「ゴラァァァ!ボッスン!!何アタシの口紅をクレヨンみたいに使っとんねん!」
「いやぁ……ペンの代わりに出来るかなぁって言う好奇心で……」
「幼稚園児か!いや、今の幼稚園児でもそんなんやらんわ!」
相変わらずボッスンは懲りないな。まぁボッスンはたまに小学生くらいの思考になるのが悪い。
部室で大騒ぎの中、部室のドアからノック音が聞こえた。恐らく依頼人だろう。よくこんな大騒ぎしているのにノックしようと思ったな。
「ゼロ!ちょっとの間相手しといて!このアホを口紅にしたる!」
「口紅にするって何!?怖ぇぇよ!」
「程ほどにな……はいは~いってあれ?」
扉を開けたがそこには誰も居なかった。確かに声がしたんだけど……帰ったのか?
「御免っ」
「え?……うわっ!」
下の方から声が聞こえ目を向けると、そこには和服姿で土下座しているやつがいた。
何でこんな所で土下座してるんだよ!いや、それよりも服装が和服なんだ!?
「い、依頼人だよな……?それなら中で聞くから入ってきてくれるか?」
「承知」
流石に部室前で土下座している所を誰かに見られたら誤解されかねん。
しかし、いくらここに個性が強いやつが居るからってこれは濃すぎやしないか?
「改めて御免、拙者武光振蔵と申す。本日はスケット団に依頼があって参った」
「えぇっと……?江戸時代からタイムスリップしてきた武士か何かなのかな?」
「何やその打ち切り臭のする設定」
[2-A剣道部部長、武光振蔵。その服装と口調は時代劇役者である父親の影響のようだ]
「む……何故そのような情報を……もしや刺客か」
「待て待て待て!?うちのスイッチを斬ろうとするな!ってか銃刀法違反じゃないのか!?」
「はははっ大丈夫でござる。これはレプリカでござる」
すぐに斬りかかりそうな武光を2人が慌てて制止するも、武光は笑いながら刃の部分持ってレプリカであると言った。
いや、レプリカでも持ち歩くなよ。職質されても知らんぞ。
「これは誠に失礼した。拙者本物の侍になることが夢としているが故に妙な行動で人様に迷惑をかけることも多く……かくなる上は」
「待て待て待て待て待て!?早まるんじゃねぇよ!?」
「こんなところで切腹するな!」
「ここを事件現場にする気か!」
「心配御無用、これもレプリカでござる」
「依頼があって来たんなら早よ言え!」
色々落ち着いてから武光は本題に入った。今の剣道部には3年が居らず武光が部長をしていること、1年の頃から試合に出ていて先鋒の時は無敗だったが、大将となってから大将としての重圧により勝てなくなり足を引っ張っていること、近い内に他校との練習試合があるとのことだった。
「つまり試合の時に実力を発揮できるように協力すれば良いんだな?」
「いかにも」
「よしっ引き受けた。俺たちがお前の精神力を鍛え直してやるよ」
「おぉ!真か!」
そうして依頼を受けることになり、電話番号を交換した。ちゃんとしっかり現代人してんだな。
「ここが剣道部の稽古場でござる」
「結構広いな」
剣道部の稽古場は普段体育で使っている体育館より少し広く、剣道部専用となっているらしい。
部員数も多いし、相当学園が力を入れている部活のようだ。
「普段の状態を知りたいから流れを見せてくれ」
「承知」
「まず瞑想をして精神を統一」
「おぉ……何かそれっぽいな」
武光は胴着を手際良く来ていき、段々と表情の緩みは無くなっていった。
部室ではあんな感じだったが、胴着を着たら部長としての風格が出てきた。
「そしてフリスケを一粒」
「待て待て待て!何でここでフリスケなんだよ!」
「む?試合前にフリスケを食べるのが武光家の習わしでござる」
「どんな習わしやねん!」
何の躊躇もなくフリスケを取り出し口へ放り込もうとしている所に2人から突っ込みが入った。それに対して武光は逆に何を言っているのかと思っていそうな表情をしているが、周りの部員を見るとどうやらいつもの光景なのは確かなんだろう。
