群霊少女と幻想記   作:鈴ノ風

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この作品は東方projectの二次創作です。
原作ブレイク、キャラ崩壊、独自設定、オリキャラ幻想入り、駄文乱文、そもそもプロットが不完全、その他諸々が含まれております。
それでも構わん! という勇者以外は直ちに『戻る』ボタンを押して、他の小説を検索することをお勧めします。


007 門前にて

 見上げるほどの巨大な門。近づけば近づくほど、その巨大さは際立っていく。

 縹は感嘆の吐息を洩らしながら、その門へ惹かれるように近づいていく。一歩、二歩と進むにつれて、街の活気と熱気が勢いを増していく。

 やがて門の目の前にたどり着いた縹。その隙間の向こうから響く喧騒や、奥へと続く街道に胸躍るのを感じた彼女は、興奮に思わず顔をほころばせ、いざ『月の都』への一歩を踏み出さんとした。

 しかし、まさにその時である。

 

「お待ちください! 八意様!」

 

 まさに飛び込もうとした門の先から、永琳を呼び止める大きな声。思わず縹は、踏み出そうとした足を空中で止める。

「……あら。中央の警備兵ね」

 何事かと訝しむ縹に、永琳は淡々と言った。

 街道からこちらへと走り寄る人影。胴体に四角い金属を並べたと思しき、独特の鎧を着こんだ、一人の兵士だ。

 兵士は人だかりを押しのけるようにこちらへ駆け寄り、息を切らしながらも永琳へと話す。

「八意様。まずは無事帰還なされたことをお喜び申し上げます。飛行船に乗船中、テロリストの襲撃にあったと聞き、中央一同心配いたしておりました。御無事で何よりです」

「ありがとう。それで? そんなに慌てて、一体何の用かしら?」

 永琳はとぼけるように、小首をかしげる。意地悪な人だ。この場面で永琳たちを呼び止める理由など、一つしかないだろうに。

「決まっております。そこな妖怪についてです」

 どうも長話になりそうだと、ひとまず足を下した縹。そんな彼女を、警備兵は勢いよく指差した。

「ああ、やっぱり私?」

 縹はやれやれといった風に、自分の顔を指差す。しかし、警備兵はそんな縹のリアクションなど目にも留めず。

「いかなる理由があるかは存じませぬが、妖怪は妖怪。例え八意様と言えど、月の都へ招き入れるなど到底容認できません」

「彼女は命の恩人よ。私は彼女がいなければ、ここにたどり着くことも、五体満足で生きていることもできなかった」

 そう語る永琳に対し、しかし警備兵は首を横に振る。

「駄目、と。ひどい話ね」

 言って、永琳はその腰に両手を当てた。

「いい? 彼女は恩人なのよ? そして私は都の重役。命を救ってもらいながら、恩返しの一つもせずに彼女をたたき出すなんて無礼を、この私にしろというの?」

 永琳が一歩を踏み出す。威圧するような彼女の言葉に、しかし警備兵は一歩も引かず、

「だとしても、です」

 その額に汗を流しながらも、しかし意見を曲げることはなかった。

「…………」

「…………」

 しばしにらみ合う両者。しかし、どれほど時間がたとうとも、二人とも意思を曲げる様子を見せなかった。

 そんな警備兵の態度に、これ以上の問答は無駄と判断したのだろう。永琳は長い沈黙を破って、ため息を一つついた。

「……わかったわ」

 まあ、もとより予想された事態だ。妖怪である縹を、都のものが快く受け入れるはずがない。むしろ問答無用で銃口を向けられなかっただけ、マシといえるだろう。

「では、この件は議会に掛け合います。それまで彼女への対応は保留。いいわね?」

 縹が見守る中、永琳はそう言った。

(議会、か)

 縹はこの道中で聞かされた、永琳の計画を思い返す。

 都にすんなりと入ることは不可能だ。それは変えることのできない大前提。しかしその上で、都の警備隊などが過激な対応に出なければ、そこに交渉の余地が生まれる。そしてその余地を利用して、都を管理する議会に話を持ち込むのだ。

