レベル5な白井さん   作:暁月夜

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第6話 支配領域

 いつからだろう。歯車が狂ったのは。もしかしたらアウレオルスが「ある人」を救う計画を思いついた時に、こうなるのは必然だったのかも知れない。

 彼と初めて出会った時から、正義の味方のような人物ではないということはわかっていた。彼には絶対に果たさなければならない目的があり、そのためならなんでもするという意思を持っていた。

 どう考えても人の手に余る、分不相応な大きな『力』。彼はあれさえあればと言い、こちらの説得にも耳を貸さなかった。

 結果として、三沢塾にいた生徒たち2000人全員が死んだ。いや、厳密には死んだとは言えないかもしれない。なぜなら、『力』を手にしたアウレオルスが全員を蘇生させたから。彼らは意識を失っているのだから何も苦痛など感じてはおらず記憶にも残っていない。目が覚めれば全ては元通り。彼はそう言った。

 だけど。彼は平静を装っていたが、私にはそうは思えなかった。誰かを心の底から救いたいと願えるような人が、後で蘇らせるつもりとはいえ、人を2000人も殺して平静でいられるだろうか?

 本当のところはわからない。

 でも。

 あんなにも輝いていたものが色褪せていく光景が、酷くつらかった。

 

 

 

 

 

「貴様がこの私に勝てると?冗談でも笑えんな」

 

「勝てますとも。先手は譲りますわ。あなたの魔術とやらでこの私を殺せるものなら殺してみてくださいまし」

 

(賭け、ですわね……)

 

 黒子の背中に冷や汗が流れる。もし読み間違えていたら、次の瞬間に死ぬ。

 

「……子供だからと私が手加減するとでも思ったか?浅知恵だな。……いいだろう!ならば貴様の望み通りに殺してやろう!」

 

 そう言うと、アウレオルスは先ほどと同様に鍼を自身の首筋に刺す。

 

「音速を越える千の銃弾に貫かれよ!」

 

 するとアウレオルスの前に大量の銃器が現れ、黒子に向かって一斉に射撃が開始される。

 甲高い銃声が鳴り響く。置かれていた円卓は爆砕され、椅子も粉々に砕け散る。

 アウレオルスは黒子が蜂の巣になっているだろうと思っていた。しかし。

 

(なんだあれは?)

 

 黒子には一切の弾丸が届いていない。アウレオルスの目には、弾丸が黒子の身体に当たる直前に停止し、落下したようにしか見えなかった。

 

 やがて銃声が止む。

 

「子供とは失礼ですわね。私は立派なレディですのよ?あら、そういえば私は死んでませんね?なんでも思い通りにする魔術、でしたかしら?いつ始めるんですの?ショーも待ち時間が長過ぎると興醒めですわよ?」

 

 少女の目の前に転がる千の銃弾。だが一つたりとも少女に傷一つ与えていない。

 

 それを見たアウレオルスは次の手を打つ。

 

(何か正面にバリアのようなものを張った?ならば!)

 

「曲がる三千の銃弾に全身から貫かれよ!」

 

 再度、大量の銃器から無数の凶弾が発射される。しかし、その弾道は先ほどとは違い蛇のようにうねる。弾丸は少女の頭を、腕を、足を、胴体を、身体中のあらゆる箇所をあらゆる角度から狙う。

 しかし、広がるのは同じ光景。全くの無傷の少女と、役目を果たさぬまま転がる弾丸(鉄くず)

 

「圧死!轢死!」

 

 すると少女の上方に重さ数トンはあるであろう巨大な金属の立方体が落ちてくる。同時に、左右から時速250kmはあるであろう列車が突っ込んでくる。

 

 どれもアウレオルスの言った通りの結末をもたらしうる凶器。しかし。

 

「なぜ届かん……!」

 

 どれも黒子に当たる寸前で止まっていた。

 すると、次の瞬間には立方体も電車も空間移動でどこかへ飛ばしてしまう。

 

「焼死!」

 

 黒子の周囲に人を焼き殺せるだけの業火がまきおこるも、その火は黒子には届かず、やがて火はどこかに転移させられる。

 

「感電死!」

 

 人を死に追いやるだけの青白い電光が黒子に向かって四方八方から放たれるも、届かない。

 

「お姉様の電撃とは比べるべくもない威力ですわね。……さて、次は?」

 

「くっ!」

 

 その時、幸か不幸か、第三のプレイヤーが現れる。

 

「上空に途轍もない量の魔力が渦巻いている……何か来そうですわね」

 

