レベル5な白井さん   作:暁月夜

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第1章
第1話 彼女の日常


 学園都市。それは日本にある、学生がほとんどを占める都市。学園都市の科学は、外部のそれより20年から30年ほど進んでいるという。

 だが、学園都市を特徴づけるのはその最先端科学だけではない。その科学の結晶として生み出される『超能力者』こそ、学園都市を学園都市たらしめるものであると言えるだろう。

 

 学園都市は『超能力者』を人工的に生み出すことに成功している。火を出したり透視したりといった簡単なものから、この世に存在しない未知の物質を生み出したり、あらゆるベクトルを操作するといったチカラまで。

 学園都市に連れてこられた子どもたちは、学園都市の最新科学による能力開発を受けることで、『超能力者』としての力を開花させていく、というわけである。

 とはいえ、全員が全員超能力者らしい超能力者になれるわけではない。能力開発を受けた子どもたちはその開花した能力によって無能力者(レベル0)から低能力者(レベル1)異能力者(レベル2)強能力者(レベル3)大能力者(レベル4)、そして超能力者(レベル5)まで分類される。現実とは残酷なもので、超能力者になろうと意気込んで学園都市に入ってきた子どもたちのほとんどは無能力者か低能力者、つまりは落ちこぼれに分類されたまま上がって来られない。逆に、強能力者や大能力者はエリートのレベルであり、有名校に入学することも容易くなってくる。

 超能力者(レベル5)というと、少し扱いは変わってくる。何しろ学園都市に未だ8人しかいないのである。その希少価値は計り知れない。

 

 そして、常盤台中学という学園都市内屈指のお嬢様学校に通う文字通りのお嬢様であり、ツインテールと小柄な体型が特徴的な「白井黒子」は、そんな超能力者(レベル5)の中で()()()の地位を占めている。

 

「実験準備、完了いたしました」

 

 学園都市のとある広い真っ白な実験施設。東京ドームが複数個入るほどの規模であり、縦横数キロ、天井も高層ビルが入ってしまうのではないかと思うほど高い。白い床には鉄球が数百個乱雑に置かれ、さらには中央に黒い線が引かれており、存在感を放っている。そんな広大な実験施設の入り口付近、分析用の機械が置かれている場所に白衣を着た大人たちがおり、そこから10メートルほど離れた場所に白井黒子は立っていた。白衣を着た大人たちの中心にいる、リクルートスーツの上に白衣を着た女性が、部下からの報告を受けて黒子に向かって呼びかける。

 

「了解。それでは黒子。いつものからお願いしますね」

 

「はいはい。それでは、始めますわね」

 

(はあ。もうまる二日お姉さまと会ってませんわ。わたくしの能力の特性上、実験の準備に時間がかかるのが難点ですわね)

 

 心中では愛しのお姉さまと会えていないことを残念がりながらも、そうした内心はおくびにも出さないよう意識する。

 黒子は立っていた場所から瞬時に消え、次の瞬間には元いた場所から丁度1キロ離れた場所に立っていた。誤差はナノメートルにも満たない。施設の床に張り巡らされた探知装置がそれを計測する。そして次の瞬間には元の位置に戻る。こちらの誤差も全くない。これを数十回繰り返し、どれも寸分の誤差もないことが確認される。

 

「じゃあ次。これは初めての実験ですね。見ての通り、球体がたくさん並べてあります。実は材質が異なるので重さが微妙に違うんです。これを軽い順にあちらの黒線上に並べてください」

 

 女性は真っ白で広大な実験場に引かれた数キロの黒線を指さす。

 女性は何でもないことのように言うが、空間移動能力者にとって、自分でなくモノを手で触れずに移動させることは大能力者(レベル4)ですら困難が生じる。これを数百、重さを把握した上で直線状に並べろというのだ。新人の研究員は、あまりの無茶ぶりに数時間かけて行うものと勘違いした。

 女性の言葉を受け、黒子は感知能力を上げるため、眼を閉じ少しだけ脳の演算スピードを上昇させる。そして眼を見開くと同時に、指示された黒線に球体が整然と並ぶ。この間、約1.1秒である。

