「へー木原さんってそんな前から白井さんの能力開発に関わっていたんですね。小学生の頃には一緒に住んで世話までしてたなんて。その割にはなんというか…すごく若くないですか?あ、リーチ!」
「ロンです。三暗刻ドラ10。三倍満ですね。……まあ、年齢的には中学生くらいの時から研究者やってますから。当時7歳だったあの子と初めて会って、能力開発を受け持つことになったのは15歳のときでしたね」
「……」
「うぐっ重い!……はへー天才ってやつですね。
「そうでもないですよ。ようやく先生を超えられそうってところですし。初春さんこそ凄いハッキング技術を持っているそうじゃないですか。あの子もいつも初春さんに助けられてるって言ってますよ」
「あははー。それほどでもー」
「………」
「実は2週間前の
「ちょっと褒めすぎですよぉ木原さん。結局あの事件は白井さんと御坂さんがいなかったら解決できなかったんですから」
「
「ロン。倍満です。……おっと、これは話題選びに失敗してしまったようですね。あの子からいつもデリカシーがないと言われるので直すよう努力はしてるんですが」
「…………」
「ぎゃあ!私の大物手がぁ…。……いいんですよ。あれがあったから、色々と自分と向き合うきっかけが生まれて。白井さんや御坂さんとも前よりもっと仲良くなれたんです」
「こうやって風紀委員の支部まで来るようになったのはそういうわけだったのね。まるで部室みたいに使うんだから」
「いやぁ、固法先輩には申し訳ないと思ってはいますよ。でも結局先輩もこうして一緒に麻雀やってるじゃないですか」
「まあ、一般生徒を入れてはいけないなんてルールはとっくに形骸化してるしね。麻雀もお金を賭けてるわけじゃないし。そこまでお堅いこと言わないわよ。……勝負です。リーチ!」
「ロン。48000点です」
その日はありきたりな日であった。8月8日。暑いと言っても猛暑というほどでもない、平均的な夏日。
その日は学園都市も平和であった。テロリストでも、こんな暑い時期に活動なんかせず最新ゲームでもやっているであろう。
場所は風紀委員第一七七支部。初春飾利、佐天涙子、固法美偉、ついでに木原唯一らは麻雀をしながら雑談に興じている。
そして少し離れた所で椅子にもたれながら不機嫌そうな表情の少女が一人。
「こ、国士無双ですか!全然気配が無かったのに……」
「も、もしかして木原さんってプロ雀士だったりします?」
「さーて、どうでしょうね。まあ大人の世界では雀力がモノを言う場面がありますからね。研究の資金調達のために依頼で卓を囲むこともありますよ」
「う、裏プロじゃないですか!凄い!サインいただけますか!?」
佐天がボールペンにサイン色紙を取り出すのを見て、いよいよ少女の堪忍袋の尾が切れたようだ。
「きーはーらーさーん!なーに適当なこと言ってますの!学園都市でそんないかがわしいことが行われているわけがないでしょう!そーもーそーも!!なんであなたがここにいますの!いつも研究室に篭りきりのあなたが!」
「ようやく口を開いたと思ったらこれですか……」
「仕方ないよ初春。なんとなく気持ちはわかるんだよね……。私もお母さんが友達と会話してると変なこと言わないかそわそわしたもんだったし」
涙子の言葉はまさしく的を射ていた。黒子は似たような理由で癇癪を起こしていたのだった。小学生の無防備だった頃から黒子のことをよく知っており、色々と恥ずかしいエピソードも知られてしまっている。そんな親や姉のような人が赤裸々な自分の姿を友人たちに話しているというのは思春期の少女にとっては耐えがたいものがあった。
「ぐぬぬ……」
「ふぅ。黒子もまだまだ子供ですねぇ。……来た理由は寄り道のついでですよ。近くで珍しい実験が行われていて、呼ばれたので見に行ってたんです。その帰りに黒子がいつもいる風紀委員の支部が見えたので、興味本位で寄ってみたってわけです」
「じゃあもう用は済んだってわけですわよね!ほらこちらに!」
黒子は唯一の手を引いて部屋から追い出そうとするも、唯一はするりと避ける。
