
しかし、問題もある。
「ゼロはどうだ?そもそも、ニケじゃない君にも通じるのか?」
「……分かりません。そも、自分の身体にはガッデシアムが使われておりませんので」
そう。ニケに迫る、或いは凌駕するであろうゼロの修繕。
元が頑強堅牢であるから大した破損などは無いが、戦場が激化すればその限りではない。
ただ、彼の場合は少し違う機能が施されてもいたりする。
「ただ、自分の身体は零式エンジンのエネルギーを損傷部に回す事で自己修復を最低限可能としております」
「そうだったのか?」
「はい。自分のエネルギーの余剰分により、修復用ナノペーストを生産。これを戦闘時における補修材として用いているのです」
破格の機能、にも思えるが実のところこの修復には限界もある。
まず、ペーストそのものが有限。エネルギーがあれば生産できるが、一度の総生産量は決して多くは無い。加えて、ラプンツェルの修復機能のように傷を塞ぐが、この塞いだ部分は一定時間が経過するまでは脆い。ついでに、あくまでもゼロ自身の身体で完結している為、ニケや他兵器を修理する事は出来ない。
顎を撫でる指揮官。だが、そんな彼へとリリーバイスはジト目を向ける。
「怪我の度合いで言えば、指揮官が一番ひどいと思いますけどね~」
「人間の身で、どうしてそうも自信満々に前に出られるのか……この前も流れ弾で左の二の腕を負傷されましたよね?」
「ぐっ……これでも、昔は凄かったんだぞ?寧ろ、君達の方が異常だ、異常」
「二度目が無いよう、鋭意努力させていただきます!」
「君はもう少し肩の力を抜け」
戦果に対して、アットホーム。上官と部下の垣根が薄いからこそ、ゴッデス部隊は成立していた。