色々あって3年たった。悲しいことに身長はあまり伸びなかった。
いつも通りの日常が過ぎる物とばかり思っていたが、ぜんぜんそんなことはなく村に来た冒険者に教えて先生先生と連呼して教えを乞ったり、この村に住人が増えたり、力が強くなったり、装備を手に入れたりと、万全の準備が完了している。いや~~~やっぱり慌ただしかった。暇な時間なんてなかったよ。
そして今、最後のお別れ会を行っている。
「それじゃそろそろ行くよ」
「寂しくなるな…息子よ」
「元気でね」
「お土産期待してるよー」
「ボレアースの事だから大丈夫だとは思うけど、気をつけなさいよ」
「うん。ばいばーーーーぃ」
そう手を振りながらボレアースは村の外へと歩き出す。
なんとも軽い挨拶でその最後のお別れ会は終わりを迎える。それもそのはず、この三年間はじっくりとお別れへと進み続けたのだから。それだけではなく、お別れ会と表した村全体で6日間も夜に宴会をした。ただ騒ぎたい理由が欲しいだけに見える村の人たちだが、今回も例に漏れずただ騒ぎたいだけだったようだ。まぁちゃんと別れを惜しんでたり、門出を祝われたりもしたので許すとしよう。
正直、これから旅に出るという実感がまだない。あれだけ毎晩のように騒ぎ通したのだ。今晩の野営辺りに、やっと村を出た実感が出てくるのだろうか。
俺の服装はなかなか特殊な外見をしていると思っている。前世では考えられないであろう半袖どころかワンピースにも満たない、まるで金太郎の前掛けのように短く露出的な服、更に短パン。
前世では長袖インナー信者だった俺では考えられない暴挙だ。だけど効率的に考えて露出が多い方が良いのだ。
その効率とは魔法の話と合わせて説明しよう。
強くなった力で変わったことは2つ。1つは一度に使える魔法の回数が4度に増えた。2つは常時察知能力を得た。
前者は何も言うことはない。ただ回数が増え強くなった。やったね。だが3年でたった一回しか増えないとはどういうことだろうか。もっとバシバシ強くなってほしい。
後者は強い。いかれたほど強い。常時察知能力、別名空間把握能力。風の動きで周囲を察知できるという物だ。これは奇跡と呼ばれるのも間違いではない。
目で見えずとも、周囲で何が起こっているのかを知る事ができるのだから。
つまり、頭の後ろにも目が2つ、いや6つ付いているレベルで周囲の状況を把握できる。強い。騒がしい酒の席の中、どこの席で、どこのジジイが何杯酒を飲んだ所まで把握できる。それをお妻さんに密告し、店主に教えてきっちり清算させるのが、6日間の宴会の楽しみだった。
ここで訳がわからないのは、風の流れを把握しているって訳じゃないってこと。いや、風の動きには敏感ではある。だけども風下からでも風上の状況がわかるんだ。ここで頭がこんがらがった。ほぼ密封状態である鉱山道の中でも何となく全体像がわかる。ここで考えるのをやめた。
さすがに水の中では把握できなかったので、その察知するやらの力は、肌を通して知ることができると思う。つまり露出度が高いほど周囲の状況がより把握できるって訳。
俺だって色々と検証しまくったのに、よくわかってない。だがわかるのだ。まるでゲームのように、見えないはずの景色が頭の中で構築される。
聡明な学者様がいたら教えを乞うんだけどなぁ。こんな辺鄙の村には、賢そうな人どころか、隠居した凄い人すらいない。街に行ったら会えるかな?
