群霊少女と幻想記   作:鈴ノ風

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この作品は東方projectの二次創作です。
原作ブレイク、キャラ崩壊、独自設定、オリキャラ幻想入り、駄文乱文、そもそもプロットが不完全、その他諸々が含まれております。
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002 幼い賢者の危機一髪

 物事を最終的に解決に導くのは気合だと、八意永琳は常々考えている。

 どんなに簡単な問題も、やる気がなければ解けるはずがない。1+1は2である。しかし本当にやる気も根性もなかったら、そもそも出された問題文を右から左に聞き流してしまうだろう。そんな極論でなくとも、ある程度複雑な計算式は、計算しようとする意識がなければとくことはできない。

 ただそれは、困難を乗り越えるにはやる気も必要だ、というだけのことであり。

 気合はどんな不可能事も解決する。という無茶苦茶な理論ではない。

(テロリストに襲われた辺りまでは、それでも不可能ではなかったのだけど)

 永琳は内心で呟く。言葉にはしない。もしも口に出したのなら、彼女を護衛する兵士たちのやる気は、底を尽くだろう。

 ただでさえ、疲弊している。

 それはさかのぼること二時間前、神童・八意永琳の命を狙ったテロリストを撃退した際の疲労であり。

 つい五分前、三体の妖怪たちによって仲間の半分を虐殺されたことへの恐怖でもあった。

(まずいわね)

 護衛の兵士たちはその数を半分まで減らしている。妖怪の防御さえ貫く虎の子の光線銃も、エネルギー切れが近い。

 つい先ほどやられた兵士など、銃が完全に沈黙していた。もっとも錯乱していたため、殺された兵士は銃の様子に気づいてもいなかったようだが。

(護衛にもう少し気を使うべきだったか。彼らも練度は高いとはいえ、連戦に耐えうるほどではなかったようだし)

 武装した男たちに囲まれることに気分を害し、護衛の数を減らしてしまった過去の自分を、永琳は強く恥じた。

(経験不足、もあるとはいえ。一時の感情に任せて損得勘定を見誤ったのは失態ね)

 これに懲りて、帰宅したら護衛の強化に勤めよう。数を増やし武装を改め、居心地よりも確実な安全を優先しよう。

 そう、心に誓った。

 もっとも、腕の一振りで防護服ごと人を粉砕できる、あの三体の妖怪から逃げ帰れたら、の話だが。

「え、永琳様!」

 兵士の一人が叫んだ。その顔にはほかのものと同様、疲労と恐怖の色が浮かんでいる。

「永琳様。我々が突撃して退路を開きます。その間にあなたは」

 逃げろと、言うのか。それは無理だ。

 首を横に振って、永琳は兵士の提案を却下する。

 兵士たちにあの妖怪どもを仕留めるのは不可能だ。残された唯一の武装たる光線銃がエネルギー切れ寸前なのだ。光線銃を失えば、妖怪に対抗する手段はほとんどない。

 あの妖怪もある程度の俊敏さは備えている。疲労した彼らが一体を仕留める間に、どれだけの無駄弾を使うことになるか。

 そしてその間に、二体目や三体目に、どれほどの兵士が殺されるか。

 仮に逃げられたとしても、この辺一帯は妖怪の出現率が極めて高い。現に――これは永琳のあずかり知らぬことだが――つい半日前にも新しく妖怪が一体、発生している。

(詰んだわねーこれは。完敗よ)

 永琳は心の中で白旗を上げる。博識な彼女をして、現状の打開は不可能であった。

 ちらりと、誰にも気づかれないように、視線を移す。

 その先にいるのは怪物でも護衛たちでもない。二時間前に永琳たちが乗っていた飛行船が墜落した場所だった。

(テロリストたちも、何も飛行船の中で自爆しなくてもいいじゃない。おかげでこんな危険地帯に墜落しちゃったし)