 今まで黒子の能力を間近で見てきた研究員ですら、一瞬にして数キロにわたる壮観な鉄球の列が生まれたことに驚きを隠せない。新人の研究員は、完全に思考が停止した。

 その中でもリクルートスーツに白衣の女性だけは笑みを浮かべる。

 

「もう少し処理に時間がかかると思いましたが、流石ですね。……それでは最後の実験としましょう。まあ、これが本番なわけですが」

 

 

 

 

 

 

 

「……相変わらず規格外ですね。さすがは学園都市第二位の超能力者といったところでしょうか」

 

「これくらい朝飯前ですの」

 

 黒子は女性の言葉に嬉しがる様子もなく応える。賞賛の言葉は聞き飽きているし、実際この程度なんでもないのだから。

 

「ふふ、そっけないですね。昔はもっと可愛げがあったのに。中学生なんてまだまだ子どもなんだから愛想良くしてくださいよぉ。確か、小学2年生の頃だったかなぁ。私の言うことも聞かず全力全開でテレポートした先で迷子になって、東京タワーの鉄骨の上で発見したときはそれはそれは可愛い顔でーー」

 

「ちょーっと!()()さん!変なこと思い出させないでくださいまし!これだから記憶力の良い科学者というのは……ぶつぶつ」

 

「あはは、冗談、冗談です。ほら、飴あげるから機嫌直してくださいって。今日の実験はこれでおしまいです。しばらくは実験ないからお嬢様学校での生活、楽しんできてくださいね」

 

 そうして白衣の女性は胸ポケットから飴玉を取り出し黒子に差し出す。

 

「もう!私中学生ですのよ。子ども扱いも大概にしてください!」

 

と言いつつも貰ったものを返すのは失礼なので受け取っておく。包装紙を開けて舐めるとレモンの味が広がる。まあ……小学生の頃から事あるごとに貰っていた物なので、相変わらず、嫌いな味ではない。

 

「それでは失礼いたしますわ。木原さん、お元気で」

 

「そちらこそ。最近の学園都市って随分物騒って聞きますし。風紀委員の仕事、大切にしているのはわかるけど無茶しちゃダメですよ」

 

 頷き、次の瞬間には白井黒子は施設から消えていた。それを見送りつつ、()()()()はどこか遠い目をしていた。

 

「白井黒子……一方通行と等価の可能性。垣根帝督を第三位に追いやり、小学6年生にして一位とほぼタイに等しい二位となった。そのポテンシャルは「()()」でも計りきれない。それこそレベル6に到達することも彼女なら……」

 

 

 

 

 

 

 

 白井黒子はテレポートで常盤台中学の寮まで戻ってきていた。

 

「ただいま帰りましたわおねーさまーーー!」

 

 そして、寮の部屋で休んでいた御坂美琴に思い切り抱きつく。

 

「この黒子、一日千秋の思いでお姉さまと会えるのを今か今かと待っておりましt」

 

 バチチイィィ、と突然現れた不審者に相対する時のように美琴は電気を黒子にぶつける(実際不審者なのだが)。

 

「お、お、おお正にこの刺激。この心臓の高鳴りは恋では?」

 

「やっぱりあんただったのね黒子。いきなり抱きつくのはやめてって言ってるでしょうが!二日ぶりに会っても全然変わらないんだから」

 

「その言い方ですといきなりでなければ抱きついても良い、むしろ抱きついて欲しい、と解釈することができますが」

 

「んなわけないでしょうが!」

 

 急に真顔になる黒子に若干の恐怖を感じながらもツッコむ。

 

 御坂美琴は常盤台中学2年生で寮における黒子のルームメイトであり、黒子と同じ超能力者(レベル5)である。順位は第四位。『超電磁砲(レールガン)』と呼ばれ、電気系最強の能力を持つ。元々は美琴のルームメイトは別の生徒だったのだが黒子の暗躍によって入れ替えられ相部屋に収まったという歴史がある。

 

「で、どうだったのよ」

 

 仕切り直して、美琴は努めてシリアスな表情を作る。ここからは真面目な話をしたい、という合図である。それを黒子も察し、真剣な声色で返す。

 

「どう、とは?」

 

