レベル5な白井さん   作:暁月夜

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実質ここからが本編なので初投稿です。


第2章
第8話 ティータイム


 明け方。その施設には開かずの研究室が存在する。一般の研究員はおろか、()()以外の全ての人間が入室を許可されていない。そもそも、存在すら感づいた者はいない。如何なる手段によってか、第二位の能力者も、彼女の師も、この学園の王でさえも気づくことはない。

 薄暗い部屋。無数のモニターと6つの巨大な2メートル四方の培養液に満たされた強化ガラスが設置された部屋で、リクルートスーツの上に白衣を着た女性が携帯電話で何者かとやり取りをする。

 

『……例の『実験』、犠牲者が9900人を超えたわ。10000人を超えるのはもうすぐといったところでしょうね』

 

 電話先の相手は、感情を押し殺したような声で告げる。

 

「こちらもそろそろといったところですねぇ。例のファイブオーバーはもう回収しますのでいつもの場所に」

 

 一方の白衣の女性は淡々とした調子で続ける。

 

「ええ、使用を停止させて下さい。データ収集後はあなたに使用及び調整を一任しますのでそのつもりで。なくて困るものではないでしょう?こちらで()()専用にチューンしていたとはいえ、良く働いてくれました。蠢動俊三の遺物はやはり有用でしたね。才人工房(クローンドリー)しかり、木原でもないくせに中々やるものです。先生に殺されかけたのに生き延びていたこともそう。……まあ、結局私が殺しましたが。もちろん、あなたや警策(こうざく)さんという掘り出し物を残してくれたことにも感謝しなくてはいけませんね」

 

『……それで、いつ動くの?』

 

 電話先の人物は女性の話には興味がないようで、苛立ったように言う。

 

「あんまり急かさないでくださいよ。今回の案件はあまりにも大きい。私より上がこの計画を進めたがっている……これがどういう意味かわかりますよね?統括理事会なんてちゃちな連中はどうでも良いんですが、彼だけは無視できない。下手を打てばお終いってわけです。『そろそろ』と言ったでしょう。前回の能力測定実験で彼女……白井黒子の能力の現在地がようやく把握できたところ。これで彼女を動かすことに()()()が立つ、ということです」

 

『どういう言い訳かは聞きたくないけど。いいわあ。ようやく始まるってことね。ところで警策さんにはこのこと連絡してあるの?』

 

 そこで女性はうーんと唸る。

 

「そこが一番の悩みどころだったんですよね。あなたに彼女の記憶を覗いてもらった時のこと……覚えてますよね?」

 

『ええ、私はあれで()()()()()()()()と確信したもの。……ああ、なるほど』

 

「察しが良くて助かりますよ。下手に彼女にこのことを伝えたら独断専行をしかねません。だから、機を見て私が直接説明します」

 

『直接って……ここまで黙ってたんだし、あの子の背景考えたら正直ぶん殴られても仕方ないわよ?』

 

 そこで女性はふっと微笑み。

 

「殴られるだけで済むなら安いものですから。……でもあの子意外と鍛えてるから効きそうですね。嗚呼、今から憂鬱です」

 

 電話先の相手はあきれたように溜息をつく。

 

『あなたって本当に()()()()()わね。私もあなたの下についてそれなりの数の木原を見てきたけど、あなたみたいなのは見たことなかったわ』

 

「……昔はそれなりに()()()()()んですがねえ。まあ、色々あったってことです」

 

『詮索するつもりはないわ。あなたがそういう人だから、私はあなたを信頼しているわけだし。……それじゃあ、動きがあったら連絡して頂戴』

 

「ええ、じきに。そのときはお願いしますよ、蜜蟻(みつあり)愛愉(あゆ)さん」

 

 木原唯一は電話を切るとひと息つく。

 

「さて、賽は投げられたってやつですねぇ。他人にベットするとはいかにも木原らしくない。でも黒子、私は……」

 

 彼女は6つの培養液に浮かぶ物体に目を向ける。それは未完成なるもアレイスターを殺しうる武器。いや、それは魔神でさえも塵殺する()()であった。

 

「私一人でも、世界を敵に回して勝って見せますよ」

 

 

 

 

 

 8月9日。時間は放課後。場所は常盤台中学の中庭。二人の少女がテーブルをはさんで紅茶を飲む。一見優雅に見える午後のひと時。

 常盤台のお嬢様たちは、そんな二人の様子を遠くから憧れの目で見ていた。何しろ二人は人口230万人の学園都市で8人しかいない超能力者(レベル5)の一角であり、片や常盤台の最大派閥の女王、片や学園都市でもはや知らぬものはいない正義の風紀委員(ジャッジメント)である。

 そんな、常盤台の誰もが憧れる二人の間では、さぞかし優雅な会話がなされていると皆が思っていたのだが――。

 

「ふぁあ」

 

 一方の少女である第二位の超能力者(レベル5)白井黒子は欠伸を噛み殺そうと必死である。そんな黒子の態度に目の前にいるもう一方の第六位の超能力者(レベル5)である食蜂(しょくほう)操祈(みさき)は若干イラっとしたようである。背後には側近たちが幾名か。

 

「白井さん、その態度力はどういうつもりかしらぁ?一応あなたは私の派閥ということになっているはずだけどぉ?」

 

 そう、黒子は食蜂派閥のメンバー、ということになっていた。ただし、あくまで名目だけである。リーダーはもちろん食蜂操祈。2番手は帆風潤子。黒子は純粋な派閥のメンバーではない。