 黄泉に堕ちたら、あのバカらしいテロリストどもに地獄を見せよう。そう決意する。

(黄泉、あの世、穢れの源泉……やっぱりいやね。死ぬのは嫌)

 最近の人間は、生き物に死と老衰を与える『穢れ』というものを嫌悪する傾向にある。永琳もその一人だ。周囲ほど熱狂的ではないが、あまり気分のいいものだとは思えない。

 永久の命。最高ではないか。若いまま老いることなく、リミットを気にせず研究を続けられる。

 もしも、遠い未来に完全な不死と不老を約束する薬ができたのなら。彼女はためらいなく、それを手に取るだろう。

「……人体実験も解剖も薬の制作も、とてもとても楽しいのよ」

 死ぬのは嫌だ。まだ生きたい。

 生きて生きて、やりたいことをもっとやろう。

(何が詰みだ何が完敗だ。知ったことか私を誰だと思ってる)

 視線を移す。三体の妖怪、その一体へと。

 先ほど仲間を叩き潰した、彼へと。

「私は諦めないし絶対に死なない。私は賢者、八意永琳よ。こんなところで死んでたまるものですか」

「永琳様」

「前言撤回。あれを潰して逃げるわよ。死ぬ気で私を守りなさい」

「……っはい!」

 叫び、護衛たちは銃を構える。

 勝率は皆無。脱出は不可能で彼女らの死は必須。奇跡でも起きない限り、八意永琳に未来などない。しかしそれは諦めることと直結しない。

 どうせ死ぬのなら、最後まで人間らしく。醜くも生を渇望する、人のひとりとして。

 永琳のほほを、冷たい汗が流れ落ちる。それは恐怖からくるものだった。永琳の心奥底に、決死の覚悟を持ってもぬぐいきれぬ恐怖が存在することの証明。

 震えそうな歯をかみしめながら、手を上げる。

 恐怖に指の先まで縛られながら、右手を前に。

 恐れとともに立ちふさがる、妖怪に向けて。

 同時に、誰かが光線銃の引き金を引く。それは人と妖怪の、一方的な戦いの幕開けだった。

 人が駆け、妖怪が蹂躙する。そんな一方的な惨劇が始まる。

 その、直前。

 

「――き」

 

