村を出てから数週間たった。そしてやっと街に着いた。そう村ではなく、街だ。感動した。地図が無かったのは想定外だった。ただひたすらに町で聞いた話を頼りに歩きに歩き、偶に馬車に乗ってやっと冒険者ギルドがある街についた。
大満足だ。これだけで達成感がある。だけどまだ休めない。もう日が暮れかけている。宿を探して、飯食って寝よう。明日は朝一に冒険者ギルドだ。
「へいおじちゃん、1本頂戴」
「あいよ」
注文をしてすぐさま熱々な肉が刺さった棒を渡される。空腹に促されるまま肉を頬張る。3口ほど食べたところで、俺は声をあげる。
「おじちゃん、この町で安くていい感じの宿知らない?安さ重視で」
まずは良い宿の情報収集だ。たとえ収穫がなくても、最悪の場合この焼き鳥が俺の晩飯になるだけだ。つまり何処に落ちても問題なし。
「ほう?」
そう言って屋台のおじちゃんは俺を舐めるように見た。そして満足したのか、また視線を手元に戻した。
「今日来たばかりか。それなら大通りを超えて曲がり角を2つほど直進した辺りに憩いの宿ってのがあるよ」
「ほんとう?ありがとう。もう1本頂戴」
「まいど」
晩御飯を豪華にしようと言いながら焼き鳥を2本も買ってしまった。…どうせなら限界を超えてお腹一杯まで食べるか。資金には少し余裕がある。祝いだ、ケチな事を言うのはやめよう。
そう思い、焼き鳥を食べながら憩いの宿へ向かった。
「ふぅ…疲れた」
宿に着き部屋を取ったボレアースは、部屋に入った瞬間に重い荷物を床に放り投げ、ふっかふっかなベッドに倒れ込む。
「あ~~~久々のベッドだ~~……っは、ダメだ。このままじゃ寝てしまう。」
そのまま熟睡してしまいそうな所を、なんとか理性で本能を取り戻し起き上がる。そのまま立ち上がり、腰にある2本の剣と太もものベルトを取り外す。その代わりに荷物から財布を取り出す。そして今日使うであろう金額を小袋に移す。
再度所持品を確認し、荷物を簡単にまとめ片付けた後、宿を出ていく。そして良い感じの酒場を探し歩く。
空はすでに暗かった。人工の明かりが付き、盛り上がっている声が聞こえてきた。このままでは決めらないと、直感で店を決めることにした。さっそく中に入る。
その酒場は2階もあり、見える範囲の席は8割ほど埋まっていた。店の外観も良く、なかなか良さそうだった。
「お一人様ですか?」
「一人です!」
「こちらへどうぞ」
店員さんに案内されるとおりに席に着く。席の場所は中央付近だった。お一人様なのに、目立ちそうな場所に案内するとは、なかなかひどい店員さんだ。まぁお一人様が悪いか。
「お決まりでしたらお呼びください」
「はい、ありがとうございます!」
メニューを見る。やはり村のラインラップとは格が違う。どれを選ぼうかと、値段と食欲と財布と相談しながら考える。
その楽しいひと時は今、終わりを告げる。ボレアースは手を挙げながら店員さんを呼んだ。そして注文する。持ってきた金額の半分ぐらいまで使うこととなってしまった。だが後悔はない。おいしいご飯が俺を待っている。
ルンルンと自然と体が左右に揺れながら待つ。
だが突然、その動きは他者に止められる。
見知らぬ人が、一直線にこちらへと近づいて来ていた。そして遠慮も躊躇もなく肩に手を置かれた。
「おい、嬢ちゃん一人かい?」
声がする方を見てみると、見るからに荒っぽそうな三十路程度のジジイだった。正しいかはわからないが、もう顔がジジイだ。頬は赤く、洗い吐息から酔っ払い特有の酒臭さがうかがえた。そのジジイの後ろに2人ほど仲間と思われる人たちが見える。
「一人です」
「お!なかなかいい顔してんじゃねぇか!」
そう言うジジイは遠慮なく、席に座った。その仲間も次々に座った。
いわゆるはしごする、というやつなのだろうか。酒豪だねぇ。相席は構わないがもう少し遠慮という言葉を脳に刻んでほしい。近いぞジジイ共。臭い。うまい飯が不味くなっちゃう。
「近いですよ。少し離れてください」
「なんだよつれねぇ事言うなって」
「そうだそうだ」
隣にいるジジイ2人は手を伸ばせば触れるであろうほど近い。というかその内の一人が肩に手を回してきた。ずいぶんと馴れ馴れしい。村のジジイ共よりも馴れ馴れしい。これが都会か、いろんな人がいるなぁ。