鉄血の神もどき   作:書鳳庵カルディ

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第5話 かつての自宅

 家に帰ってきた彩華が見たのは、出かけたときとほぼ変わりない自宅の光景だ。

 リビングの家具の配置も、素朴な部屋の雰囲気も、物の姿は何一つ変わっていない。

 ただ、家族の姿だけが変わっていた。

 

「予想はしてたけど、いざ目にするとちょっぴり動揺しちゃうね。私の家族だけ例外だなんてうまい話、ないのは分かってたのに」

「動揺するのが当たり前よ。それで、あなたはこの人たちも倒すの?」

「……うん。鉄頭を倒すことにも、例外はないから」

 

 そう話す彩華が見たのは、母の服を着た一体の鉄頭だ。

 特に何かをするということもなく、リビングの辺りを徘徊している。

 その傍には、母が使っていたであろう掃除機が転がっていた。

 

 元母親とはいえ、その習性は他の鉄頭と何ら変わりない。

 二人の姿を認めた件の鉄頭は、すぐさま近くにいる彩華に襲い掛かろうとする。

 それに対して、彩華は迷いなく反撃した。

 

 鉄製の椅子の脚を変形させて作られた槍が、元母親の胸を貫いた。

 

「これで良しっと。あっちの部屋がおばあちゃんの部屋だから、美穂さんはそこで気になる物がないか探してみて。その間に、私はこれを片付けちゃうから」

「ええ、分かったわ」

 

 この後、美穂は言われた通り祖母の部屋へと向かい、従来の目的である情報収集を始める。

 その一方で、彩華は元母親の死体を引きずって家から運び出すと、それを近くの路地裏に捨てた。

 どうやら、死体をただの肉塊としか考えていないようだ。

 

 そうして、片付けを終えた彩華は祖母の部屋にいる美穂と合流する。

 祖母の部屋は、畳を敷き詰められた一般的な和室だった。

 

「それで、何かいい情報は手に入った?」

「ええ。あなたのおばあちゃん、相当熱心な信者だったみたいね。血印の兄弟団の機関誌が五年分も置いてあったわ。それのおかげか、またちょっと記憶が戻ったみたい」

 

 畳に座ってそう話す美穂の隣には、血印の兄弟団の機関誌が何冊か積み重ねられている。

 これらの本は、彼女がざっと目を通し終えたものだ。

 その内の一冊を、美穂は彩華の前に差し出す。

 

「教団の機関誌には色々な情報が書かれていたけれど、中でも興味深かったのは日本神仏信仰研究所と血印の兄弟団の関係についてね。四年前の五月号に、この二つの団体が協力関係を結んだことが書かれていたわ」

「我らが鉄血の神の降臨を実現するべく、我々は日本神仏信仰研究所に支援を行うことを宣言する、か。きな臭い話だね」

「そうね。実際、私はこれを読んで血印の兄弟団の幹部と顔を合わせた記憶を思い出したわ。大した話はしていないけれど、協力関係にあったのは間違いなさそうね」

 

 機関誌に書かれていた文章を読みあげた彩華に対して、美穂はそう返事をする。

 そして、また別の機関誌を彩華の前に差し出した。

 今年の六月号のようだ。

 

「先月発刊されたこの機関誌に、異変の核心に迫る話が載っていたわ。読んでみて」

 

 そう言われて、彩華は渡された機関誌の一部を読んでいく。

 そこには、以下のような文章が掲載されていた。

 

 "我々と日本神仏信仰研究所の合同研究は、遂に最終段階へと進んだ。来月には、我らが鉄血の神が降臨なさってもおかしくないだろう!"

 

「……つまり、この異変を起こしたのは日本神仏信仰研究所と血印の兄弟団ってこと?」

「そう考えてほぼ間違いないわね。今回の異変との繋がりが多すぎるもの。時期も、紅鉄も、私の記憶も、全てがこの二つの団体と繋がっているわ。……まだ詳しいことは思い出せていないけれど、確信を持って言える事が一つあるの。過去の私は、この鉄血の神を降臨させる研究に関わっていた」

 

 そんな美穂の言葉は、ある種の告白だった。

 多くの人を巻き込み、死なせたこの異変の犯人が、自分かもしれないという告白だ。

 

 この告白の相手が正義感の強い人間だったのならば、恐らくは何らかの問題が生じていただろう。

 だが、今回の告白相手は彩華だ。

 彩華としては、記憶喪失の協力者が過去に何をやらかしていようが知ったことではない。

 

 ゆえに、彩華は相変わらずの調子で口を開いた。

 

「そうなんだ。分かったことはそれぐらい?」

「今のところはね。まだ全部の本を読めたわけじゃないから、新しい情報が出てくる可能性もあるわ。機関誌だけじゃなくて、パンフレットとかもあるみたいだし。やる事がないなら協力してちょうだい」

「うん、分かった」

 

 対する美穂も、彩華の淡泊な反応にいちいち驚いたりはしない。

 これまでの付き合いで、彩華がどのような人間かおおよそ把握していたからだ。

 先ほどの告白ができたのも、それが大きな理由だ。

 "彩華ちゃんは私の過去の罪など気にしないだろう"という確信が、美穂の中にあった。

 

 このやり取りの後、二人は手分けして祖母の部屋の書籍にざっと目を通す。

 しかし、あれ以降は大した収穫を得られなかったようだ。

 強いて言うならば、ここから徒歩四十分ほどの場所に、血印の兄弟団の支部があることが判明したのが収穫だろう。

 

そうして、二人が調査を終える頃にはすっかり日が暮れていた。

 

「調査も終わっていい時間になったし、夕ごはんを食べてお風呂に入って、今日はもう寝よっか」

「ええ、私もそれでいいと思うわ。……私たちがここにいる間、ライフラインが持てばいいのだけれど」

 

 彩華に返事をした後に、美穂はぼそりとそう呟く。

 ライフラインとは、水道、ガス、電気などの、日常生活に必要不可欠な設備や機能のことだ。

 

 改めて確認するが、この街の人々は彩華と美穂を除いて全員が鉄頭になっている。

 つまり、水道、ガス、電気などを管理する人も鉄頭になってしまったということだ。

 そんな状況では、これらのライフラインはいつ使えなくなってもおかしくない。

 今のところは使えているが、果たしていつまで持つのやら。

 

 一抹の不安を抱えつつも、今日のところは文明の利器を存分に使い、二人は自身の疲れを癒す。

 そして、明日に向けて力を蓄えるために、ゆっくりと眠りにつくのだった。

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