 遠くから、声がした。何かを抑え込むような、しかし耐え切れずにこぼれ出たような、そんな声。

 抑えきっていた何かは、その声を皮切りに噴出し。

「ッキャハハハハハハ!」

 哄笑となって、この場にいるあらゆる生物に襲いかかった。

「――っひ」

 その時。

 心臓が止まるほどの恐怖を味わいながら、しかし悲鳴を寸前で抑えた己を、永琳は後に褒めてやりたくなった。

「ハハハハハ、キャハハハッ!」

 まるで悪魔のような嗤い声。

 妖怪も人も関係なく、生けるものも死せるものも見境なく、ありとあらゆる存在に恐怖を刻む。

 その場にいた全員が、嗤いの下へと目を向ける。

 死の具現がそこにいた。

 少し離れた岡の上に、血と肉片を滴らせながら、深い青の髪を揺らせる少女が一人

 少女はその存在でもって、優れた頭脳を持つ八意永琳も、厳しい訓練を重ねた護衛たちも、人をむさぼる妖怪たちも、例外なく恐怖でしばりつける。

「混ぜろよ」

 裂けた笑みをそのままに、少女はこちらへ歩み寄る。

「楽しそうに殺し合ってるじゃん。私も混ぜろよ」

 赤い腕をゆらりと動かし、獲物を睨む。

「なあ、そこの」

 それは、絶体絶命の永琳たちをではなく。

「――怪物どもが!」

 幸運なことに、彼女らを追いこんだ妖怪に向けられていた。

 少女が跳躍する。獲物へ向けて飛びかかる。

 それは、偶然にも永琳たちが銃口を向けた、あの妖怪だった。

「■■■■!」

 妖怪が吼える。しかし彼のそれに覇気はない。

 先の哄笑か、それとも少女から何かを感じ取ったのか。数分前まで狩人だった彼は、今やただの獲物となっていた。

「くた、ばれ!」

 妖怪は抵抗した。しかしそれは無意味。

 この世は全て弱肉強食。

 気圧され戸惑うだけの弱者など、捕食者の前ではただの肉に過ぎない。

 獣が牙でそうするように、少女は素手で妖怪を絶命させた。

 潰され、命を奪われ真っ二つとなった死体は、音を立てて倒れる。

 少女は止まらない。彼女は帰り血に染まりながら、次の獲物へ跳躍する。

 永琳たちは終始、立ちすくんでいた。幸運にも助けられる形となったことを、感謝する余裕は彼女らにはない。ただただ、駆け抜ける暴力のような少女に、おびえ続けた。

 

 

 その後の展開など、語るまでもない。

 先ほどまで起こるはずだった蹂躙の再現。

 被害者を妖怪に、加害者を謎の少女に変えただけの、ただの殺戮だ。

 だから語ることはない。

 あえて記すことがあるとすれば、それは八意永琳とその護衛たちが、悪夢のような偶然に助けられたという、結果だけである。

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 残った二体の怪物を殺し、少女は返り血に染まった手を服の裾で拭った。

「あらら」

 しかしその服もすでに血でぐちょぐちょになっており、ふき取るどころか逆に汚れが増してしまった。

 仕方がないので手を振って血をふるい落としながら、少女は生き残った人間たちに視線を向けた。

「……っ」

 目を向けられた彼らは、一人を除いて怯えたように後ずさる。

「生きてたんだ、良かったね」

 そのたった一人の例外に、声をかけた。

 赤と青の、奇妙な服装。永琳と呼ばれた少女へ。

「私たちは、殺さないの?」

 彼女の額には玉のような汗が、今も流れている。

 後ずさることはしなかったが、彼女は彼女で、怪物を殺した少女に対して恐怖を抱いているのだろう。

「殺さないよ。だって、もう私は満足したもの」

 三体の怪物を殺し、少女は満腹感にも似たものを覚えていた。

「殺して腹が満たせるなんて、変わってるわね、私」

「……もしかして、あなたは生まれたて?」

 少女のつぶやきに、永琳は目を細める。

「生まれたて? まあ、つい半日前に、あっちの方で目が覚めたわけだけど」

 言って指差したのは、少女が歩いてきた方向。いまだ肉片と残骸が転がっているだろう戦場跡だ。

「そう。生まれたて。だったら、なんとかなるかな」

「何が?」

 小首をかしげて問う少女に、永琳は何かを決意した表情で、告げた。

 

「あなた、私たちと一緒に来る気はない?」

 

