陸戦人型汎用歩兵機人試作零號 作:改造人間サンタロー
空挺降下。ニケであろうとも、パラシュートは必要であるしそれ自体も特別性が基本となる。
「今回の指揮官殿との降下は、どなたが担当いたしますか?」
戦闘時に装着するグローブを嵌めて感触を確かめながら、ゼロは周りの面々に問いかけた。
ここは輸送無人機の中。既に飛行艇を出てしまっており、後は相手を撃滅するか、こちらが撃滅されるかの勝負のみ。
手を挙げたのは、ドロシーだ。
「それなら、今回は私が担当しましょう。リリスとゼロ君が先に降下して敵の目を集め、ラプンツェルが私たちの前に降下をしその能力で流れ弾を逸らしてくれれば、比較的安全に降りる事が出来るでしょう」
「うん、それで良いかな。指揮官、宜しいですか?」
「ああ、いつもの通りだ……それにしても、部隊の人数が増えたのは僥倖だったな。君達二人の時には、ひもなしのバンジージャンプをした事もあった」
「アレは仕方のない事です。輸送機が撃ち落とされたんですから。寧ろ、あのタイミングで私たちが動かなければ指揮官も死んでましたからね?」
「それは分かってるさ。ただ、理解してももう一度やりたいとは思わないという話だ」
顎を撫でる指揮官は、今でも直ぐにその時の事を思い出せた。
まだ、リリーバイスとそして入隊したてのゼロの二人だけだった時のとある任務。その時も、今のような無人航空機を用いてのラプチャーの群れへの強襲作戦であったのだが、その折に航空機を撃墜されてしまったのだ。
この時には、リリーバイスが指揮官を抱え、ゼロが落とされた航空機を引き裂いてパラシュート無しの空挺降下を敢行。着地は、近くのラプチャーをかき集めたゼロの下に、それらをクッション代わりにリリーバイスが着地する事になった。
その点、人数の増えた今はそれぞれに役割分担をして比較的安全に着陸する事が出来るだろう。
そこから簡単な最終確認を行っていれば、機内にアナウンスが流れた。
『目標地点を通過。後部ハッチを展開します』
機械音声と共に、牽引式野砲などを積み込む際に用いるハッチが音を立てて開かれていく。同時に、機内へと暴風が吹きこんできた。
「では!お先に失礼いたします!」
いの一番に駆けだしたのは、ゼロ。パラシュートも無しに、軽快な足取りで空へと一気に飛び出していく。
「それじゃあ、次は私ね」
軽い足取りで、リリーバイスが続く。
この二人の仕事は着地点の確保。
「では、ラプンツェル。お願いしますね」
「は、はい!」
ラプンツェル、そして指揮官を伴ったドロシーが空へと飛び出して、無人機は戦域から離脱していった。
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新型の大型ラプチャーの発見。それに対するゴッデス部隊の出動。
その状況は、膠着状態へと陥ってしまっていた。
「うーん、近付けないね」
訳が分からない程に強い、と称されるリリーバイスの呟き。
大型ラプチャーの周りは、小型と中型の群れがひしめいている。
それらがただ向かってくるのなら、突き破って撃滅するところだが相手も考える知能はあるらしく突っ込んでくるのは小型の雑魚ばかりで遠距離攻撃が可能な小型、中型は弾幕を張る事に終始していた。
「じりじりと進んではおりますが、埒があきません!」
「そうだね。今後部隊にくる子は、遠距離が出来る子が欲しいな」
「言ってる場合ですが?二人とも。このままでは、その新しい部隊の加入者を迎える為の部隊が無くなりますよ?」
指揮官とラプンツェルを伴ったドロシーが追いついてくる。
この戦場に置いて最も安全なのは、やはりニケの側だろう。少なくとも、彼女らを抜けて指揮官を攻撃、ないしは抹殺する事は難しい。