「もう少し打っていくことにしますよ。それにもっと普段の黒子の様子を知りたいですし」
「あ、いいですねえ。今度は負けませんよ!」
「裏プロと打てるなんて感激です!」
「私ももう少し打とうかしら。それとも白井さん代わる?」
「ぐっ、結構ですわ……」
さらなる地獄が始まると判断した黒子は逃亡を決断し、咄嗟に窓に振り向く。すると、
「あら……?」
振り向いた窓の遠くに、ツンツン頭の少年が見えたのである。
夕暮れの街、炎の魔術師ステイル・マグヌスとツンツン頭の少年こと上条当麻は歩いていた。夕方特有のどこか穏やかな空気が流れる中、その二人の周辺には緊張が張り詰めていた。何しろこれから向かうのは敵地である。敵の出方も不透明。死ぬ可能性すらあるのである。
「敵の名前はね、アウレオルス=イザードという」
ステイルが上条に敵の名前を告げる。
その瞬間。
「敵とは穏やかではありませんのね。上条さん、そちらの外国人の方はお友達でして?」
白井黒子が二人の目の前に現れる。
その日は多くの人々にとってありきたりな日であった。白井黒子にとっても例外ではない。しかし、それは彼女自身の
黒子が上条のところに跳んだのは、彼が何やら深刻そうな顔をしているのと、となりに赤い髪に黒い修道服を着た見慣れない男が歩いているのを見て物珍しく感じたからだ。
黒子にとって上条の印象は悪くない。好感を持っているとすら言える。何しろ、無能力者にもかかわらず、学園中を駆け回り、自分より多くの人々をその拳で救ってきたのを知っているからだ。黒子も同様に学園中を跳び回っている関係上、ときには共闘することもあり、戦友のように感じていた。そして、黒子は彼の
「お、お、おおう。ちょ、ちょっといろいろ…いざこざがあってさ」
黒子が親しみを感じさせる雰囲気で話しかけてきたにもかかわらず、上条の反応はどこかぎこちない。それには理由があった。何しろ彼はつい先日、とある事件に巻き込まれて記憶喪失になっているのである。しかし、「思い出」をつかさどる「エピソード記憶」は消失したが、「知識」をつかさどる「意味記憶」は残っていた。つまりは、目の前の人物が学園都市のナンバーツーであることは覚えており、そんな人物と自分が親しげに話すような仲だったことに困惑したのである。
もちろん、現在進行形でよそ様には言えないような事態を巻き込まれていることもぎこちなさに拍車をかけていた。
「……」
一方、突然現れた少女に一瞬警戒したステイルであったが、少女に敵意は微塵もなく、ここが『超能力者』の街であったことに思い至り、こんなこともあるか、と警戒を解く。そして、少女の特徴が、今回の
『――そうだね。
ステイルはアレイスターの言葉を思い出しながら少女を観察する。
(人を殺したことはない…が、強い意志を感じる目だ。アレイスターの意図は気になるが、役には立つか……)
「白井黒子、だろ?この街で2番目の『超能力者』ときいている。この男だけでは頼りないと思っていたところだ。どうか手を貸してくれないか?」
「……急いでいるのでしょう?歩きながら事情を聞かせていただきますわ」
「――思っていたより事態ははるかに
『三沢塾』という科学宗教結社に囚われた希少な能力を持った姫神秋沙という少女。そしてその『三沢塾』を乗っ取り姫神秋沙を監禁し続けているアウレオルス=イザードという危険人物。ステイルは嘘は言っていないが魔術についての単語は巧妙に避けつつ状況を説明する。
「その通りだ。本来はそこの男だけを連れていくつもりだったが、手を貸してもらえると助かる」
「それは構いませんが……そもそもどこでその話を?」
「私は学園の上層部に伝手があってね。事件を知った上層部からの緊急の依頼というわけさ」
「……なるほど」
(少々胡散臭いですが、上条さんが協力している以上、ひとまずは信用してよさそうですわね。こんなデタラメを言うメリットも見当たりませんし)
「見えたぞ。あれが三沢塾だ」
初手アウレオルス=イザードという選択。