「……永琳様!」

 その発言がよほど非常識なものだったのか、永琳を取り巻く兵士たちが叫びをあげる。

「あのような妖怪を、我らの都に招き入れるというのですか!」

「……妖怪? 私が?」

 少女は兵士が口にした単語を吟味する。

 妖怪。彼女の中に残ったいくつかの知識の中に、その単語は確かにあった。

 妖怪、人の想いから生まれた存在。死と恐れとを糧とする、化生の怪物。

 少女は幽霊の集合体だ。それは霊体に残った感情が組み合わさってできたものであるともいえる。少なくとも、人の胎を介して生まれたわけではない。

 それに先ほどの満腹感。変わっていると先ほど少女は口にしたが、彼女が妖怪であるなら、そうなるのも当然だろう。

「危険です永琳様! あれがもし、都で暴れでもしたら」

 少女のつぶやきも思考も、兵士たちは眼中にない。主を諌めることに必死で、それどころではないようだ。

「確かに危険ではある。しかしメリットがないわけではないわ」

「あれを連れていくことに、何の得があるというのですか!」

「都までの護衛よ。疲労困憊のあなたたちだけでは、さっきと同じ事態に陥った際に対処できない。でも彼女なら? 同じ妖怪をぶつければ、襲いかかってきた敵を排除できる」

「それ、は……」

 兵士たちも、自分たちの戦力がどれほど酷い状況にあるのか理解できたようだ。

 苦虫をかみつぶしたような表情で、しかしなお引き下がらない。

「だ、第一! あれを連れて行ったとして、どうやって敵にけしかけるというのです!」

「そこはほら、あれよ。餌付けとか」

「……いくらなんでも無計画すぎるっていうか、私一応妖怪なんでしょ?」

 第三者が口をはさむことではないと思って、黙って聞いていた少女だったが、永琳の発言に流石に呆れたのか、ポツリとつぶやいていた。

「そうね。餌付けは無理か。じゃあほかの手を考えましょう」

「他の手って、例えば?」

「うーん。そうだ、あなた好きな食べ物は」

「さっきと何一つ変わってないのは気のせいかな? 永琳」

「おごってあげるってだけよ」

「餌付けとも言うよね、現状だと」

 少女はため息を一つこぼす。

「……とりあえず、肉料理が食べたいな」

「ステーキ? ハンバーグ? それとも焼肉かしら?」

「なんでもいいよ。うん、何でも」

「分かったわ。じゃあ都に到着したら用意するから、それまでの護送、お願いね」

 手をぱちりと叩き、話は成立したとばかりに笑う永琳。その顔に、もはや恐怖の色はない。

 どうも彼女はポジティブな性格であるらしい。

 兵士たちは、自分たちの忠言が結局通じなかったことを残念がっているようだ。しかし主が決めたことなら、なんて表情で、こちらを見ている。

「了解。強そうなのが出てきたら任せてよ。娯楽ついでの殺しとくから」

 きっと裏切ったら殺しに来るんだろうな、なんてのんきに考えつつ、少女は一つ頷いて見せた。

「よろしくね。えっと」

 何かを、永琳は言いよどんだ。

 彼女がこの期に及んで言おうとすることは何か、それを少女は思考して。

「ああ、名前ならないよ」

 そういえば名乗っていなかったことを思い出す。

 しかし名乗る名前が少女にはない。生まれて半日持っていない彼女は、そもそも己がどういった存在なのかも知らなかった。名前なんて、知っている方がおかしい。

「じゃあ私がつけてあげるわ。短いか長いかはわからないけど、これから深い付き合いになるのだし」

「お好きなように、好きな名前を付けてよ」

「分かったわ。じゃあ……」

 永琳は少女の前までやってきた。護衛はもう諦めたのだろう、止めることさえしない。

 永琳は少女の体をくまなく観察する。頭の先から、足の爪まで、なめるように。

 おそらく、少女の身体的特徴から、名前を決めようとしているのだろう。

「……青い髪ね」

 少女の長い髪を見て、永琳は呟く。

「これ? うん、青いよ。綺麗でしょ?」

 別に自慢するほど好きでも嫌いでもないが、注目は浴びているようなので、見せびらかしてみた。

「藍色、いえ、それは縹色だったかしら。じゃあそれでいきましょうか」

「髪がなんだって?」

「あなたの名前。髪の色からとって、『(はなだ)』なんていうのはどうかしら?」

「いいんじゃないの? 縹、悪くない名前だと思う」

 うん、うん。心の中で二度頷く。

「今日から私は縹だ。亡霊で妖怪の縹。あらためてよろしくね、永琳」

 言って、縹と名付けられた少女は、手を差し出す。

「こちらこそ。これから護衛をよろしくね、縹」

 永琳はその手を握り返した。

 握手を交わした縹は、何かくすぐったい感情を抱いた。

 それの理由は分からない。分からないが、その感情がどういった形で現れるものかは、理解した。

 だからその感情に従って、縹は。

「……っきひひ」

 にっこりと、笑った。

 それは先ほどのような哄笑ではなく、見た目相応の、明るく無邪気な、少女の笑みだった。

 

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