ただ、このまま戦闘を続けていてもゼロの言うように、埒が明かない。かといって撤退はほぼほぼ不可能。
とすれば、活路は前。
「ふむ……よし、一つ賭けをするとしようか」
顎を撫でて指揮官はとある決断を下す。
彼が見るのは、最前列でラプチャーの光弾を弾きつつ、飛び掛かってくる小型を粉砕する少年の後ろ姿だ。
「ゼロ!」
「はい!」
打てば響くような返答。
「“デッドカウント”を使う!準備しろ!」
「了解いたしました!」
「「デッドカウント?」」
首を傾げるのは、ドロシーとラプンツェル。一方で聞きとがめたのは、その言葉の意味を知るリリーバイス。
「指揮官?」
「このままじゃジリ貧なのは、君も分かるだろう?リリス、上官命令だ。君も準備しておいてくれ。あのデカブツを直接叩くのは君になる」
「ですが…………」
「心配ありません!リリーバイス殿!必ずや、役目を果たしてごらんにいれます!」
「ゼロ君まで……」
リリーバイスが渋るが、しかし状況は待ってくれない。
ラプチャーの群れは健在であるし、その最奥に居る大型もまた健在。このままやり合っても勝ち目は欠片も拾えない。
「ドロシー、君はゼロの準備が整うまで援護してくれ。ラプンツェル、この間は敵を倒すのではなく防御に専念してほしい」
「……よく分かりませんが、了解しました」
「お任せください、指揮官」
「よし。ゼロ、任せるぞ。カウントは、10。それまでにリリスの駆け抜ける道を作れ」
「了解いたしました!」
それぞれが命令通りに動き出す。
派手なのは、ゼロ。何と彼は上着を脱ぎ棄てその下のシャツの前面を開くと、その所々に歩兵機人としての改造が施された跡のある胸部へと左手を掴むようにしてその指を突き立てるではないか。
変化は劇的。
「零式エンジン、解放」
心臓の鼓動音と共に、周囲に衝撃が走る。
ゼロの変化。それは胸に突き立つ左手。その下に在る胸の中心が青白いチェレンコフ光を放ち始めていたのだ。
光は一気に強くなり、煙の様にたなびく。同時に、彼の全身には青白い幾何学模様のラインが走った。
目の瞳孔は消え、代わりに青白い光が眼下を埋める。髪は薄ぼんやりとした光を放って、ゆらゆらと炎の様に逆立っていた。
零式エンジンは、常時100%の能力を発揮してない。精々、最大稼働でも40%程度。
これは、常の戦闘並びに日常生活には多分なエネルギーは無駄でしかない為。補修用のナノペーストを精製したとしても、その精製部に注ぎ込めるエネルギーの総量には限りがある為、やはり過分なエネルギーは無駄となる。
ただ、一番の理由は、
今も、彼の立つその場の地面がまるでグツグツと煮えるマグマの様に溶け始めている。
だからこそ、
「よし、行け!」
「穿ち抜きます!!!」
周りが驚く中、青白い弾丸と化したゼロは一直線に突き進む。
恐るべきは、その殲滅能力だろう。
振るわれる手足。その手足より、溢れた零式エンジンより発せられる膨大なエネルギーが衝撃となってラプチャーを襲う。
宛ら、飛ぶ拳打。しかも一発一発が戦艦砲クラスでありながら、マシンガンの様に連射してくるあたり質が悪い。
紅い足跡を刻みながら猛然と駆けるゼロの後を追うのは、リリーバイス。
彼女がこの状態のゼロを見たのは、
一度目は、彼が入隊してから二ヶ月ほど経った時の大規模戦闘。
増援部隊が他ラプチャーの群れにかかりっきりとなり、大型を含むラプチャーの群れを指揮官、リリーバイス、そしてゼロの三人で相手にせねばならなかった。
指揮官は非戦闘員として、実質2VS数える事もおっくうになる量。
この突破のために、初めて“デッドカウント”は使用された。