 こんなことになったのには理由がある。最大の原因は、常盤台には『どの派閥にも属さない者は派閥間の諍いに介入出来ない』という暗黙のルールが存在することである。その裏をかくために、名義貸し的な意味で食蜂派閥に入ることにしたのである。いわば名誉食蜂派閥員といったところか。

 

 何しろお嬢様学校のくせに能力を使ったいざこざが絶えないのである。敬愛する美琴と同様、派閥といったものに全く興味を持たない黒子としても、風紀委員(ジャッジメント)としては見逃すことはできなかった。仕方なく派閥を作る、もしくは派閥に入る必要が生じたのだった。最初に出たのは、美琴とタッグで派閥を結成するという(下心ありきの)案である。しかし、これは美琴が秒で蹴って廃案。そこで最大派閥の主である操祈に取引を持ち掛け、このような形になったのである。

 同じレベル5として、なぜだか仲の悪い美琴と操祈の間を取り持っておきたいというのも理由の一つであった。

 

 さらにもう一つ、食蜂派閥に入ることにした理由があった。それは、なんだかんだ操祈は話が通じるという感触があったからだ。ここ常盤台中学はお嬢様学校とはいえ、無能力者を無意識に下に見るような人物は当たり前に存在している。

 うわさに聞く()()も似たようなものだろうと思っていたのだが、会ってビックリ。冷徹に見えてそれだけではない。人を見る目は公正であり、能力で人を判断しない。彼女は、()()()()()()を見ているのだ。それが彼女の能力による()()()か持って生まれた天性かは知らないが、なるほど、確かに人の上に立つにふさわしい、

 ――と、ここでどこぞの研究者譲りの分析的思考が加速していたことに気付いて、黒子は自重する。

 

(まあ、食蜂さんが思っていたよりまともで助かっているのは確かですし。お姉さまと不仲なのは気になりますが、そこまで深入りすべきでもありませんわね)

 

 気を取り直して、黒子は操祈の質問に答える。

 

「いやぁ、これでも大分無理しているというか。昨日は色々あって大変でしたの」

 

 黒子は若干くたびれた顔をして紅茶を飲む。その動作は令嬢に相応しいものではあったが、確かに疲労を感じさせるものだった。

 アウレオルスとの戦闘は、結果を見れば黒子の圧勝だった。しかし、命の取り合いに慣れていない黒子にとっては少々疲れが残るものだったのである。

 

 そこでもう一方の少女、食蜂操祈は微妙な顔をする。

 

「それって先ほど仰っていた御坂さんとそっくりな死体の話ぃ?貴女がそういう願望を持っていたとして、いささか倒錯しすぎてて引いてしまうレベルなのだけどぉ」

 

 食蜂は冗談めかして言う。

 

「ああ、その話ですの……っ」

 

 今日学校に来たのも気合いの産物であった黒子は、そこで初めて操祈の目が全く笑っていないことに気づき、自然とダラけていた背筋が伸びる。

 

(何でしょうこの感覚は……。つい最近感じたような……)

 

「まあ、そうですわね。間違ってもそのような性癖はないと断言しますが、それらしいものを見た気がした、というのは事実ですわね。直後に電話して、その後に会って完全に幻だとわかってホッとしておりますの。もう思い出したくもないですわね……」

 

(これは……殺気?)

 

 操祈は紅茶のカップをゆっくりと置く。

 

「へぇ……だいぶ興味深い現象力じゃない?あなたも気になるだろうし、どういうことが起きていたのか確認するためにちょっと頭の中を覗かせて貰えないかしらぁ?」

 

 緊張した空気が流れる中、黒子は周りの生徒たちが支配下には置かれていないことを確認する。

 

(意図せずにここまでの殺気を出している……?周りが全然見えてないようですわね。本当に彼女らしくない。ここは……)

 

「派閥に入る時に言ったと思いますが、私の頭を覗くことはNGとさせていただいておりますので」

 

 黒子は一瞬悩んだが、はっきりと拒否する。確かに気になることではあるが、美琴の無事は確認されたのだし必要性を感じない上、原則として、黒子の同意がある場合を除き操祈が黒子の記憶を覗くことは禁止としている。

 加えて、黒子としては昨日起きた魔術関係の事件は広まると不味いことだと感じている。今、昨日の記憶を覗かれるとあの事件が操祈の知るところとなるだろう。操祈の口が軽いとは思わないが、万が一にも漏れる可能性は排除しておきたい。

 

「それに、あなたさっきから剣呑な気配を出してることに気付いてます?」

 

 すると、操祈はハッとなる。周りを見ると、側近たちは明らかに普段と異なる操祈の様子に委縮していた。少しの沈黙の後、大きくため息をつく。

 

「ごめんなさい。少し……気が立っていたみたいだわ」

 

 今まで見たこともないほど殊勝な操祈の態度に黒子は面食らう。

 

「どうか今日のことは忘れて頂戴。また明日お会いしましょう」

 

 そういって操祈は側近たちを連れて逃げるようにその場を去っていった。

 

 残された黒子は、あっけに取られるしかなかった。

 

(……何だったんでしょう?あの話題にここまで突っかかるなんて。お姉さまになにかあるとでも?……何か嫌な予感がしますわね。今まで感じたことがないほどに。私は何か、()()()()()()()()()()()()()?)

 

 

 

 

 

 操祈は黒子から離れると、先ほどの取り乱した自分の態度を恥じた。

 

(まさか、そんなはずはないのに。()()()以外にクローンがいるだなんて。でも……)

 

 操祈は逡巡し、決断する。

 

「……ちょっと寄っていきたいところがあるのよねぇ。あなたたちは先に帰ってて」

 

 それは、有無を言わせぬ口調だった。

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