武光曰くフリスケには集中力増加の効果があり、宮本武蔵も活用していたと父からの教えがあったそうだ。まぁ宮本武蔵に関しては嘘だろうな。信じてる武光も武光だが。
「練習や試合の時は毎回食べてるのか?」
「いかにも、では失礼して……ヨシッ来いっ!」
フリスケを食べた瞬間、武光の雰囲気は一気に闘志の籠った様子になった。
なるほど、気合いが入るのは間違いないんだな。でもそれなのに勝てないのは何でだ?本人は油断も慢心もないと言っていたが。
「勝負あり!」
「おぉ……強いな」
流石2年で大将を任される実力はあるな。そんな武光が何で試合では不調なんだろうか。色々検証するしかないな。
「振蔵が強いってのはよく分かった。問題は何で試合で実力が出せねぇってことだ」
「やっぱ精神的なもんとちゃうか?根性が足らんのや、根性が」
一昔前の体育教師のような根性論だが、実際剣道のような武道ではメンタル面が実力に直結するのもまた事実。
結構自信があるみたいだが、一体何をやるつもりだろうか。
「ぐぅおおおお!!!」
「やっぱり精神を鍛えるんやったら滝行が一番や」
近くにこんな滝があるなんて知らなかったな。それにしても滝行とは……座禅や瞑想の方が精神修業っぽいけどな。
「そうだ、スイッチ。武光の試合映像って持ってないか?」
[もちろん持っている。先程調べた時と一緒にな]
「部長になる前と部長になった後の試合を見せてくれないか?」
[良いだろう。少し待ってくれ……これがその試合集だ。DVDに纏めて置いたぞ]
「お、ありがとう。助かる」
変化があったとすれば先鋒から大将になったときだろう。そこで見つけられなかったら解決は困難になるな。
『勝負あり!』
「ふむ……言ってた通り部長になった途端に勝てなくなってるな」
武光の修行が終わり帰ってからスイッチに貰ったDVDの試合を何度も見ているが、やっぱり先鋒の時と比べて……なんと言うか気迫が無くなったような感じだな。竹刀はフラフラさせたり隙だらけで正直大将とは思えない。
「明らかなのは精神修業してどうにかなるもんじゃないことだな」
本人はプレッシャーで実力が出せていないと言っていたが、それならフラフラじゃなくて過緊張で力んで動きがガチガチになっているはず。
「一人で考えても仕方がない。とりあえず滝行を続けるかどうかだな」
「って思ったんだがどうする?」
翌日、武光の滝行が始まる前に3人に昨日考えたことを話した。
「うーん……滝行はええ考えやと思ったんやけどなぁ」
[ふむ、では今度は俺の案でいこう]
昨日と同じ場所で武光に滝行からスイッチの案に変わったことを説明し、スイッチはあるものを用意していた。
[試合で実力が出しきれないならその分強くなれば良い]
「ふんっ!ふんっ!!ふんっ!!!」
[天下無双養成ギプス『バガバンド』]
これを自作したのか……この前の発明といいスイッチの技術力は半端ねぇな。
めちゃくちゃ頭良いけど、この方法はあまりにも脳筋が過ぎるだろ。
そうしてスイッチの作戦を行い、最初の練習試合当日を迎えた。
「そこまで!」
[筋肉痛を計算に入れていなかったな]
「全然動いてなかったぞ!」
「まるで石像みたいだったな」
試合当日、武光は酷い筋肉痛となってしまい胴着を着て立っているのもやっとという状態だった。そんな状態で竹刀を振るのはもちろん、腕を動かすことは叶わなかった。
そりゃあんなに強力なギプスを付けて筋トレしたら筋肉痛にもなるだろうな。
「本当にダメだなお前ら。フラフラすんのは集中力が足りないからだろ。集中力なら俺に任せろ」
自信満々に次の案を出したのはボッスンだった。確かに集中力ならボッスンの分野ではあるが、ボッスンの集中の仕方は特殊だからまた話が変わるんじゃないか?
