今年は始まりから大騒ぎなスタートとなりましたがよろしくお願いします
「杉原くん、これ運ぶの先生に頼まれてるんだけど手伝ってくれない?」
「はい、分かりました」
ペンキ仮面事件から数日、あの事件が尾を引くようなことも無く、杉原はクラスに少しずつ馴染み出していた。性格に尖った部分のない杉原は馴染みやすいんだろう。あの様子なら問題無さそうだな。
さてと、授業も終わったし部室に行くか……いや昼寝するんだったら屋上の方が静かで良いな。
依頼も今のところ無いし、何より部室は騒がしくて仕方ない。
「よし、誰も居ないな」
屋上は部室ほど騒がしくなく、かといって車の走る音や誰かの声が小さく聞こえ全くの無音じゃない寝るのにちょうど良い絶好の昼寝スポットになる。それに今日は天気も良いし昼寝するには良い日だ。
そうして依頼が来ないことを願いながら眠りに就いた。
「待てや!ごらぁぁぁぁ!!」
「っ!?」
気持ちの良い眠りから現実に戻したのは関西弁の大声だった。
「あの声はヒメコかっ!てことは何か依頼が……」
状況の確認しようとした時、メールが送られてきた。こんな時にと思ったが、差出人はスイッチからだった。
『緊急事態だ。矢羽沢さんから預かった猿のイエティがチューさんの爆弾を持って逃走中。爆弾は時限式になっている。姿は添付している写真を確認してくれ。ボッスンとヒメコはすでに追跡している。渡したい物があるから部室に来るように』
「……………?」
寝起き1発目のメールにしてはパンチが強すぎるぞ。気になる所しか無いがマジで緊急事態のようだな。
「まぁ細かいことは気にしてる場合じゃない。今は急いで部室に向かおう」
眠気はすでにメールの内容で吹き飛んでおり、昼寝の名残惜しさも感じることはなかった。
「スイッチ!」
[その様子だとメールを確認したみたいだな]
「あぁ、追跡はどうなってる?」
[イエティの機動力に翻弄されているようだ]
「写真で見たが結構小さかったもんな。んで渡したい物ってのは?」
[まずはワイヤレスイヤホンだ。イエティのカバンに発信器を取り付けてある。その発信源を俺がそのイヤホンを通して2人に指示を出している]
スイッチは説明しつつ、忙しくキーボードをタイピングしている。
ボッスンたちに居場所を打ち込んでいるようだ。マルチタスクの極みみたいなことをしてるな。
「なるほど、その方が効率が良いな」
[あとこれも担いで行け]
耳にイヤホンを付けている時にスイッチが渡してきたのは少しゴツいリュックだった。
[これはオレが発明した改造リュック。その名も『リュックジェット』だ]
「改造リュック?これがイエティ探しに使えるのか?」
[このリュックには加速機能を付けてある。イエティの足にもこれで追い付けるだろう。捕まえた後、リュックの中に入れれば捕獲も出来る優れものだ]
「おぉちゃんと考えられてるな」
[加速ボタンは背負い紐にある。加速した後は加速し続けるがもういちどボタンを押せば加速機能は停止する]
「了解。イエティの位置はどうなってる?」
[今はグラウンドに居るようだ。ボッスンたちも近くに居るから合流してくれ]
「分かった。じゃあ行ってくる」
[言い忘れていたが爆弾の時間制限はあと15分だ]
「もうすぐじゃねぇか!」
去り際に制限時間を伝えられイエティの元へ急いで向かった。
『ゼロ、そのまま真っ直ぐ進めばイエティと鉢合わせる』
「了解」
捕まえるって言っても猿の運動能力を考えれば真正面から迎え撃って普通に捕まえられるとは思えない。
多分イエティはとても賢いんだろう。ボッスンやヒメコの捕まえてくる距離の感覚を掴んでるとしたら捕まえるのは困難になる。
初めて使うけどぶっつけ本番でこのリュックを使って捕まえられる捕獲可能圏内に一瞬で入るしかないな。
人間の限界を知って油断しているならチャンスはあるはずだ。
「来たか」
正面にイエティが走ってきた。オレの姿を見ると距離を取って止まったが、そこが安全圏だと油断しているのかヘラヘラとしていて、まるで鬼ごっこで鬼を挑発してきている時のような舐めている表情だった。
油断大敵って言葉をイエティの辞書に刻み込んでやるわ。
「行くぞ!おらぁ!」
イエティの方へ向いてリュックの加速ボタンを押した。
リュックの側面左右から大きくしたドライヤーのような物が出てそこから爆風が放出され、ホバー移動するように直進していた。
「おぉぉぉぉぉ!速えぇぇ!」
「ウキッ!?」
「おっしゃ!捕まえ……ぐぇっ!」
捕まえたと思った瞬間、腹部に強烈な痛みが走った。
どうやら抱きしめた瞬間、イエティが無造作に蹴りを出しそれが鳩尾にクリティカルヒットしたようだ。
