レベル5な白井さん   作:暁月夜

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序章
プロローグ


 学園都市の十二学区のとある一角は混乱の渦中にあった。

 最大で大能力者(レベル4)の能力者を擁する高位能力者集団『アングル』。彼らが蜂起したのである。

 『アングル』の主張は、『優れた能力者が平等主義の名の下に冷遇されている。自分達が本来与えられて然るべき特権的な地位を寄越せ』という自己中心的なものである。しかし、カリスマ的リーダーに率いられ、その規模はここ数ヶ月で数十人規模に膨れ上がった。

 そしてこの度、大企業のビルを占拠するという暴挙に出たというわけである。ビルの入口付近では鎮圧に来た警備員(アンチスキル)と『アングル』構成員による衝突が発生していた。

 

「く、こいつら強いぞ!」

 

 火炎系能力者、水流操作系能力者、電気系能力者など多数の高位能力者数十名を擁する『アングル』は鎮圧に来た警備員を一蹴する。

 

 手から炎を放出し警備員を牽制する青年は嘲るような口調で言う。

 

「さーて、消し炭になりたい野郎からかかって来なよ」

 

「おいおい、殺しはNGだぜ」

 

 隣の青年が電気系の能力を使い警備員を感電させ動きを止めていく。

 彼らは特殊な能力を持つ者たちであり、一般人では全く敵う相手ではない。緊急で駆けつけた警備員たちを嬲っていく。

 だが――。

 

「ぐべぇ!!!」

「ごばあぁ!!!」

 

 ズドンッとゴム弾が彼らに打ち込まれる。ゴム弾といえど、その衝撃が人体に与えるダメージは甚大だ。

 それは後ろの女性の警備員からのものだった。

 

「あんまり舐められちゃ警備員の名が廃るってもんじゃんよ」

 

「黄泉川さん!……救援、感謝します!」

 

 女性の警備員、黄泉川はそのまま次々と『アングル』のメンバーを制圧していく。後ろには増援のための車両が複数台並べられている。

 最初は人数差で押し切れていた『アングル』であったが、増援が来るに従って、対能力者戦の経験を積んでいる警備員に形勢が傾きつつあった。

 

「クソ、嶺月さんが上手くいくって言ったから乗ったのに!」

 

「能力者制圧に慣れてやがる。一旦退くぞ!」

 

 所詮は現状への不満から集まった急造の組織。能力への驕りも大きい。困難な状況に陥ったことで、既に組織は瓦解しつつあった。

 しかし、警備員の優勢はたった一人によってひっくり返される。

 

 二つのパンパンという爆竹を鳴らしたような音が響き渡る。すると、建物の奥から、一人の青年が現れる。手には拳銃。

 

「が、あ、あああああ!嶺月、さん、ち、違うんだこれは――」

 

 逃げようとした二人の足は銃弾によって貫かれていた。

 

「……ふう。敵前逃亡とは無様なものだね。警備員程度に手間取るとは情けない。所詮強能力者(レベル3)、といったところかな。」

 

 痩せぎすな体格に全身白のスーツ。顔に張り付いた笑顔は温和な印象を与えるが、その目は蛇のように冷たかった。

 

「どうせ戦力にはならないと思ってはいたが、まさかここまで使えないとはね」

 

 青年が銃を持っていない方の左手を警備員の方に向ける。何らかの攻撃が来るものと判断した警備員たちであったが、彼の能力には無意味であった。

 ズゥ、と黄泉川たちの体が重くなる。その重みは次第に増し、やがて立つことすら困難になる。

 

「暗部にコネがあれば使える兵隊も違ったんだろうけど、まあ良い。これから組織をさらに拡大させ、より強力な能力者を取り込めば良いだけのこと」

 

「ぐっ、お前が組織のリーダーじゃんか!?」

 

 黄泉川は地面に這いつくばりながらも現れた青年に問いただす。

 

「その通り。能力を持たない愚鈍な大人たちが支配するこの街の構造を根本的に変えてやろうと思ってね。今回は革命の狼煙と言ったところかな。超能力者(レベル5)を上回る僕の力を披露することで、学園都市の不満分子は僕の下に集まるだろう。そうして無視できない規模になれば学園上層部も僕の意見を呑まざるを得ない。良いアイディアだとは思わないかい?」

 

 嶺月は第一印象通りの人好きのする笑みを浮かべる。その強大な能力を見せつけながら。嶺月の能力によって、駆けつけた20人余りの警備員全員が地面に縛られていた。

 

(おそらくは重力に関係する能力。そして扱える範囲や強度からみて大能力者(レベル4)、その中でもかなり強力な部類じゃんか!超能力者(レベル5)を上回ると自称するだけはあるか!)