 縹の危険性と、ルーミアを撃破したという功績。それらを踏まえた上での利用価値を彼らに示せば、縹への過激な対応を食い止め、うまくいけば都での居住権を獲得できるかもしれない。

 もしも仮に、その交渉がうまくいかなかったとしても、だ。月の都の行く末を決める議会は、その重要性ゆえにそうそう簡単にメンバーを集めることはできない。彼らが集まるまで猶予がある。その間に、もしもの時の対策を練ることができる。

 もっとも、議会メンバーを集めるという時点である程度の権力が必要である。その天才的頭脳と、薬剤師として彼らへ太いコネを持つかの八意永琳でもなければ、こんな交渉を成立させることはできなかっただろう。

「議会、ですか」

「そうよ。事の判断は彼らに仰ぐわ。私は救われたものとして恩返しをすればいいのか、それとも人として彼女を追放しなければならないのか。最高権力者が決めたことなら、どちらを選んでも民衆の文句は出ないでしょう?」

「民衆も重要ですが、我々にも仕事があります」

 言うと、警備兵は縹の右肩を強くつかんだ。

「議会の結論が出るまで、この妖怪の身柄は我々が拘束します」

 強く、と言っても所詮は人間の握力。縹にとっては肩に手を置かれたのと大差ない。そうでなくても下手な行動は命取りになるのだ。事の流れは永琳に任せた以上、自らはおとなしくしていようと、つかんだ手に抵抗せずにいると。

「駄目よ。扱いは保留と言ったでしょう? 議会と話をするまで、彼女は私の家で監視します」

 そう言って、今度は逆の肩を永琳に掴まれた。こちらの方こそ痛みはない。所詮は十数歳の小娘の力である。痛いどころか痒くもない。

 しかし、何故だろう?

 成人男性に掴まれた右肩よりも、幼い少女に掴まれた左肩の方が、重く感じられた。

 おそらくは籠められた力ではない。もっと曖昧な、そこに込められた意志の強さが、気迫が縹の肩を圧迫していた。

(ちょっと、永琳。ムキになりすぎじゃ)

 小さな小さなささやきは、永琳には届かない。

「それでは都に招き入れたも同然です」

「今までだって実験目的で何十体も妖怪を密輸入したでしょ? いまさら一匹二匹それが増えたところでなんだっていうのよ」

 かなりグレーな、というかブラックな発言をする永琳。交渉はどこへ行った。

「今の発言は聞かなかったこととします。その上で言わせていただきますが、八意様。この妖怪は中央勤めの私ですらわかるほど強力な力を有しています。今までの『何者かによって』密輸入された木っ端な妖怪どもとは比べ物になりません。それを見逃すなど不可能です」

「いいじゃないの。議会の招集って言っても、かかって一週間よ? その程度も我慢できないの?」

「程度ではありません。これほどの妖怪、都の治安を預かるものとして、一週間どころか三日も放置するわけにはいきません」

「ケチね」

「ケチで結構です。我々には民衆の命と平和を守る義務と使命があります」

 話し合いはまたも平行線となっていた。

(しかし、私の扱い、か)

 議会が招集されるまでの一週間、独房で過ごすか、永琳の家で過ごすか。

 縹の個人的意見としては、やはり永琳の家で過ごす方が良い。親しいものがいるのなら一週間は楽しいものになるだろうし、無駄な気苦労をする必要がない。

 だからそんな意見を主張するため、縹は「はーい」なんて気楽な声とともに、手を上げようとしたのだが……

 

 ぎしっ、と。

 口を開こうとしたその瞬間、左肩への圧力が、一層強まった。

 

