原作ブレイク、キャラ崩壊、独自設定、オリキャラ幻想入り、駄文乱文、そもそもプロットが不完全、その他諸々が含まれております。
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「能力?」
永琳たちの護送途中。縹はそんな素っ頓狂な声を上げた。
それはヒトデの形の頭をした、ウミユリにも似た妖怪を撃退した後のことだ。
「ええ、能力。ある程度修行を積んだ人間や、妖怪は大概持っているものよ」
お前の能力はなんだ、と永琳は縹に訪ねた。
ちょうど、『さっきのやつの光線銃モドキは強かったな』なんて考え事をしていたタイミングで問われたため、縹は思わず変な声を上げてしまったのだ。
「永琳も、持ってたりするの?」
「もちろん持っているわ。修行の成果というよりも、天性のものだけど」
「さすがは天才」
ここまでの道中、彼女の護衛たちから、八意永琳がいかに才気あふれる天才かということを、縹は耳にタコができるほど聞かされていた。
曰く、六歳で博士号を取得した。
曰く、十歳で百を超える新薬を開発した。
曰く、十二歳で不治の病の特効薬を生み出した。
いくつも、いくつも。それらはどれもこれも、生まれたての縹でさえ疑うほど出来すぎた話ばかりだった。
どうせ部下の色眼鏡越しの発言だろうと思い、永琳に事の真偽をうかがった時、彼女は特に感慨を抱くこともなく、
『そういえば、そんなこともあったわね』
なんて、当たり前のように肯定した。
胡散臭い伝説の数々が真実であったことよりも、永琳の淡白な反応に、縹は衝撃を受けた。
ああ、彼女は本当に天才なのだ。
非常識なことを、当たり前のように実践する、本物の天才なのだと。そう、縹は確信した。
(まったく、大した天才ぶりだよ)
思い出して、肩をすくめる。
「それで? 神童永琳はどんな能力を持ってるの?」
「……『あらゆる薬を作る程度の能力』よ。それにしても、怪物みたいなあなたに、天才なんて褒められても素直に喜べないわね」
「そこは喜んでほしいものだな、ほめてるんだし」
それにしても。
「あらゆる薬を、か。だったらそこで疲れ果ててる護衛たちの疲労を回復させる薬とか、むしろパワーアップさせる薬とか、作って飲ませてあげたら?」
「傷の修復やドーピングの薬も確かに作れるけど、今は不可能よ」
割といい思い付きだと思ったのだが、永琳にあっさり却下された。
「なんで?」
「私の能力はあくまで『作る』こと。物の制作には機材と材料が必要不可欠なのよ。機材と材料さえあるならどんな未知な薬でも生み出せるけど、それらがなければ何一つ生み出せない。私はいうなれば、すべての薬を生み出す『技術』を持っているだけなのよ」
「なるほど。八意永琳は確かに天才だけど、あくまでも人間だってことか」
「無から有を生み出すのは神の領域。私に神降ろしの技術はないわよ、さすがに」
「天才なのに?」
「あれはいろいろ別格なのよ。半分人間やめなければできたものじゃない」
何を思い出したのか、永琳はため息をつく。
「そう。人はしょせん人なのよ。生きていれば病気にもなるし怪我もする。どれだけ健康を維持できても、いつかは老いて死んでしまう」
「……」
「うらやましい話。あなたは、そんな悩みを一生抱かずに済むのだから」
妖怪に寿命はない。
人と違い、妖怪は老いるということをしない。姿は永遠にそのままで、皺が増えることも、体が衰えることもない。杖を突いて歩き、わずかな運動で息を切らし、ちょっとした衝撃で体を痛める。そんな経験は、妖怪とは無縁なのだ。
「寿命ね。しかし永琳はまだ若いじゃないか。よくは知らないけど、まだ十代の内に老いて死ぬことを恐れるなんて、変わってない?」
人間にとって、若いうちの時間の経過とは、すなわち成長を意味する。
一日一日を過ごすごとに、体は発育し背が伸び、筋力が増していく。幼く、守られなければ生きていけない子供が、やがて自立可能な大人となる。
その間は、大人になりきるまでは、人は老いを感じない。成長を自覚することはあっても、老いを実感することはない。
それはある意味で大人の特権だ。成長しきって、もう衰えるだけの、大人のみが感じられることだ。
「いろいろあるのよ、私たちにも。最近、生き物を老化させる概念の詳細が判明してね、そのせいでいろいろと」
「へー。何だい何だい。人類はついに寿命さえ克服するってことかい? 私の知る限り、それはそんなおいそれと手出しできる代物でない、はずだけど?」
