レベル5な白井さん   作:暁月夜

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第3話 三沢塾

「ええ、ええ、頼みますわ初春。おそらく今日中には戻れませんので皆さんにもそう伝えてください。ええ、直接寮に戻ります。感謝しますわ。それではまた明日」

 

 黒子は友人たち(と唯一)を置いてきぼりにしてしまったことに気が付き初春に電話をしていた。どうやらあの後も唯一に麻雀で負け続けたらしく、リベンジのために格闘ゲームをすることにしたようだ。リベンジに燃える初春に簡単に用件だけ伝え、黒子は電話を切る。

 

(格闘ゲーム……あの木原さん相手にとんでもない勝負に出ましたわね。ご愁傷様ですわ)

 

「さて……」

 

 黒子は改めて目の前のビルを見上げる。

 

「……ここが三沢塾ですの……?規模は大きいにしても、普通の進学塾にしか見えませんが」

 

 黒子、ステイル、上条の3人は三沢塾に到着していた。空中回廊で連結された四つのビル。2000人ほどの生徒を抱える進学塾にしても破格の規模だ。これも学園都市でないと見られない光景であろう。

 夕陽に照らされて輝くビルを見上げながら呟いた黒子の言葉に、ステイルが反応する。

 

「まあ、入ってみないことにはわからないさ。さっき説明したように、ここは巧妙に組織の真の姿を隠蔽している」

 

「虎穴に入らずんば虎子を得ず、というわけですわね。待たせて申し訳ありませんでしたが、それでは入るとしましょうか」

 

 黒子は、結局の所今回の事件もいつもと同様だと考えている。多少厄介でも、自分の能力で難なく解決出来る事件だと。

 しかし、黒子の頭には重要な情報が抜けていた。そう、この事件にはとある要素が関わっているということを。

 

「……ちょっと待ってくれ!」

 

 上条が決然とした表情で発言し、すでに足を踏み出していた黒子とステイルが振り向く。

 

「あれ、いたのかい?さっきから黙ってばかりで存在を忘れていたよ」

 

 ステイルが皮肉を込めて上条を嘲笑する。

 

「うるせえ。やっと決心がついたんだよ。……白井。さっきからコイツの言っていることに間違いはない。でも合ってる訳でもないんだ」

 

「どういうことですの?」

 

「ステイル、いいだろ?」

 

 ステイルは鷹揚に頷く。

 

「僕としては異論はないよ。説明するのが面倒なだけだったからね」

 

「ちっ、そうかよ」

 

 上条は迷っていた。本当に黒子を魔術に関わらせて良いのか。魔術についての知識を与えないで良いのか。

 黒子は見るからにこういう時にはどんなに関わらないよう説得しても無理矢理関わってくるタイプだ。記憶を失った上条でも、不思議と分かった。

 では魔術について教えないことについてはどうだろう。今後魔術的な事件に関わるリスクを秤にかけてでも、教えるべきではないのか。

 アウレオルス=イザードは錬金術師にして魔術師だ。そうであると知らないと、たとえレベル5の黒子でも不覚を取る可能性がある。

 故に黒子に本当のことを伝えるべきか迷っていた上条であったが、ステイルの言葉を聞いていよいよ覚悟を決める。

 

「白井、嘘だと思うかもしれないが、俺がこれからいうことは本当のことだ。よく聞いて欲しい。これは普通の事件じゃないんだ」

 

 

 

 

 

 

「なるほど、まとめてしまうと、この世界には魔術というものがあり、今回の事件は魔術が関係している。姫神秋沙は吸血鬼を殺す吸血殺し(ディープブラッド)。彼女を捕まえた三沢塾を、ローマ正教を抜けた魔術師であり錬金術師でもあるアウレオルスが襲撃。現在姫神さんを監禁中。彼女を救出するという任務が同じ魔術師であるステイルさんに回ってきて、上条さんが手伝っている、という訳ですわね?」

 

「ま、まあそうだけど、そんなにあっさりまとめられると余計胡散臭く聞こえるな。……信じられるか?」

 

「正直に言ってすぐには信じられません。ただ、無碍には出来ないのも事実ですわね……。ここの建物、今まで感じたことのない気配を感じますもの」

 

 そう言って夕日に照らされるビルを見上げる。

 

「私は半径数キロメートルの空間の情報を把握、処理できますの。話を聞きながら、能力でこの建物の構造、材質、建物の空気の流れ、人の数と位置、その他諸々の情報を入手しようとしましたが、妙な、意思のあるモヤのようなものがかかってしまい上手く行きませんでした。こんなこと、今まで一度もありませんでしたわ」