遠距離に関しては長袖であろうが前掛けだろうが対して差を感じない。だけど近距離になると話が変わる。より早く近づいてくる何かが察知できるってだけの話だ。こちらに飛んでくるコップに泥団子。もう、俺に泥団子を当てられるクソガキはいないし、酒に酔ったジジイどものいざこざに巻き込まれることも無い。
命のやり取りをしている冒険者であれば、それがとても重要な話になるだろう。
肌を露出しているほど、より確実的に周囲の状況を把握できる。だからこそ俺は肩から腕を露出、背中を露出と、男としての大切な何かを失いそうな黒い前掛けに、黒い短パンという恥ずかしい恰好をしているのだ。たぶん不意打ちを受けることは絶対にない。
鎧を着るって文化もないし。これでいいかなって。死んだら死んだらで、二度目のチャンスが終わるだけだし、最悪村に逃げ帰る。俺には無理だったと母に泣きつく。
俺の戦闘スタイルは、前衛よりの中衛。投げナイフを主軸とした斥候君だ。ヒットアンドアウェイ!なんか妙に性に合う。剣持ってぶん回すよりも斧やハンマーを叩き付けるよりも槍でつんつんするよりも投げナイフが合った。
弓も試してみたが、悪くはない。だが良くもない。どちらもリアルシューティングゲームのようで楽しかった。だけど弓は荷物がかさ張るし、矢は色々と重い。出費的にも、荷物的にも。矢を自作するのはめんどくさい。そして弓をもって走るというのは大変だった。やはり旅に不適切だ。
投げナイフならばどこまで言ってもナイフ、つまり金属。よっぽど変な使い方さえしなければ永続的に使える。だが同時にもナイフは金属。物理的に重い。だが所詮、重いだけだ。鍛えられた俺に問題ない。とても旅に適している。
母に革細工?みたいなことを習いながら、自分で作ったベルトのような短剣ホルダーに安価なナイフを沢山装備している。
手首から肘は4本、肘から肩に5本、膝から股間に6本の左右合わせて30本装備している。安価なので気楽に投げナイフができます。コスパいぇ~い。いざという時の為に、腰にも剣を2本装備してますよ。ちゃんと冒険者の人に剣の使い方を少しだけ教えてもらった。結局は敵を近づけさせないようにブンブン振り回すか、敵からの攻撃を逸らすか、敵の急所を狙うかの三択らしい。
そこに旅の門出としてプレゼントとして貰ったポケットが沢山あって便利そうで頑丈そうで白い上着が俺の装備だ。
この便利そうで頑丈そうで白い上着は家族から祝いだとプレゼントされた。目の前で実際に木こりやら鉱山やらで鍛えられた父が引っ張っても問題なかった。母の手作りらしい。母、すごい。
料理に手芸、建築子守りに3児の親。噂だと父の手伝いをすることもあるらしい。つまり木こりやら鉱山のお手伝いまでしてるだとか。化け…天才!
普段はこの白い上着は普通に使ってぶかぶか上着に短パンというなかなか(自分と思わなければ)素晴らしい姿だ。現世の俺は中世的な顔をしているので鏡やら湖で自分の姿を見るのは最高だ。思い通りのポーズが見れる。これがオタクが追い掛けるアイドル的存在。ちょっとだけその気持ちがわかったよ。
この便利そうで頑丈そうで白い上着はとても温かい。ほんと短パンって寒いよね。これが美しい?ってだけで着れる女性ってすごいね。俺ならタイツインナーダウンジャケットの4枚重ねしてぽかぽかしてると思うよ。
てな感じで普通の時は普通に着る。戦闘時は、白い上着の腕部分を腰に巻き付けスカートのようにする。この白い上着、本当に丈夫で、安物の刃程度ならば盾の代わりとして使えるということがわかった。なんの素材で作ってるんだろう?白色だし。触った感じ何かの毛皮って感じがしないんだよね。母ってすごいなぁ、ありがとう。
そんな訳で冒険者を目指している見習い以下だというのに、とても充実した装備をしているのだ。本当にこれでいいのかと疑問に思ったが便利で損することはないだろう。
ちなみに戦闘スタイルは斥候的な事をは言ったが、斥候らしいことは一つもできない。いや不意打ち警戒ぐらいはできるか。でもそれぐらいだ。つまり戦士なのか?まぁいっか。