「…………」

 『交渉ごとはこっちに任せてお前は黙ってろ』、とでも言いたげな威圧感を永琳から感じた縹は、動かそうとした手を止め、その口をつぐんだ。

 いや、そもそも。冷静に考えれば。

 例えあのまま縹が発言したとしても、警備兵が彼女の意見を聞く可能性はゼロに等しかっただろう。むしろ彼の反感を買った可能性すらある。

 ならば下手に火に油を注いで交渉を不利にさせるより、石像のごとく沈黙と不動を貫く方が、永琳への貢献となりうるのかもしれない。

 縹が、この交渉における一切の行動をあきらめた時。永琳はそうだ、と声を上げた。

「こうしましょう。縹には都も私も不干渉。彼女は都の目の届く範囲で、議会の招集を待ってもらうの」

「放置は不可能と言ったはずです」

「話は最後まで聞きなさい。その間だけど、彼女にはこのあたりに潜伏した妖怪を退治してもらう、というのはどうかしら?」

「妖怪退治ですか? 同族狩りなど、するとは思えませんが」

「したわよ、普通に。道中そうやって守ってもらったし」

 永琳の発言を受け、警備兵の警戒心が若干だが薄れた。

「彼女は強力な妖怪よ。しかしその手綱を握ることは不可能じゃないわ。現に、私は彼女に護送をお願いし、彼女はそれを受理してここまで守ってきた」

「それが、本当ならば。確かに悪くは無い案です。この妖怪による同族狩りが、我々の指示のもと行われたものだと公表すれば、民衆からの不安も減らせる」

「むしろ、強力な妖怪を手なずけることができるということで、政府への評価を上げることもできるわ」

「しかし、くどいようですが、危険はないのですか? 裏切ってこちらに牙をむくことは」

「ないと、断言させてもらうわ」

 永琳のその堂々とした発言は、しかし警備兵が考えているだろうものとは若干異なる。

 永琳は、縹が裏切ることを否定したのではない。

 縹が人に牙向く可能性を、否定したのだ。

 縹は人を食うことに興味がない。彼女はただ戦いを望んでいる。それも、より強いものとの、しのぎを削る殺し合いを。

 だから、このまま外に放り出されても、人間などには目もくれまい。武装しなければ大した力も持たない彼らなどより、もっとおいしそうな|妖怪(ごちそう)が、外にはいっぱいいるのだから。

 しかし、沈黙を誓った縹はもとより、永琳も警備兵の勘違いは指摘しない。

 わざわざ言って話をこじらせるのは得策ではない。何より、そんなことを知らせれば縹への印象は悪くなってしまう。

 妖怪退治も、民衆の中央への評価も、ただの方便だ。

 すべては縹への印象をより良いものにし、議会が縹に抱くだろう警戒心と恐怖心を和らげるために。

 それがかなうなら、そもそも外の妖怪のことなど、永琳はどうでもいいとさえ考えている。

 縹には教えていないが、永琳は知っている。『月の都』を覆う大規模な結界は、指定しない限りあらゆる妖怪の侵入を防ぐということを。

 縹がこうしてここにいて、都の門とその中を観測できるのも、永琳がそうするように指示したからだ。そうでなければ、縹は今も、奇妙な岩の大地を見つめていたことだろう。

「じゃあ、決まりでいいかしら?」

「ええ。この妖怪には外で我々に協力してもらいます。しかし一つだけ」

「何?」

「結界の内より、二十四時間体制で監視と、そして狙撃の用意をさせていただきます。もしもこの妖怪の魔の手が都に向くようならば、その時は」

 殺します、なんて。続きを彼は言わなかった。

 しかし、その最後の一言は、彼がわざわざ口にするまでもなく、理解できた。

 永琳も、縹も。

 しかし心配はいらない。どうせそんなことはありえないのだ。

 第一、もし何かしらの事態が発生してしまったとしても、彼らはそうそう簡単に撃つことはできない。

 『議会が決定を下すまで、縹への対応は保留』。それがこの場で決められた決定事項なのだ。妖怪退治に駆り出すだけならまだしも、殺害してしまってはその結論を反故にすることとなる。