 黒子は『偽・聖歌隊』の『核』を潰した時と同じように、自分が感知出来るもの以外の何か、という消去法で魔力が集まっていることに瞬時に気づく。

 窓を見てどのような魔術が使われているか把握したアウレオルスは苛立たしげに呟く。

 

「『グレゴリオの聖歌隊』、そのオリジナルか。ふん、ローマ正教もたった一人の異端者のためにここまでするとは。相変わらず無能なくせに熱心なことだ」

 

「いずれにせよ、邪魔者にはご退場いただきましょう」

 

「何?」

 

 黒子は左手を上に掲げる。その瞬間、三沢塾の四つのビル全ての上空を覆う見えない二重の()が形成される。

 そして次の瞬間に現れるのは、夜空を貫く赤い雷。その神罰の如き一撃は最初の膜に接触し、()()()()()()()()()()()()()、2つ目の膜から上空へと還っていった。

 

「な!貴様、真・聖歌隊(グレゴリオ・クアイア)を反射したというのか!」

 

 アウレオルスは思わず叫ぶ。ローマ正教の最終兵器を跳ね返すなど、聞いたこともない。

 

「別にあれを直接跳ね返したわけじゃないですわよ。攻撃の来る空間Aを別の空間Bに接続しただけ。逆さに接続したので結果的には反射したように見えるということですわね」

 

 そう。黒子は魔術を扱うすべを持たず、敵の魔術に直接干渉するすべを持たない。しかし、()()()()()()()()()()()()()()()間接的に最大規模の魔術の反射すら可能とした。

 

「先ほどあなたの攻撃を無効化したのも同じこと。あなたがどんな魔術を行使しようが、届かなければ意味がない」

 

 黒子は先ほどから、自身の周りに圧縮した()()()()を転移させていた。それも能力が許す限り幾重にも。一度攻撃の通過した空間も再利用され瞬時に通過前の箇所に転移させられる。こうして生まれる実質的に無限の距離。敵の攻撃は、実質的に無限の距離に阻まれ、黒子まで到達することがない。しかもこれは完全オートであり、不意の一撃にも対処できる。これが、彼女の防御の正体。

 

「さて、私の『支配領域(ドミナント)』の攻略が不可能としか想像できないのでしたら、そろそろ降参なさったら?」

 

 『支配領域(ドミナント)』。最上級にして空前絶後の空間移動系能力。いや、もはやその枠で語ることは全く相応しくない。まさしく空間の支配者。その能力は、あらゆる攻撃を無力化し、あらゆる防御を貫通し、あらゆる不可能を可能とする。

 

「勝てるわけがない、と思いました?私も負ける気がしないと思ってますわ」

 

「貴様!」

 

 黒子の不敵な笑みに、アウレオルスは激昂する。

 

「そういえば」

 

 黒子はアウレオルスの言葉を完全に無視して続ける。

 

「先ほどからあなたが鍼をチクチク首筋に刺していて気になっておりましたの。危なそうでしたから没収しましたわ」

 

 いつのまにかアウレオルスの懐に潜ませていた鍼は黒子の手にあった。

 

「なっ!貴様、まさか!」

 

 医学としての鍼治療とは、言ってしまえば神経を直接刺激することで、興奮作用を引き起こして痛みを軽くしたり不安を抑制するといったものだ。なぜアウレオルスはこれを使っていたのか。

 

「なぜあなたが黄金錬成(アルス=マグナ)を使用するさい鍼を使っていたか。それは不安を抑制するため。なぜ不安を抑制する必要があったのか、と思い立った時、一つの仮説を立てましたの。黄金錬成(アルス=マグナ)は文字通り自分の想像を現実にするに()()()()魔術なのではないかと。想像できないことは実現できないし、実現してほしくないことも想像すれば実現してしまう。鍼は、そういったことが起こらないように制御するためのものなのではないかと」

 

「!」

 

「確信に変わったのは私を殺そうとする際に直接『死ね』と言わなかったときですわね。正直あの時は肝が冷えましたわ。万が一普通に『死ね』と言われて効果があったらそれでおしまいですもの。一応、なぜ黄金錬成(アルス=マグナ)で吸血鬼を生成しなかったのか、禁書目録という人物をその能力で直接助けようとしなかったのか、などを考えるとその可能性は低いと考えてましたが。どちらもあなたには『不可能としか思えなかった』。だから黄金錬成(アルス=マグナ)を使用しなかった、いやできなかったのでしょう?」

 

 黒子は続ける。

 

「同じように、あのとき『あなたに勝てる』と言った私は、あなたにとってこの上なく不気味に見えたでしょう。殺せるところを想像できなかった。だから別の手段で殺そうとした。結局、あなたの心が弱ければその魔術も宝の持ち腐れってやつですわね」

 

 そこで黒子はふう、と息を吐くと、

 

「先手はそちらと言いましたが、少し長すぎましたわね。そろそろこちらからいきますわよ」

 

 右手を上げた。

 

(くっ!どう来る!?あんな能力を攻撃に使われたらとても……!)