試合2日目、武光の筋肉痛は治まり次の案の話をしていた。
ボッスンが武光に渡したのはいつも集中モードで付けているゴーグルだった。
「試合が始まる前にこれを付けてやってみろ」
「これは何でござるか?」
「俺が愛用してるゴーグルだ。これを付けたら集中力がめちゃくちゃ高まる。それなら気合いが入るだろ」
「なるほど、名案でござるな」
「あれで大丈夫なのか?」
何の疑問もなく武光は受け取り、観戦席に戻る途中に何の考えか聞いてみた。
「面の中からゴーグルでもっと狭めたら集中力上がるだろ」
「視野が狭くなったら集中力上がるのボッスンだけなんじゃないのか?」
「超次元サッカーの司令塔も同じことしてたんだ。問題ない」
あれは集中力とはまた別の理由があったと思うが……まぁ今は良いだろう。
「そろそろ振蔵の出番だ……な」
「なぁあれって……」
オレは大事なことを忘れていたんだ。それはボッスンの集中力を上げる方法が特殊であることよりも大事なことを。
「失格!」
「あれで集中力上がんのアンタだけや!」
「いや、だって……面の上から付けるとは……」
そうゴーグルを付けると面が被れなくなることだった……いやだからって面の上から付ける発想にはならんだろ。
「次の試合で最後だ。何か良い案は……」
「……もう十分でこざる。己の弱さを他人に解決してもらおうとしたのがそもそもの誤り」
「振蔵……」
「次の試合が最後……是非応援に来て欲しいでこざる」
完全に諦めムードだな。何か解決法はあるはずだが、それがまだ掴めていないとそうなっても仕方ない。でも武光が諦めたからってオレたちが諦めて良い理由にはならんだろうよ。
『勝負あり!』
帰ってから何か解決策がないか武光の試合を見ながら考えていた。
本当に何も解決法が無いのか?いや何か見逃してる原因がどこかにあるはずだ。
……なかなか考えが進まないな。一旦晩飯食って頭休めよう。
今日は簡単に袋麺にして、トッピングは適当に野菜炒めで良いか。こういう時にキャベツと人参、もやしが一緒になってるやつがあると便利なのを実感する。
片手鍋に器一杯分の水を入れ沸騰させ、沸騰させた水の中へ乾麺を投入して規定時間茹でる。
茹でてる間に野菜をゴマ油で炒めて、麺の方も良い具合にほぐれたら、スープの素を溶かし野菜炒めと粉末の鶏ガラを混ぜ合わせたら具だくさんラーメンの完成だ。
「では、いただきます」
ん~やっぱり頭を使った後の食事はいつもより美味しく感じるな。野菜はラーメンと一緒に炊かずに別々にすることでシャキシャキ感がちゃんと残ってる。ゴマ油の良い香りが食欲の鐘を鳴らすのに良い仕事をしてくれている。
まぁ洗う手間を考えたら一緒に炊くのが良いだろうが、入れるタイミングを掴むのがどうも苦手だ。
大体火が通れば良いのは分かっているけど、炊く時間の加減を間違えてどうしても余分に炊いてしまう。野菜はシャキシャキ、麺はクタクタにならない程度にするんだったらこれが確実だ。
……ん?時間……間違える……先鋒……大将……フリスケ……そうか、そう言うことか!原因の正体が分かったぞ!なら、それをどうするかだが……あれを使えばいけるな。
いや、焦るな。まずは待機中の武光の確認だな。考えが当たっているなら……やっぱりそうだったか!
時間はまだ大丈夫だな。早速3人に最後の試合のための案をメールで伝えて準備に取りかかろう。いや、先に食べ終わってからだな。腹が減っては戦はできぬだ。
「ごちそうさまでした」
ラーメンを食べ終え、明日の試合のために準備を始めた。
翌日、最後の試合の前に解決案を伝えるため集合していた。
「ゼロ、良い考えがあるって本当か?」
「あぁ恐らくこれで解決出来るはずだ」
[そのアイデアとは何なんだ?]