 

 黒子が悩ましげな表情を見せると、ステイルが答える。

 

「それは結界だね。三沢塾に張り巡らされた魔術的な結界。外からでは確認出来なかったから助かったよ。流石に学園都市第二位というだけはある」

 

 実際、ステイルは感心していた。半径数キロメートルの超高精度の探知能力。それだけで全国家の軍隊が喉から手が出るほど欲しい能力なのは間違いない。戦争の前提が大きく覆る。

 その上、その距離を空間移動で瞬時に飛び回ることもでき、範囲内のモノをまるで子供が玩具箱で遊ぶかのように好き勝手に位置の変更をさせるとなると……。

 

(間違いなく一国の軍隊に相当する怪物。魔術的素養に欠けていることが幸いと言えるだろう。となると、今回アレイスターが白井黒子を送り込んできた目的が段々見えてきたね)

 

「魔術が実在するか、実際に見てみるのが早いんじゃないかな?――こんな風に、ね!」

 

「お、おいてめ、」

 

 いうが早いか、ステイルは炎の剣を出現させ黒子に振りかぶる。ビュオッ!と風の鳴る音と共に振り下ろされた剣はちょうど黒子の眼前で止まる。

 

「ビックリさせないでくださいまし。急に剣で襲い掛かるなんてはしたないですわよ。――確かに、炎を出しているにもかかわらずAIM拡散力場を全く感じとることができませんわ。これが魔術ですのね……」

 

 言葉とは裏腹に、黒子は全く動揺せず冷静に目の前の現象を分析する。

 

(まばたきすらしないとはね。()()()()()()()()()()()()()()()()()という自信があるんだろう。おそらくは自動防御、もしくは自動迎撃か……。)

 

「すまない、君が魔術での攻撃にどういう反応をするのか知りたくてね。相手はおそらく遠慮なくこちらを殺しにくる。そのための心構えの確認だったんだが……不要だったようだね」

 

「てめえなあ、もっと違うやり方があるでしょうが。野蛮人ですか、野蛮人?」

 

「――存外時間がかかってしまったね。そろそろ突入と行こうか」

 

「無視かよ!」

 

 

 

 

 

 一行は自動ドアを抜け、三沢塾に侵入する。

 

「これで相手の結界にみすみす入ったわけだ。さて、どう来るかな」

 

「でも、中に入っても全然普通に見えるな。塾生たちも普通の様子だし」

 

 上条の言うとおり、塾生たちが談笑しながら歩いたりしている様子を見ていると、ここが敵の結界の中であり、物騒な騒動が起きていることなど信じられなくなる。だが――。

 

「――なるほど、そういうことですの」

 

 黒子がつぶやく。

 

「何かわかったのか?」

 

「どういう結界か、ということですわ」

 

 すると、黒子は大きく息を吸い込んで、

 

「おねーーーさまーーー!!!!」

 

 大音量で叫んだのだった。

 

「――うるっせえ!変に注目されたらどういうつもり……あれ?」

 

 上条が黒子の突然の奇行に驚くも、不自然なことに、黒子の大声に反応するものは塾生には一人もいなかった。

 

「やっぱりそうですわね。おかしいと思ってましたの。魔術師がどうやって、2000人もの塾生に今に至るまで気付かれることなく好き勝手なことができたのか。単純な話で、()()()()()()()()()()。これはそのための結界。確信に変わったのは私たちが自動ドアを抜けるとき。あのとき、私たちに視線を向ける者はだれ一人いませんでしたわ。これが私と上条さんだけなら問題ありません。しかし目立つ格好をしているステイルさんにも誰も目を向けないというのは不自然ですわ。そして声にも反応しないとなると、文字通り透明人間になるのではなく、おそらく……」

 

 黒子は立ち止まって談笑している塾生に近づき、()()()()と叩く。その塾生は全く気が付いていない。

 

()()()()()()()()を認識できない代わりに、()()()()()()()()に干渉できない。そういった仕組みの結界ですわね」

 

「そして建物も()()()()……ということか。厄介だね。エレベーターのボタンさえ押せやしない。」

 

 ステイルは床を炎で焼き払い、()()()()()()()()ことを確認する。

 

(それにしても……)

 

 ステイルは内心舌を巻いていた。

 

(恐ろしいまでの魔術への適応速度だ。この都市の人間はこの手のものはてんでダメだと聞いていたんだけどね)

 

「上条さん、こちらの男性を右手で触ってみてくださる?」

 

「あ、ああ」

 

 上条が恐る恐る黒子が叩いた塾生の肩に右手で触れる。しかし、何の反応もない。

 

