陸戦人型汎用歩兵機人試作零號   作:改造人間サンタロー

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女神たちと大規模作戦

 ラプチャーに撃ち落とされないように高高度を飛ぶ、飛行艇。

 

「ゼロ、無理はするなよ」

 

『了解であります!』

 

 甲板の縁から目のくらむような高さを見下ろしながら無線機へと声を掛ける指揮官と、その無線機よりいつもの元気な声が流れてくる。

 指揮官の見下ろす先。飛行艇の側面を伝って何やら作業しているゼロの姿がそこにはあった。

 

 ゴッデス部隊の拠点でもある飛行艇。

 補給などの際に定期的なメンテナンスが行われるものの、それでも常日頃からの点検は必須。

 一応、常にモニタリング自体はしている。しているのだが、電子回路そのものがイカレてしまった場合はどうしようもない。この観点から、目視による点検が必要になった。

 この点検に抜擢されたのが、ゼロだ。

 掃除の為にあちらこちらへと動き回っている事と、常日頃から嵌め殺しの窓の外側を掃除するために飛行艇の外装を伝う事に慣れているから。

 ひょいひょいとパルクール宛らの動きで外装を自由に動き回るゼロ。

 その様子を見下ろす指揮官は、とある感想を覚えた。

 

「アイツは、猿か?」

 

「頑張ってくれているゼロ君に言う事じゃないと思いますよ?」

 

 指揮官の隣に並び立ったリリーバイスに窘められる。

 彼女も、外装点検の候補として挙げられていたのだが、慣れと持久力、それから戦術戦略の観点から却下となっていた。

 指揮官は、肩を竦める。

 

「だが、そうとしか言えないだろう?何より、ゼロは軽口の一つで落ち込むような軟なメンタルをしていない」

 

「落ち込む、落ち込まない以前の問題じゃないですか?あんまり色々と好きに言ってると、ゼロ君からのリスペクトが無くなるかもしれませんし……」

 

「それだけは、本当に止めてくれ。ゼロとラプンツェル位だぞ、純粋な尊敬的な視線をくれるの。この頃は、ラプンツェルも少し怪しいが」

 

「それはそれでどうなんです……?まあ、私もあの子に白い目で見られたら部屋に引きこもる自信がありますけど」

 

 ゴッデス部隊の弟枠は、伊達ではない。素直に尊敬の目を向けて、言葉にし、態度で示すゼロは自己肯定感を養うにうってつけだった。

 

 そんな元少年兵はというと、慣れた動作で外装を下り、飛行艇の下側へとやってきていた。

 吹き荒れる風と目の眩む様な高度を足元に据えながら、僅かな取っ掛かりに指を掛けて彼はぶら下がりつつ目視で異常が無いかの確認を続けていく。

 

「……む?」

 

 不意に赤い光が視界の端に過る。

 反射的にそちらを向けば、何やら船底にぶら下がったモノが見えた。

 

「…………ラプチャー?」

 

 雲梯を進むように器用に船底を移動したゼロは、確りとその姿を認識して首を傾げた。

 それは、小型のソレも壊れかけたラプチャーだった。

 辛うじてコアが光っている為に生きているようだが、殆ど壊れかけ。

 少しの間を挟んで、ゼロは上に居る筈の指揮官へと無線を飛ばした。

 

『どうした?』

 

「はい!飛行艇底面部に小型ラプチャーを発見しました!ただ、既に殆ど壊れております!」

 

『ラプチャーだと?……捕獲、いや破壊し回収する事は可能か?』

 

「はい!」

 

『良し。なら、回収次第上へと戻ってくれ』

 

「了解いたしました!」

 

 そこで、無線は途切れゼロは行動を開始した。

 幸い、相手は動けない。攻撃してくる様子もなく、その一方で点滅するコアだけがゼロへと向けられている。

 彼は両手で船底にぶら下がると、足を利用して反動をつける。

 一際大きく背中側に揺れた状態から、勢いよく両足を前へと振り込み、同時に掴まっていた両手を放す。

 原理としては、ブランコの靴飛ばしに近いだろう。ゼロの身体は一時的だが空中へと平行に勢いよく飛び出したのだ。

 その速度の中で、彼は右手を貫手に構える。

 交差は一瞬。ラプチャーのコアを鋭い貫手が穿ち抜き、沈黙した金属の身体がゼロの右ひじ辺りに引っかかった。

 数秒の空中浮遊の末、少し勢いが落ちた所で適当なでっぱりを掴んで止まったゼロ。

 徐に、右肘へと視線を落とせば少し火花を散らすラプチャーだった残骸がそこにはある。

 

 何やらきな臭い。そんな未来の戦火のニオイをゼロは嗅ぎ取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「緊急事態だ」

 

 ブリーフィングルームに、指揮官の声が響く。

 

「ゼロが飛行艇の裏で発見したラプチャーは、陸戦を想定した量産の小型だった。問題は、何故それがこの飛んでいる飛行艇の裏に引っかかっていたのか、だ」

 

「理由が分かったのでしょうか?」

 

「ああ。つい数時間前だが、ここから南方500㎞の地点に大型のラプチャーが発見された。それ自体は珍しくないが、今回発見された個体は既存のモノとは少し違うらしい」

 

 言いながら、指揮官の目の前にホログラフに因る敵情報の投影が現れた。

 

「等級は、タイラント級。遠距離攻撃はビームその他だが……問題は、ここだ」

 