縹は自分の中の知識をひっくり返す。その中には、寿命を克服する手段などない。あっても可能性の話。どれだけ探しても、寿命というものがどれほど高い壁なのかを認識するだけだった。
「私の住んでいる都は、特に科学力が発展しているからね。それこそ、他の追随を許さないほど。だから、あなたの知識と、私たちの技術との間には、おそらく大きな隔たりがある」
「まるでタイムスリップでもしたみたいだな。変な感じ」
「否定はしないわ」
言うと永琳は、さて、と手を叩いた。
「休憩おしまい。そろそろ出発しましょう」
「とっとと都につかないと、危ないんだっけ? 夜は妖怪の天下だから」
縹は周囲を見る。いまだ太陽が昇り切っていない中、地面を覆う草花と、まばらに生えた木々が、のんきに風に揺れていた。
妖怪の気配は、ほとんどしない。時折、不意打ちのように現れることはあるが、それだけだ。
しかし永琳の話によれば、妖怪たちは昼間眠っているものがほとんどらしい。昼よりも夜の方が、人は恐怖を感じやすくなる。だからより効率的な食事をとるために、生活の主体が夜になっていくのだとか。
最悪の場合、この緑豊かな土地が、妖怪たちで埋め尽くされることもある。それは本当にまれなケースだが、しかし縹たち一行がそのケースに遭遇しないとも限らない。そうでなくても、たくさんの妖怪に囲まれたら終わりだ。縹はともかく、永琳たちは殺されるだろう。四方八方から押し寄せる妖怪から、永琳を守るすべを、縹は一つとして持っていない。力任せにぶん殴るしか能がない縹は、防衛戦というものがどうにも苦手だった。
「日はまだ上ってる最中だけど、後しばらくすれば沈み始めるし。どうなの永琳。都って、あと六時間足らずで着ける距離?」
「ちょっと待って」
永琳は懐から小さな携帯端末を取り出し、操作する。おそらくGPSかそれに類似した機能が付いているのだろう。すぐに、
「地形的にも距離的にも、四時間くらいあれば十分ね」
そういって、都があると思われる方向を指差した。
「了解。そんじゃみなさん、そろそろ行きますよ」
縹はすぐ近くで休んでいた護衛たちに声をかける。
彼らはそれを聞いてすぐに立ち上がった。縹が一向に加わったときこそ、彼らは縹に不信感を抱いていたが、それももうほとんど残っていない。
後四時間程度とはいえ、たどり着くまで気は抜けない。都につく途中で彼らといざこざを起こす、なんて面倒な事態は避けられたようなので、縹は安堵する。
「そういえば、永琳」
出発の準備をしながら、縹はふと、永琳に話しかけた。
「さっきの質問。気になることを聞く前に答えると、私は私の能力がまるで分らないよ」
「そう。まあ、そういうこともあるわ。あれは知ろうと思ってすぐにわかるものでもないし」
「そして疑問。そんなことを聞いて、どうするつもり? というか、そもそも大層な意図がある質問?」
「あるわよ、意図なら」
「何?」
「……妖怪は、恐怖と死の象徴よ」
作業の手を少し止めて、永琳は言う。
「だから、寿命を解析し、そのせいで余計に寿命を恐れる私たちにとって、妖怪とはとても恐ろしく、そして目障りなもの。だから」
「……なるほど、だから」
縹は理解する。
人は、妖怪をただでさえ恐れる。死というものを具体的に知った都の人間たちは、それがほかのものよりことさら強いのだろう。
恐れて、殺そうと、根絶やしにしようと、考えているのだろう。
「だから、能力を聞きたかったの。それによっては、人に有益であるとして、例外的に使役したり、働かせたりする場合があるから」
それは、可能なら縹を殺したくないということか。
永琳は縹に、情を移したということか。
だが、都の総意がまた別のものならば、永琳がとるべき行動も、違うものであるはずだ。
「もしも、あなたの能力が私たちのためにならないなら」
永琳は言いよどむ。それは、そう簡単に口にできるものではないから。
躊躇う永琳に、縹は遠慮なく、その続きを口にする。
「殺すんでしょ? 私を」
妖怪は、人間の敵だ。
永琳は人間であり、そして残念なことに、縹は妖怪だった。
「……簡単に、言うのね」
永琳は目をそらす。縹の言葉が、真実だから。
「死なないとでも、思っているの?」
「まさか」
そんなおごりを抱くほど、縹は馬鹿ではない。