「わかってるでしょう?あんたの実験の話よ。だいぶ大掛かりになってるみたいだけど、体に負担がかかるような内容じゃないでしょうね。……風紀委員の仕事でも頑張りすぎてるって初春から聞いてるわよ。前からだけど、あんた無茶しすぎよ」

 

 黒子は学校でのカリキュラムとは別で、学園都市内の研究機関と契約して能力開発を進めている。それだけ第二位としての彼女の能力には可能性があり、生半可な作業ではその深奥に辿りつくことはできないと認識されているのだ。当然だが、その分彼女の身体への負担は大きい。

 

「お姉さまも心配性ですわねぇ。風紀委員の仕事で多少の無理をするのは当然ですわ。実験で時間が取れない分、質で取り返さなければならないんですから。実験だって大変なことはありますが能力の向上が図れるという大きなメリットに勝ることはありません。わたくしの能力が強力になればなるほど、風紀委員としてわたくしの抑止力は高まり、学園都市の治安はより良くなる。そのために努力することに是非はありませんもの」

 

 黒子は落ち着き払った様子で美琴に答える。美琴は黒子のそんな様子を見て小さくため息を吐く。白井黒子という少女は普段はふざけているが、実のところ正義感が強く、「自分のチカラで学園都市の治安を守っていく」という確固たる信念を持っている。

 

 美琴の言うことであっても、黒子の信念に関わることについては、梃子でも動かない。それを再確認し、美琴は現時点での説得を諦める。

 

「はあ、もう知らない!無理して体を壊しても看病してあげないわよ」

 

 突然の宣告に黒子はビクッと反応し、

 

「え、それは……ちょっとして欲しいような……」

 

 色欲に目を輝かせる黒子を見ながら、あれ、もしかしてこれでいけるの?それはそれで嫌だなあ、と思ってしまう美琴であった。

 

 

 

 

 

 

 

 夕方、黒子は風紀委員活動第一七七支部に来ていた。とあるビルの一室を借りた場所で、一応は黒子が所属する支部であるが、一つの学区に留まらず活動する黒子にとってはそうした括りなどあってないようなものである。

 

「二日ぶりですわね、初春。何か異常がございまして?」

 

 部屋に入ると、いるのは同じ支部に所属する初春飾利だけだった。黒髪のショートカットと頭に乗せた花瓶のような髪飾りが特徴の少女である。彼女はこれでも一流のハッカーであり、どうやら事件が起きているようで、余裕のない様子でモニターを見ながらカタカタとキーボードを叩いていた。

 

「わああ、白井さん!来るなら先に連絡してくださいよぉ!ええと、あの、実は現在進行形で起きているというか……。固法さんはパトロールに出払っていますし、この件は警備員に回そうかと思っていたんですけど……」

 

「わたくしが来たからには問題ありませんわ。何が起きていますの?」

 

「は、はい!第七学区十二号線沿いのデパートで強盗事件が発生、逃げ遅れた犯人が人質をとり立て篭っているとのこと。一刻も早い事態の解決が求められます」

 

「承知しましたわ。細かいデータは携帯の方に転送しておいてくださいまし」

 

 そう言うと白井黒子は手早く出動する準備を整える。ぱっと見ではわからないが、スカートの裏には金属矢を仕込んである。

 

「他の支部からの救援要請が入ってきた場合には、これまで通り重要度の高いものからランク付けして送ってください。それでは行ってきますわ」

 

「あ、白井さん!……あんまり無茶、しないでくださいね。私も御坂さんも佐天さんも、心配してるんですよ?」

 

 心配そうな表情を浮かべる初春に、黒子はふっ、と張り詰めていた表情を緩め、不敵な表情を浮かべる。

 

「誰に言っていますの?わたくしは学園都市第二位、白井黒子ですわよ?こんな事件、1分でケリをつけますので、ご心配なく」

 

 次の瞬間には部屋から黒子の姿は消えていた。

 

 

 

 

 

 

 余談だが、事件は宣言より早く、約51秒で解決された。




この作品の黒子は原作と比べると若干ですが真面目度が高くなっております。黒子は力を持つ者の責任を強く意識するタイプだと思うので。
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