 

 嶺月は拳銃を手で弄びながら嘯く。

 

「僕の能力は重力奔流(グラヴィティ・フォール)と言ってね。物体にかかる重力を操ることができるんだよ。この能力にかかれば、あらゆる人間は僕の前で跪くことしかできないのさ。警備員すらこの様だ。研究者どもは過小評価していたようだがこの能力があれば――

 

「あらあら、何やら煙が上がっているのが見えたと思ったら結構大変なことになってますのね」…なっ!?」

 

嶺月の真後ろに

 

つい先ほどまで絶対にそこに存在しなかった少女が

 

立っていた。

 

 

 少女は腕章を示しながら告げる。

 

風紀委員(ジャッジメント)ですの。大人しくお縄についてくださる?」

 

 青年はすぐさま振り返り、拳銃を構える。

 

だが……。

 

「物騒なものを向けないでくださいな。こちらはいたいけな女の子ですのよ?」

 

 その拳銃は数瞬後には少女の手の中にあった。

 

「は……?」

 

 冗談みたいな光景に言葉が出ない。

 しかし少女の顔を見た瞬間、嶺月はそれまでにも増して驚愕の表情を浮かべた。

 少女は学園都市でも随一と言っていい有名人だった。茶髪のツインテールと小柄な体格、そして何より、先ほど名乗られた風紀委員という肩書き。

 

「なるほど……例の超能力者(レベル5)というわけか。ねえ、僕の組織に入る気はないかい?」

 

「興味ありませんの」

 

「……即答かい」

 

 最近超能力者(レベル5)と認められた少女。序列は()2()()。人格破綻者揃いの超能力者(レベル5)の中ではかなり穏健という噂だが、定かではない。風紀委員を務めているが、本来警備員が受け持つべき役割を積極的にこなしており、その目的は謎に包まれている。

 能力は不明。テレポートをしている場面がいくつか目撃されていることから、空間移動系の能力者と目される。

 

(そしてそれは正しい、と見て良いだろう。僕に全く気取られることなく背後を取り、僕の持っていた拳銃は瞬時に彼女の手に移動した。自分自身をテレポートさせることは勿論、手に触れていない物まで指示棒など使わず目視でテレポートさせることまで可能とは……。超能力者(レベル5)の名は伊達ではないということだろうね)

 

 だが……と嶺月は脳内で瞬時に考える。幸い彼女は油断しているように見える。敵を前にしながら視線も向けず、手に持つ拳銃を弄っているようだ。自分の能力であれば先手を取れば問題ない。テレポートを使う前に重力奔流(グラヴィティ・フォール)で押しつぶせば良いだけだ。

 勿論、少女の能力を使えば重力の拘束から抜け出すことは容易いだろう。だが、その前に付けいる隙が生まれることは確かだ。

 

「おい、奴の能力が来る!気をつけろ!」

 

「もう遅い!!!」

 

 警備員が叫んだ段階で、既に嶺月は両手を掲げ能力を発動していた。少女は文字通りの重圧に晒され――

 

 

ることはなかった。少女は何事もなかったかのように拳銃を弄っている。拳銃と格闘すること十数秒、ついに銃弾を取り出すことに成功したようだ。少女が左手でぎゅっと銃弾を握りしめると、銃弾は()()()()()()()。嶺月は能力が不発だったのかと思い、何度も発動を試みる。

 

「な、何が……!クソ!くらえ!くらえ!くらえぇぇ!!!」

 

「うるさいですわよ」

 

「がはぁ!」

 

 少女が呟くと嶺月の方が巨大な重力を受け地を這いつくばる。

 銃弾を失った拳銃を放り投げ、そこでようやく少女は青年に目を向ける。

 

「……貴方の能力、おそらく重力操作系ですわね。あたりで倒れている警備員の様子で察しがついておりましたわ」

 

「ば、馬鹿な!お前は周りなんて少しも見ていなかったはず……!」

 

「見る必要がありませんので。甘いですわねえ。もしかして、わたくしをただの空間移動系能力者だと勘違いしていらっしゃるので?私は私が感知する空間全てを支配する能力者。そしてその感知可能な範囲は半径数キロメートルに及ぶ。その応用として、目で直接見なくても、目で見る以上の情報を「空間」から拾えますの」

 

「ば、かな……」

 

 それはまるでここら一帯全てが彼女の体内であるかのようではないか!

 

「勿論範囲内でならなんでも出来るというわけではありませんけど……貴方が見せていたちょこざいな能力程度、倍返しにして反射することくらい、わけないですわ。あなた、超能力者(レベル5)を舐めすぎましたわね」

 

「ぐっ!」

 

 少女は余裕のある表情を崩さないまま淡々としている。

 

(これが超能力者(レベル5)!まさか!ここまで違うのか!?そんな馬鹿な!!これでは……これでは僕の今までの計画はなんだったんだ!!!)

 

 『アングル』リーダーの男は少女から逃げようと背を向ける。

 

「あら、逃げられると思っていますの?」

 

 いつのまにか背後にいた少女が青年の肩に手を置く。すると、気づいた時には青年は宙に浮いていた。地面は……遠く彼方だ。学園都市全体が見渡せるほどの高さ。少女によって、上空にテレポートさせられたのである。

 

「え……?」

 

 青年にはもはや届かない声で少女は告げる。

 

「心配しなくても死ぬことはありませんわよ。でもこんな騒ぎを起こした手前……

ちょっと怖い目にあってもらおうかと⭐︎」

 

「うわあああああああああああああああああっっっっっっっ!!!」

 

 待つのは……無慈悲な落下である。

 

「あああああああああああああああ!た、助けてくれ!な、な、なんでもする!なんでもするからああああああああぁぁぁぁぁぁ!」

 

 当然、遠すぎて黒子には聞こえないし聞くつもりもない。

 

 黄泉川を始めとする警備員たちは一部始終を黙って見ていることしか出来なかった。それほどまでに風紀委員の少女は――隔絶していた。

 

(おいおい、聞いていた以上じゃんよ。これが超能力者(レベル5)……)

 

――白井黒子!

 

 

 その後嶺月は落下ギリギリで救助されたものの完全に心が折れており、仲間共々逮捕されたという。勿論、結果として秘密結社『アングル』は完全に解体された。

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