彼女は最強でもなんでもない。ただの一妖怪だ。現に、これまでの道中で遭遇した妖怪の中には、縹をあと少しというところまで追いつめた者もいた。
都の力がどれほどか、縹にはわからない。ただ彼女の知識をはるかに上回る技術力を持つという彼らが、決して侮っていい相手でないことは理解できた。
「所詮あなたは一匹の妖怪。例えいかなる妖怪をも粉砕する膂力を持とうとも、千の兵隊が放つ光線銃にはかなわない」
「それは、何とも懐かしい光景だね」
永琳の言葉で、縹の脳裏には彼女が生まれた戦場がフラッシュバックしていた。
無数の兵士の怒号と悲鳴、潰される肉の音、あちこちで行き交う殺人光線。
「分かってる。そうよね、あなたは戦争と、そこで積つまれた死者から生まれた。人の力がどれほどのものか、軍隊の恐ろしさがどんなものか、下手な妖怪よりよく知っている」
「当然」
自慢になることではないだろうが、ない胸を張ってみた縹。
彼女としてはちょっと重くなっている場を盛り上げよと思ったのだが、永琳はそんなものには目もくれなかった。
「知っているなら、それこそ何故? 何故そんな、平然としていられるの?」
「……」
「分からないわ。私にはあなたが分からない。ここ数時間を一緒に過ごして、ある程度の理解はしたつもりだったけど、そこだけは分からない。あなたは死が怖くないの?」
「死ぬのは嫌だよ。だってもう戦えないもん」
戦うこと、殺すこと。それこそが縹にとっての生きがいだ。
だから、それがもうできなくなるというのは嬉しくない。なんだかさみしい。
「でもさ。軍隊、出てくるんでしょ?」
「ええ」
「つまり、強い奴らと、心行くまで、殺し合えるってわけだ」
言って、縹は笑った。
楽しそうに、本当に、楽しそうに。
「そうなったら死ぬけどさ。光線の弾幕で体中ハチの巣にされて、ボロ雑巾みたいになってあたりにまき散らされるんだろうけどさ。それでも、そうなるまでのほんのわずかな間に、頑張れば一人くらい殺せると思うんだ」
仮想する。
視線の先に並ぶ兵たちを。手には一様に光線銃を構え、指揮官の一斉射撃の指示を、今か今かと待ち続けている姿を。
彼らが撃つよりも速く、すべての光線が彼女を捕えるよりも速く、兵士の誰かに接近できたなら。
負傷はするだろう。重いか、軽いかはわからない。あるいは死に直結するほどの重傷を負うかもしれない。
だが、それでも死ぬまでにはタイムラグがある。
その隙に、彼女の生命が完全に停止する直前に、その腕を振るうことができたなら。
「あるいは一人、殺せるかもしれない」
しかしその後はない。
同胞を殺されても、訓練された兵士なら、即座に彼女に銃口を向けられるはずだ。
周囲の兵士も同様の行動をしたなら、彼女は死ぬ。たとえもう一人殺せても、ほかのすべての光線が、彼女を貫く。
「でも、たとえ死んじゃったとしても、殺せるわけだ」
それもとびっきりの絶望の中で。
血をまき散らし、臓腑をこぼし、死へのカウントダウンを感じながら。
「それは、最高じゃないか」
もう二度と戦えないという悲しみよりも、その喜びはきっと勝るものだから。
「だから、別に、怖くない」
楽しいから、問題ない。
「怖い笑顔」
永琳は、恍惚と笑う縹を見て、不気味そうにつぶやいた。
「先ほど、あなたは私を人だと言ったわね」
「いったよ。永琳は人間だ。良くも悪くも」
「そうでしょう。私は人間。限りあるものであがく、愚かな人間よ」
そして、と。
立ち上がって、視線を縹と交わらせながら、永琳は続けた。
「そしてあなたは、妖怪よ。良くも悪くも。己の欲望のために、他人も自分も顧みない、身勝手でおぞましい妖怪よ」
「ありがとう」
永琳の言葉には、嘲笑が含まれていた。だが縹はそれを逆に感謝した。なぜならそれは、縹という存在が正しく認識された証明であったから。
「お礼ね。別にいらないわ。あなたがどうしようもないくらい妖怪だってことは、あった時から知ってたし」
「いやーあれはすっきりするくらい暴れたからね」
思い出し笑いを浮かべる縹をよそに、永琳はため息を一つ。
「さっきの話だけど」
「私を殺すってこと?」
「ええ。私の方で、できるだけ交渉してみるわ。これでも政治家たちの覚えはいいし、あなた一人程度なら、例外にしてくれるかもしれない」
「見逃してもらえるのはありがたいけど、大変じゃない?」
「私のためには仕方ないことよ。いつの間にやらあなたに親しみを感じていた私の精神衛生のために。それと、都のためでもある」