 指揮官が指をさすのは、ラプチャーの両サイド。

 左右一本ずつの計六本の足を持ち、その中でも頭部に近い脚二本が大きく発達したタガメのような見た目のラプチャー。

 その僅かなふくらみのある平らな背に幾つもの砲塔が生えているのだが、その内前足に近い二ヵ所に妙なモノが付いていた。

 

「……投石器、でしょうか?」

 

 知識の幅が広いドロシーが首を傾げつつ口を開く。

 そう、投石器。ラプチャー特有の黒っぽい装甲で構成されており、近未来的だがその構造の特徴が投石器のソレだった。

 何故そんな物をつけているのか。少なくとも、その後方についているフジツボのような幾つもの砲台の方がはるかに強力だろう。

 しかし、その疑問はラプチャーの次の動きで打ち消される事になった。

 

「……うっそでしょ?」

 

 ポカンとするリリーバイス。だが、他の面々も似たり寄ったりの反応だ。

 なんと、そのラプチャーは近くの小型ラプチャーを一機その前足で掴むと自身の上に在る投石機のような場所へと乗せたではないか。

 そして、何やら一瞬の溜めを挟んで、投石器が機動。勢いよくその上に乗っていた小型ラプチャーが射出された。

 

「……っと、まあこんな所だ」

 

「随分と非効率的な手法ですね」

 

 ドロシーの辛辣な意見。指揮官も同意なのか、頷く。

 

「ああ、確かに非効率だ。現に、射出されたラプチャーはその勢いに耐えきれず損壊するか、着弾と同時に爆散。仮に原形を留めても真面に動けていない」

 

「それではいったい、何が問題なのですか?」

 

()()対応できていないラプチャーが多いが、今後が分からん。もし仮に、投擲にも耐えうる性能のラプチャーが現れた場合、戦闘に唐突な横槍を入れられる事になる。加えて、今の時点ですら陸戦のラプチャーが飛行艇の裏にまで届いているんだ。適応したタイプが現れれば、完全な不意打ちを無防備に受けかねない」

 

 ラプチャーの適応力は凄まじい。極低温も、超高温も関係なく、陸戦のみならず海戦、空戦を可能とするタイプも現れている。

 そこから更に、要塞型で様々な場所へ人類側からは射程外の所からラプチャーを放り込まれ続けるなどジリ貧で負ける。ただでさえ、人類は滅びの瀬戸際であるというのに。

 

 リリーバイスが指揮官へと目を向けた。

 

「つまり、私たちでこのタイラント級のラプチャーを討つ、という訳ですね?」

 

「そうなる。時間は、ニ十分後。無人機を利用して出来る限りラプチャーへと接近し、そこから空挺、撃破を狙う」

 

「随分と雑な……帰還方法は、どうするつもりですか?」

 

「ラプチャー撃破後、迎えが寄こされる手筈になっている」

 

「……つまり、撤退は不可能。相手の対空能力が高い可能性を加味して、飛行艇はこれ以上近づけない、という事ですか」

 

「そうとも言う。いつもの通りだ。君たちが勝ち、そしてここへと戻ってくる」

 

 ハッキリと告げる指揮官の言葉には、気負いの類は無い。

 この裏の無い信頼こそ彼がこうして、ゴッデス部隊という最強の部隊を率いる事の出来る理由の一端だった。

 作戦の通達が終わり、各自集合時間まで解散となったブリーフィングルーム。

 その退室の折に、ゼロは気が付いた。

 

「どうかされましたか?ラプンツェル殿」

 

「ッ!いえ、その……」

 

 暗い顔をしていたラプンツェルは、肩を跳ねさせると両手を胸の前に組んで曖昧な笑みを浮かべた。だが、その表情は浮かばない。

 そして、ゼロはそんな表情に見覚えがあった。

 

 それは、新兵の顔。

 

 ラプンツェルのタイラント級ラプチャーとの戦闘は今回が初だ。

 ニケは恐怖心を抹消されているが、だからといって緊張などと縁遠いという訳ではない。それも、責任感の強いラプンツェルならば猶の事。

 顎を撫で、徐にゼロはラプンツェルへと歩み寄ると、彼女の組まれた両手を自身の手で包み込む。

 

「大丈夫です!ラプチャーは自分の所で抑え込みます!ラプンツェル殿はいつもの様に、皆さんの援護をお願いいたします!」

 

 真っすぐに目を見つめながら伝えられる本気の言葉。内容が無いようなら、告白の位置膜にも見える事だろう。

 もっとも、ゼロの身長はラプンツェルよりも低い。甘酸っぱいよりも、姉弟のやり取りにしか見えないが。

 それでも一定の効果はあったらしく、ラプンツェルの表情は幾分か晴れている。

 ただ、

 

「あ、あのゼロ君」

 

「はい!何でしょうか!?」

 

「えっと、その……結構確りとした手をしていらっしゃるんですね」

 

 ドレスグローブ越しでも分かる武骨な感触。戦う人間の手だ。

 幼さも感じる顔立ちとは対極。何故だか、ラプンツェルはもじもじとし始め、心なしか息を荒げさせ始めていた。

 

「ラプンツェル殿?」

 

 キョトンと首を傾げるゼロだが、彼女は反応を返してくれない。

 一応、緊張を解す、という観点から見れば彼の行動は成功であると言えるだろう。

 

 ただ、この日の一件を境にラプンツェルの新たな扉が開き始め、後々部隊に加入する赤毛の愉快犯によって開け放たれる事を彼ら彼女らは知る由も無かった。

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