「この手の結界は大本の核を潰さないと意味がない。……行動の優先順位を付ける必要があるな。君、ここでは例の探知能力は使えるかい?姫神とアウレオルスの場所が知りたい」

 

 ステイルが黒子に尋ねる。

 

「内側からは探知能力が使えそうですわね。……先ほど聞いた姫神さんとアウレオルスに一致する特徴を持つ人物を発見しましたわ。姫神さんはこの棟の5階、アウレオルスはこの棟の9階と……北棟の最上階にいるようですわね」

 

「白井今なんて言った?アウレオルスが2人いるような言い方だったんだけど」

 

「実際いるから仕方ありませんわ。分身でもしているじゃありませんの?そういうの、魔術だったらできるんじゃありません?知りませんが」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()、黒子は若干投げやりな口調で答える。

 

「できるとも。おそらく自身を劣化させたダミーでも作ったといったところだろうね。なにせアウレオルスは錬金術師だ。この手の芸当はお手の物だろうさ」

 

「うげ、マジで分身できるのかよ。本当に魔術って何でもありなんだな」

 

 実際のところ魔術と関わってきた経験で言えば白井とほとんど変わらない上条が驚く。

 

「傍からはそう見えるかもしれないけどね。魔術は理論と法則が支配する世界だ。どんな魔術にもタネはある」

 

「それって勉強すれば誰でも魔術が使えるってことですわよね?私でも使えるようになるんですの?」

 

「いや、超能力者は普通の人間とは()()()()()。超能力者になった時点で魔術は使えなくなるんだ」

 

「あら、それは残念ですわね。結構興味があったのですけれど……」

 

 溜息をつき本気で落ち込んでいる様子を見せる白井に対して、上条が驚く。

 

「白井、お前なんでそんな落ち込んでるんだ?超能力者(レベル5)の第二位にまでなって、まだ上を目指すってのか?」

 

「別に私の能力は万能というわけではありませんから。……できないことだってありますわ」

 

 そう言いつつ、エレベーター前まで進んだ黒子は、()()()()に目を向けるよう上条に視線で促す。

 

 それはエレベーターとエレベーターの間の壁にあった。

 甲冑が、壁に寄りかかるように飾られていた。

 少なくとも上条にはそう見えた。

 

 妙な甲冑だった。

 

 手足の鎧はぐにゃぐにゃと湾曲しており、

 

 関節部分からは赤黒い、まるで人間の血のような液体が流れて――。

 

「え、これって――」

 

 

 

 

「遺体ですわ」

 

 

 

 

 上条は言葉を発することが出来なかった。覚悟は、してきたつもりだった。だが、あまりに非現実的な話に、実感が追いついていなかった。そうだ。ここは戦場なのだ。殺し、殺される場所。死体なんて、()()()()()()()()()()()()()()

 上条はとっさに駆け寄ろうとする。もしかしたら生きているかもしれない。その希望にすがって。

 

「無駄ですわ。もう完全に息が止まっている。体温からすれば、少し前までは生きていたでしょうが……傷が深すぎる。どちらにせよ助からなかったでしょう」

 

 冷徹な声色で制止する黒子に、上条は逆上する。

 

「なんでお前はそんな冷静でいられるんだ!人が死んでるんだぞ!お前はなんとも思わ、あ……」

 

 そこで上条は気が付く。

 目の前の少女が歯ぎしりしていることに。

 目の前の少女が固く手を握っており、血が滲んでいることに。

 目の前の少女の目の端に涙が浮かんでいることに。

 

(馬鹿か俺は!白井が凄いやつだからって考え方まで違うと思っていたのか?こいつはまだ中学生の女の子なんだ!()()()()()()()()()()()()()?そんなわけないだろうが!)

 

 上条は頭を下げる。少年には、それしか出来なかった。

 

「すまない……。お前に当たることじゃなかった」

 

「いえ、遺体を見て動揺するのは当たり前のことですから。……正直私もあまり冷静とは言い難いですし」

 

 ステイルはそこで煙草を取り出し、火をつけ煙を吸い込む。

 

「……フン、言っておくと、そいつは見た目から判断するにローマ正教の十三騎士団の一員だろう」

 

 煙を吐き出す。

 

「つまりそいつも、裏切り者を始末しに来た殺し屋ってわけだ。行き過ぎだが正当防衛と言えないこともない。でもまあ……」

 

 ああ、自分の中の雑念も煙と同じように消えてしまえばどんなに楽だろうか。

 

()()()()()()()()()()()()()()()って昔から決めてるんだ。アウレオルスには痛い目を見てもらわないとね」

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