永琳の最後の言葉に、縹は首をかしげた。
「分からないな。都のためというなら、妖怪は皆殺しが普通じゃないの?」
「さっきあんな発言をしておいてよくいうわね。あなたは危険よ、縹。強力で、そしてたちが悪い。こちらが殺す気で対応すると、逆に喜ぶなんて変態なんですもの」
「変……いや、普通じゃないって自覚はあるけどさ、もうちょっと言葉選んだらどうよ」
「選んだわよ。ええちゃんと。でも残念、変態を形容するには変態以外の言葉が見つからなかったの。ごめんなさいね変態妖怪」
「ぶん殴ろうかなこいつ」
割と本気でそう考える縹をなだめながら、永琳は続ける。
「あなたを排除しようとすれば、都も少なくない被害をこうむるでしょう。特攻を覚悟したものほど厄介な敵もいない。だから都には、あなたを放置さる方針を取らせるわ」
「うまくいくかな? そんな厄介な奴なら、即座に抹殺すべきだって意見も出るでしょ」
「その時は、そうね。あなたに都のためにひと仕事してもらいましょうか。いくら妖怪でも、役に立つやつを無碍にするほど、愚かな人間は都にはいないわ」
「それはいいや。じゃあ、都についてからの方針も、決まったってこと?」
「そうね。政府を説得して、あなたへの積極的な干渉を抑えさせる。それが、私が無事にたどり着いた後、私がすべきことね」
「もう一つあると思うんだけど」
「何かしら?」
割と真面目に疑問符を浮かべた永琳を見て、縹は呆れたように頭を押さえる。
「あのさ。食べ物驕るって話はどうなったわけ?」
「……何を言ってるのかしら。ちゃんと覚えているわよ?」
「忘れたなんて一言も言ってないのに? 覚えてる? ふーんそうなんだ」
「えっと、ほら、ね?」
「ね? じゃねえ天才バカ! 自分で餌付けとか言っておきながらそれはないだろ!」
「いやね自分の発言よ。忘れるわけがないでしょう? えっと、野菜フルコースでいいんでしょ?」
「完全に忘れてるよそれ! 肉! 肉料理! 私が満足するまで食わせるって約束でしょ!」
「あは、あははは」
冷や汗をかいて苦笑いしながら、永琳は逃げ出した。
「ほらほら先を急ぎましょ!」
なんて言い訳をしながら。確かに都の方角へ走っているが、この場面ではどう見て逃走である。
「待てこら永琳!」
縹も、彼女を逃がさないために走りだし。
「お待ちくださいお二人とも!」
「おいていかないでください!」
完全に空気だった護衛たちが、必死の形相で追いかけた。
◇◆◇◆◇◆◇
縹たちが、楽しいたのしい追いかけっこに興じている、その時。
はるか上空から、彼らの姿をうかがう影が一つ。
「ずいぶんと、妖怪の死体が転がってると思ったら」
それは、一人の少女だった。
外見年齢だけならば、そろそろ成人を迎えそうなあたり。黒いスカートと金の髪を、わずかに風に靡かせる。
しかし、少女は人ではない。その外見に人外の要素は一つとしてないが、しかし彼女の背後にあるものが、彼女の正体を告げていた。
闇、だった。
漆黒の闇が、傘となって少女に降り注ぐはずの太陽光を遮断していた。
闇は薄い。下手をすると紙よりも薄い。なのに、太陽光がその闇から漏れることはない。影よりも深く、夜よりもおぞましい闇だった。
「楽しそうね、本当に楽しそう」
少女は笑う。
その視線の先には、人間の少女を追いかける、深い青の髪の子供。
「ちょうどいいわ。本当に最高のタイミングよ、あなた。私ね、最近退屈してたの」
少女は笑う。くすくすと、無邪気に笑う。
「妖怪は私についてこれないし、人間は群れるだけしか能がない。殺すのも狩るのも、やっぱり相手が強くないとね」
笑うたびに、肩が揺れて。
揺れる方に合わせるように、闇の傘が広がってゆく。
「あなたはどうも生まれたてのようね。戦い方は荒いし能力の一つも使えない。けど」
退屈しのぎには、ちょうどいい。
そう呟いた瞬間、背後の闇が形を変えた。
それは翼。巨大な、鳥のような、翼。
羽根の代わりに闇を振りまきながら、闇の翼が翻る。
「喜びなさい、幼い妖怪。この宵闇妖怪の獲物に選ばれたことを!」
叫びとともに、少女は獲物に向けて飛翔した。
永琳が都と呼ぶ町は、人の中でもぬきんでた技術力と軍事力を保持した、一つの国家であった。
しかし、彼らでさえも恐れる妖怪が、この世には存在する。
闇を操り、光を食らい、すべての光学兵器を無力化する、闇の申し子とも呼べる大妖怪。
名を、ルーミアという。