「それはこれだ」
「何やこれ?」
「オブラートだ。ボンタンアメに使われたり、薬を飲みやすくするやつだな」
「いや、オブラートの説明やなくめこれをどう使うんや?」
「これをフリスケに包んで武光に食ってもらう。いや、出番の直前で食ってもらうの方が正しいか」
「直前で?」
「あぁ直前でだ。詳しく説明すると、まず武光が大将になってから負け続ける原因はフリスケの持続時間切れだ。無敗だった先鋒の頃は効果がなくなるまでに出番が回ってきていたが、大将になったことで出番が来るまでに効果がなくなったってことだ」
「ホンマに効いてたんか、あれ」
「実際に見て貰った方が速いな」
武光の試合が始まってから待機中の様子をアップになるよう編集した物を3人に見せた。
「右が先鋒、左が大将になってからのやつだ。大将戦まで続いた時の武光の表情を見てくれ」
「何か顔がふにゃふにゃになっとるな」
「多分フリスケの反動だろう。武光の戦い方は先鋒での短期戦が適していたんだ」
[なるほど、それでオブラートを使うのか]
「そうだ、当然大将戦直前に面を外してフリスケを食べることは出来ない。ならフリスケ入りのオブラートを試合前に内頬か歯に仕込む、出番の直前でそれを噛む。そうすればフリスケの効力を十分に得られるってことだが……どうだ?」
「おぉ!よくそんなの思い付いたな!それは名案やで!」
「よしっ早速振蔵に伝えに行くぞ!」
武光のクラスに行き、説明して今日の試合で実行することとなった。その前に包むオブラートの枚数と大きさを大将戦まで持つように調整した。
「これが上手くいけば良いけど……」
「ゼロ殿!」
「どうした?武光。何か問題事か?」
「一大事でござる。拙者、フリスケをどこかに落としてしまったのでごさる!一粒頂けないか?」
今回の作戦には欠かせないものじゃないか。確かオレも持ってたはず……あ、有った。
「忝ないでござる。では失礼」
相当焦っているのか武光はフリスケを受け取ると走って戻っていった。
「拙者は今日こそ必ず勝つ!皆も心せよ!」
『勝つぞぉ!』
武光の気合いの篭った一言に続き、部員全員が気合いを入れた。武光はオブラートフリスケを歯に仕込んだ。
「そこまで!」
[中堅まで終わって1-2で負けているが、うちの副将が負けることはまずないだろう]
「振蔵の大将戦で決着か……ゼロの案が成功すりゃ良いけど」
「そろそろオブラートの出番だな。武光に変わりはない……いや、何か変だぞ!」
武光の表情をよく見ると、なんと言うかマッサージを受けている最中かのような安らかな感じになってた。
[待ってる途中でオブラートが破けたか?]
「いや、それならその間に眼を見開いて気合いの入った顔になってたはず。でもそれがなかった」
「じゃあ、何であぁなってんのや」
オブラートに問題がないとすれば……フリスケ?……もしや!
さっき渡したフリスケの入れ物を取り出して確信した。
「あぁやっぱりだ」
「分かったのか」
「すまん、完全にミスった。あいつに間違えてミンチア渡してた」
「ミンチア?」
[フリスケに似てる清涼菓子だ。フリスケとは対照的に甘く刺激はほぼない]
「だから刺激が無くて微妙な表情になってんのか」
「どんな仕組みやねん!」
「それよりもう試合始まっちまう!仕方ねぇ、ここから食わせるぞ!」
[フリスケならオレも持ってるぞ]
「スイッチ!フリスケ一粒よこせ!」
「どないするつもりや!」
「ここから放り込むんだ」
「スリングショットか!」
強力パチンコのスリングショット。ゴーグルを付けたボッスンの必殺技的なものだ。これにより全神経を集中させ的に必中させる。ボッスンがこれを外すことはまずあり得ない。
ボッスンの放ったフリスケは数メートル離れた武光の面の隙間を通り抜け、見事武光の口の中へ放り込まれ腑抜けた顔が一気に引き締まった顔へ変わった。
「どうだ!?」
「うおぉぉぉ!!!」
「いけぇぇ!振蔵ぉ!」
「っ!?」
「めぇぇん!!」
突然の気迫にさっきまでの状態に油断していた相手は竹刀を下に弾かれ、面が無防備となってしまい渾身の一撃が相手の面に叩き込まれた。
「面あり一本!それまで!」
「やったぁ!!」
「主将!」
「主将、しっかり!」
大将として初の勝利を掴んだ武光に部員たちが喜び、囲んだが当の武光はフリスケの反動で立ったまま気絶していた。
フリスケの反動ってそんなに強かったのか。まぁ今までの敗因は反動によるものだったんだからそれもそうか。
[因みにオレのはスーパーハードミント味だったんだが……]
「やっぱ刺激の強さで変わるのかよ!」
「だからどんな体質やねん!」
「……つーかドーピングじゃね?あれ……」
「まぁそれはそうだな」
何はともあれ色々試行錯誤を重ね、無事に久々の勝利を掴んだのであった。
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