ボレアースです。
今、酒場にいます。
臭いジジイ共に囲まれ、楽しい楽しい食事の時間を邪魔されようとしています。直感で店を選んだ事を少し後悔している。
肩に手を回されるどころか、いつの間にか太ももをすりすりと触られている。気持ち悪。母も絶賛するすべすべ肌を勝手に堪能するとは大罪人め。興が覚めた。萎えた。もういいや。
ボレアースはその場で突然立ち上がる。
「すみませ~~ん。勘定お願いします」
村の頃は当然だったから忘れていた。俺は中性的な顔つきをしているのだ。そこに短パンが追加される。この酔っ払い共は俺を女だと勘違いしているのだろう。いやだからと言ってこれは普通にセクハラでは?この犯罪者!俺が男であったことに感謝するんだな!もし女だった容赦なく顔に鉄拳をぶち込んでいた。
「えっと、ご注文の品は何処ですか?」
「注文はしたんですけど、気分が悪くなったんでキャンセルでお願いします。あ、金は払います。」
そう言ってボレアースは金が入った小袋を取り出す。
「なるほど、注文した品は何ですか?」
店員さんがそう言う。聞かれた通りに答えると店員さんは裏方の方へ消えて行った。しばらくの間待っていると店員さんが帰ってくる。
セクハラジジイ共はいつの間にかボレアースからは離れ、三人で談笑していた。ふん、この小物め。いや大物だったら困るけど。
「キャンセル確認しました。料金は必要ありませんよ。またのご来店お待ちしております」
「本当ですか?ありがとうございます。それではまた」
そう言ってボレアースは店の外へ向かう。すると背後から追いかけてくる人達がいる事がわかる。
「ちょっと待てよ。今晩の宿はあるか?泊めるぜ」
「宿はあるので必要ありません」
ボレアースは力強くそう言い切る。
さすがにここまで言われたら俺でもわかる。一夜の夢を追いかけるジジイだ。だが俺は男だし、たとえジジイが美少女であっても、俺の理性は却下と言えるだろう。そういうことはムードと流れとシチュエーションが大切だと習わなかったのか。俺の食事を邪魔しやがって。
「おいおいつまんねぇぞ。待てよ。」
そこでセクハラジジイの一人がボレアースの肩を掴み、止まることを促す。だがボレアースは遠慮なく歩き続ける。むしろ歩幅を大きくし、腰を落とし重心を低くする。
「っぉお!」
ジジイが姿勢を崩し、転んだのがわかる。自然と周囲の視線もそのジジイに集まる。
すかさずボレアースの頬があがりざまぁと、いい気味だと思った。ボレアースは振り返ることはなく、そのまま酒場の外へと歩を進める。
「おいゴラ待てや。」
その言葉を吐き捨てながらジジイが走って追いかけてくるのがわかる。さすがにここまでされたら、俺の堪忍袋も限界だ。どう料理してやろうかと思っていると視界が急変した。
しばらくの間、状況が把握できなかった。だけど少しづつ、今、俺がどんな姿をしてるのかが分かり始めた。
俺は、どこかの机に倒れ込んでいた。見事に机壊し、その上にあった料理たちも無駄にした。それどころか、その料理で自分自身をデコレーションしていた。髪は濡れどろッとした液体が付着している。酒の匂い、冷たい液体の感触、逆に熱々の感触。真っ白い上着が色づいているのも見えた。
しばらくすると頬がヒリヒリとした。意味もわからず触れると、痛みを感じた。それと同時に鼻血が出ている事がわかった。
俺は殴られたのだ。
意味が分からなかった。なぜ殴った。こんな人目がある場所で、まるで関係ないと言わんばかりに。殴った張本人は、少しあざ笑うような顔つきをしていた。その後ろの2人とはまるで正反対だ。
それを見たボレアースは完全に限界を迎えた。肉の焼ける音と遠くから聞こえてくるざわめきが、何かと同調するようだった。
だけどこれ以上酒場に迷惑をかけられないと、俺の直感のせいでこれ以上被害を出させる訳にはいかないと必死に抑えた。
ボレアースは笑いながら立ち上がる。そして振り返り、料理たちを台無しにしてしまった人たちに向かって喋りだす。
「いや~~~ごめんな。いろいろと台無しにしちゃったわ。」
それは目の前の集団だけにではなく、周囲にも言っているように大きな声だった。
「酒がにーしーご、と肉がにーしーよん、とその他が3か。」
ボレアースは台無しにしてしまった料理たちを数える。髪や服に付着してしまった残飯など気にする様子すら見せず、むしろその自信満々な様子は晴れ衣装を着ているようだった。
ボレアースは小袋から金を取り出す。ちょうど先ほどメニュー表を見ていたので、それぞれがどれほどの金額がかかるのかわかった。現状わかる程度で台無しにしてしまった品々の金額を握り掴む。
「ほら、弁償。今手持ちこれしかないからこれで勘弁してな。足らん分は後日で頼むわ。」
そう言ってボレアースは弁償の金額分を小袋に入れ、その集団の一人に投げ渡す。それと同時に余った僅かな金をポケットの中に入れた。