鉄血の神もどき   作:書鳳庵カルディ

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第6話 衝突

 翌日、彩華が自分の部屋で目を覚ますと、キッチンの方から物音が聞こえてくる。

 それで、寝ぼけ眼を擦りながらキッチンへ向かってみると、そこには台所に立つ美穂の姿があった。

 

「おはよう、美穂さん。朝ごはん作ってくれてるの?」

「ええ。昨日の夕食はあなたが作ってくれたから、そのお返しにね」

 

 そう話す美穂は、寝間着の上にエプロンを着てフライパンを振るっている。

 どうやら、ベーコンエッグを作っている最中のようだ。

 肉を焼いた時のいい匂いが、キッチンに漂っている。

 

 ちなみに、現在美穂が着ている寝間着とエプロンは、今は亡き彩華の母親のものだ。

 若干の気まずさを感じつつも、背に腹は代えられぬということで、彼女はこの服を使っている。

 

 それから、少しして朝食を作り終えた美穂と共に、彩華は朝食を食べ始めた。

 

「それで、今日は何をしましょうか。異変解決の手がかりを探すなら、血印の兄弟団の支部に向かうのが一番だと思うけれど」

「そうだね。でもその前に、私はこの街を囲ってるあの赤黒い壁を近くで見ておきたいな。もしかしたら、壁を越えて外に出られるかもしれないし。異変を解決するのも大事だけど、化け物だらけのこの街から逃げ出せるなら、それに越したことはないでしょ?」

 

 ダイニングテーブルに並べられた朝食を食べながら、二人はそのように会話をする。

 話題は、今日の今後の行動についてだ。

 

「……確かに、壁の向こう側が平和なままなら、壁を越えれば解決よね。そう簡単にいくとは思えないけれど、試してみる価値はあるわ」

「でしょ?」

「それじゃあ、まずは私たちを閉じ込めているあの壁を目指しましょうか。それで、壁を越えられなかったら血印の兄弟団の支部に向かいましょう。何か異論はある?」

「ううん、それでいいと思う」

 

 美穂の問いに対し、彩華はすぐにそう答える。

 こうして、二人の今日の予定は決定された。

 

 その後、程なくして朝食を食べ終えた二人は、食器を洗ってから着替えを始める。

 鉄頭との戦闘が予想されるため、二人は揃って動きやすい服装を選択した。

 これで、動きにくい制服や白衣を着ていた時よりかは、随分と戦いやすくなったはずだ。

 

 身支度を終えた二人は、家を出て一番近くに見える赤黒い壁へと向かった。

 

 これまでと同じように、襲ってくる鉄頭を難なく返り討ちにしながら、二人は地道に歩き続ける。

 それから、一時間ほど経過したところで、二人の眼前に目的の壁が現れた。

 天に向かってそびえ立つ、終わりの見えない赤黒い壁だ。

 

「う~ん。近くで見ても、なんだかよく分かんないね」

「そうね。そもそも固体なのかしら、これ」

 

 二人の目の前にある赤黒い壁は、近くで見ると脈動している事が分かる。

 血液のような色で、実にグロテスクだ。

 試しに、彩華が道端に落ちていた木の枝でつついてみると、グニッというゴムのような感触が手に伝わってくる。

 

「取り敢えず、壊せるかどうか試してみよっか。美穂さんは危ないから離れてて」

「分かったわ。無茶なことはしちゃダメよ?」

 

 美穂にそう言われつつ、彩華はいつものように道路標識を使って鉄の槍を作る。

 そして、それを赤黒い壁に全力で突っ込ませた。

 

 結果として、槍と衝突した壁は僅かにへこんだものの、言ってしまえばそれで終わりだ。

 一時的にへこんだ壁は、すぐに元の姿に戻り、鉄の槍を難なくはじき返してしまった。

 

「うわぁ。これでびくともしないなら、力技で突破するのはちょっと無理かも」

「凄い威力だったけれど……壁は無傷のままね」

「うん。残念だけど、壁の突破は諦めるしかなさそう」

 

 肩を落として、彩華は美穂にそう言った。

 ダメ元で挑戦したことではあるが、失敗すれば悲しいことに変わりはない。

 

 とはいえ、これ以上どうすることもできないのも事実なので、二人は一旦家に帰ることにする。

 家で休憩して昼食を食べてから、血印の兄弟団の支部に向かうというのが、二人の今後の予定だ。

 

 そうして、二人は行きの時と同じように帰り道を歩き始めたのだが……その道中で、ドスン、ドスンという聞き覚えのある音が二人の耳に入る。

 それで、音がした方に視線を向けてみると、遠くの方で道を歩いている鉄巨人の姿が視界に映った。

 

「あの鉄巨人って、一体だけじゃなかったんだ」

「そうみたいね。今度はどう対処しましょうか」

「今回は道を邪魔されてるわけでもないし、できれば戦いたくないなぁ。そのままどっかに行ってくれればいいんだけど」

 

 今のところ、鉄巨人は二人の正面を横切るように歩いている。

 そのため、大人しく待っていればこちらの存在に気づかれることはまずないだろう。

 

 そんな考えの下、二人は鉄巨人が通り過ぎるのをじっと待とうとする。

 ところが、少し時間が経ったところで、想定外の事態が発生した。

 一体目の鉄巨人が向かっている方角から、二体目の鉄巨人が現れたのだ。

 

「……こうなった場合はどうするの?」

「どうするも何も、取り敢えずはこのまま様子を見るしかないよ。一体倒すだけでもあんなに苦労したのに、二体同時に相手するなんて無謀だし」

 

 美穂の言葉に対して、鉄巨人に気づかれるのを警戒してか、彩華はヒソヒソ声でそう返事をする。

 

 その後も、二人は彩華の言葉通り鉄巨人たちが去るのを待とうとしたのだが、更なる想定外の事態が発生した。

 なんと、鉢合わせた二体の鉄巨人が戦闘を始めたのだ。

 

 これといった武器を持たない鉄巨人の戦闘スタイルは、シンプルな殴り合いだ。

 圧倒的な質量を持つ巨躯を動かし、その拳を互いの身体に打ちつけていく。

 動き自体は地味だが、迫力満点の戦いだ。

 

 辺りに凄まじい衝撃音を響かせながら、行われたこの接戦。

 最終的に勝利したのは、二人から見て左側の鉄巨人だ。

 

 勝利した鉄巨人は、敗北した鉄巨人の胸辺りから紅鉄の板を引き抜き、それを丸呑みにする。

 そして、間もなくその場を去ってしまった。

 

「もう居なくなった……よね? はぁ、何もしてないけど、緊張でなんだか疲れちゃった」

「同感ね。鉄巨人同士で争って、勝者が敗者の紅鉄を食べたみたいだけれど、一体何が目的なのかしら」

「単なる推測だけど、紅鉄を食べたらパワーアップしたりするのかもね」

 

 鉄巨人が去ったところで、緊張が解けた二人はそのように話をする。

 

 かくして、予期せぬ遭遇によるトラブルはようやく終わりを迎えた。

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