 

 そのとき、アウレオルスは何か違和感を覚えた。とっさに後ろを振り向く。

 

 そこには。

 右手を大きく振りかぶった。

 少年。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!!!」

 

「転移か!しまっ!」

 

 少年の拳が、アウレオルスの顔面に突き刺さった。

 

 

 

 

「ふう、打ち合わせ通り、右手の合図に気が付いてくださり助かりましたわ」

 

 戦闘が終わり。部屋はすっかりボロボロになっていた。

 

「あの圧倒具合だと白井でも余裕でやれただろ?」

 

 上条がやれやれといった具合に返す。

 

「そうでもありませんわ。ああは言いましたが、黄金錬成(アルス=マグナ)はとても厄介な魔術。変に暴発などはされたくありませんでしたし、奴が私に意識を割いているうちに、上条さんが一撃でノックアウトしてくださる必要がありましたの。さて、残る問題は……」

 

「アウレオルスをどうするかってことか」

 

 地面に横たわるアウレオルスを見る。

 アウレオルスは上条に殴られた後、気を失って地面に倒れていた。

 

「殺すべき、だろうね」

 

 一度は死して上条の右手により復活したステイルが言い放つ。

 

「ちょ、待てよステイル!」

 

 上条が思わず叫ぶも、ステイルは止まらない。

 

「君ももう死にたいんだろう、アウレオルス」

 

 ステイルはアウレオルスの前に立ち、ゆっくりと炎剣を取り出す。

 

「ああ、そうだな……」

 

「!」

 

「目覚めてましたの……」

 

 アウレオルスは生きる希望をなくしたかのような目をして、虚空をみている。

 

「決まりだね」

 

 ステイルが剣を振りかぶる。とっさに黒子が止めようとする。

 

「ちょっとま「待って。この人を殺してはいけない」……姫神さん?」

 

 姫神がアウレオルスを背に、ステイルの前に立つ。

 

 

 

 

 

「アウレオルス。あなたは一度どん底から立ち上がったでしょう。もう一度立つの」

 

 錬金術師は皮肉気に笑う。

 

「そうだな。一度は立ち上がることができた。だが、私に待っていた結末はこれだ。結局は最初から諦めてしまえば良かったのだ。そうすれば私は罪を重ねず、禁書目録も見知らぬ男が勝手に助けていただろう」

 

 姫神は何かに耐えるように拳をギュッと握る。

 

「そうね。とても残酷な結末。あなたは数え切れないほどの罪を犯した。そして結果もこのざま。けれど、それでもあなたが最初に抱いた希望は間違ってなかったと思う。立ち上がったことも間違ってなかったと思う!」

 

 姫神はアウレオルスと出会ったばかりの頃を思い出す。全てが上手くいくと信じていた頃を。

 

「アウレオルス。私はあなたと出会って、昔の夢を思い出したの。魔法使いになりたいって夢」

 

 アウレオルスは、そこで初めて姫神を見た。

 

「あなたの抱いていた希望は、絶望に浸って忘れていた夢を私に思い出させてくれた。それだけはあなたにも否定させない!だから立って!アウレオルス!」

 

 アウレオルスは「くっ」と笑う。

 

「そんな無茶を言う女だったのか、貴様……」

 

「立ちなさい!」

 

「……クソッ」

 

「立ちなさい!」

 

 男は、ゆっくりと立ち上がった。その目には、光が戻っていた。

 

 

 

 

 

 

「行くのかい?」

 

 とっくに炎剣を消していたステイルは、アウレオルスに問う。

 

「ああ、迷惑をかけたな」

 

「……世界中を敵にまわして生き残るつもりかい?」

 

「さて、方法はこれから考えるとも」

 

 ちらりと姫神を見る。しかしすぐにそらし、前を向く。

 

「さらばだ諸君。二度と会うこともないだろう」

 

 そう言って、アウレオルスは姿を消した。




ガンパレ好き。次でアウレオルス編エピローグです。
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