 だから狙撃は、ただの保険。

 警備兵と、彼を含む中央の者たちが、有事のための備えはできていると民衆にアピールし、彼らを安心させるためのただのポーズに過ぎない。

 だから、頷くのは容易だ。

 ただ、首を縦に振るだけだ。

 それだけで、いいはずだ。

 なのに。

「…………」

 永琳は、それすらもできなかった。

 声を上げようとはしていた。首を振ろうともしていた。しかし何かがつっかえているのか、それらを行動に移すことができないでいた。

 何を、躊躇うのか。

 縹を殺すと、言うわけではないはずなのに。

 殺されることなど、ないはずなのに。

 声を絞り上げようとして、首を必死に動かそうとして。けれどどちらも叶わずに、永琳は俯いてしまった。

 永琳は何も言えず、警護兵も彼女の言葉を待つばかり。

 沈黙が周囲を満たして、さらに発言を阻害する。

 誰も何も言うことができずに、しばらくの時間が経過して。

「……永琳」

 その沈黙を破ったのは、縹だった。

 交渉中は何もしないと決めた縹は、しかし見かねたように永琳に言う。

「永琳。八意永琳。私のことを思ってくれるのはとてもうれしい。でもさ」

 先の沈黙など感じさせぬほど飄々と。

「私をなめないでほしいな。永琳、君はいったい私を何だと思ってるんだ?」

 子供のようにすねた表情で。

「君が、この髪の色から『縹』となずけた妖怪は、私は、たかが狙撃程度でくたばるような雑魚に見えるの?」

 一片の揺るぎも見せない確かな声で。

「否。断じて否さ。死ぬはずがない。私はこの程度じゃ絶対に死なない。私は縹だ。幾千もの怨霊から生まれた妖怪だ。いかな怪物もぶち殺し、いかな宵闇も食い破る、殺意と殺戮の権化だ」

「はな、だ」

「永琳。私を誰だと思ってる?」

 俯き恐れる永琳を、支えるようにそう言った。

「……誰って、簡単よ」

 永琳は顔を上げる。

 その首も、その口も、確かに動いた。引っかかるものなど、何もない。

「馬鹿よ。大ばか者よ。殺すか壊すか出来ないしやろうともしない馬鹿な妖怪よ。ええ、そんなやつに同情なんてするだけ損ね」

 言って、笑って、ためらうことなく、続けた。

「じゃあ、縹。私は議会と話をつけるから、あなたは外でおとなしく妖怪狩りをしなさい。都に牙を向けたら殺すから、覚悟しておいてね」

「任務了解。それじゃあ私は殺戮してくるから、交渉頑張って」

「任せなさい。私を誰だと思っていて?」

「天才、八意永琳だろ?」

 何が楽しいのかも分からぬままに。二人は申し合わせたように同時に笑った。

「えっと、お話はまとまった、でよろしいのですね。八意様」

「当然よ。一週間、私は議会とを招集して、縹は外で妖怪を狩って、あなたたちはそんな彼女の監視と有事に備える。それだけよ」

「ならば、私はそのことを中央と、その他境界警備の者たちに報告してまいりますので、ここで」

「ええ。お勤めご苦労様」

 一つ礼を取り、警備兵はきたときと同じように、あわただしく去って行った。

 それを適当に見送ると、永琳は縹へと向き合う。

「それじゃ、あなたもがんばって」

「ん。またね、永琳」

 お互いに手を振ると、永琳も門の向こうへと歩き出した。

 背後に護衛を従えた彼女が、人込みへと消えるのを眺めながら、縹は手を振り続けた。

 永琳の姿が完全に見えなくなり、やがて門が閉じていく。木がきしむ音と、砂や砂利を引きずる音を立てながら、縹の目の前で、巨大な門が閉じていく。

 門が閉じて、その姿が陽炎のように揺らぎ、歪み、捻じれて消える。

 華やかな都が白昼夢のように消えていき、代わりに奇妙な岩の地面が現れたあたりで、縹はようやく、その手を止めた。

「……さて、と」

 腕を伸ばして、軽い柔軟体操。

「そんじゃ、殺しますか」

 楽しそうに、そう言って。

 縹もまた、歩き出した。

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