すぐに追いかけようにも加速リュックで地面にめり込んで立ち上がることが出来ないし、もう一度ボタンを押そうにも腕を捕まえた時にクロスしてるせいでボタンを押すことも出来ない。
この騒動が終わったらこれに安全装置を付けるように言っておかないとダメだな。
「ウキキッ」
「ぐぉぉぉ……待てぇ」
「ゼロ!?大丈夫か!!」
「ボッスンか!リュックの紐に付いてるボタンを押してくれ!」
ボッスンが来てくれたお陰で加速は止まり普通のリュックに戻った。
「ふぅ、助かった」
「くっそぉ……なかなか捕まらねぇな」
「ホンマすばしっこいな、あのエテ公」
[次は校舎裏近くのプールだ。急いでくれ]
「また女子の多いとこに行きよったんか!」
「とんだスケベモンキーだな」
まぁ今はまだプールは解放してないから望みの女子は居ないから被害は出ないだろう。
所詮は猿、人間が設定している所までは読めなかったようだ。
「…………よしっスイッチ今から言うもん用意してくれ」
ボッスンは何か作戦を思い付いたのかスイッチに指示を出していた。
「今から作戦を伝える」
ボッスンの作戦は、校舎裏に色仕掛けをしているヒメコを配置しイエティが捕獲可能圏内に近付いてくればヒメコが網で捕獲。勘づかれたとしても屋上からボッスンがバンジージャンプしてイエティの位置へ落下し逃げる前に捕獲と言った物だった。
もう一度加速リュックで捕獲を提案したが速さで勝っているが1度見せている方法のため警戒されるため没となった。
落下速度がリュックより遅くとも不意打ちの高速捕獲が通用するのはさっき証明しているから問題ない。
校舎裏に胸元を開いて服をはだけさせているヒメコ、屋上にオレ、ボッスン、スイッチがイエティが指定位置に来るまでスタンバイしていた。
[ボッスン、捕獲にはこれを使うと良い]
「めちゃくちゃネバネバしてるけど何だ?これ」
[強い粘着力でくっついた相手を離さない『ピタッとハンド』だ]
「これなら捕まえた後に逃げられる心配はないな」
スイッチはボッスンに特製の粘着グローブを手渡し、ボッスンはグローブを装着していた。
さっきのリュックといい粘着グローブといい、いつの間に作ってるんだ。
[む、イエティが近くまで来ているようだ]
「よしっ準備急ぐぞ!」
ボッスンは上からイエティの確認、オレはボッスンの足にバンジー用のロープを結び、スイッチは屋上から落下した時のボッスンの身長とロープの長さの計算の確認を行っていた。
これが失敗すればとんでもないことになるな。預かっている動物を爆死させたとなれば、どんな重い処分が下されるのか……考えただけでも胃がキリキリしてくる。
「やっぱイエティは女子に引き寄せられるみたいだな」
『早よ来いや、エロ猿』
[イエティ接近中ヒメコとの距離4メートル]
「やっぱ警戒してるが想定内だ」
「引き上げ頼んだぞ」
「任せろ」
「ふぅ……よっ」
ボッスンは屋上の縁に立ち、意を決してバンジージャンプでイエティの向かっていった。
「おぉぉぉらぁぁぁぁぁぁ!!ごふっ!」
『よっしゃ捕まえたっ!』
「急いで引き上げるぞ!」
捕獲した時にボッスンは頭を打ったみたいだが、無事にバンジージャンプ捕獲作戦は成功した。
だがまだ肝心の爆弾が残っている。
「イエティのカバンから爆弾取り出せっ!」
「了解!時間は!?」
[あと20秒だ!]
「マジかよ!」
ここから人気の無い場所まで持っていくのも間に合わない。かといってここで爆発させるのも危険過ぎる……そうだ!
「スイッチ!ここからプールの中は見えるか!?」
[見えるぞ]
「人は?」
[プールの中、サイドにも居ないようだ]
「それなら問題ない。ボッスン!ここからプールの中に投げれるか?」
「よしっ任せろ!」
理由を聞かずともオレの考えを察したのか、ボッスンは頭の帽子に掛かってあるゴーグルを装着した。
[残り10秒!]
「間に合えっ!」
ボッスンの投げた爆弾は綺麗にプールの中へ吸い込まれプール内で爆音を轟かせた。どうやら成功したようだ。
「ナイスボール」
「間に合って良かったぜ」
[チューさん連れて掃除に行かないといけないな]
「そうだな」
面倒臭そうにする中馬さんの顔が容易に想像できるが、元々あの人が作った爆弾なんだから、これくらいはやってもらわないとな。
そうしてこの騒動は無事に終わり、イエティの見張りをヒメコに任せ、案の定面倒臭そうにしていた中馬さんを説得して4人でプールの掃除を行い、騒がしい1日は幕を閉じた。
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