ラプチャーの群れを引き裂いていく青の弾丸。しかし、弾丸というのは直進し続ければ何れ地面に落ちるのが自明の理。
「リリーバイス殿……!」
一際強く振り抜かれた右ストレートと共に、ゼロの身体が前に飛ぶようにして大きく崩れ、地面を転がった。
しかし、仕事は果たした。
倒れた彼の傍らを駆け抜けて、リリーバイスの一撃が大型ラプチャーを襲う。
そのまま周囲を薙ぎ払い、しかし向かうのは倒れてピクリとも動かない少年の下だ。
「ゼロ君、意識はある?」
「………は、い…………」
常の快活な返事は無く、右手を前に出す形でうつ伏せに倒れたままゼロは一歩もその場を動けない。
先程までの光も収まり、炎の様に揺らいでいた髪も元の状態へと戻っている。しかしそれ以外が結構な悲惨。
まず、履いていたミリタリーブーツは完全に熔解。剥き出しになった足は、人工皮膚が焼け爛れており、その内部構造が露出している。穿いているズボンの裾も焦げてボロボロ。
両腕も上腕の中ほどまでズタズタ。こちらも人工皮膚が吹っ飛んで内部の機械構造部が完全に露出。指先に至っては、半ば溶けている。
何より、全身から放出される熱気が凄まじい。
リリーバイスの前髪を揺らす熱波は、うつ伏せに倒れるゼロを中心とした上昇気流となっていた。
程なくして、周囲の残党が駆逐されゴッデス部隊の勝利でこの戦場は幕を閉じる。
そして、そこで漸くゼロも最低限の自己修復と排熱が終わり立ち上がる事が出来た。
「状況終了です………それで、先程の件、教えていただけるんですよね?」
ジロリとドロシーの鋭い視線が指揮官へと向けられる。
彼女だけではない、ラプンツェルも心配そうにリリーバイスの肩を借りているゼロへと目配せをしつつ、無言で説明を求めていた。
流石に説明しない訳にもいかず、指揮官は顎を撫でる。
「まあ、何だ……ゼロの奥の手だ。とはいえ、そう使えるものではない事はみて分かる通り。ゼロ自身の命にも関わる事だからな。かといって、これを秘匿し続けられるほど現状は宜しくない」
そう、ラプチャーとの戦争は人類の負け通しワンサイドゲーム。
どれだけゴッデス部隊が戦場での勝利を積み上げても、撤退続きの現状戦略を覆すには至らない。
そしてそんな状態が続けば、必然的に勝っているゴッデス部隊であろうとも余裕はなくなる。余裕がなくなれば、当然尋常ならざる手段を採るしかなくなる。
だからこそ、知っておかなければならない事だった。
「ドロシー殿、指揮官殿を責めないでください」
「ゼロ君……」
「それに零式エンジンを100%稼働させ吶喊するというのは、元々の自分の運用方法の一つに該当しておりますから」
「そういう事じゃないでしょ、もう」
リリーバイスの指が、ゼロの焼けた頬を突いた。
いざとなれば全てを振り切ってでも、この少年は文字通り身を挺して誰かを救うのだろう。その先に待つのが悲劇であったとしても。
だからこそ、彼の情緒を育てねばならない。
改めて、リリーバイスは決意する。
「とりあえず、ゼロ。君は暫く身体の再構築を優先しろ。そうでなくとも、デッドカウントを使った後は、二週間は動けないだろう?」
「はい……」
指揮官の言葉に、しかし帰ってきたのは何処か眠気を孕んだ返答。
見れば、珍しくウトウトと瞼が半分下がったゼロの姿が。
如何に零式エンジンによる膨大なエネルギー供給があれども、肉体の損傷が酷すぎる為に一時的に休眠モードへと身体が入ろうとしているらしい。
苦笑いを浮かべて改めてリリーバイスはゼロを背負い直した。ついでに脱ぎ捨てられた上着は、ラプンツェルが回収。
遠くの空から、ジェットエンジンの音が響いてきていた。